まさに夢見心地:"Scenes from a Dream"
"Scenes from a Dream" Chris Minh Doky (Red Dot Music)
これは凄い。こんなリリカルなアルバムはなかなか聞けるものではない。タイトルに偽りなく,夢の断片(決して悪夢ではありえない)を切り取ったらこんな音になるのではないかというような音楽である。
私はこれまでChris Minh Dokyの音楽を聞いたことがないはずである。そんな私がこのアルバムを購入したのは,ブログのお知り合いの皆さんの記事があってこそであるが,このジャケットも何となく雰囲気があって,私に「おいで,おいで」をしているようであったのは確かだ。メンツもいいしねぇ。
そして音楽を聞いてみてびっくりである。こんな音が出てくるとは思わなかった。素晴らしくリリカルなのだ。私はこれを通勤途上にiPodで聞いていたのだが,その時はChris Minh Dokyを「アーティスト」から選択しただけであって,このアルバムのタイトルは全く意識していなかったのだが,何となく「夢見心地」というような音だなぁと漠然と思っていた。そして,よくよくタイトルを見てびっくりである。"Scenes from a Dream"。まさしく言い得て妙ではないか。自分の感覚とアルバム・タイトルがこれほどフィットするってのは極めて珍しいと思うが,これはまさにそんな音である。
そうした夢見心地にさせる最大の要因がDokyの非常に魅力的なベース音とフレージングにあることは間違いないが,GoldingsもErskineも楚々とした演奏で,そうした雰囲気を作るのに大きく貢献しているのがまたよい。そして,「夢見心地」を決定的にするのが,Vince Mendozaによるストリングスのアレンジ。これがまさしく絶妙なアレンジである。決してうるさくならず,目立つこともないが,見事な伴奏効果を示している。これがなければ,この演奏にこれほど感動したかどうか...。様々な要素が相俟って,この夢のような音楽が生み出されたとするならば,これはほとんど奇跡に近い。それほど美しく,私を完全なまでに魅了してしまった音楽である。
ジャズ的な要素は希薄かもしれないが,これは誰が聞いても楽しめる本当に素晴らしいアルバムである。甘甘だと言えばその通り。でもそれで何が悪い!と私は開き直る。一瞬の夢見心地を体験したければこのアルバム,とは言い過ぎかもしれないが,これは選曲,アレンジ,演奏の三拍子そろった演奏である。年の瀬のせわしない時期に,いいものを聞かせてもらった。星★★★★★。但し,興奮はしないので念のため(爆)。
Recorded on May 29 & 30, and July 1 & 2 in 2009
Personnel: Chris Minh Doky(b), Larry Goldings(p), Peter Erskine(ds) with the Metropole Orkest Conducted by Vince Mendoza
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中年音楽狂さん、こんにちはmonakaです。
お忙しいのに精力的にお聞きですね。
このアルバム、その忙しさのなかで聴くと、確かにおっしゃる通り夢心地になりますね。
ドーキーはここ12年付き合ってきたので、息子の作品みたいな気持ちになります。
投稿: monaka | 2010年12月15日 (水) 11時25分
monakaさん,こんばんは。TBありがとうございます。
私にとっては初のChris Minh Dokyでしたが,こういうのを幸せな出会いって言いますね。いい作品でした。さすがmonakaさんは目の付けどころが違うと感心してしまいました。
こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月15日 (水) 19時23分
閣下、私もこれはとても気に入りました。
全体の雰囲気もなのですが、ドーキーのベースソロも気にいたし、ラリゴのピアノも綺麗だった。。
で、メンドーサにはドングロ集作ってもらいたい。。
と、音楽の趣味は結構似てる気がするのですが。。
ジャケットの趣味って、正反対くらいに違いますよね。
わたしは、これは中味と全然違うイメージかなぁ。。って、思いました。
そういえば、、ボーカルの声の趣味も違いますよねぇ。
閣下は、ご自分のようなディープな声の女性ボーカルお好きですね。
って、ことで、、トラバありがとうございました。
投稿: すずっく | 2010年12月15日 (水) 20時56分
すずっくさん,こんばんは。TBありがとうございます。
はい。音楽的な趣味は非常に近いですねぇ。ジャケに関しては完全に別ですが(笑)。認められないものは認められません(爆)。まぁ,本作は音楽とは全然違う感じですが,私には雰囲気のあるジャケでしたよ。
ヴォーカルについては,確かに清楚な感じより,ディープな感じが好みですねぇ。類は友を呼ぶ?違うか。むしろ「同類相憐れむ」ですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月15日 (水) 22時07分
TBありがとうございます。当に「選曲、アレンジ、演奏の三拍子揃った」非常にバランスのとれた作品ですね。他の作品では味わえない独自の雰囲気を醸し出しているのも気に入っています。リリースから1年気づかなかったのが悔やまれる位です。当方からもTBさせて下さい。
投稿: 1irvingplace | 2011年11月27日 (日) 19時42分
1irvingplaceさん,こんばんは。TBありがとうございます。
リリースから時間が経っていても,いい音楽に接することができればいいのではないですか。私も不勉強で見逃しがちな音楽を,お仲間のブロガーの皆さんから教えてもらいながら,遅ればせでもなんでも聞けるからいいやって開き直っています。
いずれにしても,このアルバムは相当よかったですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2011年11月27日 (日) 22時22分