2010年を回顧する(その4):音楽編(ジャズ)
本年を回顧するシリーズも,これが最終回である。今年もいろいろなジャズを聞いてきたが,当然のことながらいいものもあれば,大したことがないものもあった。しかしながら,色々なタイプの音楽を今年も聞けたのではないかと思う。
そんな私が,今年のベスト作に挙げるのが大西順子の"Baroque"である。このアルバム,メンツの強力さもあったが,大西順子のリーダーとしての統率力やアグレッシブな音楽性について,非常に楽しませてもらった。元来,私は大西順子の音楽は好きだったわけだが,まさに完全復活,大西順子恐るべしを実感させたアルバムである。このアルバムがあまりによかったために,オーチャード・ホールで開催されたライブにも駆け付けたのだが,PAはどうしようもないものだったのは減点材料としても,演奏はライブでも強烈だったと言っておこう。彼女のTwitterは何だかなぁって感じの内容が多かったが,音楽については文句なしである。
一方,私の感情を痛烈に刺激したアルバムがChris Minh Dokyの"Scenes from a Dream"である。例えは変だが,フォーレの「レクイエム」を聞くが如き「天上の音楽感」とでも言えばいいだろうか。私はこのアルバムに関する記事を書いたとき,「夢見心地」と書いたわけだが,このアルバムは年末のせわしなさを和らげる効果もあったと言える。今の私にとってまさにジャスト・フィットとも言うべき音楽だったと言えるだろう。
心に沁みたという意味で,今年一番だったのはCharles Lloydの"Mirror"かもしれない。70歳を過ぎたLloydが示す境地というのは,中年の私には非常に沁みた。まさにLloydの心象を映し出す「鏡」って感じなのである。近年聞いたLloydの作品では,最高のものだと思うし,本年聞いたECMレーベルの作品の中でも最高のものと思う。それにしても,このバックのメンツでこんなに枯れた感じの演奏ってのが凄いよねぇ。
また,ガツンと言わせてくれたアルバムとしては,Eric Harlandの"Voyager",Chris Potter入りDaniel Szabo Trio,更にはバスクラ・トリオという変わった編成ながら,非常に優れた演奏を聞かせたThomas Savyなどが記憶に残る。しかし,今年最もガツンときたアルバムはDave LiebmanとEvan Parkerの共演作"Relevance"だったかもしれない。このアルバムで聞かれるフリー・ジャズの快感というのを,私は久々に味わったと言っても過言ではない。あまり日本では流通していないし,相当強烈なフリー・ジャズだけに,万人にはお薦めできないが,これは大変なアルバムであった。皆さんの認知度を高めるためにも,再度紹介しておきたい。
ヴォーカルについては,私はあまり聞いていないので,とても偉そうなことは言えないが,Cassandra Wilsonの"Silver Pony"はジャンルなんてどうでもいいわと思わせるぐらい優れた出来だったと思う。やはり,この人は現代を代表する歌手の一人という位置づけにあると確信させられた作品であった。
そして,私のアイドルであるBrad Mehldauは"Highway Rider"で新機軸を打ち出し,見事なアルバムを出してきたのが嬉しかったし,また,奇跡の生還を遂げたFred Herschの新作もよかった。ということで,来年はどんな音楽が聞けるのかとまた楽しみになるが,年明け早々にはBrad Mehldauのソロ・ライブの発売が控えている。ビルボードでのライブも素晴らしかっただけに,今から楽しみにしている私である。
でも,その一方で,来年はちょっと新譜,中古含めてCDを買うペースを落とそうかなんて実は考えている。収納スペースに限界が来ていて,収拾がつかないような状態だからである。だからと言って,MP3に依存するのもなぁってことで,どうなることやら...。毎年同じようなことを考えて,実際にそうなったためしはないから,まぁ無理だな(爆)。
« 2010年を回顧する(その3):音楽編(非ジャズとライブ) | トップページ | 今年の回顧が早かったわけ... »
