チューリッヒの奇跡:Corea / Burtonデュオの最高傑作
"Chick Corea and Gary Burton in Concert, Zurich, October 28, 1979" (ECM)
世の中に奇跡的名演というものはいくつか存在すると思うが,1979年10月28日,スイスはチューリッヒのLimmathausにおいて実況録音されたこの2枚組LPこそ,Chick Corea~Gary Burtonの名コンビが生み出したジャズ界の奇跡の一つである。このコンビ,ECM第一作の静謐な"Crystral Silence"や躍動的な第2作"Duet"でも素晴らしい演奏を聞かせてくれたが,このライブの前にはその2枚もかすんでしまうほどの超弩級の傑作であり,星★★★★★では足りないぐらいのものである。
現在発売されているCDでは,収録時間の関係からLPのC面に相当する"I'm Your Pal / Hullo, Bolinas"と"Love Castle"が削除されているのが何とも痛い。これらが各人のソロ・チューンということでそのような扱いをされているものと思うが,この2曲も味のある名演であることを考えれば,この判断は決して正しいとは言えない。特にCoreaがソロで演奏する"Love Castle"は"My Spanish Heart"版の演奏よりも遥かに素晴らしいと感じるリスナーは私だけではないはずである。よって,この演奏はLP(できればドイツECMオリジナル盤)で保有するのが現在でも正しい姿だと思う。
もちろん,デュオで展開される演奏はどれも素晴らしいが,美とスリルを同時に体現した"Crystal Silence"にはため息が出る思いである。この後,このデュオの演奏は弦楽四重奏との共演の"Lyric Suite for Sextet"と"Native Sense",更にはCoreaの"Rendezvous in New York"で1曲聞けるだけだが,このライブを上回る演奏は生れていない。本作はジャズ史上に残る名デュオの最高傑作と断言してよい作品であるとともに,今後も彼らがこれを上回る演奏を残す確率は非常に低いと言えるだろう。
Recorded as noted in the title.
Personnel: Chick Corea(p),Gary Burton(vib)
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» 美しく明ける Crystal Silence live / G・Burton& C・Corea [JAZZ最中]
http://www.youtube.com/watch?v=cg_dRAmSzvA&feature=related
皆さま、明けましておめでとうございます。
どうぞ今年もよろしく、つたないblogにお付き合いください。
また皆さまのところにお邪魔いたしますのでよろしくお願いします。
YouTubeのblogへの張り方が解らないので巻頭URLを張りましたが、とても良い音楽と絵なので年賀状代わりです。クリックしてみてください。
今年も美しく明けました。
昨年最後のアルバムにキースの“フェイ... [続きを読む]
この二人のデュオは、やっぱりコレが最高なんですね。
最近の作もコレは越えていません。
ところで、
ヴィトウスの"Remembering Weather Report”は聴かれましたか?
投稿: 東信JAZZ研究所 | 2009年6月 1日 (月) 08時09分
東信JAZZ研究所さん、おはようございます。お返事が遅くなり申し訳ありません。
私はこのコンビはECMの最初の3作を持っていればいいかなという人間ですが、その中でも本作は頭抜けた傑作と思います。
Vitousの新譜はほかの注文盤の入荷状況に引っ張られてまだ来ていません。今週中には来ると思いますので、届いたら記事にしたいと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年6月 2日 (火) 08時41分
こんばんは。
私も、生涯でいちばん気に入ったアルバムと言えば本作になると思います。
20年以上、ずっと愛聴盤です。飽きるどころか、何度聞いても素晴らしいです。
学生時代、私の周りに、ジャズファンでないけれどこのアルバムだけは持ってて気に入ってる、という友人が二人もいました。
世の中の評価も、スウィングジャーナルの年間ジャズディスク大賞で金賞、グラミーのベストジャズパフォーマンスを受賞しましたよね。
ということは、
「オールドスタイルの人しか認めない、新しいことやったらジャズじゃない」という層と、
「オールドスタイルの人はだめ、今のジャズの人しか認めない」という層
この両方が最大の評価を下した、という稀有なアルバムなのだと解釈しています。
投稿: heaven | 2013年6月 5日 (水) 00時01分
heavenさん,続けてコメント・バックです。このアルバムは本当に素晴らしいです。
ジャズ・ファン以外からも評価されるだけの訴求力を持っているということがこの作品の魅力を裏付けていますね。
SJとグラミーに関するお考えは面白いですね。私は全く思いついていませんでした。グラミーの選考基準もよくわかりませんが,SJも廃刊前のジャズディスク大賞の選考結果もひどいもんでしたから,微妙な部分もありますが,本作の頃のSJはまだまともだったと思います。
いずれにしても,SJの末期はジャーナリズムではなく,単なるPR誌のようなもんでしたが,最近は全然ジャズ専門誌も買ってない私です。お仲間の情報やネットからの情報で十分って気もしますし。話が脱線してしまいました。
投稿: 中年音楽狂 | 2013年6月 6日 (木) 22時56分