久しぶりのコレクターはつらいよ(14)
"Love Songs" Anne Sofie Von Otter & Brad Mehldau(Naive)
久しぶりのこのシリーズである。私はBrad Mehldauのファンであり,コンプリートを目指す人間であるから,Brad Mehldauが参加しているとわかれば,大概の音源については無条件に購入することにしているが,時として見逃しが発生する場合もある。これもそんな音源の一つである。クラシック系の声楽家とMehldauが演奏するのはRenee Flemmingに続いてこれが2作目であるが,本作にジャズ・ピアニストとしてのMehldauの姿を期待すれば,梯子をはずされること必定という演奏である。私は雑食系音楽鑑賞人であるから,こういうのも全然問題ないのだが,それでもこれがMehldauファンとしてはこれが彼の演奏する音楽の本質だとは決して思っていない。よって,私も本作は輸入盤を保有していても聞くことは滅多にないというのが正直なところである。
そういう音源に関して,私は国内盤にボーナス・トラックが1曲収録されているということを先日知って,慌てて発注してしまったのであった。その曲はディスク2の最後に収められた"Folks Who Live on the Hill"であるが,この1曲のためだけに本作の国内盤を買うのは辛いと思いつつ,これはもうどうしようもないのである。もはや後戻りできないのだ。
私はコンプリートを目指すと言っても,一般的なコンプリート・コレクターの概念からすれば,かなりいい加減なものであることは自分でもよくわかっている。世の中のコンプリート・コレクターというのは世界中の様々なジャケまで蒐集していることからすれば,私は「音源」のコンプリートを目指しているだけだから,既発音源を収めたコンピレーションはもとより,帯付きという差別化要因のある日本盤すらまともに買っていないというのが実態なのだ。だから,フォローもついつい甘くなるのは仕方ない話で,本作が国内盤でリリースされたことすら知らなかったし,そこに1曲ボーナス・トラックが入っていることも全然認知していなかったのである。
そんな私にとってでさえ,本作は聞く機会も少ないし,敢えて1曲のために本当に買うのかという逡巡がなかったわけではないのだが,やっぱり買ってしまった。正直なところ,たった1曲のために既に保有している2枚組を買い足すというのはさすがに辛かった。それもファイヴァリット・アルバムならまだしも,プレイバック頻度が極めて低い作品なのだ。
だが,Brad Mehldau,そしてAnne Sofie Von Otterのために言っておけば,このアルバムは予想よりも聞き易い作品に仕上がっていて,それほどハードルが高いというものではない。もちろん,どういうカテゴリーに当てはめればいいのかは困るのだが,それでも歌のうまい歌手と優れたピアニストのコラボと思って聞けば,相応に楽しめるものとなっていると思う。正直なところ,本作はVon Otterのファンからの方が評判が悪い(特にMehldauにブツブツ言っている輩が多い)ようだが,クラシック原理主義者からすれば当然そういうことにはなるかもしれないとしても,それほど目くじら立てるほどのことはないし,もっと素直に楽しめばいいのにねぇと皮肉も言いたくなってしまう私である。彼らがMehldauは非難しつつ,Von Otterには何も言わないのは,Von Otterのミュージシャンとしてのチャレンジ精神を否定していることに気がついていないとしか言いようがないのだ。
話が横にそれてしまったが,私はこのアルバムの意外なよさというのは評価しているので,1曲のために改めて2枚組を買わなければならなかったという事実は別として,もう少し多くの人に聞いてもらってもいいように思う。Von Otterのメゾ・ソプラノも,Mehldauのピアノも美しい。さすがディスク1の7曲はカーネギー・ホールからの委嘱に基づくものというクォリティを持っていると思う。
Recorded in June, 2010
Personnel: Anne Sofie Von Otter(vo), Brad Mehldau(p)
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