2013年の回顧(音楽編):その2(ジャズ編)
今年の回顧もこれが最後である。今年聞いたジャズ・アルバムの中で何をベストとするかは,実はアルバムを聞いた瞬間に決まっていた。それはWayne Shorterの"Without a Net"である。このアルバムのテンションの高さは正直言って異常と言ってもよいぐらいであったが,Wayne Shorterは80歳にしてこの演奏というのが凄過ぎる。結局,この1年,テンションという意味ではこのアルバムを上回る作品には出会っていないし,今後もそうはないだろうと確信させる超弩級の傑作。今年のShorterの来日公演は見逃したが,来年はライブに参戦予定である。ライブでも締め上げられるような感覚に陥ること必定であろう。それにしても強烈な作品であった。
次に印象深いのがKeith Jarrett / Gary Peacock / Jack DeJohnetteのトリオによる"Somewhere"である。私は今年,彼らのライブにも行ったのだが,この作品がライブをはるかに凌駕するクォリティだったことには若干微妙な念を感じつつも,これほどの演奏をこのトリオで聞いたのは久しぶりということで,やはりこれは高く評価しなければならない作品と思っている。全編を通じてのクォリティの高さは特筆もの。最初のつかみから,タイトル・トラックの感動と聞きどころ満載の作品であったと思う。まさによくプロデュースされた作品とも言えるが,このあたりがManfred Eicherのマジックである。やはり素晴らしい作品と言ってよい。
そして,今年最もスリルに富んだジャズを聞かせてくれた作品としてDave Hollandの"Prism"を挙げておきたい。そもそもHollandはハイブラウな作品をリリースし続けているが,この作品では旧友Kevin Eubanksの貢献度が高いのだが,加えてCraig TabornにEric Harlandを配するというバンド構成にも,バンド・リーダーとしてのHollandの才覚を感じざるをえない。彼らのブート音源を聞いた段階から,正式なレコーディングは待望のものであったわけだが,ちゃんと期待に応えてくるDave Holland,さすがである。今年聞いた中で最もスリリングだったアルバムとして,やはり本作は見逃すことはできない。
一方,滋味溢れる演奏ということで印象に残っているのがCarla Bleyの"Trios"である。一方的にCarla Bleyに対するイメージを抱く私のような人間にとって,現在のCarla Bleyとはこういう音楽を展開していたのかという驚きすら与えた演奏である。ある意味では慈愛に満ちた部分を感じさせることにはPatti Smithと同質の部分を感じさせる演奏と言ってもよいかもしれない。私はこのアルバムでCarla Bleyに関する認識を完全に改めさせられたと言ってもよいと思う。酸いも甘いも噛み分けた人間の成熟さえ感じさせると言っては大袈裟か?いずれにしてもいろいろな意味で印象に残っているアルバムである。
音という意味で最も印象に残ったのはAaron Parksの"Arborescence"である。とにかく,このアルバムに聞かれるピアノの音は,その残響感が素晴らしく,Fred Herschがカザルス・ホールでピアノ・ソロをやった時の「天上から音が降り注ぐ」感覚というのを思い出した。来年,Aaron Parksはトリオで来日するが,ソロ・ピアノでの公演も予定されており,これは是非聞いてみたいと思わせる演奏であった。もちろん,公演が予定されているコットンクラブのレゾナンスと,このアルバムが録音されたMechanics Hallのそれでは違いがあるかもしれないが,それでも期待したいと思わせるに十分なピアノの音であった。
最後にジャズ・ヴォーカルであるが,私は熱心なヴォーカルの聞き手ではないので,聞いたアルバムも少ないが,Tierney SuttonのJoni Mitchell集にしびれながらも,やはりGretchen Parlatoのライブ盤に軍配が上がるかなぁって感じである。Gretchen Parlatoのいいところは,彼女はヴォーカルという「楽器」の使い手という感覚が強いことではないかと思っている。彼女の交友関係の広さもあるが,優れた伴奏陣を揃えているのも彼女の強みである。今回のライブも非常によかったと思う。そして,余談ではあるが,彼女の関係ではAlan Hamptonという人との出会いも私にとっては印象的な出来事であった。
ということで,これ以外にもいいアルバムはあって,あれはどうした?これはどうしたという声も聞こえてきそうだが,まぁこんな感じだろう。だが,今年のナンバー1は誰が何と言ってもWayne Shorter以外には考えられない。
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Dave Holland Prism
2012年の9月にこのユニットの活動を知りそれから約1年。正規盤のリリースを心待ちにしていたのですが、ようやくリリースされました。
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この中では、Parlato彼女だけしか聞いておりませんが、彼女は良かったですね!この情報もありがとうございます。
投稿: takeot | 2013年12月29日 (日) 13時32分
takeotさん,こんにちは。
Gretchenはジャズにこだわりがないほど,実は受けるのではないかと思っています。いずれにしても,大した歌手だと思います。
ここに挙げたほかの作品ももちろん悪くないですよ。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月29日 (日) 14時23分
音楽狂さん、こんにちはmonakaです。
1位わたしコリアに譲りました。
ほぼ同位だけれど。プリズムは聞いていません。
TBさせていただきます。
投稿: monaka | 2013年12月29日 (日) 16時21分
monakaさん,こんばんは。TBありがとうございます。
ココログのフォーマットが崩壊状態でご迷惑をお掛けしています。何らかのメンテを行ったようですが,バグがあったようで,ひどい状態です。
