抑制された中にスリルを感じさせるJohn Patitucci
"Remembrance" John Patitucci Trio (Concord)
Chick Coreaのバンドでメジャーになって以来,結構な年月が経過して,今やJohn Patitucciも堂々たる中堅(表現が変?)である。しかし,リーダー・アルバムになるとちょっと評価が難しいかなぁなんて思っていたのも事実である。Concordに移籍してからはBrad Mehldauが参加しているからという理由だけで"Communion"を買っただけだし...。しかし,今回はメンツがメンツだけに躊躇することなく注文した私である。
正直に言ってしまうと,私はPatitucciのエレクトリック・ベースが好きで,GRPの初期3作なんてカッコいいもんだと今でも思っている。特に"Sketchbook"でのJohn Scofieldとのバトルは楽しかったので,あの路線が私の中では理想である。もちろん,アコースティック・ベースの腕も一流であることはよく承知しているが,Akoustic Bandでの弾きまくりのイメージが強過ぎて,どちらかと言えばエレクトリックの方が好みであることは間違いない。
しかし,今回は基本のフォーマットがピアノレス・サックス・トリオだからアコースティックに絞るのかと思ったら,あにはからんや,エレクトリックも何曲かで弾いているではないか。それがまずは意外だったが,このエレクトリックを弾いている曲がアルバムの中で違和感がないところがまずはよい。
Patitucciがリーダーなので,ベースのバランスが強いのは仕方ないとしても,まぁ邪魔にはならない程度だから気にすることはない。その上で,このアルバムの魅力を高めたのはJoe Lovanoその人だと言い切ってしまおう。Lovanoの音色というのは決してけばけばしいものではなく,どちらかというと地味目なトーンのように思えるのだが,ここでは何とも素晴らしいフレージングを連発して,Patitucciとやり合っている。それでも,Bladeもガンガン叩くこともないので,やはり全体としては非常に抑制されたサウンドであることは間違いないだろう。このメンツならもっと丁々発止でもいいように思うが,逆に彼ららしいと言えば彼ららしいのかもしれない。Lovanoも同じ編成で"Trio Fascination"というアルバムを吹き込んでいる(記事はこちら)が,そちらもHolland~Elvinという重量級リズムながら,結構淡々としていたように思えるから,Lovanoというのはそういう人なんだろう。
まぁ,それでもこれはなかなか魅力的な演奏集であり,静かな中にもジャズ的なスリルは十分に味わえると思う。星★★★★。尚,偶然の一致だろうが,録音日が上述したLovanoの"Trio Fascination: Edition One"と全く同じである。偶然にしては出来過ぎ?でもやっぱり偶然だろう。
Recorded on September 16 & 17, 2008
Personnel: John Patitucci(b), Joe Lovano(ts, a-cl), Brian Blade(ds), Rogerio Boccato(perc), Sachi Patitucci(cello)
« 切なくなるようなメロディ満載のPrefab Sproutの新作 | トップページ | Towner / Fresuはやはり録音していた »
「新譜」カテゴリの記事
- "Rumours Live"がデリバリーされた。やはりこの時期は充実していたと思わせる。(2023.09.26)
- 驚きのCorinne Bailey Raeの7年ぶりの新作。(2023.09.22)
- 媒体天国日本らしいJohn Patitucciの"Live in Italy"のCDリリース。(2023.09.02)
- Brian Blade Fellowship Band:相変わらずの素晴らしさ。(2023.09.01)
- "Rumours Live"。リリースを楽しみに待ちたい。(2023.08.06)
「ジャズ(2009年の記事)」カテゴリの記事
- 予想よりはるかによかったBobby Watson参加作(2009.12.27)
- 2009年を回顧する(最終回):ジャズ編(2009.12.31)
- まだあるWayne Krantz参加作:でもゆるいFive Elementsみたいだ。(2009.12.26)
- Freddie Hubbard対Lee Morgan:暑苦しいのは当然だが...(2009.12.15)
- "The Hard Fusion"って感じである(2009.12.11)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 抑制された中にスリルを感じさせるJohn Patitucci:
» Remembrance/John Patitucci Trio [ジャズCDの個人ページBlog]
ジョン・パティトゥッチのソロ・アルバム。最近彼のリーダー作はかなり内省的になって [続きを読む]
» John Patitucci Remembrance [JAZZとAUDIOが出会うと。。。]
John Patitucciの新作は、SAX TRIOという構成です。
前作のLive By Lineは買ったけど、その前しばらくはリーダー作は手にしていなかったのですが最近、サイドでも演奏が光っている印象がありましたので、これは買わないわけにはいきませんでした。
メンツは、これは泣く子も黙るな鉄壁なメンツと言って良いでしょう。もうベテランの域に入った3人の演奏ということになります。
数曲ゲストが参加してますが..
