日頃の上原ひろみを期待してはいけない
"Jazz in the Garden" The Stanley Clarke Trio(Heads Up)
このアルバムが話題になるのは,上原ひろみが参加しているからであることは間違いのない事実だと思うが,あくまでもこのアルバムのリーダーはStanley Clarkeだということを理解しないで,上原がいつものように弾きまくることを期待すると肩透かしを喰らう。あくまでも本作では上原は客演であり,彼女のリーダー作とは趣が違って当然だとしても,裏切られたと感じるリスナーがいても不思議はない。
このアルバムではClarkeは全編アコースティック・ベースで通しているが,このメンツなら敢えてアコースティックにこだわらなくてもよかったのではないかとも思いたくなるし,そもそもClarkeのベースの音が私の好みでないということもちょっと痛い。それに比べれば,Whiteのドラムスはシャープな演奏を展開しており,私の予想よりもはるかによかった。それでもって注目の上原だが,これはやはりほか2名への遠慮(?)が感じられて,ピアノの弾き倒しということにはなっていない。ただ,こうした比較的オーソドックスな表現でもちゃんとこなすというところが,この人のタフなところではあるのだが,それでもやはりイメージ通りとはいかない。
年齢的にはClarkeもWhiteも上原のほぼ倍近いにもかかわらず,ジェネレーション・ギャップは感じさせることなく演奏が展開されているのは認めよう。まぁReturn to Foreverであれだけギンギンの音楽をやっているClarkeとWhiteであるから,老成したところなど全く見せないのは予想の範囲内だが,こうした元気さがあるならば,アルバムとしても上原を迎えて,よりコンテンポラリーに,さらにはじけるぐらいでもよかっただろうというのが正直な感想である。
いずれにしても,私を含めた一般のリスナーがこのメンツに求めるのはもっとハード・ドライビングで丁々発止な音楽のはずだろうが,そういうところがあまり感じられないのはもったいないと言わざるをえないのである。演奏の質はそれなりに高いが,期待値との乖離が大きな減点要素となった。星★★★。
また,このアルバムのジャケット,もう少しなんとかならんものか。いかにも合成というこのデザインのセンスには苦笑を禁じ得ない。
Recorded on December 13 & 14, 2008
Personnel: Stanley Clarke(b),上原ひろみ(p),Lenny White(ds)
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上原ひろみはめちゃめちゃ人気がありますが、鍵盤ヒットの力とか心配していました。
これまでの彼女のアルバムでは、すべてエレベを使うのではなく、アコべと使い分ける演奏であって欲しいと思っていました。
そう思っていらら、スタンリー・クラーク主導でしょうが、アコベ・トリオのアルバムが出ましてこれは歓迎です。
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1曲目これがしっかりしたビートにのったJAZZ、スタンリーが仕掛けたのでしょうか上原を上手く使っている感じです。
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上原ひろみさんが、Stanley Clarkeとのピアノトリオを作ったというのは、当時結構話題になりました。
chick coreaとのデュオ作が出た後、RTF再結成という流れの中で、上原ひろみとStanley Clarkeの繋がりができたということなんでしょう。
正直、あまり意気投合してアルバム作りに進んだという感じがしてませんで、Stanley Clarkeが懇願してアルバム制作まで進めた印象を受けるのですが、実際はどうなんでしょう。
この盤について事前にblog仲間の皆さんの酷評..... [続きを読む]
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やはりスタンリー・クラークのベースが前面に出るタイプのトリオと、上原ひろみへの期待するピアノとが、ファンにとってはうまくかみ合っていないようで、アルバムトータルで聴くと、いまひとつの感がありました。個々の曲としてはけっこういい曲もあるのですが。
まあ、これは制作の意図と、レコード会社の売り出し方にズレがあったのかもしれません。いっそのこと上原ひろみ・アコースティック・バンドとしてプロデュースしたアルバムを、と思うのですが、そこまでは望みすぎでしょうか。
こちらからもTBさせていただきます。
投稿: 910 | 2009年4月20日 (月) 21時43分
910さん,コメント,TBありがとうございます。
やっぱりこれは上原ひろみのイメージとは違いますから,中古盤市場にどっと出てくるのではないかと余計な心配もしたくなります。
こうなったら同じメンツで上原が所属するTelarcで吹き込んでみるというのはどうでしょう?昔,Herbie HancockのトリオでHerbie盤がソニーから,Ron Carter盤がMilestoneから出たようなパターンでも面白いかもしれませんね。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年4月20日 (月) 22時28分
音楽狂さん、こんにちは、monakaです。
上原はぜひアコのピアノトリオをやるべきだとおもっていましたから、私的には満足しています。
上原の自分の曲以外での迫力が気になります。
ここら辺が今後つらくなるのではと思います。
投稿: monaka | 2009年4月30日 (木) 21時56分
monakaさん,こんばんは。
私としても上原ひろみのアコースティック・ピアノはChick Coreaとのデュオで大いに楽しんだわけですので,彼女のピアノが問題なのではないでしょう。おそらくはmonakaさんご指摘のとおり,曲の問題があるように思えますね。
私はこのメンツならではの更なる疾走感があってもよかったように思います。悪くはないんですけどね。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年4月30日 (木) 22時08分
あの"Stanley Clark"が、あの"上原ひろみ"と共演と聞けば、かなりアグレッシブな展開を期待したいのに、見事に肩透かしを喰らった感じでした。
もう少し、Stanley Clarkが上原の良さを意識していたら面白くなったのかなぁと思っているのですが..
ところで、この盤あまり中古で見かけないんですよね..(実は)
TBありがとうございます。逆TBさせていただきます。
投稿: oza。 | 2009年12月18日 (金) 06時52分
oza。さん,おはようございます。TBありがとうございます。
まぁ,何を期待してこのアルバムを聞くかで全然感想は違いますよね。確かに中古市場にはまだそれほどは出回っていないようですが,ちょぼちょぼは見掛けますよ。特に国内盤。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年12月18日 (金) 10時44分