世界進出を図ったIvan Linsのアルバムだが,これは完全なオーバー・プロデュース
"Love Dance" Ivan Lins(Reprise)
このアルバムはIvan Linsが世界進出を狙って,ほぼ英語詞で勝負したアルバムである。そのことに私は文句はない。いろいろなミュージシャンが世界進出を目指すことは悪いことだとは思わない。
しかし,このアルバムが大して売れたという話は聞いたことがない。それはこの音楽がIvan Linsの本質ではないという理由からではないかと思う。Ivan Linsのオリジナルを集めたアルバムであるから,曲のクォリティに問題があるわけではなく,まさしく名曲の数々である。だが,ここでの音楽は,普通のAORっていう感じなのである。これはバックの演奏が,世界市場を意識して,ある意味普遍的なものになってしまったことに大きな問題があるように思える。
Ivan LinsのファンはAORを聞きたいと思って,アルバムを買っているわけではなかろうし,AORを聞きたいリスナーはこのアルバムでなくても,世の中にはAORのアルバムは沢山存在する。よって,敢えてこのアルバムを購入する必要はないのである。
結局,マス・オーディエンスをターゲットとすることが,Linsの音楽を広める上でよいことではなかったと考えることもできるが,それにしても勿体ない。このアルバムが出た80年代後半ということを考えれば,このプロダクション方式は仕方がなかった部分もあろうが,結局,どっちつかずの音楽になってしまったことがこのアルバムの敗因である。
Linsの歌唱,バックの演奏にはほとんど問題はない。バックの演奏はかなり装飾過剰とは言え,本当に質の高いAORである。しかし,この音楽をLinsに求めているのかと言われれば,Ivan Linsのディープなファンではない私でもそれは違うだろうと言いたくなるような一作である。星★★★。
しかし,Linsの名誉のために言っておくが,これは本当に心地よいアルバムである。巷では結構な高値で取引されているようだが,私は中古盤屋で1,000円でゲットしたものである。その値段なら,まぁいいかってところだろう。
Personnel: Ivan Lins(vo, key), Larry Williams(key), Heitor T.P.(g), Michael Landau(g), Artur Maia(b), Ivan Lins(vo, key), Larry Williams(key), Heitor T.P.(g), Michael Landau(g), Artur Maia(b), Paulinho Braga(ds), John Robinson(ds), Lenny Castro(perc), Brenda Russell(vo)
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コメント
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私、今日は違うことでびっくりして、音楽狂さんに御意見を伺いたいと思っていたら、Ivan Linsさんの話題が出ていますね。
確かに、この作品は他とは異なりますね。にわかファンの私でも、濃く聴いているので理解出来ます。
でも、このアルバムに、好きな曲も多くあります。
世界進出を考えた作風だったのですね。
確かに歌詞は英語ですね。
また、この時代は、こういうタイプの曲が流行っていたことも、思い出し時代を懐かしく想います。
今日、The RippingtonsのModern Artの中のBody Artと言う曲を聴きました。
え??
このモチーフは?
考えると、Jeff LorberさんのTune88
じゃない?!
と、びっくりでした。
この曲は、食材で言えば、糸引き納豆みたいな、とても、クセのあるモチーフ。
たとえ1小節でも印象がありすぎる音列です。
Jeff Lorberさんも、Ivanさん同様、私が会ったミュージシャンの中で、感じの良かった、数少ない方でした。
ジェントルマンで、温かい優しい笑顔。1ステージの後なのに、丁寧にサイン会して下さいました。
あんなに、エネルギッシュな演奏の後で、2ステージもあるというに、、、。
ファンを大切にして下さる姿勢が、とても伝わりました。
あの、笑顔の方は、きっと何もおっしゃらないと思う分、なぜか私などが、今日は、ショックでした。
Tune88は、色褪せない名曲。
来日された時には、是非聴かせていただきたい曲の一つです。
投稿: ひまわり | 2009年8月10日 (月) 22時54分
ひまわりさん,こんばんは。このLinsのアルバム,名曲満載であることは間違いない事実です。しかし,問題は記事の主題にも書いたとおりのオーバー・プロデュースだと思います。だから勿体ないわけです。
私はJeff Lorberについては,多くを語る資格はありません。彼のアルバムで聞いたことがあるのは"Soft Space"と"Worth Waiting For"ぐらいですから。むしろ,Michael Franksのアルバムでのプロデュース当たりの方がなじみ深いという程度です。
まぁ,私もいろいろなミュージシャンと会ったり,話したりしたこともありますが,感じのいい人,悪い人,いろいろですねぇ。でも大体はファンを大事にする人は多いですよね。Dennis Chambersなんて強面でも,話をしていて凄くいい人だと思いましたしね。
いずれにしてもJeff Lorberの"Tune 88"というのはどういう曲なのか気になってきてしまいました。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年8月10日 (月) 23時24分
本当ですね!
タイトルにもオーバープロデユースって書いてありますね。
私は、この日、他の事件のショックの方が強くて、その事で、頭がいっぱいでした。
これは、後でもう一度聴いても、、、、、偶然なら、残念に思います。
話題変えます。
Ivan Linsが、もう一度、本国の言葉で生の演奏で、Love Danceを出したら、面白い作品になるかもしれませんね。
私は、あのコード進行と、メロディ、歌声が本当に好きです。
Jeff Lorberはあまり、聴かれてみえない、とのことですが、
Surreptitiousはとてもお勧めです。
youtubeでいろんな人との演奏を観ましたが、長い決めのメロディがあり、プロでも、ちゃんと演奏に付いていっている人、諦めて途中のフレーズから入っている人、様々です。
Anthem for a new Americaでは、美しいピアノの音と、テクニックに驚きます。この人は、一番難しそうなところを、普通の顔して弾いてしまい、勿体ぶったところが全くないので、はぁーーー
と見入ってしまいます。
曲も、ドビュッシーのように常に変化していて、時代と共に進化しているように思えます。
Giant Stepsを弾いているyoutubeの映像は、自分が好きで弾いている、って印象を受けます。
たぶん、Tune88に似た曲があっても、
全く気にもしないのでしょうね。
投稿: ひまわり | 2009年8月13日 (木) 18時44分
ひまわりさん,こんばんは。
Jeff Lorberの映像をYouTubeで見てみました。いかにもという演奏で,フュージョン好きには受けますよね。Brian Brombergとやってる演奏なんかはBrombergが目立ち過ぎで苦笑しましたが。
また,Lorberについてはいろいろ教えて頂ければと思います。よろしくお願いします。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年8月13日 (木) 20時19分