King Crimsonをも彷彿とさせる瞬間もあるTigran Hamasyan
"Red Hail" Tigran Hamasyan (Plus Loin Music)
ほかのブロガーの皆さんも取り上げられているこのアルバム,私が購入しようと思ったのは「プログレ的」という表現が多く見受けられるからだと言っても過言ではない。今まで私はHamasyanのアルバムを聞いたこともないし,皆さんの記事がなければ,この薄気味悪いジャケにはおそらく手を出していない。それでも「プログレ的」というのは気になってしまったのである。
私が洋楽を聞き始めた原点として,プログレッシブ・ロックがあることはこのブログでも書いてきたし,今でもKing CrimsonやYesなどは昔の音源を聞いている。そんな私であるから,どういう音かに関心があった。確かにこれはプログレ的であるし,ジャズのカテゴリーの中でも,相当ハードな演奏だと言ってよい。タイトル・トラックなんてサックスのサウンドゆえというところもあるが,「クリムゾンキングの宮殿」のようにさえ響くし,ギターが入ってくると,更にソリッド感が増すのである。そこに展開されるHamasyanのキーボード・テクニックというのが,このアルバムの売りになるのだろうが,それにしても強烈である。あまりの騒々しさに辟易としてしまう"Falling"のような曲には苦笑せざるをえないが。また,アルメニアのフォーク・ソングと並んで演奏されるこの人の書いているオリジナル曲が非常に個性的で,このあたりは好みが分かれるところではないかと思う。
まぁそれでも,バンドとしてはかなり頑張って作りましたという感覚が強く表れていてそれはそれでいいのだが,この「勢い」頼みの展開は,さすがにまだまだ青いかなぁと感じさせる部分が多々ある。そんな中で,ギターが参加した3曲は実にハード・ドライビングで結構。どうせならこの路線で突っ走ってもよかったのではないかと思う。
尚,一言苦言を呈するならば,ほぼ全編で聞かれるAreni Agbabianのヴォイスはどうにも私には居心地が悪い。まるでChick Coreaのアルバムに現れるGayle Moranの声のように,なくてもいいもの(Gayleが登場するアルバム全部というわけではないが,かなりの部分は私にとってはそうだ)にしか聞こえないのである。Hamasyanの故郷であるアルメニアのサウンドを目指したのかもしれないが,アルバム全体のサウンド・テクスチャーとフィットしているとは思えない。ヴォイスを使うなら使うでいいが,もう少しサウンドとのバランスを考えるべきであって,少なくとも私にとってこの声は全く不要だと言わざるをえない。
ということで,文句は並べつつも,私が入手した情報によれば,彼と私はどうも誕生日が同じ(もちろん年齢は違うが)ようだから,今後も頑張って欲しいものである。星★★★。
Recorded on August 20-22, 2008
Personnel: Tigran Hamasyan(p, key), Areni Agbabian(vo), Nate Wood(ds), Ben Wendel(ss, ts, bassoon and melodica), Sam Minaie(b), Charles Altura(g)
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