「ジャズ(2010年の記事)」カテゴリの記事
- 2010年を回顧する(その4):音楽編(ジャズ)(2010.12.22)
- 2010年を回顧する(その3):音楽編(非ジャズとライブ)(2010.12.21)
- まさに夢見心地:"Scenes from a Dream"(2010.12.15)
- 中年音楽狂が一肌脱ぐシリーズ(第6回)(2010.12.16)
- Deodatoの新作は気持ち良過ぎるメロウ・グルーブ(2010.12.13)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 2010年を回顧する(その4):音楽編(ジャズ):
» 2010年の愛聴Jazz盤 7 [とっつぁんの日記帳]
今年の愛聴盤をitunesやipodの再生回数を基本にセレクトしていたら、上位3枚はLive作品となりました。なかなか、これらのメンツを近所で聴けるチャンスは極めて少ないのでこうしたLive作品は有り難いですね。
(左から)
1.Baptiste Trotignon / SUITE.... [ 過去記事はこちら ]
Liveでありながらストーリーを構成した内容でEric Harlandの容赦ないドラミング(録音もやかましいくらい)も堪能できるBaptiste ..... [続きを読む]
» ★すずっく2010 その2★ [MySecretRoom]
今年はそうそうにWayneKrantz/KeithCarlock/TimLefebvreのライブを聴けたのが一番印象に残ってます。あの脳内興奮状態をまた体験したい。そして、ギターリストのFabioBottazzoさま繋がりで、、地元... [続きを読む]
» 2010年の収穫(ジャズ系) [音楽という食物]
今年も多くの素晴らしい音楽に出会いました。
子供に揉まれた生活2年目ですが、音楽的趣味はそれほど影響を受けないみたいです。
あるとすると「厳格」系が減少、「優しい」「かわいい」系が増えている傾向があるかもしれない。
個人的にはこれは良い傾...... [続きを読む]
« 2010年を回顧する(その3):音楽編(非ジャズとライブ) | トップページ | 今年の回顧が早かったわけ... »
Highway Riderは素晴らしかったですね。ここ数年Brad Mehldauはしっくりこない時期があったのですが、私にとってはこれで完全復活です。ついでにLove Songsも良かったと思います。あと、今年はJazzとは言い難いですが、Jan Garbarek&The Hilliard Ensembleをウィーンの教会で聞いたこともあり、Officium Novumをあげたいと思います。今年になって初めて聞いた人という意味では、Chris Potterのリーダー作、Tomasz Stanko、Baptiste Trotignonは、大変気に入りました。来年には日本に戻ると思うのでスペースの関係上、私は残念ですがMP3にしようかと思い始めています。
投稿: カビゴン | 2010年12月22日 (水) 05時34分
カビゴンさん,おはようございます。"Love Songs"も思ったよりはよかったですし,Mehldauのピアノは大変美しかったです。追って記事にしたいと思います。
Jan Garbarekは買っておきながらまだ聞いていないんです(爆)。Hilliard Ensembleは昔から好きでしたが,今回もヒーリング効果抜群なんだろうなぁと想像しています。
また,挙げられているミュージシャン,このブログにも登場しております。Stankoは昨年のアルバムでしょうか。あれもいいアルバムでした。どうも,いろいろ考慮漏れがあるような気がしている私です。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月22日 (水) 08時06分
おぉ。。やはり、かなりかぶってます。
が、微妙に感覚が違うのがやはり面白いとおもいますです。
この中では、ロイド盤が断トツに好きです。
次は、ドーキー盤かな。。
そろそろ、クリスマスホリディ、、なんざんしょ??
