"Hot House Flowers" Wynton Marsalis(Columbia)
久しぶりのこのシリーズである。毎度のことながら,主旨は「お店に並んでいそうでジャズをこれから聴いてみようかなぁという人にお薦めというのがありましたらご紹介ください。」というリクエストにお応えするものである。
前回もCharlie ParkerのWith Stringsものだったのに,またかという声も飛んできそうであるが,数あるWith Strings作の中で,私としては実はこの作品が最も優れているのではないかと思っているので,敢えてこのアルバムを紹介する。
Wynton Marsalisのトランペッターとしての実力には疑問を差し挟む余地はないと思えるが,その原理主義的発言が,一部で顰蹙を買っているのも事実だし,彼のラッパがうま過ぎるところに反発すら感じる人々がいることも否定できない。私も彼の言動や,最近の音楽活動には若干疑問を感じているクチであるが,このアルバムの前には,そうした批判は無意味と言ってもよい出来だと思う。また,彼がデビューしてきた頃,世間が大騒ぎしていた時には斜に構えて見ていた私が,彼の実力を本当に理解し,参ったと思ったのがこのアルバムであった。うまい,とにかくうまい。そしてそれがここでは嫌味になっていない。
このアルバムの印象を一言で表すならば「ビター・スウィート」って感じである。With Stringsは甘さに流れる傾向がないわけではないが,ここで聞かれる演奏にはそうした甘さというものがほとんど感じられないのである。ある意味,本作においてメロディ・ラインを紡ぎだすWynton にはストイックな姿勢すら感じてしまう。だからと言って聞きにくい要素なんて皆無なのである。これまでジャズを聞いたことがないリスナーにとっても,クラシックを聞いてきたリスナーにとってもこれなら安心して聞けるのではないかと思えるのが本作を推奨する理由である。
いずれにしても,本作は「大人の音楽」として,長く鑑賞に堪える傑作アルバムである。単なるバラッドだけでなく,"When You Wish upon a Star"ではイントロからスリリングな展開さえ示し,アルバムとしてのメリハリをきっちりつけたプロダクションも立派。ジャズ的な感覚をこれほど持ち合わせたWith Stringsものを私は知らない。Wynton嫌いも認めざるをえない傑作であり,オーケストレーションを担当したRobert Freedmanの功績も大きい。星★★★★★。20代前半の若者の吹奏のレベルでは決してないということは,すぐにおわかり頂けるだろう。
尚,本作の邦題は「スターダスト」なので念のため。
Recorded on May 30 & 31, 1984
Personnel: Wynton Marsalis(tp), Branford Marsalis(ts, ss), Kenny Kirkland(p), Ron Carter(b), Jeff Watts(ds), Kent Jordan(al-fl) with Orchestra conducted and arranged by Robert Freedman
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