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2025年7月17日 (木)

今年もこの日がやってきた,と毎年のように書いているが...。

_20250714_0001 "Soultrane" John Coltrane (Prestige)

7月17日はJohn Coltraneの命日であり,そして私がまた年齢を重ねる日である。毎年のようにこの日にはJohn Coltraneのアルバムを取り上げているが,今年はこれだ。

ついついColtraneのアルバムとなると,Impulseレーベルのアルバムを取り上げてしまいがちになる私だが,既にMiles DavisやThelonious Monkの下での修行を通じて,一皮むけた頃のJohn Coltraneの傑作としてこのアルバムも避けて通れないところである。Coltraneと言えば"Sheets of Sounds"と言われるプレイ・スタイルは本作のライナーでIra Gitlerが名付けたものだということでも,取り上げる価値はあるというものだ。

全編を通じて快調そのもののJohn Coltraneが楽しめるが,それを支えるのがPrestigeのリズム・セクションと言えばこの人たちみたいなRed Garland,Paul Chambers,Art Taylorなのだから,安定感抜群なのもこの作品への貢献度大と言ってよいだろう。まぁこのアルバムを聞いて嫌いだという人はそうはいるまいと思うが,その中でも"I Want to Talk About You"がいいねぇ。もちろんサックスの限界を追うColtraneもよければ,歌心を炸裂させるColtraneもまたよしなのだ。

こういう演奏を聞いていると,Prestige時代のColtraneも改めて聞かなきゃなと思うこの日であった。

Recorded on February 7, 1958

Personnel: John Coltrane(ts), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Art Taylor(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年7月16日 (水)

Pat MartinoのJoyous Lakeによる放送音源。超カッコいい!

Pat-martino-1977 "San Francisco 1977" Pat Martino(Bootleg)

この音源,さまざまなかたちでブートレッグとしてリリースされていたものだが,こういう音源もストリーミングで聞けてしまうのだからいい時代である。

この音源は放送音源をブート化したものなので,サウンドボード録音だから,音には全く問題ない。そして嬉しいのがPat Martinoが最もフュージョンに傾斜したと言ってよいJoyous Lakeによるライブ音源だということだ。時は1977年,今はなきKeystone Kornerにおいての演奏である。私はアルバム"Joyous Lake"について,当ブログにおいて「英国にBrand Xあれば,米国にJoyous Lakeありって感じ。超カッコいい。」なんて書いているが,そうした感覚はこの音源でも全く変わらない。

更にアルバムと異なって,ここでの演奏は85分近くのものとなっており,演奏時間は長いし,"Fall"やら"Along Came Betty"のような曲もやってしまうところに大きな違いがあり,このメンツでどういう演奏をするのかというところに興味が湧くのだ。さすがにこうした有名曲には相応のリスペクトを示した演奏という感じで,Joyous Lakeらしいって感じではないが,それにしてもこの音源は強烈だ。この時代が生んだ熱さというところもあろうが,主流派ジャズがクロスオーバー/フュージョンに押された時代でも,コンセプトはそちらに寄せながらも,Pat Martinoの技には何の変わりもないというのが実に潔くも素晴らしい。

まさにこれは聞けて良かったと思える音源。こういうのなら大歓迎だ。

Recorded Live at Keystone Korner on March 2, 1977

Personnel: Pat Martino(g), Delmar Brown(p, el-p, synth), Mark Leonard(b), Kenwood Dennard(ds)

2025年7月15日 (火)

Patricia Brennanって誰だ?ってことで聞いたアルバム。

Breaking-stretch "Breaking Stretch" Patricia Brennan (Pyroclastic)

DownBeat誌の最新号には恒例の国際批評家投票が掲載されているのだが,年間最優秀レコードに選出されているのがPatricia Brennanの"Breaking Stretch"というアルバムであった。よくよく見てみると,このPatricia Brennanはヴァイブ部門のトップにも推されている。この人,既に昨年もヴァイブ部門のRising Starには選ばれているから,相応の注目株だったのだろうが,昨今ヴァイブと言えばJoel Rossしか念頭になかった私である。

そんなこんなでPatrica Brennanって誰よっ?って感じで気になったのだが,よくよく見返してみればMary Halvorsonの"Amaryllis & Belladonna"で既に聞いていた。しかし,そこではそれほど強烈な印象はなかったので,早速この"Breaking Stretch"をストリーミングで聞いてみた。

一言で言えば,本作においては非常にスリリングな演奏を聞かせており,この時代「女流」がどうこう言うのは野暮であるが,実にハイブラウな響きを聞かせていて,これは確かに評価したくなるというのも頷けるし,ある意味DownBeatの批評家連中が好きそうな演奏だ。そもそもメンツも相当いいところを揃えていて,人脈も確立しているところはその実力ゆえってところだろう。

