Steve Kuhnの新作は傑作である
"Mostly Coltrane" Steve Kuhn Trio with Joe Lovano(ECM)
長年のファンでありながら,ヴィーナス・レーベルに吹き込むようになってからのSteve Kuhnに違和感をおぼえていた私(と言うよりもあのエロ・ジャケだけで買う気をなくす)である。しかも,今回は組み合わせとしてどうなのよって感じのJoe Lovano,しかもタイトルからしてColtraneトリビュートということになると,ちょっと怖いという感じがなかったわけではない。だが,ECMからの発売とあっては買わないわけにはいかない私だったが,全てが杞憂であった。これは掛け値なしの傑作である。
何が凄いか。ほとんどの曲がColtrane作曲あるいは彼が吹いた曲でありながら,Coltrane的なところをほとんど感じさせないのである。即ち,必ずありそうなColtraneの呪縛を感じさせることなく,自らの文脈でColtraneにトリビュートするというこの演奏スタイルが何とも素晴らしい。これはできるようでなかなかできることではない。
傑作の予感は冒頭の"Welcome"におけるKuhnのイントロから明らかである。私はこのピアノが鳴った瞬間,電車の中で「おぉっ」とうなりを上げそうになってしまったが,そこにJoe LovanoがLovanoらしい音色で絡んでくるに至って,意外な展開とは思いつつ,この音楽に引きずり込まれた。そして,全編を通して,むしろ静謐に展開される(ダイナミックな演奏もあるが...)この演奏群を聞いて,私は深い感動に包まれてしまったのである。予想外の組み合わせによる予想外の捧げ方,聞く前に「怖い」などと感じた自分を恥じた。
このトリビュートはとにかく深い。実力者による本物のリスペクトというものを強く感じさせるものであり,全編を通じて,4人のミュージシャンに一瞬たりともだれる瞬間がない。この集中力こそ恐るべしである。そして,締めくくりの"Trance"のKuhnのピアノ・ソロの美しさに私は忘我の境地へと誘われたのである。この美的にアルバムを締めるKuhnのセンスたるや,やはりこの人は素晴らしいピアニストであったと再確認させる出来であった。まさしく天上のColtraneに届けと言わんばかりの美しい旋律と音色に私も"Ascension!"と思ってしまった。
本作は,Steve Kuhnのキャリアの中でも屈指の傑作と思うし,少なくとも近年の彼のアルバムの中ではダントツの出来と評価する。今年のベスト作候補に間違いなく入ってくるであろう作品である。星★★★★★。このアルバムを作り上げたこの4人に感謝したい。素晴らしい。レーベルはECMながら,恐れることはない。日頃,ECMだからと言って避けて通るリスナーもいらっしゃるだろうが,このアルバムは聞かなければ損をすると声を大にして言いたい。
Recorded in December 2008
Personnel: Steve Kuhn(p), Joe Lovano(ts, tarogato), David Finck(b), Joey Baron(ds)
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Steve Kuhn (piano) [[attached(1,left)]]
Joe Lovano (tenor saxphone,tarogato)
David Finck (double-bass)
Joey Baron (drums)
Rel:2009 ECM
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メンツは、表側はSteve..... [続きを読む]
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うー羨ましい。もう聞かれましたか。私はKuhnとFinckが特に好きなので、またいつものFosterやDrummundもいいのですが、Baronと組むのもRemembering Tomorrowで悪くなかったし、KuhnのECM録音は駄作はないと思っていたので、これは早く聞きたかったのですが、欧州は新譜が出回るのが遅いので、夏に帰国した時に手に入れようと我慢していたのですが、あぁ早く聞きたい。期待が高まりました。
投稿: カビゴン | 2009年7月14日 (火) 08時09分
今晩は。EVAです。
又ゝ手が伸びそうなアルバムの紹介有難うございます。
もう既に何枚買い求めたことでしょう。素晴らしいソフトに出会えて感謝しております。
これも早速注文しようと思います。
これからも紹介楽しみにしています。
投稿: EVA | 2009年7月14日 (火) 19時29分
実は私もこのアルバム、今年上半期の私的ベスト3に入れてしまったんですよ。えいやって決めてしまった部分もあったのですが、周りに良い評価している方が多いので、心強いです。
中年音楽狂さんも5つ星でしたか。聴く人によって評価はいろいろあっていいと思うんですけれど、このアルバムに関しては、特別な何かがあるのかもしれませんね。コルトレーンの精神性から語られると、ECM流に曲を演奏した、という言い訳になってしまうのかもしれませんが。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2009年7月14日 (火) 21時27分
カビゴンさん,早く聞いて下さい(笑)。私としてはこれは強力にプッシュしたいです。私のはドイツ盤ですから欧州でもリリース済みと思いますよ。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月15日 (水) 05時45分
EVAさん,おはようございます。痛み入ります。私のせいで駄盤をつかむことのないよう,審美眼はしっかりとさせていくつもりですが,これは本当に「掛け値なし」ですからご安心を。何て言っていて自信がなくなったりしますが。是非お楽しみ下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月15日 (水) 05時47分
910さん,おはようございます。これは最高でした。はっきり言って,予想をはるかに上回る作品で,こういうのに出会うと嬉しくなってしまいますよね。
新作に星★★★★★をつけることは私は滅多にありませんが,これは嬉しい例外でした。こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月15日 (水) 05時49分
暑かった。。熱風が吹き荒れてました。
トラバありがとうございました。
