Zsófia Boros:聞いた瞬間に痺れたギター・アルバム
"En Otra Parte" Zsófia Boros(ECM New Series)
このアルバムのリリースを知った時,ECM New Seriesなので,クラシック・ギターのアルバムだと思っていたが,弾いている曲はあくまでも現代の作曲家たちの曲であり,そこにはRalph TownerやVicente Amigo,更にはDominic Millerまで含まれているのだから,随分幅が広い。一体どんなことになってしまうのかとも思いつつ,聞いてみれば,これはひたすら美しいギター・アルバムとなっている。
ハンガリー出身の女流ギタリスト,Zsófia Borosがここで弾いているのはクラシック・ギターであるし,この人はそういう教育を受けているからこそのNew Seriesからのリリースだと思うが,そんなことはどうでもいいと思えるほど,この人は曲の持つ美しさをきっちりと体現できる人のように思えた。ECMにしては音は随分ソフトというか,クリアさよりも丸みを帯びたギター音になっているのは意外だが,この人のタッチもあろうし,この演奏にはこういう音こそが適しているとさえ思えてくるから不思議である。
そして,ここでの演奏は,まさに私にジャスト・フィットである。これはまじで素晴らしい。演奏が優れているのはもちろんだと思うが,この作品の勝利は「選曲に関する審美眼」である。様々な作曲家の曲を集めながらも,一貫した美しさを作り出したのは,もちろんプロデューサーたるManfred Eicherの功績でもあるが,やはりZsófia Borosというギタリストの音楽への取り組み,あるいは彼女のバックグラウンドを形成する音楽的指向(嗜好)であると言いたくなるのである。
正直言って,このアルバムを聞いたのは年末も押し迫ってからであるが,私の中では今年聞いたさまざまな作品群の中でも,気に入ったという観点では相当上位に来る作品である。このように美しい作品はなかなか聞けるものではないと,ついつい興奮している自分に苦笑せざるをえないが,これはいい。本当にいい。ということで,喜んで星★★★★★である。
さすがManfred Eicherと平伏すのみ。そして,演奏で応えたZsófia Borosも素晴らしい。近現代のギター音楽にこれほど美しい曲が溢れていることを知ることができただけで,私は幸せである。
Recorded in August, 2012
Personnel: Zsófia Boros (g)
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