違ったっけ??いいなぁ。
そう、、
映画はトイストーリーのバズが好きで、バズグッズが結構あります。
そして、、ニールさまは、いつかライブを聴きにカナダ行くんだ。(きっぱり)
投稿: すずっく | 2010年12月22日 (水) 09時18分
すずっくさん,おはようございます。感覚は違って当然ですから,まぁそれはってことで...(笑)。
実は今日から休みに入りました。外資系に勤めていた頃を思い出すノリ(顰蹙とも言う)ですね。すずっくさんの選盤も楽しみにしてますぜ。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月22日 (水) 09時41分
こんにちは
今年は すずっくさんをはじめ 音狂さんや いろんな方のブログで いろんなJAZZを知ることができて
楽しい年でした♪
まだまだ
分からないミュ-ジシャンばかりですが
いろんな方のブログを参考に JAZZを楽しんで聴きたいと思います。
ご紹介くださった中では
ビル・エヴァンスの
『You Must Believe In Spring』が
一番気に入りました。
大西さんの Newアルバムも試聴した時
一曲目の迫力ある演奏が 『天城越え』みたいで(笑)かっこいいと思ったわたしです。
よい休日を…
投稿: マ-リン | 2010年12月22日 (水) 11時28分
マーリンさん,こんにちは。こちらこそご来訪ありがとうございました。
Bill Evansは最も入りやすいジャズですから,マーリンさんがそのようにお感じになるのも想像に難くありません。しかしながら,いろいろなタイプの音楽に接することで,自分の好みのジャズを見つけて頂くお手伝いができればと思います。よって,時にはハードルが高いかなと思っても,敢えてご紹介することがあると思いますので,覚悟して下さいね(笑)。
まぁ,「これは無理だろう」ってのは避けるつもりですが,根が天邪鬼なんで,予めお許しを。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月22日 (水) 12時12分
あれだけ海外出張をされながら、ヴァケーションもカナダって流石です。それもニールの母国!ワインも美味しいんでしょうなぁ。
今年も説得力のあるレビューで作品を斬っていただいて、紹介される側も分かり易かったです。(~である。口調がかっこいいですねぇ。)
ほとんどかぶっていませんが、TBさせていただきます。
投稿: とっつぁん | 2010年12月30日 (木) 08時38分
アレレ、、また、スパム扱いですかね。。
とりあえず、もう一度、トラバしました。
3つかぶってる。7コの内3つ。。
ハーシュはなんとなくブログに書き損なちゃったし・・。
でも、ドーキー盤の重なりはかなり濃い繋がりの気がするなぁ。
ポルタルって聴いた?フランスは駄目なんでしたっけ?
と、休暇も無事に終わったようですね。
気をつけて帰ってきて下さい。
ちなみに、我が家は越後の豪雪地帯七年以上すんでるので、スキー命の輩が1人おります。はい。
投稿: すずっく | 2010年12月30日 (木) 15時04分
とっつぁんさん,TBありがとうございました。昨日帰国しました。かぶっていないとは言え,結構,推薦盤には挙げているものも多いですから,指向は似ているかもって気がします。
追って,こちらからもTBさせて頂きますが,いずれにしても,本年もお世話になりました。よいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月31日 (金) 08時18分
すずっくさん,おはようございます。TBありがとうございます。一回はスパム扱いになりましたが,2回目はちゃんと届いていましたよ(笑)。
それにしてもかぶってますねぇ~(笑)。特にDoky盤は,私にとって嬉しい驚きでした。Portal盤は聞いていますが,まだ記事にできていません。あのアルバムは,近年で最もスリリングなDeJohentteのドラミングが効いていましたねぇ。年明けに記事にしようと思います。
ということで,こちらからも追ってTBさせて頂きますが,本年もお世話になりました。よいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年12月31日 (金) 08時21分
音楽狂様
昨年は大変お世話になりました。
私は大西順子とChris Minh Doky等未聴です。DokyのThe Nomad Diariesは今年の前半に聴いているんですが、皆さんの記事読むと新作も気になってしまいますね(実際買おうと思ったら品切れでした)。結局昨年はHerschの年でした。今年もおそらく引き続きです。なんにせよ今年もお世話になります。
投稿: ki-ma | 2011年1月 1日 (土) 18時57分
ki-maさん,こんばんは。本年もよろしくお願いします。
やっぱり,Herschは最高ですよねぇ。ヴィーナス盤に不安は大きいですが,期待しましょう。
投稿: 中年音楽狂 | 2011年1月 1日 (土) 23時31分