それはさておき,Chickは年明けにでも聞いてみます。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月29日 (日) 20時07分
こんばんは〜
みなさま、ベストが決まりアップされていますね♪
ショータとグレッツェンは 買えば良かったと思っています。来年も来日とのこと 年越してから聴こうかなぁ(笑)
キースの『Somewhere』は わたしも良かったと思います。Somewhere〜Everywhereの美メロは ほんとうに素敵でした。
ということで、わたしのベストといいますか フェイバリット TBがわりに URL貼らせてくださいませ。
http://blog.goo.ne.jp/tm-0117/e/aeb91e7f46983de71a1922dc3ed4f006?guid=ON
来年もよろしくお願いしますm(_ _)m
よいお年を。
投稿: Marlin | 2013年12月30日 (月) 00時20分
この中で聴いたことがないのはヴォーカルアルバムですが、これ、いいという方多いですね。気になります。
自分もベスト10までいくとすると、ショーター作は割と上位に入ってくると思います。それだけ内容が濃く、重かったでした。
また来年もよろしくお願いします。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2013年12月30日 (月) 07時43分
Marlinさん,おはようございます。朝一番で築地に買い出しに行ってバテバテの中年音楽狂です(笑)。
こういうセレクションには皆さんの個性や嗜好が出る一方,似通った点も出てくるのが面白いです。私の場合,いろいろなカテゴリーでベストを挙げているので,結構大変ですが(苦笑)。
ともあれ,来年もよろしくお願いします。よいお年を。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月30日 (月) 09時53分
910さん,おはようございます。TBありがとうございます。
Gretchen Parlatoは伴奏陣からしても,コンテンポラリーな感覚からしても,910さんにもお気に召すのではないかと想像します。Obliqsoundsのサイトで"Butterfly"が試聴できますので,まずはお試しを。
ということで,来年もよろしくお願いします。よいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月30日 (月) 09時59分
Carla Bley盤だけ聴いてないんです。
他は、内容が良いのは十分承知している盤ですね ^^
Dave Holland盤は私もベストに挙げてますが、これは素晴らしい作品でした。
逆TBさせていただきます。
来年も、引き続きよろしくお願いいたします。
投稿: oza。 | 2013年12月30日 (月) 10時32分
oza。さん,こんにちは。TBありがとうございます。
Paula Santoroは昨年リリースってのはわかっていながら,ベスト盤に挙げているのは私も同じです。まぁ,いいんじゃないでしょうかねぇ。
Dave Holland盤の出来の良さは皆さん認められているので,付け加えることはないですが,ここから洩れている盤については,もったいないものもありました。仕方ないですが(笑)。
ということで,こちらこそ来年もよろしくお願いします。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月30日 (月) 12時13分
かなりかぶりますが、一位は大勢に支持されてるから、羨ましいです。笑
来年もよろしくお願いしまーす。
昨日、いきなり、デレクのライブの雲行きが怪しい感じになりますたー。
投稿: Suzuki | 2013年12月31日 (火) 09時12分
音楽狂様
ご無沙汰しております。ほぼ休業中のki-maです。普段全く書けていないのですが、年末ぐらい最低限まとめておきたいと思いアップしました。今年もたくさんの盤を参考にさせて頂きました。来年も楽しみに拝見させて頂けましたらと思います。よろしくお願い致します。
投稿: ki-ma | 2013年12月31日 (火) 10時40分
Suzuckさん,こんにちは。改めてTBありがとうございます。
Wayne Shorterはやはり凄いアルバムでした。ライブのチケットも無事ゲットしました。結構いい席が取れました。Suzuckさんも,Derek Trucks公演に行けることを切にお祈り致します。
ではよいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月31日 (火) 10時57分
ki-maさん,こんにちは。ご無沙汰しております。TBありがとうございます。
Chick Corea盤は皆さんの評価が高いので,慌ててゲットしました。年末,年始でゆっくりと聞きたいと思います。
ということで,こちらからも追ってTBさせて頂きます。来年もよろしくお願いします。ではよいお年を。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年12月31日 (火) 10時59分
音楽狂さん、明けましておめでとうございます。
ShorterやHollandは凄く良さそうですね。やっぱりゲットしておこうかな・・とか思ってます。今年も音楽や映画の記事楽しみにしてます!ということで、だいぶ周回遅れになってしまいましたが、TBさせていただきます。
今年も宜しくお願いします。
投稿: とっつぁん | 2014年1月 5日 (日) 06時53分
とっつぁんさん,あけましておめでとうございます。TBありがとうございます。
ShorterもHollandも内容は保証できます。いいですよ。Mehldauオタクの私としてはJoshuaをどうしようか迷ったんですが,私のベストには惜しくも届かずって感じでした。それよりもやっぱりPaula Santoroでしょう(笑)。
ということで,追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2014年1月 6日 (月) 19時52分