この人のレギュラー・クァルテットはホーン抜きのようなのだが,本作ではそこに3管が加わるという編成もスリルを増幅させるに十分。ラッパのAdam O’Farrillは上原ひろみのSonicwonderにも参加する人だが,この人もMary Halvorsonとも共演してしまう間口の広さもあって,ここでの演奏は上原ひろみとの演奏とはだいぶ毛色が違う。そしてテナー2本がJon IrabagonとMark Shimであるから,当然硬派の演奏となることは推して知るべしだったが,それにしてもこの響きは刺激的であった。

なかなか新しい人には目配りが出来ていないのが実態だし,参加作も記憶から飛んでいるようでは,結局好きな音楽しか聞かなくなっているのだなぁということを反省した私である。改めてDownBeatの投票結果を眺めて,これ誰?って名前に注目してみたいと思う。

Personnel: Patricia Brennan(vib), Adam O’Farrill(tp), Jon Irabagon(ts), Mark Shim(ts), Kim Cass(b), Marcus Gilmore(ds), Mauricio Herrera(perc)

媒体でもリリースされているが少々お高いので,本作のストリーミングへのリンクはこちら

2025年7月14日 (月)

殺伐とした救急医療の現場が見ていて苦しくなる「アスファルト・シティ」。

Asphalt-city 「アスファルト・シティ」('23,米/英)

監督:Jean-Stéphane Sauvaire

出演:Sean Penn, Tye Sheridan, Raquel Nave, Katherine Waterstone, Michael Pitt, Mike Tyson

NYCはブルックリンを舞台に,救急医療隊(EMS:Emergency Medical Services) の活動を描く映画なのだが,描かれる救命される側が無茶苦茶な連中ばかりで,さすがにこれは行き過ぎではないかと思わせるプロットが続く。

Sean Penn演じるRutの家族の姿も描かれるが,いずれにしてもこのような状況ばかりならば,精神が病んでいくよなぁと思わざるをえないシーンの連続なのだ。救急隊員の殉職者より自殺者が多いというラストのテロップも頷ける話であり,見ていて救いがないと思わされるシークェンスの連続なので,相当疲れる映画である。

唯一救いのあるシーンはエンディング近くに現れるが,時既に遅しというところで,見ている方はそこまでで疲れ果てているという感じであった。そういう意味ではリアリティという点ではやや無理があって,いくらNYCと言えども,ここまで殺伐とした場所が今もって残っているかと言えば疑問だと思ってしまうところもあった。まぁ,昨今のブルックリンはこじゃれた街に変貌を遂げているとしても,私も行ったことがあるのはDyker Beachまでだから,この映画に出てくるようなエリアまでは知らないから,偉そうなことは言えないが。いずれにしても,出てくるシーンのロケ地のそこかしこに,「フレンチ・コネクション」との共通性を見出せるが,これは意図的なものだったのかなぁなんて思っていた。

面白かったのがMike Tysonが救急隊の上司として出演していることで,それっぽく演じていたのは意外であった。

まぁ映画のテーマとしてはありだと思うが,これが日本でヒットする可能性は極めて低いだろうな。Sean Pennは相変わらずだが。

2025年7月13日 (日)

ストリーミングでBrad Mehldauの音楽を聞いていて,表示された「謎の音源」。

Spangalang-session "The Spangalang Sessions 1991" Joey 'G-Clef' Cavaseno (Soul Kid Jazz)

主題の通りである。スマホの不調により,デバイスにダウンロードしてあった音源が消えてしまい,再度デバイスに書き込むついでにストリーミングでBrad Mehldauの音源を聞いていたら,参加アルバムとして表示されたのが本作であった。なんだこれ?と思ってジャケを見れば,Featuring Brad Mehldauと書いてあるではないか。

2023年にリリースされていたらしいこの音源は,1991年のセッション・アルバムのようなのだが,1991年と言えばChristopher Hollydayの"The Natural Moment"で公式レコーディング・デビューを果たした年なので,Brad Mehldauとしては最初期の音源ということになる。こんなものがあったことを知らなかった私ではあるが,それが媒体でもリリースされていると知っては,早速 コンプリートを目指す私としては発注せざるを得ない。ということで現物は米国から飛ばしている最中だが,デリバリーされる前にストリーミングで音源をチェックした。

デビューしたての青臭い時期の演奏ではあるが,この頃からPeter Bernsteinとは付き合いがあったのだということがわかって,その後の盟友関係にも納得してしまう。結局長い付き合いの朋友なのだ。

まぁこの演奏を聞いて面白いと思うかと言えば,リーダーJoey 'G-Clef' Cavasenoのアルトを含めて微妙ではあるのだが,発展途上のBrad Mehldauの演奏だと思うと実に興味深い。

まだまだ明確な個性の確立には至っておらず,どこかの大学ジャズ研でもできそうな,ごく普通のジャズ・ピアノって感じなのが微笑ましい。

本作においては,Peter Bernsteinは曲によってWilliam Ashなるプレイヤーとギターを分け合っていて,全曲でプレイしている訳ではないが,William Ashよりははるかにましなギターを聞かせていると思える。それでもフレージングはまだまだ大したことがないという感じか。まぁBrad MehldauもPeter Bernsteinもこの当時20代前半なのだから,仕方ないことではあるとしても,その後の彼らの急成長はJimmy Cobbの下でのCobb’s Mobでの修行が効いたのかもなぁと思ってしまう。

