Brad Mehldauの楽歴を振り返る:その5は豪華メンツによるバラッド・アルバム
"American Dreams" Charlie Haden(Verve)
1か月ぶりでのこのシリーズである。これまでは90年代前半のアルバムについて書いてきたが,本作はメジャー・デビュー後しばらくしてからの2002年吹き込みのアルバムなので,ジャズ界でMehldauの名声が確立してからの作品である。
本作はCharlie HadenがMichael Brecker,Brad MehldauにBrian Bladeという豪華なメンツを迎え,オーケストラも従えて演奏したバラッド・アルバムであり,非常にゴージャスなつくりになっている。こんなアルバムをわずか4日間で作ってしまうこの人たち,やはり只者ではない。Brad MehldauとCharlie Hadenというのはなかなか結びつきそうにないようで,Lee Konitzを加えた3人でライブ盤をBlue Noteレーベルに2枚残しているし,後にはECMにPaul Motianを加えたクァルテットでもライブを吹き込んでいる。更にはHadenの奥方Ruth Cameronのアルバムや娘のPetura Hadenのアルバムにも客演しているから,意外に付き合いは深いのかもしれない。
それはさておき,本作は非常に穏やかで心にしみるアルバムである。ムーディなだけではない。ここにもDon Sebesky作"Bittersweet"が収められているが,まさにビター・スイートなサウンドと言ってもよい。また,選曲がいいのである。このメンツで"Travels"や"It Might Be You"というのも凄いが,その他も泣かせる曲が揃っている。終盤のVince Mendozaの"Sotto Voce"やDave Grusin作による"Love Like Ours"なんて,まさにとどめを刺すかのような素晴らしい美メロで,うっとりさせられてしまう。Ornette Colemanの"Bird Food"だけが趣を異にしているが,それはそれでよしとしよう(なんでやねん?)。
このアルバムの主役はHaden,そしてゲストその1がBreckerというのはその通りであるが,Brad Mehldauも楚々としたピアノ・ソロを聞かせてゲストその2にしては見事な客演ぶりである。こういう演奏を聞いていると,本当に何でもできてしまう人だと思わざるをえないが,そのレベルも尋常ではない。Mehldau自身のアルバムとは違うかもしれないが,それでもこれはMehldauの多才さの一面を捉えた演奏群ということができるだろう。本当にオール・ラウンドな人だと思わざるをえない。そしてBreckerだが,彼自身にも"Nearness of You"というバラッド・アルバムがあるが,私としてはこっちの方がいいと思えるぐらいの出来である。
そうしたミュージシャンシップが相俟って,出来上がった素晴らしいアルバム。やっぱりColemanは浮いているのが惜しいようにも思え,星★★★★☆。それでもこのアルバムが嫌いだって人はそうはいないだろうと思わせる。
蛇足ながら,本作の国内盤にはボーナス・トラックとしてLeonard Bernstein作"Some Other Time"が収録されているが,このメンツでこの曲をやって悪いはずがないだろうというところ。なぜこれがボーナス・トラック扱いなのか全くの謎である。ちゃんとストリングスも入っているし,なんだかもったいない気もする。
Recorded between May 14 and 17, 2002
Personnel: Charlie Haden(b), Michael Brecker(ts), Brad Mehldau(p), Brian Blade(ds) with Strings Orchestra
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コメント
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文を読んだだけでも美しい音が想像出来てしまうアルバムですね。
4月になり、仕事の配置転換で、少し生活にゆとりのある時間が持てそうです。
新緑の季節、豊かな音楽に触れたいです。
楽歴シリーズ楽しみにしています。
投稿: ひまわり | 2013年4月14日 (日) 23時48分
ひまわりさん,続けてこんばんは。このシリーズ,次に何を選ぶか,また悩むんですよねぇ。期待せずにお待ち下さい。また近いうちに書きたいと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年4月20日 (土) 01時55分
こんばんは。
このあたりの年代のアルバムを聴いていると、ストリングスが入っていたり、メンバーが豪華だったり、ジャズも資金力が豊富だったんだなあ、なんてことを思ったりしていますが、それにしても豪華なメンバーですね。そしてそのメンバーで主にバラードをやってしまうのだから贅沢な作りになっています。
今は事情があって、ブログ開始以前に発売されたこのあたりのアルバムを多く聴いていますけど、いい時代だったなあと思います。なんてたって、このアルバムでもマイケル・ブレッカーとヘイデンの活躍が聴けるのですから。メルドーも含め、超豪華なメンツでのバラード集、けっこう楽しめました。
当方のブログアドレスは下記の通りです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2022/06/post-ce39a1.html
投稿: 910 | 2022年6月13日 (月) 20時33分
910さん,こんにちは。返信が遅くなり申し訳ありません。リンクありがとうございました。
>このあたりの年代のアルバムを聴いていると、ストリングスが入っていたり、メンバーが豪華だったり、ジャズも資金力が豊富だったんだなあ、なんてことを思ったりしていますが、それにしても豪華なメンバーですね。そしてそのメンバーで主にバラードをやってしまうのだから贅沢な作りになっています。
そうですねぇ。これはかなりの資金力がないとできない感じの作りだったと思います。
>今は事情があって、ブログ開始以前に発売されたこのあたりのアルバムを多く聴いていますけど、いい時代だったなあと思います。
私もそうですが,ストリーミングの一般化もあって,新譜を買うペースは皆さん落ちていると思いますし,手持ちのアルバムを聴き直すにはいいのかもしれません。私の場合,在宅勤務が基本になってしまって,音楽に触れる時間が増えているというのもありますが...。
投稿: 中年音楽狂 | 2022年6月16日 (木) 14時49分