2014年の回顧(その4):ジャズ編
今年の回顧シリーズも本日が最後である。昨日も書いたが,今年はCDの購入枚数はボックスものが結構あったので,かなりの枚数となっているが,点数という意味では従来よりも減ったはずである。ボックス・セットは所謂大人買いってやつだが,昔よりは情報量が減少している(というよりも情報を収集する意欲の減退だったり,リアル・ショップへ行く回数の減少)こともあって,そっちに走っているって話もある。
そうは言いながら,私が今年「新譜」カテゴリーでアップした記事は90件近くあるし,買っても記事をアップしていないアルバムも結構あるので,少なくとも月10点ぐらいは買っている感じにはなるだろうなぁ。家人に言わせれば,これでも異常ってことになるだろうが,まぁ趣味ですから(笑)。
閑話休題。今年のジャズ・アルバムの中で,何を選ぼうかというのは,実は聞いた瞬間から決めていた。それはAntonio Sanchezの"Three Times Three"である。これこそジャズという音楽の持つ「スリル」を見事に体現したアルバムであって,3種類の異なるトリオで見事な演奏を聞かせたAntonio Sanchezにはまさに脱帽であった。Antonio Sanchezについては,彼が音楽を担当した"Birdman"のSanchezによるドラムスのスコアが,オスカーの音楽部門の候補に該当しない等とアカデミーから決定が下されるというひどい仕打ちを受けているが,そのような不幸があったとしても,彼が"Three Times Three"という傑作をモノにしたという事実は一切揺るがない。私としては,近年最も興奮して聞いたジャズ・アルバムだと言ってもよいぐらいである。
実のところ,Antonio Sanchezのインパクトが強過ぎて,ほかのアルバムがかすんだとさえ思えるのだが,それに対抗しうる印象を与えたのは,音楽的な質は全く違うが,Marcin Wasilewskiの"Spark of Life"である。彼のトリオに今回はJoakim Milderのテナーが一部に加わるが,彼の持つ美学に一切揺るぎはなかったと言える。Wasilewskiトリオが客演したJacob Youngの"Forever Young"もよかったので,合わせ技一本って感じである。やはりこの人たちは私を裏切らないなぁと思わされた。
そして,本年最も期待させ,そして期待に応えたアルバムはPat Metheny Unity Groupの"KIN(←→)"だと思う。私はこのアルバムを聞いた時の興奮をブログにも書いているが,その時にはこれを今年のナンバー1に据えてもいいぐらいだと思っていた。その後の来日公演も非常に楽しめるものであり,今年を代表するアルバムの1枚だとは思うが,"Three Times Three"と比べると...って感じになってしまう。
それにしても,今年はAntonio Sanchezである。このほかにも,Enrico Pieranunziとの"Stories"という傑作もあったし,"Birdman"のスコアの件も含めて,"Jazzman of the Year"はAntonio Sanchezをおいてほかにないと言える。本当に大した人である。
番外編としては,Keith Jarrett Trioの"Hamburg '72"の素晴らしさを改めて書いておかねばなるまい。ECMの蔵出し音源はえてして強烈なものが多いが,まだまだあるんじゃんと言いたくなるような出来であった。いずれにしても,Charlie Hadenが亡くなった後のManfred Eicherの対応はこれまでにないようなものであり,彼がECMレーベルにおいて,あるいはManfred Eicherという人にとって,どういうポジションにあったのかということを痛切に感じさせるものであった。
このほかではVijay Iyerの"Mutations"やTord Gustavsenの"Extended Circle"等,やはりECMの作品は私の心を捉えたものとして記憶に残る。Fred Herschの"Floating"も,来日公演の記憶とともに忘れられない佳作だが,Herschにはこれよりもいい作品があると思った。そして,Brad Mehldauの問題作"Taming the Dragon"というのもあったが,これは来年3月のMehlianaとしての来日公演を目撃してから,改めて考えることになりそうな作品と思っている。総じて,今年も充実したジャズ作品に恵まれたとは思うが,若干小粒だったかなぁという気もする。しかし,いい作品はいい作品として,それぞれに光るものがあり,来年以降も優れた作品と出会いたいなぁと思わせるには十分であった。
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