いずれにしても30年以上埋もれていたのもある意味納得できてしまう本作は,よほどの物好きにしか薦められないというところだが,コレクターの私としては存在を認識できただけでよしとしよう。まぁこれも「コレクターはつらいよ」シリーズとしてもよかったかもなぁ(笑)。

Reccorded in 1991

Personnel: Joey 'G-Clef' Cavaseno(as), Brad Mehldau(p), Peter Bernstein(g), William Ash(g), John Webber(b), Andy Watson(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年7月11日 (金)

珍しくも...。

家族旅行やら,昨今では珍しくなった仕事での出張続きやらで,家のPCに向かう時間が限定的なため,移動時間を除いて,音楽を聞いている時間があまりないし,ブログのストック記事も尽きてしまった。ということで週末にまた気分を変えて記事を書くこととして,今日は開店休業。

2025年7月10日 (木)

ライブ中のスマホ撮影に関する興味深い記事。

音楽系の情報サイトamassを見ていたら,面白い情報が出ていた(記事はこちら)。それによれば,「英国の最新調査によると、4人に1人以上(28%)がコンサート中にスマートフォンで撮影したライヴ映像を見返したことがなく,また41%がスマホ撮影に夢中になってコンサートの重要な部分を見逃したことがあり、38%がイベント中に他人が撮影しているのを迷惑だと感じている」とのことだ。

私は以前,Tedeschi Trucks Bandのライブの記事において,「ライブの最中,のべつまくなしに写真を撮りまくり,その都度,そいつの肘が私に当たっているのも全く気にしないし,撮影していない時の携帯のスクリーンも光りっぱなしでは,音楽に集中したいほかの聴衆(つまり私)にとって迷惑でしかない。お前はライブに音楽を聴きに来たのではなく,写真を撮りに来たのか?という感じであった。」と書いたことがある。まさに迷惑なのだ。

amassの記事にあるコメントはまさにその通りだと思ったので,貼り付けておく。

「コンサートの瞬間をスマートフォンで撮影したくなる気持ちはわかりますが,(中略) コンサートに行く人たちの間で,そうすることに対する懸念が高まっていることが明らかになりました。二度と見返されることのない映像のためにスマートフォンのストレージを大量に無駄にしているだけでなく,多くのファンは自分たちが楽しみにしていた体験そのものを逃しています。(中略) お気に入りの曲を1、2 曲撮影するのは問題ありません。しかし、あなたの思い出とスマートフォンのストレージのためにも、その夜はスマートフォンではなく、自分の目と耳で残りの時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。」

さて,皆さんはどう思うだろうか?

2025年7月 9日 (水)

Heartの"Little Queen":懐かしいねぇ。

Little-queen"Little Queen" Heart(Portrait)

このアルバムがリリースされたのは1977年の5月のことであったが,このアルバムからの"Baracuda"のイントロのリフは印象的だったなぁと今更ながら思う。私はHeartのアルバムは一枚も買ったことがないが,この曲だけは当時のFMでの放送を聞いて印象的だったということだけはよく覚えている。

Heartというバンドがブレイクしたのはこのアルバムだったと思うが,私はHeartのアルバムを買ったこともないので,私の中では"Baracuda"=Heartみたいになってしまっているが,このアルバムをこの歳になって初めてストリーミングで全編聞いて,一部でフォーク/トラッド的な響きを聞かせるのはHeartがLed Zeppelinフォロワーだったのだなぁと今更ながら思っていた私である。彼らがKennedy Centerで"Stairway to Heaven"を演奏したのも必然だった。今更ながら感動的なトリビュート演奏の映像を貼り付けておこう。このアレンジはRobert Plantでなくたって,まじで泣ける。

いずれにしても,このアルバムもなかなかの佳曲揃いであったことを今更ながら知る私であった。やっぱり70年代の音楽が私にフィットするのだと痛感させられるアルバム。星★★★★。今でもカタログに残っているし,Heartと言えばこれって感じなのかもしれないなぁ。

Personnel: Ann Wilson(vo, fl), Nancy Wilson(g, vo, mandolin, p), Roger Fisher(g, mandolin), Howard Leese(g, p, synth, vo), Steve Fossen(b), Michael DeRosier(ds, perc)

本作へのリンクはこちら

2025年7月 8日 (火)

越境型Brad Mehldauのブートレッグ登場。正直言って期待値は高くない(笑)のだが聞かずにはおれん。

_20250707_0001 "Brad Mehldau and Rundfunk Sinfonieorchester Berlin 2025" (Bootleg)