Sachi Patitucciって。。奥さん..... [続きを読む]
» Remembrance/JohnPatitucciTrio [MySecretRoom]
人間が馬鹿にできているので(きっぱり)、締め切りとか、急ぎの仕事とか、優先順位のトップにあるものから逃げ出したくなる。机の上のたまった書類に向かい合うこと30分。。何もすすまない。あれやこれや考え頬杖して庭を眺めてると秋の陽射しが心地よい。やっぱり、紅...... [続きを読む]
« 切なくなるようなメロディ満載のPrefab Sproutの新作 | トップページ | Towner / Fresuはやはり録音していた »
>このアルバムの魅力を高めたのはJoe Lovanoその人だと言い切ってしまおう。
わたくしもそうに思います。
次回は、これの予定です。
投稿: すずっく | 2009年10月20日 (火) 19時16分
すずっくさん,続けてこんばんは。
Lovanoはやっぱり実力ありますよね。すずっくさんの記事も期待してます。アップされたらTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年10月20日 (火) 21時37分
ジョン・パティトゥッチのこのところのリーダー作では内省的な作品が多くて、このアルバムはどうだろうとちょっと心配だったのですが、基本的にサックス・トリオですがけっこういいじゃありませんか。ホッとするとともに、何度も聴き返してしまいました。
3人のバランスもいいし、ロバーノのいい(好みの)面を聴かせてもらったな、と思いました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2009年10月21日 (水) 17時01分
910さん,こんばんは。TBありがとうございます。
このアルバム,やはり皆さんの評価も高いのは,メンツのなせる技という気もしますが,やはりLovanoがいいですよね。もちろん,トリオとしてのバランスも大変結構でした。
こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年10月21日 (水) 22時05分
最近のJohn Patitucciはかなり良いと思っているのですが、この盤はやっぱりJoe Lovanoですよね(^^)
TBありがとうございます。逆TBさせていただきます。
投稿: oza。 | 2009年10月22日 (木) 06時24分
oza。さん、こんばんは。TBありがとうございます。
多くの人がこのアルバムを通じて、Joe Lovanoの魅力を再確認するのではないのかと思います。それ以前に、まずはこのアルバムが売れないといけませんが。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年10月23日 (金) 23時49分
あぁ。。生きてますね!
つうことで、これも面白かったです。
仰るように、ロバくんもよかったけど、エレベのジョンくんもよかったです。
こういうアルバムは、売れ筋なのですか?
それとも、あまり売れないの?
なんだか、、あまり話題ににはならないね。。
投稿: すずっく | 2009年10月27日 (火) 18時34分
すずっくさん、TBありがとうございます。無事に生きています。ようやく一日目の仕事が終わってブログにアクセスしています。日本はもう朝じゃん。眠いわけです。
このアルバムが売れ筋かどうかと言えば、私は「売れない」方に一票ですね。Patitucciのリーダー作(特にConcord移籍後)が売れたって話は聞きませんし、基本的にPatitucciのリーダー・アルバムって「華がない」っていうか地味な感じなんですよねぇ。
本作は出来がよいだけにもう少し話題になってもいいと思いますが、ブログのお知り合いの間では評価が高いから、まぁいいんじゃないでしょうか。それがトリガーになって多少は売れる可能性もありですからね。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年10月28日 (水) 06時54分