
"Walking Shadows" Joshua Redman(Nonesuch)
輸入盤は既に入ってきているにもかかわらず,国内盤のボーナス・トラックのために,そのリリースをずっと待っていたJoshua Redmanの新作がようやくデリバリーされた。本作はJoshua Redmanの新作とは言いながら,私にとってはBrad Mehldauプロデュース,全面参加ということの方が重要な要素であることは事実である(Joshuaには悪いが...)。
そしてこのアルバムはストリングス入り(但し,曲は半数に留まる)のバラッドを中心とした選曲によるものなので,Mehldau参加作としてはCharlie Hadenの"American Dreams"との違いが気になるところである。だが,一聴して雰囲気が随分違うと感じられる。「何が」と具体的に言えないのが辛いのだが,ストリングスのアレンジメントがこっちの方が凝った感じがするようにも思える。ここでのアレンジメントは全てMehldauが行っているわけではないのだが,Mehldauは昨年Orpheus室内管弦楽団とのツアーも行っていて,そうしたオーケストレーション経験がここにも反映しているのかもしれない。
振り返ってみれば,JoshuaとMehldauはMehldauのアルバム,"Highway Rider"において,このプロトタイプをやっていたとも考えられるが,あちらがMehldauの作編曲に重きが置かれていたのに対し,こちらは既成曲も交えてなので,よりアレンジや,Joshuaの吹奏ぶりに注目するべきと考えてよいだろう。そして,選曲がまた一筋縄ではいかない。スタンダードやWayne Shorterの"Infant Eyes"に加えて,Beatles,John Mayer,そしてBachまで入っている。John MayerとはMehldauはライブで共演したことがあるのでわからないことではないし,またMehldauらしいというか,Blonde Redheadの曲も入っていて,こういうオルタナ系音楽への目配りぶりにはいつもながら驚かされる。私は不勉強で,Blonde Redheadの音楽は聞いたことはなかったが,今回を契機にネット上で聞いてみたところ,これをこうするかぁって感じであった。私にとっては原曲はよさが全然わからないのだが,ここでは完全に私の嗜好にフィットしてしまうのだ。音楽の本質にある美しさをあぶり出したって言えばいいだろうか。とにかくびっくりである。
また,Shorterの"Infant Eyes"もShorterとは全く違った個性を打ち出して,これもびっくり。そして,Beatlesは"Let It Be"ってのはどうなのよって気もするが,これまた,ここまでストレートに吹奏しなくてもいいのではないかと思わせるような演奏で,これまたびっくり。とにかく,落ち着いたトーンで演奏されている割に,驚かされることが多いのだ。ある意味,シンプルにやっているようで,多くの仕掛けがある演奏のようにも思える。
日本盤ボーナス・トラックである"Ugly Beauty"もMonkの曲とは思えない演奏ぶりで,ここでの演奏にもJoshuaとMehldauらしいインタープリテーションが施されているというのが私の正直な感想である。
そうしたインタープリテーションの妙味を楽しもうとすれば,私はもう少しこのアルバムを聞く必要があるようにも思えるが,一聴して非常によく出来た(プロデュースされた)アルバムだと言ってよいだろう。決して熱することはないが,クールな中にも秘めたパッションを感じさせる演奏である。ウハウハした感覚は希薄なので,作品としての好みはわかれるだろうが,私としては星★★★★☆。特に"Lush Life"や"Stardust"には心底しびれた。そして,John Mayer作の"Stop This Train"のMehldauのピアノを聞いて,私は彼のファンでいてよかったと改めて思ったのであった。
Recorded on September 27–29, 2012
Personnel: Joshua Redman(ts, ss), Brad Mehldau(p, vib, tubular bells), Larry Grenadier(b), Brian Blade(ds), Laura Frautschi (Concertmistress), Avril Brown, Christina Courtin, Karen Karlsrud, Ann Leathers, Katherine Livolsi-Landau, Joanna Maurer, Courtney Orlando, Yuri Vodovos(vln), Vincent Lionti, Daniel Panner, Dov Scheindlin(vla), Stephanie Cummins, Eugene Moye, Ellen Westermann(cello), Timothy Cobb(b), Pamela Sklar(fl), Robert Carlisle(fr-h), Conducted by Dan Coleman
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