わたくしも2人の相性とか。。コルトレーントリュビュート、ECMって事で、イメージばらばらなきがして。。かなり警戒しちゃったのですが、やっぱり、買わずにはいられない何かがあって、届いて聴いたら一発でノックアウト。
変わった事をしてるわけではないのに、とても素晴らしい内容でした。
早い話が、めっちゃ気に入ったのでした。
週末は、わたくしのフェヴァリットなテナーの1人である八木敬之さまにこれ以上の感動を、、。。。って、期待してます。はい。
投稿: すずっく | 2009年7月15日 (水) 17時13分
音楽狂さん、こんにちはmonakaです。
このアルバム結構驚きました。
まずキューンがとても一途にアルバムを作った感じを受けます。それに最強のメンバーが意をあわせたようで、とても面白いアルバムでした。
コルトレーンを今の時代になってから新たに読み直すとこのようなカードで表現できるのでないでしょうか。(当時の暑い時点ではこうはいきまません。)
だからキューンが作ったコルトレーンの美しいカードが並び、それにキューンの重みを自作で加えたように私は思います。
投稿: monaka | 2009年7月15日 (水) 20時59分
すずっくさん,おはようございます。
このアルバム,最高でした。嬉しい誤算です。こやぎ@でかい方は出張疲れがないといいのですが。まぁそんなことはないか...。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月16日 (木) 07時13分
monakaさん,おはようございます。
「一途に」というのは言い得て妙って感じですね。記事にも書いたとおり,これが全編Coltrane的ならば,こうはならないというところが,この作品の肝でしょう。
本当にうれしい作品でした。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月16日 (木) 07時14分
あ、こんなところに私の名前が。ロヴァノを越えるって・・・無理無理、期待しちゃだめ(苦笑)。出張は無事帰ってきて今日一日休めますので出張疲れは無いと思いますが、新潟に行ってからの連日の飲み会は相当つらそうです。とはいえ、やはりロヴァノも相当な酒飲みで、ライブの前からガンガン呑んでニコニコしているとのギタリストNさん情報があります。よし、私も行動だけはコピーだ。
しかし、このアルバムいいですよね。しばらくは私もヘビロテになりそうです。スティーブキューンと言えば、南博さんの本に米国滞在中「奇跡のような」プライベートレッスンを受けたときのエピソードが書いてありまして、なかなか読み応えがありました。
投稿: やぎ@でかい方 | 2009年7月16日 (木) 10時20分
やぎ@でかい方さん,こんにちは。新潟臨戦態勢準備万端ってところでしょうか(除く選曲?)
やっぱりテナー吹きは酒飲みで共通ですか?私が目撃したのはGeorge Adamsですが,彼もライブの最中,ウイスキーをボトルからラッパ飲みしてましたわ。
Kuhnは日本人に結構レッスンをしているかもしれません。以前,NYCでずっと教わっていたという人と某ライブハウスで一緒になったことがありました。
いずれにしても新潟でのご活躍を祈ります。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月16日 (木) 13時55分
遅ればせながら遂にCDをゲットして聞きました。
嗚呼、KuhnのECM盤にハズレなし。Kuhnのピアノが耽美的に艶やかになるんですよ、ECMでは。真摯に作っているのがわかりますね。リスペクトでしょうか。Lavanoもつぼを押さえてていいなあ。
投稿: カビゴン | 2009年8月24日 (月) 03時13分
カビゴンさん、続けてコメント・バックです。これは本当によかったです。確かにKuhnのECM作品はレベルが高いですよね。昔のもLPで聞いております。おそらく今年のベスト作に挙がると確信しています。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年8月26日 (水) 10時16分
ECM,そしてコルトレーンとあって、最初、どんなものかと思いましたが聴いてびっくり。
素晴らしいですね。やはりキューンは凄い。
こんないい作品をずっと見逃していたなんて。やはり皆さんの情報は貴重です。TBさせてください。
投稿: madame | 2010年1月24日 (日) 00時00分
madameさん,おはようございます。TBありがとうございます。
やはりこれは組み合わせに不安を覚えるという心理的な要因を生み出しますよね。しかし,ECMに吹き込む時のKuhnの真摯さというものが十分に伝わるものでした。昨年のECMは怒涛のリリース・ラッシュでしたが,41年目のECMに更に期待したいと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年1月24日 (日) 10時18分
中年音楽狂さん、こんにちは。
VenusレーベルのKuhnと違って、なんというか彼のもっているキャパシティがちゃんと表れていて素晴らしいなあと感じた次第です。記事にされていらっしゃるとおり、ラストのソロは絶句ものですね。
僕もやっと記事にできましたのでTBさせていただきます。
投稿: とっつぁん | 2010年2月13日 (土) 10時39分
とっつぁんさん,こんにちは。TBありがとうございます。
はい。このアルバムには本当に感動しました。そして最後の"Trance"でいってしまいました。最高ですよねぇ。コメントの数からもこのアルバムがどれだけ感動を呼んだかがうかがえます。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年2月13日 (土) 14時46分
かなり遅れての入手でした。
当初、ECMとColtraneの呪縛が強くて??な感じだったのですが、あるとき呪縛が解けたら唖然とするほどの美しさに圧倒されてしまったという変な体験になってしまいました(笑)
TBありがとうございます。逆TBさせていただきます。
投稿: oza。 | 2010年3月27日 (土) 07時11分
oza。さん,おはようございます。TBありがとうございます。
私もいろいろあります,何を今更盤(笑)。いずれにしても,このアルバムは本当に意外なまでによかったです。こういうのを聞いてしまうと,私はSteve KuhnはVenusレーベルと手を切るべきだと思いますね。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年3月27日 (土) 09時35分