ジャズの枠に留まらない活動をするBrad Mehldauであるが,正直言って彼が書いたピアノ・コンチェルトはブートレッグで聞いても,ライブで聞いても失敗作だったと思っている。何でもかんでもうまく行く訳ではないということではあるが,そんなBrad Mehldauがまたもクラシックとの融合を図るライブを,今年6月にベルリンで行った際の放送音源がブートレッグとしてリリースされたので早速聞いている。

今回のコンサートはベルリン放送交響楽団と"Mehldau Meets Bach"と題するものである。Disc 2の前半は私の評価が低いピアノ・コンチェルトなので,ここはそれ以外のプログラムに注目したい。Disc 1はバッハの「平均律(ストラビンスキー編曲)」,「音楽の捧げもの(ウェーベルン編曲)」,「フーガの技法(指揮のClark Rundell編曲)」からベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」の「サンクトゥス」へと続くプログラム。Brad Mehldauのピアノのタッチも美しく,ここでのオケとピアノの融合具合は決して悪くないと思う。自作のピアノ・コンチェルトをやるより,私にとってはこういう感じのアダプテーションの方が馴染みがいい感じがしてしまうと言っては言い過ぎか。

Disc 2でピアノ・コンチェルトに続いて演奏しているのが,ブートのクレジットでは"Glodberg Variations"となっているのだが,これは記譜されたバッハの音楽ではなく,ゴルトベルクにインスパイアされた即興(変奏曲)というところであろう。それに続くのが"Things Behind the Sun"と"Waltz for J.B."で,この3曲はアンコール・ピースって感じだと思う。この辺りの演奏は本来のBrad Mehldauの真骨頂ゆえ,はずれはないところだ。

そして当日メインで演奏されたであろうピアノ・コンチェルトであるが,プログラム上は"Dedicated to Herbie Hancock"となっている。これまでこの曲に関して,Herbie Hancockの名前が出てきたことはなかったはずだが,なぜここに来て突然Herbie Hancockに捧げられたのかは全くの謎である。曲はこれまで演奏されてきたものと同じであり,Herbie Hancockを連想させるものでもないだけに,これはどうも解せないと思うのは私だけではないだろう。まぁ演奏としては以前よりはこなれてきた印象はあるが,曲そのものが盛り上がりに欠ける部分は否定できないので,評価が爆上がりするということはないな。

まぁこういう演奏も聞いておく必要があるというのが,私のBrad Mehldauという人への評価であり,ファン心理であるから,これはこれで不満はないと言っておこう。

Recorded Live at the Haus des Rundfunks, Berlin on June 14, 2025

Personnel: Brad Mehldau(p),Clark Rundell(cond),Rundfunk Sinfonieorchester Berlin

2025年7月 7日 (月)

"The Yes Album":いい曲が揃っているねぇ。

_20250703_0003 "The Yes Album" Yes(Atlantic)

Yesの黄金期はRick Wakemanが参加後の「こわれもの」からというのが定説ではあるが,演奏能力という点ではそれが事実だとしても,バンドとしての実力が向上したのは,Steve Howeが参加したこのアルバムからと考えてよいはずだ。なぜなら,ここでのレパートリーは後のライブでも繰り返し演奏されることになるからだが,今にして思えばYesの代表曲と言ってもよい曲群であった。より具体的に言えば,"Yours Is No Disgrace","Starship Trooper","I've Seen All Good People",そして"Perpetual Change"と並べば,みんな"Yessongs"にも入っているのがその証である。逆にライブで演奏される機会のない"A Venture"が浮いてさえ聞こえるのだ。

かつてYesに入れあげていた私ではあるものの,実は1st,2ndはまともに聞いたことがなく,Yesは本作からでいいと勝手に判断していたが,それで何も問題はなかった(笑)。まぁTony KayeのキーボードにはRick Wakemanほどの華がないというのは事実でも,バンド・サウンドにフィットしていなかった訳ではないと本作を改めて聞いて感じるのであった。現代においてこのアルバムを聞くと,ミキシングやギターの音色など,どうしても時代を感じてしまうところもあるが,それでも今聞いても魅力的な曲ばかりだと思ってしまう。やはりYesの黄金期はここからだったと改めて感じる。実はやや撮っ散らかった印象のある「こわれもの」よりこっちの方が好きかもしれない私である。星★★★★☆。

Personnel: Jon Anderson(vo, perc), Chris Squire(b, vo), Steve Howe(g, vachalia, vo), Tony Kaye(p, org, synth), Bill Bruford(ds, perc) with Colin Godring(recorder)

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2025年7月 6日 (日)

保守化した山下洋輔もまた楽し。

_20250703_0002 "Sakura" 山下洋輔(Verve)

山下洋輔の音楽の楽しさはフリーの爽快さにあることはこれまでも当ブログに書いてきた。しかし,その後,フリーなフレージングは差し挟むものの,以前に比べれば保守的な演奏もするようになったのが,所謂ニューヨーク・トリオを結成した辺りからではなかったか。日本のわらべ歌や民謡を題材にするというのは既に「砂山」でやっていたが,本作はそれをCecil McBee,Pheeroan akLaffを迎えたトリオで改めて取り組むという感じのアルバムであった。ここにも「砂山」でやっていた3曲とも再演している。

