DownBeat国際批評家投票5冠! Vijay Iyerを初めて聞く
"Accelerando" Vijay Iyer (ACT)
先ごろ発表されたDownBeat誌の国際批評家投票で,ジャズ・アーチスト,ジャズ・アルバム,ジャズ・グループ,ピアノ,作曲(これのみRising Star)の計5部門でトップとなったVijay Iyerについては,その印象的なアルバム・ジャケットは認識していながら,これまで聞くチャンスに恵まれなかった。と言うよりも正直なところ,意図的に回避してきたように思える。だが,よくよく調べてみれば,この人,Steve Colemanのアルバムにも参加しており,それらのアルバムは聞いているのだが,記憶に残っているとは言い難かった。
しかし,これだけ高く評価されるには何らかの要因があるはずだという考えのもと,ようやくこの人のアルバムを初めて聞くこととなった。リリースから5カ月以上経過しているが,本年のアルバムなので,新譜扱いとさせて頂くが,それにしても敢えて避けてきた自分を反省させられた作品である。何ともスリリングな作品ではないか。この音楽を聞いていて,彼のルーツであるインド的なものはほとんど感じることはできない。そもそもVijay Iyerは米国生まれであり,名門Yaleで数学と物理学を専攻し,UC Berkeleyで修士並びに博士号まで得ているというところこそ数字に強く学究的なインド的であるが,ここで聞かれる演奏には,M-Baseを通過して,Andrew Hillあたりを範とする音楽を極めて理知的に演奏しているという感覚が強い。熱を帯びた演奏の中にも,クールな知性が感じられるのはそのインテリジェンスゆえであろうと思えるのだ。単に盛り上げればいいとは決して思っていない演奏ぶりである。
だが,その知性が音楽のクォリティの邪魔になるところはなく,これは近年稀に見る優れたトリオ・アルバムではないかと思わせるのである。オリジナルに交えて演奏されるカバー曲がこれまた一筋縄ではいかない。Rod Temperton作の3曲目は,オリジナルはHeatwave,ジャズ界ではGeorge Bensonの"Give Me the Night"に収められたことで知られるこの美しい曲をIyerのようなピアニストが演奏していることが異色だが,それに続くのが"Human Nature"というのも驚きである。更にはヒップホップ系のFlying Lotusの"mmmhmm"までやってしまうところに間口の広さを示すが,こういうところにも目配りがされているのが時代的には1971年生まれの彼らしい。1970年生まれのBrad Mehldauがロック・チューンをレパートリーにするセンスと似たようなところを感じてしまうのは私だけだろうか。
そのほかのカバーがHerbie Nichols,Henry Threadgill,Duke Ellingtonである。Ellingtonはさておき,Nichols,Threadgillというのが「おいおい」って感じだが(笑),違和感なくアルバムに収まっていることはかなり凄いことだと言えるように思える。そして,アルバム・タイトルが物語るように,音楽における「加速度的」訴求力(Accelerando:アッチェレランド,次第に速く)を持たせていることに私は強い感銘を受けたと言っておこう。
繰り返しになるが,こうした音楽をちゃんと聞いてこなかった私の不明を恥じた一枚。今からでも遅くないので,強く推薦してしまおう。星★★★★★。
Recorded on August 8 & 9, 2011
Personnel: Vijay Iyer(p), Stephan Crump(b), Marcus Gilmore(ds)
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こんにちは。
トラバありがとございます。
アイヤー初聞きでしたか。
玄人すじってどんなすじじゃ。。以前から受けがよかったのですが。。
今回はいっきにステップアップした感じがあります。
面白いアルバムなのですが、決して日常生活に馴染むものでもなく、トリックアートみたいな世界だとおもいました。
コンテンポラリーな王道ジャズピアニストさまメルドーと比較されてますが、現段階では、、わたし的には交わることはないのです。
メルドーは凄いです。でも、かれの凄さは、すげぇうまいと似た雰囲気をつくれるかも?って、ピアニストはいたりするんですが、アイヤーはちょっと難しい感じがします。そこに惹かれますが、、
今回は、ルーツであるインド風味と理数学系インテリジェンスがいい塩梅だったきがします。(笑)
投稿: Suzuck | 2012年8月19日 (日) 12時23分
すずっくさん,こんばんは。TBありがとうございます。
Mehldauとはタイプは明らかに異なりますが,同じ年代でもあり,今後のジャズ・ピアノ界ではこの二人の動きには注意が必要ということにはなるのではないかと思います。
Joshua Redmanもインテリですが,彼の音楽には理知的な部分はあまり感じませんが(苦笑),この人はかなりのものでしょうね。驚きです。
投稿: 中年音楽狂 | 2012年8月19日 (日) 18時04分