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2018年おすすめ作

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2020年3月31日 (火)

「蜜蜂と遠雷」の原作を読了。実に面白かった。

Book 「蜜蜂と遠雷」 恩田陸(幻冬舎)

先日の米国出張の際に,機内エンタテインメントで見た本作の映画化版がなかなか面白く,猛烈に原作が読みたくなったということは既にこのブログに書いた(記事はこちら)。なかなかの大冊ではあったが,あっという間に読み終えてしまった。エンタテインメントとしてよく出来ているのはもちろんだが,クラシックの世界を描いたというところが画期的という気がする。本作には賛否両論があることも承知しているが,私としてはクラシックの世界を描いたという点で,評価が上がってしまったことは言うまでもない。

ある意味,クラシックのピアニストってのは大変だよなぁと漠然と思っていたところを,コンクールという舞台を通じてその葛藤とかを描いたところが実に面白かったし,曲の解釈にドラマ性を加えてしまうところも,そこまで言う?という感覚もありつつも,実にユニークだと思っていた私である。

いずれにしても,恩田陸が音楽を描く様は,実にビビッドであり,各々の曲に対する感覚も首肯できる部分があり,この人の「耳のよさ」というのも感じられる作品であった。今更ながらこの本を読んで,大いに楽しませてもらった。ということで,星★★★★★としてしまおう。直木賞,本屋大賞の二冠にもなるほどとなった私であった。これで改めて映画を見直すと,別の感慨も生まれるかもしれないなぁ。

文庫版は上下巻にわかれているが,上巻を読めば,下巻に進まざるを得なくなることは必定と言っておこう。

2020年3月30日 (月)

久々に聞いたDon Randi。

_20200327 "Where Do We Go from Here" Don Randi Trio(Verve)

新型コロナウィルス感染拡大を受けて,仕事は在宅勤務,週末は不要不急の外出は自粛なんて生活を送っていると,休日は音楽でも聴きながら読書に励むって感じだ。そういう時に何を聴こうかって考えると,日頃あまりプレイバックしていないアルバムについつい手が伸びる。このアルバムを聴くのも実はいつ以来か?みたいな感じだが,それでもこのアルバムはしぶとく一軍半の棚には残っているからまだましなのだ。

それでもってこのアルバムだが,読書しながら聞き流すには結構よかった。刺激的ではないが,軽くバウンスするピアノ・トリオは軽快なので,読書の邪魔にならないのである。収録時間も37分弱って尺も何ともいい感じだが,こんな曲をやっているのかぁなんて思わせる展開も結構面白く聞けた。"Waltzing Matilda"をワルツにしない演出とか,ラテン・タッチの"I Love Paris"とか,何ともユニークである。ただ"I Love Paris"はCole Porterの曲ではジャズ化されることが比較的少ないのは,この曲調によるところ大だろうなぁとついつい思ってしまうのも事実だが...。「枯葉」もここでのアレンジは私の琴線に触れるものではないところは惜しい。一言で言えば陰影に乏しい。

だが,軽快なピアノ・トリオであることは前述の通りであり,アルバムを聴いていて,この軽快さを支えているのはLeroy Vinnegarのベースではないかと思っていた私である。このボトムがあってこそのこのサウンドというのは多分間違いないところだと思う。もちろん,Don Randiのピアノもなかなかいい感じであることはもちろんだが,この人はどちらかと言えば,後にLAにBaked Potatoをオープンしたことの方が,実は現代の音楽シーンへの貢献としては大きいのかなぁってのが正直なところである。

私が保有しているCDは,今はなきスウィング・ジャーナルによって,名盤蒐集クラブの1枚として再発されたものだが,名盤ってほどのものではなく,秘かに愛すればいいというアルバムの方が適切と思える。ってことで,星★★★★ってところ。

Recorded on January 31 and February 1, 1962

Personnel: Don Randi(p), Leroy Vinnegar(b), Mel Lewis(ds)

2020年3月29日 (日)

超アンビエント!Fripp & Enoの"Evening Star"。

_20200326-2 "Evening Star" Fripp and Eno (Island→Opal/DGM)