このアルバムのリリース後,私のNYC在住中に彼らのライブを今はなきSweet Basilで観たのだが,このアルバムでの演奏よりは山下洋輔のフリー度は高かったように記憶するが,いかんせん35年近く前のことだから,記憶には自信はない。しかし,現地の聴衆にも受けていたことは間違いない。

演奏は多少保守化したとしても,このトリオは結構活動期間も長かったはずなので,相性が良かったんだろうと思えるが,それは本作を久しぶりに聞いても感じられるところであった。主題の通り,保守化しても山下洋輔の音楽は楽しかったと思う。星★★★★。

余談だが,随分前のことにはなるのだが,私の亡くなった父が山下洋輔のCDを購入していたのには驚いた。そして父が買っていたのは例外なくこのトリオであったので,フリー・ジャズに耐性があったとは思えない父でも彼らの音楽はOKだった訳だ。本作は私が自分で買ったものだが,そのほかのこのトリオの数枚のアルバムは父の遺品なのである。

Recorded on May 1-3, 1990

Personnel: 山下洋輔(p),Cecil McBee(b),Pheeroan(ds)

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2025年7月 5日 (土)

Walter Wanderleyからの今日はMarcos Valleだ(笑)。

_20250703_0001 "Samba '68" Marcos Valle(Verve)

昨日取り上げたWalter Wanderleyのアルバムにも参加していたMarcos Valleであるが,あちらでは曲は取り上げていても,ミュージシャンとしての露出は控えめだったこともあり,今日はMarcos Valle自身のリーダー作である。

本作は米国マーケットを意識したものなので,ブラジル音楽,特にボサノヴァがStan Getz以降ヒットしたことも踏まえての作りのため,「サンバ」と謳っていても,サンバと言うよりボサノヴァ色の方が濃厚に出ている。こういうのをブラジル人が聞くとどうなのかねぇと思いつつ,意識しているマーケットが違うのだから,まぁそれはよしとしよう。Milton Nascimentoの"Travessia"と"Courage"に明らかな違いがあったようなものだが,Milton Nascimentoの場合は私は完全に"Trvessia"なのだ(きっぱり)。なので,私は聞いたことはないが,Marcos Valleのよりブラジル色の濃い音楽にも興味は湧いてくるのだ。でもこの人の音楽にはそれほど土着性を求めてもいけないのかもしれないが。

いずれにしても本作はEumir Deodatoのアレンジメントに乗って,どちらかと言えばソフトな路線の音楽が多く,11曲中サンバ的なのは"Crickets Sing for Anamaria","Pepino Beach","It's Time to Sing"とWalter Wanderleyのアルバムにも入っていた"Batucada"ぐらいのものだ。その4曲とて決して熱量は高くない。だからと言ってそれが悪いというのではない。ここはMarcos Valleの書く佳曲を素直に楽しめばいいのだ。まずはMarcos Valleというシンガー・ソングライターを米国という巨大マーケットで売り出すためにはこういう構成はあって然るべきであったようにも思える。星★★★★☆。

Personnel: Marcos Valle(vo, g, p), Anamaria Valle(vo), Eumir Deodato(arr)

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2025年7月 4日 (金)

Walter Wanderley:このイージーリスニング的な感覚がいいねぇ。

_20250702_0001"Batucada" Walter Wanderley(Verve)

このアルバムを聞くのも久しぶりだ。このアルバムはブラジル音楽の棚に入れているのだが,ブラジルものは聞くソフトに偏りがあるため,本作のプレイバック頻度は決して高くなく,ジャケを見てまたも気まぐれで聞いてみたもの。

Walter Wanderleyはブラジル出身のオルガン奏者だが,このオルガンを中心としたここでの演奏は,ボサノヴァと言ってもよいのだが,相当響きは(いい意味で)軽く,主題の通りイージーリスニング的に感じられる。その辺はプロデューサーがCreed Taylorだけに,完全なイージーリスニングにはなっていないという感覚だが,ここでの音楽は往年のワイドショーのようなTV番組のBGMとしても使われていた記憶がある。8曲目の"So What’s New"あたりがその典型だが,いろいろなシーンに「使えそうな」音楽だと言ってもよいだろう。

久々に聞いたので全然覚えていなかったのだが,4曲目はFrançoise Hardyでお馴染みの「さよならを教えて」だが,この演奏はFrançoise Hardyがレコードを発売する前にレコーディングされていて,なんでやねん?と思っていたら,この曲はもともと"It Hurts to Say Goodbye"(本作でもそのタイトルである)というArnold GolandとJack Goldが書いた曲だったらしい。それにSerge Gainsbourgが歌詞をつけて,Françoise Hardyが歌ったのが「さよならを教えて」だったのであった。私は子供の頃に「さよならを教えて」を聞いていたので,そっちがオリジナルと思っていたら,全然違っていたのねぇ。

