Enrico RavaのNYC録音は期待通りの出来
"New York Days" Enrico Rava(ECM)
Enrico Ravaにとっては異色と言っていいメンツで吹き込まれたNYC録音によるアルバムであるが,私は冒頭のStefano Bollaniによるイントロを聞いただけで「これはいい」と思ってしまった。メンバーを見れば,かなり繊細なサウンドになるであろうと想定可能であるが,全くその通りで私としてはかなり嬉しくなる。それを予定調和と呼ぶならその通りである。しかし,その予定調和を期待する私のようなリスナーも多いはずである。そこにややフリーなアプローチを絶妙なスパイスときかせるところがまたRavaらしくてよい。
ジャケを見ると,共演者の中ではBollaniの扱いが一段高い(楽器編成からすれば通常ならMark Turnerの方が上にくるはずである)ところに,元レギュラーということもあろうが,RavaがBollaniに期待するところがうかがえるように思えるのは穿ち過ぎだろうか?いずれにしても,Bollaniは美的なピアノで応えているところが偉い。
全体を通して聞けば,音楽的にはメランコリックなムードが強いと言ってよいだろうが,それがRavaの個性であるし,ECMレーベルの特性の一つでもあり,このメンツであればさらに当然であろう。GrenadierとMotianというリズム隊も期待通りの働きだし,Tristano~Marsh派のTurnerも適材適所と言ってよいだろう。もちろん,もう少しメリハリをつけてもいいという指摘もあろうが,この音楽は夜,しみじみと聞けばそんなことは全く気にならないはずである。逆に言えば,朝や昼には全くフィットしない。4ビートが明確な"Thank You, Come Again"だけはやや感じが違うが...。この曲をアルバムのアクセントと言うには,その響きの軽快さにやや違和感があったのは事実である。彼らはそれをメリハリと言うかもしれないが。
いずれにしても,このアルバムを聞いていると,何となくではあるが,「死刑台のエレベーター」を聞いているような気分(あくまで気分的な問題である)になってしまった私である。Ravaに期待するレベル,音楽を実現してくれた共演者への評価も込めて星★★★★☆。なぜか私はRavaには点が甘いような気がするなぁ...。
余談だが,本作に参加のMark Turnerがアクシデントで指を2本切断してしまったようである。先日テレビを見ていたら,豚の膀胱を原料とする細胞外マトリクスなる技術を使えば,切断した指が再生した症例があるようだから,縫合手術が不成功だったとしても,そうした療法での回復と音楽シーンへの復帰を祈りたい。
Recorded in February, 2008
Personnel: Enrico Rava(tp), Stefano Bollani(p), Mark Turner(ts), Larry Grenadier(b), Paul Motian(ds)
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妖怪ラヴァ。
ラヴァとボラーニは、本当に良く合いますよね。
彼と一緒だと、ボラーニが遊び心残しながらも、適度に抑制されてますよね。
このアルバムは、まだなのですが、他のリンク先でも評判良かったので楽しみです。
早く、聴きたいな。
投稿: Suzuck | 2009年2月 4日 (水) 09時53分
私はもし、他レーベルでこのメンバーで行くとなれば、もう少しガンガンいくのでは、という予想でしたが、マンフレート・アイヒャーのプロデュースだと、多少はみ出る点はあるにしても、やはりこう来たか、とECMファンでもある私はうれしくなってしまいました。
アメリカ録音だし、タイトルにもNew Yorkって入っていますが、これはヨーロッパ録音といっても信じるかもしれません。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2009年2月 4日 (水) 10時45分
こんばんは。細胞外マトリクスで指が生えてくるっていうの私もTVで見ました。
Mark Turnerの指は順調に回復しているそうです。
http://www.markturner.net/2009/01/19/yet-another-update-on-jazz-musician-mark-turner/
投稿: 理屈庵 | 2009年2月 4日 (水) 22時13分
すずっくさん,こんにちは。
「妖怪Rava」。言いえて妙です。見た目は確かにそういう感じですもんねぇ。
このアルバム,きっとお気に召すはずです。早く来るといいですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年2月 5日 (木) 12時02分
910さん,こんにちは。
「ECMファンでもある私はうれしくなってしまいました」というのは全く私も同じでした。
今回はNYC録音ですが,オスロのRainbow Studioで録音したって結局同じような音だったのだろうなぁと思う次第です。
やっぱりRavaはいいと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年2月 5日 (木) 12時05分
理屈庵さん,こんにちは。情報ありがとうございます。
その後のUpdate情報は見当たらないようですが,とにかく,術後の経過が順調そうなのは何よりです。
しかし,細胞外マトリクスって凄かったですねぇ。あれが凄いのか,人間の回復能力が捨てたものではないのか...。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年2月 5日 (木) 12時14分
レンボースタジオって、、魔物が住んでるの知ってますか?
音を食べて、生きてるのですねぇ・・。
だから、あんなに静寂な録音なんでーす。
ラヴァも良いけど、ボラーニいいなぁ。
茶目っ気なかったけど、シリアスなボラーニも好きです。
投稿: Suzuck | 2009年3月 4日 (水) 17時11分
すずっくさん,こんばんは。コメントありがとうございます。
このアルバム,Rainbow Studioでの録音ではないですよね。ちょっといつもと感じは違っても,妖怪はNYCでもやはり妖怪だったってことでしょう。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年3月 4日 (水) 21時53分
あ、レインボースタジオね。
これが、ニューヨークの録音なのは、知ってますわよ。
だから、ちょっと、音が多いと、いいたかったあ。(^^ゞ
投稿: すずっく | 2009年3月 4日 (水) 23時34分
すずっくさん,すみません。読解能力に欠ける私でした~(爆)。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年3月 5日 (木) 00時30分