このアルバムがリリースされた当時,King CrimsonのRobert Frippと元Roxy MusicのEnoが一緒に音楽をやったらどうなるのかと思うのが人情ってものだろう。当時でなくても,この音楽を聞いたことがないリスナーはそう思うはずである。だが,出てくる音楽は二つのバンドの音楽とは全く異なる完全なアンビエント・ミュージックである。

後のEnoの活動を考えれば,こうした音楽をやること自体には,今にしてみれば違和感はない。しかし,Robert FrippのKing Crimsonでの音楽を考えると,もはや対極とでも言うべきこの音楽は,King Crimsonファンにとっても,一般のリスナーにとってもかなりハードルが高いだろう。いつもであれば,よりメカニカルな響きを持つRobert Frippのギターがエフェクト的なサウンドとなっているのだから,これは普通驚くよねぇ。それでも聞いていれば,これはやっぱりFrippの「音」だと思ってしまうところが,Robert Frippたる所以なのだが(笑)。

ここでの音楽をどう評価するかというのは実に難しく,私としても実は星のつけようがないというのが実感である。なぜならば,これはアンビエント・ミュージックであって,環境と同化してこそのアンビエントだ。よって,音楽を意識しないことこそが重要なのではないかと思えるのだ。そうは言っても,後半の"An Index of Metals"には不穏な響きも感じ取れるので,完全環境同化って感じでもないので,その辺はちょっと微妙。

尚,冒頭のno"Wind on Water"の一部にはライブ音源が使われているが,眼前で彼らの演奏を見た聴衆はどのような反応を示したのか実に興味深い。私だったら何も知らずに観に行っていたら,松田優作ではないが,「なんじゃこりゃ~!」と叫んでいたかもしれない(爆)。

ということで,このアルバムについては悪い意味でなく,採点不能というのが正直なところである。しかし,このジャケは素敵だよねぇ。

Personnel: Robert Fripp(g), Eno(loops, synth)

2020年3月28日 (土)

成熟度が高まっていたEmily RemlerのConcordレーベル最終作。

_20200326"East to Wes" Emily Remler(Concord)

昨日,Concordレーベルでの第1作"Firefly"を取り上げたEmily Remlerだが,本日は一緒に入手した彼女のConcordレーベル最終作"East to Wes"である。タイトルからもわかる通り,Wes Montgomeryを意識していることは間違いないが,これまた正統的ジャズ・ギター・アルバムとして大いに楽しめるが,ここで感じられるのはギタリストとしての成熟具合である。

一聴して,"Firefly"よりも音楽がこなれているというか,ややコンテンポラリーな味付けも施した部分もあり,幅の広がり,あるいはギタリストとしての成長を感じさせる。"Firefly"からは7年程度しか経過していないが,Emily Remlerは確実に深化していたことを考えると,このアルバムからの2年後の早逝は惜しまれるところである。

タイトル・トラック“East to Wes"はまさにVerve後期,もしくはCTI時代のWes的な曲調と言ってもよいかもしれないが,そのほかの曲も含めて全面的にWes的かというとそうでもない。アルバムには"Blues for Herb"という曲もあり,それは彼女をシーンに紹介したと言われるHerb Ellisに捧げられている訳で,いろいろなタイプのギタリストのテイストを受け継いでいるとも言える。だが,このアルバムにおいて,非常に魅力的に響くのは,彼女のフレージングはもちろんなのだが,様々な曲を彼女の色に染めるそのアレンジメント能力が光っている。

例えば,モダン・ジャズにおける超有名曲"Softly as in a Morning Sunrise"をちょっと変わったアレンジでやっているところに,彼女のセンスが感じられる。奇をてらった訳ではないのだが,一瞬面くらいながら,これもありだと思わせる展開なのだ。Nat Hentoffのライナーによれば,より「ギタリスト的な」感じを狙ったとあるが,ちょいとそれはわかりにくいとしても,ピアノでやっているのとは結構違いがあるのは確かだ。そうした個性も発露しながらの演奏は実にレベルが高く,"Firefly"より更に楽しめるというのが実感。星★★★★☆。

Recorded in May, 1988

Personnel: Emily Remler(g), Hank Jones(p), Buster Williams(b), Marvin "Smitty" Smith(ds)

