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2025年2月 9日 (日)

こういうのをいい映画だと言いたくなる「リアル・ペイン ~心の旅~」。

A-real-pain 「リアル・ペイン ~心の旅~("A Real Pain")」(’24,米/ポーランド,Searchlight)

監督:Jesse Eisenberg

出演:Jesse Eisenberg, Kieran Culkin, Will Sharpe, Daniel Oreskes, Liza Sadovy, Jennifer Grey, Kurt Egyiawan

Jesse Eisenbergが監督と主演を兼ねた一種のロード・ムービーだが,その背景にはホロコーストの記憶が横たわるという映画。1時間30分という昨今としては短い上映時間ながら,シナリオともども非常によくできた映画となっている。

元々ポーランド移民のユダヤ人としてのJesse Eisenbergがこの物語を書かせたことは間違いないところだが,本人演じるDavidと,Kieran Culkin演じるBenjiという従兄弟のキャラクターの違いに加えて,ルワンダ虐殺の生存者を演じたKurt Egyiawanの存在を通じて,ユダヤ人社会に起きたホロコーストという悲劇が強く炙り出されるという感覚を覚えた。Kieran Culkinはその名からもわかる通り,あの「ホーム・アローン」のMacaulay Culkinの弟であるが,この映画でオスカーの助演男優賞にノミネートされている。助演と言っても,ほぼ主演と言ってもよい役回りであるが,オスカー受賞確実の演技と言われているのも納得できるものであった。

ある意味Kieran Culkin演じるBenjiは無垢な人であるがゆえに,人々との間にいらぬ軋轢を生むこともあれば,その純粋さゆえの親しみを生むこともあるというのに対し,Jesse Eisenberg演じるDavidは現実的な人物としての対比も効いているし,その周りの登場人物の造形も面白いのはよくできたシナリオゆえというところだろう。主題にも書いた通り,これは実にいい映画であった。監督,シナリオ・ライターとしてのJesse Eisenbergも大したものだ。星★★★★★。

2025年2月 8日 (土)

"Kid A":Radioheadの大きな変貌。

_20250207_0001"Kid A" Radiohead(EMI)

私はRadioheadは完全に後追いで聞いている。きっかけはBrad Mehldauが"Art of the Trio Vol.3"で"Exit Film (for a Film)"を取り上げたことによるところが大きく,まずは同曲が収録された"OK Computer"を手始めに聞き始めて,なるほど,Brad Mehldauが彼らに惹かれるのもわかると思った。優れたメロディ・ラインとロックを感じさせる彼らの魅力は十分に感じられるものであった。

しかし,その"OK Computer"に続いた本作には驚かされたリスナーも多かったのではないか。あまりに前作からの変貌ぶりが激しく,同じバンドのアルバムとは思えなかったというのも事実である。だから本作リリース時の賛否両論があったことは納得がいく。リズム・セクションが明確に存在感を発揮する曲もあるものの,これはそうした「バンド」としての構造からは完全に逸脱したものだったと感じる。

このアルバムがリリースされて約四半世紀を経過した現在においては,本作への評価は爆上がりしたと言ってもよいだろうが,"The National Anthem"で聞かれるサックスなんて,フリー・ジャズ一歩手前みたいな感じなのにも抵抗がなくなったということなのかもしれない。それにしてもこのアルバムが英米のチャートで1位になったというのは信じがたい。"OK Computer"を聞いて思いきり期待値が上がったリスナーがこぞって買ったってところだろうが,どれだけ受け入れられたかは私にはわからない。ある意味このアルバムはチャレンジングなものだったと思えるだけに,大ヒットしたこと自体が凄いことであった。

私としてはこのチャレンジを受け入れるだけの度量がリリース当時はなかったが,それでもその後もRadioheadのアルバムは買い続けているのだから,相応には評価していたってことだろう。久しぶりにこのアルバムを聞いたのだが,現在の耳にはこれもありだと思わせるのは立派なことだと思う。本作は姉妹作"Amnesiac"も聞いて評価すべきだろうから,そっちも聞いてみることにしよう。

本作へのリンクはこちら

2025年2月 7日 (金)

"Acid Rain":これがAndy Middletonの初リーダー作のようだ。

_20250206_0001"Acid Rain" Andy Middleton(Owl/Time Line)

