Keith Jarrettの弾くヘンデル:これが結構よいので怖がらずに聞きましょう。
"Handel: Suites for Keyboards" Keith Jarrett(ECM New Series)
既にこのブログで私のヘンデル好きを告白してしまったが,一般的にヘンデルと言えば,オラトリオや管弦楽のイメージが強いのは致し方ないところである。しかし,私がヘンデルで本当に好きなのはそうした曲ではなく,管弦楽系ならばオルガン協奏曲,そのほかでは木管のためのソナタやそしてこの鍵盤組曲である。鍵盤組曲に関して言えば,もともとそれほどアルバムがない中で,Andrei GavrilovとSviatoslav Richterによるライブ盤というあまりに美しいアルバムがあり,全曲版ならばそちらが決定盤である。今なら2枚組みの2セットで¥3,000ぐらいで買えてしまうといういい時代になったが,何とも言えぬピアノの響きが楽しめる。
その鍵盤組曲をKeith Jarrettが弾くとどうなるかということなのだが,これが何ともいいのである。実は私はKeith Jarrettにしろ,Chick Coreaにしろ,ジャズ・ピアニストがクラシックの曲を演奏することに強い違和感をおぼえてきたのだが,そうした見解を改めなければならないと思える演奏である。私がKeithのヘンデルを初めて聞いたのは,リコーダー・ソナタのバックでチェンバロを軽快に弾いているアルバム(RCAレーベルの作品ながら,プロデュースはECMのManfred Eicherである)だったのだが,それが意外にもよかったので,このアルバムも買ったというのが正直なところである。しかし,期待を裏切られることはなかった。曲そのものとの相性かもしれないが,Keithのピアノ・タッチとヘンデルの曲は相当親和性が高いように感じられる。爽やかささえ感じさせる好演奏と言えばよいだろうか。
ある意味,バッハやヘンデルならば超絶技巧は必要なかろうが,逆に演奏にはピアニストの個性が出てきてしまうものである。そうした観点で,このヘンデルはちゃんとKeith Jarrettのヘンデルとなっていると思う。くせがなく,美しい響きが全編で楽しめる。私のヘンデル好きという弱みもあり,星★★★★☆(5つ星はGabrilovとRichterのアルバムにこそ相応しい)。
誤解を恐れずに言えば,ヘンデルはバッハよりもはるかにわかりやすく,ずっと気楽に聞ける音楽である。Keithのファンが,クラシックを弾くKeithも聞いてみようということであれば,おそらくはこのアルバムが最も適しているのではないかと思う(もちろん,平均律でも,ゴールドベルクでも,フランス組曲でもかまわないのだが...)。それにしても大したピアニストである。
Recorded in September 1993
Personnel: Keith Jarrett(p)
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