2020年3月27日 (金)

久しく入手困難だったはずのEmily Remler盤を結構あっさり入手(笑)。

_20200325 "Firefly" Emily Remler(Concord)

中古盤屋等でも結構高値がついていたはずのEmily Remlerのアルバムなのだが,なぜかConcordレーベルでのデビュー作である本作と,レーベル最終作の"East to Wes"が新品であっさり手に入ってしまった。日頃手に入りにくいことがなければ,手を出していたかは微妙なのだが,ここで買っておかないと,今度はいつお目に掛かれるかわからんということで発注したもの。でも,多分再発されたってことなんだろうなぁと勝手に想像している私であるが,もしかするとデッドストック品かもしれない。

この人が出てきた時は,女性ギタリストということもあって,相当注目されていた記憶もあるのだが,1990年に32歳という若さで亡くなってしまったのは惜しかったと思う。早死にはどうもオーバードーズが原因らしいが,その辺でジャズ・ミュージシャンの王道を歩まなくてもよいものをと思ってしまう。1985年にはDownBeatの国際批評家投票で,ギタリスト部門のウィナーになっていたようなので,将来を嘱望されていたことは間違いないだけに尚更惜しいのだ。

ジャケの写真を見てもらえばわかるが,このアルバムリリースされた当時は23~4歳ぐらいってことで,キュートな感じのする女性である。だが,出てくる音は完全な正統派ジャズ・ギターである。そのギャップが面白いって言えば面白いが,ここでは実にうまいオクターブ奏法も交え,まさに堂々と王道を行っているのは大したものである。実に王道を行っているものだから,驚きというのはないかもしれないが,非常によくできたデビュー・アルバムだったと言ってよい。Jonathan Kreisbergがいかにもコンテンポラリーな感覚だったのに比べると,実にコンベンショナルな感じだが,こういうジャズ・ギターの音って和むよねぇ。ってことで星★★★★。

Recorded in April, 1981

Personnel: Emily Remler(g), Hank Jones(p), Bob Maize(b), Jake Hanna(ds)

2020年3月26日 (木)

実にスリリングな出来のJonathan Kreisbergのライブ盤。

_20200323 ”Capturing Spirits - JKQ Live!" Jonathan Kreisberg(New from Now)

Jonathan Kreisbergは一昨年にDr. Dr. Lonnie Smithのバンドと,自身のバンドでのライブを見ているが,そのテクニックの確かさには驚かされたものである。だからと言って,彼のアルバムを追っかけている訳でもないのだが,それでも私の中では注目に値する人の一人であることは間違いない。そのJonathan Kreisbergの自己のクァルテットによるライブ盤がリリースされたのだが,ストリーミングで音を聞いていて,そのカッコよさに思わず媒体も発注してしまった私である。アルバムとしては昨年リリースされていたようだが,ここでは新譜扱いとさせて頂こう。

ここでは全7曲中,最後の"Body And Soul"を除く6曲がJonathan Kreisbergのオリジナルであるが,そのどれもがリーダーのテクニシャンぶりと相まって,私を興奮させたと言ってよい。とにかくうまいよねぇと思ってしまうが,ライブの場でも普通にプレイしているようで,なんなんだこれは?と思わせるようなフレージングを繰り出してくるのだ。私もギタリストの端くれ(とか言いながら,最近は全然弾いていない)であるが,ギタリスト的な観点で聞いても,これは実にいいのではないかと思わせるのである。

特に冒頭の"The Lift"からしてそうした感覚が強いが,Jonathan Kreisbergの書くオリジナルがいろいろな曲調を持っていて,作曲能力も侮れないと思わせる。だが,それよりもやはりこの人のフレージングこそがキモだと言いたい。やっぱりうまいわ。

バックのメンツで唯一馴染みの薄いのがピアノのMartin Bejeranoだが,この人もRoy HaynesやRussell Maloneとやってきたというキャリアが実証する通り,かなりの実力者と聞いた。こうした共演者の好演とも相まって,実にスリルに満ちたライブ・アルバムが生まれたと評価したい。そうした中で,最後に収められた"Body And Soul"が,何とも言えぬ歌心を感じさせてまたこれがよいのである。実力が十分に発揮されたというのはこういうことだろう。星★★★★☆。今後にますますの期待を掛けたくなるJonathan Kreisbergである。