それはさておき,本作の売りの一つはMarcos Valleがギターで参加していることだと思うが,一部アレンジにも関わっているとは言っても,本作での主役はあくまでもWalter Wanderleyのオルガンなので,過剰な期待をするべきではない。それでもこれからの猛暑の季節にも合いそうな音楽が流れてきて,気楽に聞けて心地よいことこの上ない。ビアガーデンに遭いそうだなぁなんてことを思いながら,こういうのもたまにはいいねぇと思った次第。星★★★★。

Recorded on May 16-18 and on June 25, 1967

Personnel: Walter Wanderley(el-org, p), Marcos Valle(g), Sebastian Netto(b), Jose Marina(b), Paulinho(ds), Dom Romao(ds), Lu Lu Ferreira(perc), Talya Ferro(vo), Claudio Miranda(vo)

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2025年7月 3日 (木)

何でもできちゃうナベサダ・クァルテットって感じだ。

_20250630_0001"Live at the Junk" 渡辺貞夫(CBSソニー)

先日取り上げたJoe Hendersonの"Henderson's Habiliment"が収録された銀座の「ジャンク」での,ナベサダこと渡辺貞夫のクァルテットによる1969年の実況録音盤である。60年代末と言えば,私はまだ小学生だからナベサダと同時代とはまだ言えない頃だが,今にして思えば,こういう感じだったのねぇと感じるレパートリーである。

主題にも書いた通り,ここでの演奏はバップあり,ロック・ビートあり,ポップス(Burt Bacharachの"This Guy’s in Love with You")のアダプテーションあり,スタンダードあり,ブラジルありと,何でもありという感覚が強い訳だが,やっている曲は多様でも,当時のジャズの熱さとでも言うべき感覚を覚えさせる演奏だと言ってよいと思う。リーダー,ナベサダの出番が多いのは当然だが,増尾好秋のソロもふんだんに捉えられていて,これがなかなか楽しい。

こうしたバラエティに富んだ選曲だと,捉えどころがないという言われ方もされかねないし,ナベサダのオリジナル,"If I Said the Sky Was Fallin'"のロック・ビートには時代も感じてしまうが,演奏の質は極めて高く,私の中ではナベサダのアルバムとしては結構評価したくなるアルバムだと思っている。収録時間の関係で最後の"Felicidade"がフェードアウトするのは惜しいが,その前の"Granny's Samba"で大いに盛り上がることを考えれば,まぁそれもまたよしってことにしておこう。星★★★★☆。

Recorded Live at the Junk on December 26 & 27,1969

Personnel: 渡辺貞夫(as,sn), 増尾好秋(g), 鈴木良雄(b), 渡辺文男(ds)

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2025年7月 2日 (水)

あっという間に読了した「国宝」原作。

__20250630150601 「国宝」吉田修一(朝日出版社)

映画「国宝」の出来が素晴らしかったので,原作はどうだったかということで,多分買ったまま読んでいなかったと思ったこの原作だが,探索しても見つからない。ってことは買っていなかったのか,あるいはまだどこかに埋もれているのかもわからなかったので,文庫版を購入することにして,読み始めたらあっという間に読み終えてしまった。原作も大変よく出来ていたと今更ながら思わされる。

よくよくこの原作と映画を比較すると,映画版にはかなりの脚色が入っていることがわかる。映画の方がやはり劇的な要素を加味していて,特に吉沢亮演じる三代目が一旦ドサ回りをするシークェンスは原作にはない。映画を観た時に書いた「転落と復活」という筋書きは映画のために準備されたものであって,原作では一旦新派に転じるという設定だし,娘との関係性も全く異なる。確かに登場する女性たちの小説での存在感は映画よりは強いものではあるし,原作ではより重要な役割を果たす徳治,辻村,弁天等のキャラクターも描かれていない部分もある。

だからと言って映画のシナリオが出来が悪いかと言えばそんなことはなく,原作の持つエッセンスや挿話は上手く使いながら,端折るところは端折って歌舞伎へのフォーカス度を強めて,よくあのシナリオに仕立てたものだと思える。シナリオを書いた奥寺佐渡子にとってはストーリーの取捨選択は大変だったろうが,映画は別物として見ても楽しめるし,この原作も映画とは別物として読んでも楽しめてしまうところが素晴らしい。

映画が星★★★★★なら,この原作も星★★★★★だと言いたくなるし,原作を読んだら,もう一回映画を見に行きたくなってしまうこと必定。映画もヒットしているようだが,それも頷ける話である。

 

2025年7月 1日 (火)

Eric Dolphyの未発表音源集。これはハードルが高い。

_20250629_0001 "Other Aspects" Eric Dolphy(Blue Note)

これは1987年にリリースされたEric Dolphyの当時未発表だった音源集。Dolphyが亡くなる前に残していた音源をJames Newtonプロデュースによりリリースにこぎつけたという感じのアルバムだが,これが実にハードルが高い。

