ECM catalog:労作であることはわかるんだけど...
「ECM catalog」 稲岡 邦彌 編・著(東京キララ社)
これまで何度も発売が延期されてきた本書がようやく発売になり,ECMファンの私としては当然速攻で購入したわけだが,既にご報告のとおり,物好きな私はハワイへこれを持って行き,プール・サイドやビーチで暇さえあれば眺めていた。
本書は2009年末までにECMレーベル及びその傍系レーベルJAPO,更にはコンピレーション等まで,廃盤のものも含めてまとめ上げた大カタログである。こうした書物が日本で作られたということには感慨すら覚えてしまうが,発売が延期,延期になったのも仕方がないと思わせるような大労作であることは認めざるをえまい。少なくとも,データ・アーカイブとしての存在意義は極めて高い。また,私はECM好きとは言えども,例外を除いて,New Seriesまではなかなか手が伸びなかったのも事実なのだが,今回本を眺めていて,「これはっ!」というものの再発見につながって,帰国後,さっさと注文しているのだから,ある意味罪作りな本でもある。
その一方で,不満が残らないわけでもない。ジャケットを集成した書物としては"Sleeves of Desire"と"Windfall Light"という決定的な2冊がある。アートワークとしてのECMという観点で,この本が実現しなければならないのは,その2冊との差別化である。その差別化要因として,アルバム単位のデータ,レビューということにはなるわけだが,それならばそれに徹するという手もあったはずである。いずれにしても,前掲の2作を保有している私にとっては,この本の前半にあるジャケットの写真群にはほとんど魅力は感じられない。少なくともすぐれたデザイン事例としてのECMの諸作への言及がもっとあってもよさそうなものである。LPとCDのジャケ違いなどを網羅していることのきめの細かさは認めるとしても,この本にはデザインとしてのECMに対するリスペクトが十分であるとは言えない。私個人としては,アートワーク含めた総合芸術のパッケージとしてECMは評価されるべきだと思うのである。
また,上述の通りデータ・アーカイブとしての価値は認められるものの,各作品に添えられたレビューがあまりに短か過ぎるように感じられるし(より辛辣な表現を使うならば,これはレビューというよりも,コメントに過ぎない),ECMと言えどもすべてが優れた作品ではないにもかかわらず,否定的な論調がほとんどないというのは明らかにおかしいだろう。書籍としての性格上,それはある程度仕方がないだろうが,ECMだったら何でもOKというわけではないはずである。批評性というものに乏しい内容では,この本を購入するであろうコアなECMファンを納得させられないのではないだろうか。逆に言えば,原稿の文字数が少な過ぎるから,中途半端な文章しか書けないとも言えるような気がする。もちろん,長ければいいというものではないと思うのだが,もう少しやりようがあったのではないだろうか。
いずれにしても,この本が日本で何部ぐらい売れるのかは非常に興味深いところではあるが,私にとってはやはりデータとしては機能しても,"Sleeves of Desire"や"Windfall Light",更には"Horizons Touched"のようなECM関連の書籍に比するとやはり不満が残るのである。そこが何とも惜しい。この本が日本で出版されたことが評価できることは大いに認めたいが,私にはやや不満が残ってしまった。しかしながら,「ECMの真実」やその他の書籍とともに保有する価値はあることには間違いない。存在意義と制作されたことも込みで星★★★☆。
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