Recorded Live at Jazz Schmiede, Dusseldorf, Germay on March 15, 2019

Personnel: Jonathan Kreisberg(g), Martin Bejerano(p), Matt Clohesy(b), Colin Stanahan(ds)

2020年3月25日 (水)

Charles Lloyd,やはりこの人は化け物だ。

Charles-lloyd-8 "8" Charles Lloyd(Blue Note)

昨年9月の来日時に私を落涙させたCharles LloydのKindred Spiritsであるが,彼らによるライブ・アルバムがCD+DVDのフォーマットでリリースされた。ここ数年のCharles Lloydは,優れたメンツを従えて,アルバムを出すたびに私はそのその年のベスト・アルバムの1枚に選んでいるような気がする。それほど気力も創造力も充実していると感じさせるが,この人が既に82歳だとは全く信じられない。主題の通り,まさに化け物である。

Kindred Spiritsというバンドにおけるポイントは,私はライブにおいてはGerald Claytonだったと思っているのだが,このアルバムではそのクレジットを記載漏れするというとんでもないミスをしている。写真も掲載されているし,"Appears Courtesy of ..."の記述もあるから,本当に単なるミスである。こういうのも珍しいと思うが,Blue Noteレーベルらしからぬミスではある。

このアルバムにおいてはJulian Lageの活躍が目立っているが,それでもGerald Claytonの存在感が薄いということではなく,いい仕事をしている。"La Llorona"のピアノなんて,実にいいと思う。しかし,それ以上にCharles Lloyd御大の充実度が素晴らしい。メンツに恵まれているって話もあるが,全く音楽に「老い」というものを感じさせないのだ。音色はいつものCharles Lloydだが,このフレージング,まさに見事としか言いようがない。まぁ,このどう見ても購買意欲の高まらないジャケはどうなのよってのはさておき,この音楽の質を聞かされては何の文句も出ない。息子,あるいは孫と言ってよいような年代のバックのメンツから,精気を吸い取っているのではないかと思いたくもなるような演奏なのだ。まさに驚くべき老人である。

こんな演奏をされたら,星★★★★★以外つけようがないではないかと言いたくなるようなアルバムである。DVDは未見だが,そのうち見ようと思う。だが,音だけで満足できることは言うまでもない。

Recorded Live at the Lobero Theater on March 15, 2018

Personnel: Charles Lloyd(ts, fl), Julian Lage(g), Gerald Clayton(p), Reuben Rogers(ds)

2020年3月24日 (火)

追悼,Peter Serkin。

Peter-serkin-bw

昨日のAnna Gourariの記事にも書いたのだが,私を本当の意味で,現代音楽,特にピアノ音楽に誘ったのはPeter Serkinだったと言ってよい。もちろん,現代音楽に限らず,Peter Serkinはバッハの音楽においても優れたアルバムを残しているし,それも私は長年愛聴してきた。2017年にはすみだトリフォニー・ホールで「ゴルトベルク変奏曲」を聴いている(その時の記事はこちら)。

そんなPeter Serkinの訃報(2/1逝去だったらしい)を知ったのはつい最近のことであった。昨年の来日公演がキャンセルされたのはよほど体調が悪かったが故と思われるが,本当に惜しい人を亡くしたという思いである。そうは言っても,Peter Serkinも既に72歳となっていて,いつまでも若いイメージを持っているのはこっちだけだよなぁというのは,すみだトリフォニーでも思っていたことである。

遅ればせながら,彼を追悼するには何がいいだろうと思って,取り出したのがメシアンの「アーメンの幻影」であった。高橋悠治とのデュオによるこの演奏をレコーディングしたのがほぼ半世紀前。当時から才気に溢れたピアニストであったと想像させるに十分な演奏である。また,そこに追加されている「鳥のカタログ」からの第7曲,「ヨーロッパヨシキリ」も実に素晴らしい演奏で,ますます惜しい人を亡くしたと思ってしまった私である。

現代音楽は難しいと思わせる面があるのも事実だが,そうしたイメージを払拭し,心に響く音楽,あるいは純粋に身を委ねればいい音楽なのだとわからせてくれたPeter Serkinには改めて感謝したい。

R.I.P.