Eric Dolphyぐらいのミュージシャンになれば,残した音源はどれも貴重であることは間違いなかろうし,そのチャレンジ精神には驚かされる部分もあるが,これは決して耳に優しい音楽ではない(きっぱり)。

いきなり冒頭の"Jim Crow"から女声?と思えるヴォーカルが加わるアバンギャルドな展開であるが,この声は後にDavid Schwartzによるカウンターテナーであり,しかもバックを務めるのはBob Jamesのトリオだったことが判明する。ここに収められた演奏よりはるかに音の良い別テイク(?)は,後にリリースされる"Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions"のボーナス・トラックとして"A Personal Statement"の名のもとに公開されることになる。それにしても冒頭からこれでは大体聞いている方は身構えるのが当たり前だと言いたくなる。後のBob Jamesを考えれば,若い頃はこうだったのねぇと思いたくなる。まぁよくよく考えれば,Bob JamesはESPからもアルバムを出していたぐらいだから,別に不思議はないのだが。

冒頭の1曲が最もアバンギャルドではあるが,全編に渡ってEric Dolphyの飽くなき挑戦が捉えられた音源である。そのほかの2曲はフルート・ソロ,1曲はアルトによるRon Carterとのデュオ,そして最後がフルートとタブラ,タンブーラによるトリオという構成からして普通ではないのだ。そういうこともあって,これはあくまでも相応にEric Dolphyを聞いた上で,更にDolphyの全貌を捉えるまで聞きたいというリスナーにこそ勧めるべきものだろう。よって一般的なリスナーにはお勧めはしないが,これもEric Dolphyの側面("Other Aspects")であると思って聞けばいいだけの話なので,ご関心のある方は聞いて損はない。だが,繰り返しになるが,本作は極めてハードルが高い音源なので念のため。

それにしても,このアルバムを初めて聞いた時は驚いたよなぁ...。

Recorded in 1960 and 1962

Personnel: Eric Dolphy(fl, as, b-cl), Bob James(p), Ron Brooks(b), Ron Carter(b), Robert Pozar(ds), Gina Lalli(tabla), Roger Mason(tamboura), David Schwartz(vo)

本作へのリンクはこちら

2025年6月30日 (月)

追悼,Lalo Schifrin。

Lalo-schifrin

Lalo Schifrinが6/26に93歳で亡くなった。この人はやはり映画,TV音楽での印象が強い人だ。代表的なのは「スパイ大作戦」(今なら「ミッション・インポッシブル」だ)のテーマ音楽を書いたということだろうが,日本国内においては「燃えよドラゴン」の印象も強いかもしれないし,私にとっては「ダーティハリー」や「ブリット」,あるいは「0011 ナポレオン・ソロ」でも記憶に残っている人である。一言で言えば,アクション映画にフィットしたカッコいい音楽を書く人であったと思う。

もともとはジャズ界ではアレンジャーとしての活躍が最初だったとは思うが,自身のアルバムも多数残していて,私はCTIに残した2枚のアルバムも保有している。正直言ってほとんどプレイバックする機会はないのだが,上述の映画/TV音楽のようなスリリングな響きとはちょっと異なる,いかにもCTI的なミュージシャンを動員した,ややイージーリスニング的とも言えそうなフュージョン・ミュージックであった。

いずれにしても,多くの人はLalo Schifrinの名前は認識していなくても,彼が書いた音楽は聞いたことがあるだろうという人であり,2019年にオスカーの名誉賞を贈られたのも頷けるそういう作曲家であった。

R.I.P.

ここはLalo Schifrinを偲んで,オリジナル「スパイ大作戦」のテーマ音楽を貼り付けておこう。

2025年6月29日 (日)

Amazon Primeで「影なき殺人」を見た。

Boomerang 「影なき殺人 ("Boomerang!")」(’47,米,Fox)

監督:Elia Kazan

出演:Dana Andrews, Jane Wyatt, Lee J. Cobb, Arthur Kennedy, Ed Begley, Sam Levene, Karl Malden, Cara Williams

私も好きだねぇと思いつつ,またもAmazon Primeで昔の白黒映画である。今回はElia Kazanが撮った実話に基づくこの映画であるが,以前取り上げた「裸の町」同様のセミ・ドキュメンタリー・タッチの映画ではあるが,後半の法廷劇となってからの展開こそがこの映画の真骨頂。

Arthur Kennedy演じるJohn Waldronの冤罪をDana Andrews演じるHenry Harveyが法廷で論理的に暴くシーンがこの映画のキモなので,フィルム・ノワール的ではあるものの,純粋フィルム・ノワールという感じでもない。現代に照らして言えば,劇中の警察の自白強要のシーンなどありえないが,まだまだこういうのがありだった時代ということを感じさせる。

