イケイケ感は希薄だが,よく出来ているクリポタの新作
"The Sirens" Chris Potter(ECM)
クリポタことChris PotterがECMからリーダー作をリリースするという情報が流れた時,意外に感じた人は多いだろう。もちろん,今までだってDave HollandやPaul MotianのECMレーベルのアルバムには参加しているから全く無縁だったということではない。だが,クリポタがブイブイと変態的なフレージングを連発する音楽と,ECMレーベルのカラーが一致するのかというと期待はすれども不安に感じるリスナーも多いはずである。しかも今回はニュー・バンドによるレコーディングであるから,益々期待半分,不安半分みたいな気持になってしまう。
だが,今回のバンド,急造というわけではない。私の手許にはここでのレコーディング・メンバーからCraig Tabornだけを抜いたクァルテットで2011年2月にVillage Vanguardに出演した時のブート音源があって,本作に入っているレパートリーも既に演奏しているのである。本作のレコーディングが同年9月であるから,徐々に熟成していったであろうことは想像に難くない。そして,ここでの演奏は非常にバンドとしてのバランスもよいし,曲のメリハリもしっかりしていて飽きることはない。しかし,冒頭は静かな立ち上がりを示し,あぁ,やっぱりECMかなぁなんて思わせるが,あっという間にクリポタ・ワールドに突入してしまうので,全く心配がないのである。そしてやっぱり変拍子である。正直言ってECMレーベルの作品でないと言われても,これなら別に不思議には感じないだろう。
その一方で,"Lift"で感じられるようなイケイケな感覚は希薄なのも事実であり,熱っぽさについてはやや控えめかなぁと思わせる。Eric Harlandも無茶苦茶は叩いていないし,全体的としては落ち着いたトーンに聞こえるものだと思う。しかし,そうした中でも繰り出されるクリポタのフレージングは十分切れている。"Dawn (With Her Rosy Fingers)"のようなバラッド表現の中でも,クリポタのフレージングはかなり鋭い。イケイケなクリポタはもちろん好きだが,こうした抑制した中に鋭さを示すクリポタも素晴らしい。一方,バスクラで奏でられるタイトル・トラックは相当渋いが,"Dawn"~"The Sirens"という曲の並びが「静」~「静」のような感じになってしまっているのは,ややリスナーに集中を強いるって感じだろう。ここが多分一つの関門になるのではないかと思わせる部分があるのは否定できない。
また,どうなんだろうかと思うのはTabornとVirellesのダブル鍵盤奏者である。私としてはこの編成に効果がないとは言わないまでも,必然性をあまり感じさせないのである。そのあたりは惜しいかなぁって気もするが,あまり難しいことを言わなければ十分楽しめる。ただ単に我々のクリポタへの期待値が高過ぎるのかもしれない。それでも,クリポタ・ファンには全然問題ない作品であるとともに,このバンドのデビュー作としては十分合格だろう。
ということで,これは甘いという指摘を受けるのを覚悟しつつ星★★★★☆。これはより多くの人にクリポタに接してもらいたいという思いも込めたものである。でも,全国に何人のクリポタ・ファンがいるかはわからないとしても,私を含むそうしたファンには本当に嬉しい新作である。
尚,余談だが,このアルバムには"Kalypso"というタイトルの曲があって,確かにカリプソっぽいが,本家カリプソは"Calypso"である。タイトルからも感じられるが,どうやったってクリポタがやっても,Rollinsのようなカリプソにはなりませんでしたって感じであった(笑)。まぁ,当たり前だが。
Recorded in September 2011
Personnel: Chris Potter(ts, ss, b-cl), Craig Taborn(p), David Virelles(prepared-p, celeste, harmonium), Larry Grenadier(b), Eric Harland(ds)
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Chris Potter (ss,ts,bcl)
Craig Taborn (p)
David Virelles (prepared p,celeste,harmonium)
Larry Grenadier (b)
Eric Harland (ds)
Recorded at Avatar Studios ,NY ,September 2011
Rel:2013 ECM Records GmbH ECM 2258
手元に届いて1ヶ月以上たってしまいましたが、待望のChris P..... [続きを読む]
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てっきり、「サイレン」の意味かと思って最初は一人で納得していたのですが、公式サイトを見ると「セイレーン」なんですね。受け取る意味が180度変わってしまったような。まあ、勝手に解釈していただけなんですけど。
それでもこのアルバム、クリポタの自由度がレーベルより高いような気がして、多少合わせつつも好きなようにやらせてもらっているんではないか、と思いました。結果、こういういいアルバムになったのかなあ、と思います。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2013年2月 2日 (土) 17時49分
閣下、、
アンダーグランドなどに代表されるような、クリポタの脳みそ破壊攻撃のイケイケ感はないと思いますが、抑制されていながら結構アグレッシブでやはり私は凄いなぁ、と、思いました。自分の想いつうか、、感情を表現するということにかけての素晴らしさは唯一無二だと思います。
ユニティバンドでの来日は決まってますが、できましたら、このメンバーでも来日して欲しいなぁ。。って、集客的に元が取れないでしょうか。。。
ギターいないから、ギター小僧も集まらないだろうし。。。
投稿: Suzuck | 2013年2月 2日 (土) 22時40分
910さん,こんばんは。TBありがとうございます。
クリポタはECMであろうとクリポタであったということだと思うのですが,ここにEicherがどれぐらい絡んでいたかは興味深いと思っています。実はほとんどEicherは口を出していなくて,クリポタの持ち込み企画ではないかとも疑っている私です。
ただ,Eicherは全方位なので,実際のところはわかりませんけど。でも結構好きでした,この作品。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年2月 3日 (日) 21時41分
Suzucksん,こんばんは。Undergroundがハイブラウの極致だとすれば,本作は3割引きぐらいかなぁ(笑)。
でも,これはこれでいいと思いますし,正直言ってしまえばUnity Bandよりも好きだと言ってもいいかもしれません(恐れ知らず)。そうは言っても5月のUnity Band来日時は少なくも1回は見ておきたいですよねぇ。まぁ,Suzuckさんも参戦確実と思っていますので,現地で暴れましょうってことで...。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年2月 3日 (日) 21時44分
音楽狂さん、こんにちは。
お引っ越し、お疲れ様です。行方不明だった名盤も発掘(?)されているようで・・。
ところで、このクリポタ盤、やはりECMフレーバーのダシがきいているせいで、切れもパンチも8割がたではありますが、作品のストーリーを全編にわたって破綻させずクリポタがつくりだしているのは流石だなあと感じている次第です。気持ち的にはUnityバンドのメンツのリーダー作だしてほしいという欲求はでてしまいましたが。
TBありがとうございました。
こちらからもTBさせていただきます。
投稿: とっつぁん | 2013年3月24日 (日) 15時04分
とっつぁんさん,こんばんは。TBありがとうございます。発掘作業はまだまだ継続中ですねぇ(笑)。
これがクリポタの100%本質かというとそうでもないような気もしますが,それでもECMに染まり切らず,踏みとどまった感があるのは立派だと思います。
Unity Bandの来日時にはキレた演奏を期待したいですが,Patに遠慮しちゃうかもなぁ...。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年3月25日 (月) 00時00分