2020年3月23日 (月)

Anna Gourari:ECM New Series得意のパターンだが,こういうのにはまるのだ。

_20200321"Elusive Affinity" Anna Gourari(ECM New Series)

以前にも書いたように,私はECMの結構なファンだが,ECM New Seriesまではなかなか全面的にフォローできていない。ReichやSchiffのアルバムは例外として,そのほかで買うのは若干の例外はありつつも,ほぼ現代音楽系のピアノ音楽に限定と言ってもよい。私はPeter Serkinのピアノを通じて,現代音楽のピアノに目覚めさせられたと言ってもよいが,ECM New Seriesからリリースされるピアノ音楽は,ストレートに私に訴求してくるのだ。なので,このアルバムも後追いで買ったものだが,やっぱりはまってしまう魅力があった。

ECM New Seriesではこのブログにおいては,最近ではAlexei Lubimovの"Der Bote"を取り上げた(記事はこちら)が,そこでもバロックと現代音楽が混在するプログラムであった。まさにこういうプログラムは,リサイタルのプログラムならありえようが,レコーディングとしてはECM New Series以外ではありえないものだと思っている。本作においても同様で,冒頭と最後にバッハ編曲によるヴィヴァルディとマルチェッロを配置し,その間に現代音楽曲を挟み込むというものなのだが,これが実に心地よい。結局のところ,私は現代音楽のピアノの響きが好きな訳だが,そうした私の嗜好にストレートにフィットしてしまった。

なかなかこういう音源まで追い切れないのは歯がゆいが,それでもちゃんと聞くことができてよかったし,春先のまったりした気分の中で,涼やかな気分さえ味合わせてくれたと言っては言い過ぎか。おそらくこれからもこうしたアルバムはリリースされ続けると思うが,それを見逃さないようにしたいものである。反省も込めて星★★★★★としてしまおう。いやぁ,ええですわ。

Recorded in January 2018

Personnel: Anna Gourari(p)

2020年3月22日 (日)

この作品こそオスカーに値すると思った「1917 命をかけた伝令」。

1917 「1917 命をかけた伝令("1917")」('19,米/英/印/西/加,Universal)

監督:Sam Mendes

出演:George MacKay,Dean-Charles Chapman,Mark Strong,Colin Firth,Benedict Cumberbutch,Richard Madden,Claire Duburcq

久しぶりに映画館に映画を見に行った。今年のオスカー・レースでは本命に推す声も強かった映画であり,上映が終わる前にそれを確かめる意味もあったが,これが実に素晴らしい映画であった。

この映画は,全編の各パーツをワンカットで撮影という実にチャレンジングな映画である。こうしたチャレンジを行ったのはあのAlfred Hitchcockの「ロープ」ぐらいしか私には思い浮かばないが,そうした「映画的」な試みに加えて,ドラマ性も十分であり,私にとっては「パラサイト 半地下の住人」よりこっちを圧倒的に支持したくなってしまったのであった。そして,主役のGeorge MacKayとDean-Charles Chapman以外の役者は出番は少ないにもかかわらず,その各々が記憶に残ってしまうという演技陣も立派なのだ。

また,どうやって撮影したのかと思わせるに十分なRoger Deakinsは,オスカーの撮影賞を獲って当然と思わせる。この人,「ブレードランナー 2049」も凄かったが,今回は更に輪をかけて凄い技術力である。これには誰も文句も出まい。撮影技術だけでなく,私にとってはこれこそ映画の真髄みたいなところを感じさせ,オスカーの作品賞はこの作品に与えられるべきだったと,映画を見ながらずっと思っていた。

もちろん,これっておかしくない?と思わせるシナリオにはちょっとした穴もある。だが,それを上回る感動や緊張感,そして戦争の虚しさを感じさせるところがこの映画にはあった。実に優れた映画として星★★★★★。これぞ映画を見る至福であると感じさせた傑作。

2020年3月21日 (土)

休日にZoot Simsでなごむ。

_20200320"Zoot Sims in Paris" Zoot Sims (Ducretet-Thomson)

