またもや素晴らしい作品を届けたTord Gustavsen
"Extended Circle" Tord Gustavsen Quartet(ECM)
ECMにおけるTord Gustavsenの作品もこれで6作目になるはずである。この人については,私は"Restored Returned"には結構辛口な評価をした以外は,ほぼ全幅の信頼を寄せられると思っている。これこそECMファンの求める音だと思う。今回も不動のクァルテットによる作品のリリースだが,このECMらしいサウンドに接すれば,無条件でOK!と言いたくなってしまうような作品である。
もちろん,この音楽があらゆるリスナーに訴求するものでないことは承知の上であるが,この静謐さと清冽さこそECMが打ち出してきた音楽,そして音である。現在のECMレーベルのカバーする音楽はそれこそ幅が広いが,そうした中でも,長年の同レーベルのファンにとっては本流(決してコンベンショナルなジャズという意味ではなく,ECMとしての本流)と呼んで全く問題のない作品である。
逆に言えば,この作品を聞いてもいいと思えないリスナーはECMレーベルとは相性がよくないと言ってもよいわけで,これまでECMに触れたことのないリスナーにとっては,今後のレーベルとの付き合い方を探る試金石となりうる。大袈裟に聞こえるかもしれないが,そういう音なのだ。私は前作でも感じたが,これはKeith Jarrettのヨーロピアン・クァルテットの21世紀版のように思える。特に終盤の"The Embrace"や"Glow"にはそうした香りを感じさせる。だが,それはそこはかとない香りであって,Keithとはやはり違うのだ。多少の影響はあろうが,決してコピーではない。そう感じさせる美しいアルバム。そして,ラストに収められた"Prodigal Song"を聞いて,何とも言えない美的な余韻を与え,これは本当にいいと思わせる。
やはりTord Gustavsen,素晴らしいピアニスト,そしてこのクァルテットは素晴らしいバンドである。星★★★★★。
Recorded in June, 2013
Personnel: Tord Gustavsen(p), Tore Brunborg(ts), Mats Eilertsen(b), Jarle Vespestad(ds)
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中年音楽狂(Toshiya)さん、いやはや早いですね。私は予約しておいたのですがまだ届いていません。今週の到着ようです。
今回はトランペットが入ってのカルテットですね。多分keithとは違うだろうと思ってますが・・・、私は目下聴きたくてウズウズしているところです。★が五つですか、更に期待してしまいます。
投稿: 風呂井戸 | 2014年2月 4日 (火) 18時36分
風呂井戸さん,こんばんは。
このアルバムにはトランペットは入っていません。Tore Brunborgはテナー1本で勝負しています。もちろん,Keithと全く同じとはなりませんが,そこはかとなくそういう雰囲気を漂わせています。きっとお気に召すと思います。ご期待下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2014年2月 4日 (火) 18時40分
このアルバムが最近のECMの本流である、というのに同意します。しかも、メロディ等が前面に出る場面が多くて、分かりやすいということもあって、こっち方面が好きな方には売れるんじゃないか、と思います。なかなかいいアルバムに出会いました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2014年2月 8日 (土) 10時13分
910さん,こんにちは。TBありがとうございます。
おっしゃる通り,メロディアスな面も,フリーに近い面も示して,アプローチがECMの王道って感じですよねぇ。Tord Gustavsenはほとんどはずれがありません。Eicherも気に入っているんでしょうね。
追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2014年2月 8日 (土) 11時28分
閣下、、
仰る事に百点満点。
ほんと、静寂で美しいあるばむでした。
雪景色に似合いすぎて、はまりすぎて映画のBGMのようでしたよね。
この季節は北欧だわ。。
投稿: Suzuck | 2014年2月16日 (日) 09時09分
Suzuckさん,続けてこんにちは。TBありがとうございます。
雪景色に似合い過ぎというのはその通りですねぇ。北欧の雰囲気が100%反映されているって感じですよね。やはりこれは好みですねぇ。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2014年2月16日 (日) 11時53分