Richie Beirach:こんな猛暑にはこんな音楽でも
"Hubris" Richard Beirach(ECM)
世の中はとんでもない猛暑である。こんなに暑いと通勤時間も堪えるし,外に出掛けるのも億劫になってしまうが,そういう時には暑苦しい音楽を掛けて,それよりはましだ!と考えることも一つの手(実は私はよく使う手である)だが,それがどちらかというとマゾヒスティックな部分もあるとすれば,正攻法は涼やかな音楽を聞くことに決まっている。では涼やかな音楽って何だ?と聞かれると答に窮するわけだが,このアルバムなどは聞いていて暑苦しさを感じさせないという点では丁度いいのではないかと思う。
本作はRichie Beirachが1977年にECMに吹き込んだ初のソロ・アルバムであるが,最初の国内盤が出た頃の邦題は確か「パール」だったはずだ。"Hubris"という原題を直訳すれば「傲慢」となってしまうわけだが,こんなアルバムに「傲慢」とつけるBeirachの気が知れない(笑)。彼はECMのプロデューサー,Manfred Eicherと仲違いした結果,彼の参加しているアルバムはECMのカタログから姿を消すという憂き目にあったわけだが,何が本当の原因かはよくわからない。しかし,Beirachのアルバムは結構いいものが多かっただけに,Eicherも大人げないなぁなんて思いつつ,Beirachは何をやらかしたのかと思いたくなってしまった。
それはさておきである。このアルバムを初めて聞いたとき,私はこれのどこがジャズなんだと思ってしまったのだが,今聞いてもジャズ的な感覚は極めて希薄。しかし,透明感があって,美しいピアノ・ソロが展開されていて,気持ちよくなってしまうのである。ジャケを見ていても涼しげな感覚はあるが,この暑苦しさが皆無の音楽ってのは今のような猛暑を忘れさせるには丁度いいねぇと思ってしまう。本来ならばLPのジャケを眺めつつ聞くのが正しいと思いたくなる作品である。
いずれにしても,本作がCDとしてリイシューされたのは日本だけで,本国のカタログではダウンロードのみ入手可能となっている。それでも,以前に比べればダウンロードだけでも入手できるようになっただけましという話もあるが,John Abercrombieとやった一部の作品なんてダウンロードもないぐらいの冷遇ぶりはいまだに変わっていない。そういう意味では本作がCDとして入手できる日本のリスナーはまだ恵まれていると考えるべきだろう。
それにしても美しい音楽である。ある意味,私の得意分野,膝を抱えて聞きたくなるような音楽だと言ってもよい。しかし,この猛暑の中では膝を抱えるというオプションは回避したくなるが,膝を抱えなくても,美しいものは美しいのである。こういう音楽を聞いて,素直にこの美しさに没入できなければ,それはある意味不幸なことである。ジャズであろうがなかろうが,この音楽に身を任せていれば十分に気持ち良いのだ。Keithのソロ・ピアノとも,Chick Coreaのソロ・ピアノとも違う美しさを持ったアルバムとして多くの人に推薦したいと思いたくなる好作品である。彼らのうちの誰を取るかはもはや個人の趣味の問題。私は「全部」と言いたくなる反則を繰り出すことにしたいが,やはりこの夏の猛暑を乗り切るために,何度か世話になること必定の音楽だと思う。星★★★★★。
ラストの"Invisible Corridor/Sunday Song - Monday"なんて最初の方は完全に現代音楽な響きだが,大概の現代音楽って熱くならないからいいんだよねぇ。現代音楽的響きの中から冒頭に演奏された"Sunday Song"のフレーズが聞こえてきた時の美的感覚は聞いてみなければ理解できないのだ。この曲だけちょっと浮いているが,それでもいいねぇ。
ということで,本作のおかげでちょっと涼しげになったところで,この次はPeter Serkinが弾いた現代音楽集でも聞くことにしよう(好きなんだよねぇ...,Peter Serkin)。
Recorded in June 1977
Personnel: Richard Beirach(p)

































































































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