世の中はコロナウィルス感染拡大が世界的に問題になっているが,季節は移り,まさに春本番というような気候になってきた。こういう時に何でも自粛ってのもどうかと思うが,家でくつろぐのもまたよしということで,こういう時に何を聞こうかなということで取り出したのがこのアルバムである。

Zoot Simsには"In Paris"ってアルバムがもう1枚United Artists盤があるが,稀少度ではおそらくこっちが圧倒的。かつ私が保有しているのは4曲ボートラ入りのCDだが,これも結構手に入りにくい(はず)。そしてこのアルバム,人気を裏付けるようなかたちで,澤野商会から10インチLPもリリースされた(なぜか私も保有している。あぁ,無駄遣い...)。Zoot Simsのいいところは,大体は洒脱なスイング感に溢れた演奏をしてくれるところで,安心して聞けてしまうところだと思う。まさに肩ひじ張らずに聞けるという点では,実にポイントが高い。私はZoot Simsのアルバムをそれほど保有している訳ではないが,どれを取っても同じような感覚を与えてくれる。

まぁ,ここでの演奏は突然フェードアウトされる曲もあったりして,なんでやねん?とつっこみたくなるのだが,それでも演奏の質は保証できると言ってよい。そして,このジャケである。雰囲気あるよねぇと一人ニヤニヤしながら聞いていた私であった。歴史に残るとかそういうアルバムではないとしても,身体がこういう音楽を欲する時もあるのだ。星★★★★。

Recorded on March 15 & 16, 1956

Personnel: Zoot Sims(ts), Jon Eardley(tp), Henri Renaud(p), Eddie de Haas(b), Charles Saudrais(ds)

2020年3月19日 (木)

McCoy Tynerを偲んで,今日は”Sahara”。

_20200317-2"Sahara" McCoy Tyner(Milestone)

先日,McCoy Tynerの訃報に接した際,私は米国出張中ということもあり,記事をアップしていなかったので,遅きに失した感もあるが,改めて彼のアルバムを聞いて追悼しようということで取り出したのが本作である。

私にとってはMcCoy Tynerの音楽は,ジャズ喫茶と深く結びついていると言ってもよい。私が本当の意味で,ジャズに目覚めたのは,浪人中,本を読みながらジャズ喫茶で過ごした時間だったと言っても過言ではない。今からもはや40年近く前のこととなるが,その時代によくプレイバックされていたなぁと思うのが本作であったり,"Fly with the Wind"であった。

その当時思っていたのはMcCoy Tyner=暑苦しい(笑)という感覚であったが,それが徐々に快感に変わってくるまで,それほど時間は要しなかった。だが,私にとってはMcCoy Tynerがレーダー・スクリーンの中心にあるということは決してなかったとは言え,やはり時代を象徴していたと思える人であった。もちろん,John Coltrane Quartetの音楽だってジャズ喫茶では聞いていたとしても,McCoy Tynerの私にとっては初期体験は,Milestoneレーベルにおける,それも初期の作品であったと思う。今にして思えば,本作なんてスピリチュアルな響きさえ感じるが,当時は全然そんなことは考えていなかった。ってことで,私も若かったってことだ(爆)。

このアルバムを久しぶりに聞いてみると,やっぱり暑苦しい(笑)が,いかにもMcCoy Tynerらしいサウンドが炸裂しているではないか。言ってみれば,「ピアノの弾き倒し」であるが,そこに"Valley of Life"では琴も弾いてしまうんだから(ご丁寧にジャケにも写っている),時代感たっぷりってことになるだろう。まぁ,それでも結構さまになっているから,大したものだと改めて思ってしまう。

こうしてアルバムを改めて聞いていると,やはり時代を彩ったミュージシャンであったという感覚があって,惜しい人を亡くしたという実感が強くなっていく私であった。正直言って,McCoy Tynerのアルバムの全てが優れているとは思っていないが,これだけの個性を発揮したということは認識して然るべきミュージシャンであった。

R.I.P.

