アナログはデジタルを越える,あるいは人間技がテクノロジーを越えるというお話
"Tell Me a Bedtime Story Now" from "Sounds... and Stuff Like That" Quincy Jones (A&M)
歌謡曲のカテゴリー以外で,曲単位で私が記事を書くのは初めてのことだと思う。しかし,これはアルバム単位でも好きだが,どうしてもこの1曲のためにだけでも記事を書きたいと思わせる演奏なのである。
今や音楽を取り巻くテクノロジーは無茶苦茶進歩していて,MIDIインターフェースなんて常識みたいになっているわけだが,このアルバムが吹き込まれた(リリースされた?)1978年当時は,シンセサイザーはある程度一般化していたとしても,そんなコンピューターの利用なんてことはまだまだ考えられていなかった頃である。
そして,そんな時代の音楽であるこの曲に私が感動してしまうのは,Herbie Hancockが弾いたソロを採譜して,Harry Lookofskiにヴァイオリンでそのソロを改めて弾かせて,何回かオーバーダブするという超アナログなやり方ながら,それが素晴らしい効果を生んでいることである。私はソロの冒頭の何小節かはHerbieのエレピだけで,そこにヴァイオリンがかぶる瞬間が本当に好きなのである。これはアルバムが吹き込まれて30年以上を経た今でも不変だし,これからもきっと変わることはないだろう。本当にぞくぞくする。
現代であれば,そんな面倒なことをしなくたって,MIDIやデジタル・ディレイでこれに近い音は生み出すことはできるに違いない。しかし,それがこの曲がもたらすような感動を生みうるかと言えば,大いに疑問である。私はアナログだろうが,デジタルだろうが,いい音楽はいい音楽だと認めたいというタイプの人間ではあるが,この曲に限っては,人間が力技で優れた音を生み出そうという努力をしているよなぁと強く感じさせられて,アナログ万歳,人間万歳と叫びたくなってしまうのだ。ちょっと大袈裟かもしれないが,この音楽に限っては本当にそうなのである。
それにしてもナイスなサウンドである。いつ聞いても,何度聞いてもプロデューサーとしてのQuincy Jonesの凄さをまざまざと感じさせられる名曲,名演。素晴らしい。もちろん,こんなナイスなソロを弾いてしまったHerbie Hancockにも最敬礼である。この曲単体でも星★★★★★。やっぱり凄いのだ,これは。
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