そして,この映画でも感じられるのがバイアスあるいは同調圧力の恐ろしさってところか。それに対する正義の示し方という意味では非常に行儀よく作られた映画であり,脇を固める役者陣が渋い。Karl Maldenが若い刑事役で出ているが,クレジットすらないところに昔の映画らしさを感じる私であった。星★★★★。

それにしても,私はこれまでElia Kazanの映画って見たことなかったなぁなんて改めて思ってしまったが,結構映画好きとは言っても,極めて中途半端なものだと我ながら呆れてしまった。そのうち,「紳士協定」や「波止場」もストリーミングで見てみることにしよう。

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2025年6月28日 (土)

Fred Herschの新作が素晴らしい。

_20250627_0001"The Surrounding Green" Fred Hersch (ECM)

Fred Hersch待望の新作がデリバリーされたので,早速聞いている。ECMに吹き込むようになって,これが第3作となるが,ECMでは初のトリオ作,そしてメンツはDrew Gress,Joey Baronとあっては期待するに決まっている。そしてその期待は裏切られることはない。

まさにSascha Kleisのジャケット・デザインの如き,水彩画もしくはパステル画のような響きと言えばよいだろうか。冒頭の"Plainsong"からして,これこそ我々がFred Herschに期待する音だ。美しくも抒情的な響きには心を鷲掴みにされること必定の音楽と言いたい。

全7曲中3曲がFred Herschのオリジナルで,そのほかのレパートリーがOrnette Coleman,Egberto Gismonti,George Gershwin,そしてCharlie Hadenという構成からしてこっちはまいってしまうではないか。特にCharlie Hadenの"First Song"をこのトリオがどう料理するのかがプレイバック前の最大の注目点であったのだが,私はそこに至るまでの間で,既にこのアルバムに魅了されていたと言っても過言ではない。どれもがいい演奏だが,超絶美しいタイトル・トラックやEgberto Gismontiの"Palhaço"の素晴らしさには,これはまじでいいと独り言ちた私である。

そして"First Song"だが,Drew Gressのベース・ソロから始まり,Fred Herschはこの曲のテーマ・メロディを明示的に提示しないかたちで演奏しているのが面白い。この曲にこういうアプローチで来るか~って感じだが,原曲の持つ雰囲気は維持しながら,Fred Hersch的に昇華させているところがポイントだろう。そして最後にあのメロディ・ラインを楚々とプレイして締めるのも雰囲気たっぷりである。それをよしとするかどうかはリスナー次第だが,私はこれは十分にありだと思った。

最後はFred Herschのオリジナル"Anticipation"でクロージングとなるが,冒頭のDrew Gressとのユニゾンも印象的に響いた後に出てくるFred Herschらしいソロに嬉しくなって,あっという間にプレイバック終了である。やはりFred Herschは素晴らしいと再認識させられたアルバム。昨今,ややアブストラクト度も高まっていると感じさせたFred Herschであったが,このアルバムこそ真骨頂だと言いたい。

という感じなので,私の中では今年聞いた新譜(大して聞いていないが...)の中でも屈指のアルバムと位置付けたい。喜んで星★★★★★である。このトリオで来日してくれないものかと思うのは私だけではあるまい。

Recorded in May, 2024

Personnel: Fred Hersch(p), Drew Gress(b), Joey Baron(ds)

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2025年6月27日 (金)

ピアノに滲み出す知性:Vijay Iyerのソロ・アルバム。

_20250626_0001"Solo" Vijay Iyer(ACT)

ジャズ界を見渡しても,最も高学歴かつ理知的な人の一人と言ってよいVijay Iyerのソロ・アルバムである。スタンダードとオリジナルを組み合わせたプログラムと言ってよい構成だが,そこにMichael Jacksonの"Human Nature"や共演歴のあるSteve Colemanの"Games"が加わるところが一筋縄ではいかない。

"Human Nature"にしても,その他のスタンダードにしても,オリジナルの部分を一旦解体して,再構築するという感覚を覚えるが,Duke Ellingtonの"Black and Tan Fantasy"については比較的コンベンショナルに弾いているところは,Duke Ellingtonへのリスペクトって気もする。一方,オリジナルはフリー的なアプローチも感じられ,美的なフレージングとの混在にこの人の懐の広さが表れている。逆に言えば,どの部分がVijya Iyerの本音なのかというのがわからなくなってしまうが,それでも優れたピアニストであることは本作でも十分に実証されている。星★★★★。

今やECMの所属となったVijay Iyerであるが,本作を聞いていても,Manfred Eicherが目をつけるのも当然という感じのピアノの響きである。その一方,"Love in Exile"のようなアルバムも作ってしまうところは凄いねぇと思わざるをえない。まぁ,コテコテのジャズを好む向きからすれば,絶対気に食わないんだろうなぁなんて思ってしまうが,私はこの人は強力に支持したい。

Recorded on May 16 and 17, 2010

Personnel: Vijay Iyer(p)

«Joe Hendersonのアナログ盤"Henderson’s Habiliment"について書くのを失念していた。