Recorded in January 1972

Personnel:McCoy Tyner(p, 琴, a-fl, perc), Sonny Fortune(as, ss, fl), Calvin Hill(b, reeds, perc), Alphonso Mouzon(ds, perc, tp, reeds)

2020年3月18日 (水)

こいつは驚いた!Ondřej Štveráčekの新作はエレクトリック・アルバム。

_20200317 "Space Project" Ondřej Štveráček(Stvery)

ジャズ界のおんどれ君ことOndřej Štveráčekの新譜である。昨年前半に2枚のアルバムをリリースして,いつもながらおんどれ君には甘いところを見せた私だったが,そのおんどれ君からの新作が届いたので,早速発注である。

今回は日本のセラーの取り扱いがあり,あっという間に届いたこのアルバムを聞いてびっくりである。全編がエレクトリック・アルバムなのだ。サックス奏者としての幅を広げるためにはこういう動きも出てくるかもしれないとは心のどこかでは思いつつ,このままずっとColtrane愛を貫くのかいう考えもあったので,これにはやはり驚いた。なるほど"Spece Project"な訳だ。だが,メンバーはいつも通りのレギュラーだが(苦笑)。

結果からすれば,これは想像以上にかなりカッコいい音になっている。冒頭はいきなり”What's Outside"のリメイクであるが,オリジナルの感覚はほとんど残ってない。特におんどれ君には悪いが,ここではおんどれ君以上にKlaudius KováčのHerbie Hancockライクなキーボードが効いているように思える。影響は相当強そうなフレージング連発であるが,このアルバムのトーンにはかなり強く影響を与えていることは間違いないだろう。これでつかみはOKである。

そしておんどれ君,アルバムを通してエフェクターを効かせたテナーとソプラノをブイブイ吹きまくっている。スローなテンポの曲でも,アドリブになると強烈なラインをぶちかまして,これが実に楽しい。どうせならEWIでも吹けばよかったのではないかと思ってしまう。これをおんどれ君のアルバムとして聞くか,何も先入観なしに聞くのでは随分印象が違うと思うが,それでもこのアルバムは結構楽しめるアルバムとなっている。

ドラムスのGene Jacksonも百戦錬磨というか,何でもござれって感じで,ここでのバッキングに何の違和感もないのは大したものである。

いずれにしても,つくづくおんどれ君には甘いと思うが,このアルバムも星★★★★☆としてしまおう。あぁ~びっくりした(笑)。

Personnel: Ondřej Štveráček(ts, ss,effects),Klaudius Kováč(p, synth), Tomáš Baroš(el-b), Gene Jackson(ds), Radek Nemejc(perc)

2020年3月16日 (月)

日本のジャズのレベルの高さを改めて感じる"This Is Honda"。

_20200302 "This Is Honda" 本竹曠(Trio→Ultra-Vybe)

久々の音楽ネタである。

先日,須川崇志のアルバムを買いに行った時に,ついでにショップで中古で仕入れてきたアルバムである。正直言って,私は一部の例外を除いて,それほど幅広に日本のミュージシャンに幅広く目配りをしてきた訳ではない。本田竹曠についても,このブログでは本田竹広名義となった"Boogie-Boga-Boo"を取り上げた程度だろうが,彼が渡辺貞夫5のメンバーの時代とか,ネイティブ・サンの頃から音は聞いてきた。

その本田竹曠のアルバムの中でも,非常に世評の高いアルバムの一つがこれであろう。不勉強にして私は今回このアルバムを初めてちゃんと聞いたような気がするが,ジャズ喫茶とかでは聞いていた可能性は高い。

正直言ってやっている曲は手慣れたスタンダードって気もするが,そうした中で,"Secret Love"みたいなスウィート,もしくはバラッドに仕立てたくなる曲をスウィング感たっぷりにやってしまうところには,ちゃんと毒も仕込んでいるってところか。それでもフレージングは見事なものだし,各人のアドリブ・ラインもいい。実にバランスの取れたピアノ・アルバム。

ある意味,もっと刺激的にプレイすることもできたであろう人たちではあるが,ここでは大人な演奏をしたって感じである。そうしたことも実力のあらわれ。星★★★★。

Recorded on April 18, 1972

Personnel: 本竹曠(p),鈴木良雄(b),渡辺文男(ds)

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