ファンク+ロック+フリー・ジャズ=James ”Blood” Ulmer
"Are You Glad to Be in America?" James 'Blood' Ulmer(Rough Trade)
これまた懐かしい音源である。私がRough Tradeというレーベルを知ったのはこのアルバムが最初だったんではないかと思う。ジャズ界でははっきり言って無視されていたようなものが,ロック側のリスナーから盛り上がったのが,Ulmerあたりの音楽だったのではないか。パンク・ジャズとかわけのわからない呼び方をされていたようにも記憶するが,基本的にこれはファンク・アルバムだろう。そこに強めのフリー・ジャズのフレイバーとロックの要素を混ぜたのがこの音楽だと言っていいように思う。当時のロック界にもこうした音楽はあったし,A Certain Ratioにも似たような感覚があった(と言っても私がA Certain Ratioを聞いたのは完全に後付けだが...)。だからこそ,ジャズ界より,ロック界の方が早く反応したとも思えるのだ。
それにしても,今聞いてもけたたましい。アメリカ黒人のファンクネスもろ出しという感覚のこの演奏は現在の耳で聞いても別に違和感はない。私もこのアルバムが出てから幾星霜を経て,ちょっとやそっとのことでは驚かなくなっているから,本作を聞いても,おぉっ,どファンク!って思ってしまうぐらいのことである。UlmerがOrnetteとハーモロディクス理論を実践していたとかいないとかなんてのはどうでもよい話である。David Murray,Oliver Lake,Olu Daraからなる強烈な3管をフロントに,激しくうねるUlmerのギターはロック・ファンにアピールしても当然かなとも思わせるものがあり,それに身を委ねればいいのだ。
このアルバムの成功があって,UlmerはメジャーのColumbiaと契約するのだから,これもそれなりに売れた上に,インパクトも強かったのだろうと思われるが,ただ,こういうタイプの音楽であるから,おそらくはリスナーに飽きられるのも早かったはずである。Ulmerがかなり早い時期に失速してしまったのはそういう要素が強いように思える。その後はよりブルーズ色を強めた演奏をしているようであるが,昔日のような人気を保っているとは言い難い。
しかし,時代の徒花だったと言われても仕方がないとしても,一時期にはちゃんとしたムーブメントとして,それを代表するミュージシャンとして活躍したUlmer,特に本作の価値が下がるとは思っていない。喧騒の時代に喧騒の音楽を聞きたいならばまさにぴったりだし,フラストレーションがたまったときにこれを大音量でぶちかませばすっとするだろうなんて夢想してしまう私である(実際はiPodで聞いているからなぁ...)。このアルバムを聞いたのはおそらく20年以上ぶりぐらいなのだが,今でも楽しめてしまったのはちょっと意外と言えば意外であった。星★★★★☆
Recorded on January 17, 1980
Personnel: James Blood Ulmer(g,vo), David Murray(ts), Oliver Lake(as), Olu Dara(tp), Billy Patterson(g on 4), Amin Ali(b), G. Calvin Weston, Ronald Shannon Jackson(ds)
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コメント
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これはボクも、このジャケットのLPを持っています。ウルマー、アリ、ジャクソンのリズムは強烈ですよね。これから暫くはLPを買い続けましたが、どれも良かったですねえ。今も同じ調子でやっているようなので、驚きました。
レーベルもRough Tradeなのでパンク系ですよね。PILとかの。だから入手まで暫くかかった記憶があります。
これか次のColumbiaの最初の2枚(Free Lancing, Black Rock)がサイコーであります。
それにしても先をこされて悔しいですねえ。
投稿: ken | 2012年1月22日 (日) 09時06分
kenさん,こんにちは。お持ちでしたか。UK盤のペラペラのジャケが懐かしいですねぇ。私はとっくの昔に手放してしまいましたが,久々にダウンロードして聞いたら,結構燃えてしまいました。同時代を過ごしたから当然ですかね。
Columbia盤もダウンロードしてみますかねぇ(笑)。
投稿: 中年音楽狂 | 2012年1月22日 (日) 11時29分