一般的にはAndy Middeltonって誰?ってことになるだろう。しかし私はこの人のアルバム"Nomad's Notebook"を通じて忘れられない人である。なぜかと言えば,そのアルバムにはRalph Townerが参加していたからで,しかもベースはDave Hollandという布陣はTownerファンを自認する私にとって気になるアルバムであり,出来もよかった(記事はこちら)。

そんなAndy Middletonのアルバムでもう一枚気になっていて,結構苦労して購入したのが本作。こちらのポイントはJoey Calderazzoの参加であった。Joey Calderazzoの初リーダー作"In the Door"が出たのは91年のことだったが,まさに日の出の勢いとでも言うべき若き日のCalderazzoの参加は大きな付加価値であった。そもそも本作をリリースしたOwl/Time Lineはプレス枚数が少ないのか,Dave Liebmanの"Spirit Renewed"も大いに苦労したし,再発されたSteve KuhnのVanguardでの残りテイク集"The Vanguard Date"もこのレーベルからだった。ということで,確か中古にしては値段もそこそこしたアルバムであった(と言っても国内盤CDの新譜+α程度の値段)。

このアルバムを久しぶりに取り出して,よくよくライナーを見てみれば,プロデュースはDave Liebmanだし,ライナーはRichie Beirachが書いているから,この人脈と関係があったってことねなんてことを改めて知った。そして演奏は無伴奏ソロなども交えて,これが初リーダー作とは思えない堂々たる出来であり,Joey Calderazzoは華を添えているが,それなしでもリーダーの実力だけで十分聞かせる音楽である。曲は"My Ideal"を除いてAndy Middletonのオリジナルだが,それも結構聞かせるものとなってるが,"Nomad's Notebook"に比べるとよりハード・ドライビングな印象(とか言いながら"Nomad's Notebook"も暫く聞いていないので,あくまで印象...)だ。テナーもソプラノもDave Liebmanを髣髴とさせるようなプレイぶりには感心するしかなかった。久々に聞いたこともあって,これまで以上に楽しめたと言ってもよい快作。ついつい星も甘くなり星★★★★☆。

Recorded on March 11, 1990

Personnel: Andy Middleton(ts, ss), Joey Calderazzo(p), Mike Abbott(g), Peter Herbert(b), Pete Abbott(ds)

2025年2月 6日 (木)

"More Stuff":これが私が買った最初のStuffのアルバムであった。

_20250205_0001 "More Stuff" Stuff(Warner Brothers)

本作がリリースされたのが1977年であったから,私はまだ高校1年だ。本作が私が買ったStuffとしては最初のものなのだが,購入したのが出てすぐだったか,少し後だったかは全然おぼえていない。いずれにしても,ロックからジャズへと聞く音楽を広げつつある時期か,もう少し前のことだったであろう。いずれにしても,このアルバムのミュージシャンがどの程度の人たちなのかなんてのは後からわかったことであって,当時はほとんど知る由もなかったのだ。当然,まだCornell DupreeとEric Galeの個性の違いすら分かっていなかったのだから私も若かった(笑)。しかし,その後,様々なジャンルのアルバムのクレジットにStuffのメンバーの名前を見ないことがないぐらいで,このバンドの意味合いは後付けで理解したようなものだった。

それはさておき,Stuffとして第2作となる本作にはプロデュースにVan McCoyが関わっている。Van McCoyと言えば,私の世代は「ハッスル」ってことになるが,その「ハッスル」にはCornell DupreeとChris Parker以外のStuffのメンツが関わっているという関係性からの縁ってところだろう。

この第2作にはヴォーカル・チューンも入っているのが第1作との違いで,よりソウル的な感覚が強くなっているところをリスナーがどう感じるかだろうが,久しぶりに聞いた感覚で言うと,例えばStevie Wonder作の"As"はもう少しソフトにやっていた記憶があったが,ちょっと違っていたのは私の中で第1作の"My Sweetness"の印象が強くなっていたからではないか。この辺りには前作のプロデュースがTommy Lipumaだったところもあり,今となっては私個人としてはStuffは第1作から聞くべきだったなぁと考えている。

もちろん,本作とて悪い出来ではなく,第1作同様のレベルだとは思うので星★★★★とするが,こうなると結局は好みの問題。フュージョン好きとしては第1作,R&B好きとしては本作って感じか。

Personnel: Cornell Dupree(g), Eric Gale(g), Richard Tee(p, key, vo), Gordon Edwards(b, vo), Steve Gadd(ds), Christopher Parker(ds), Genen Orloff(vln)

2025年2月 5日 (水)

Roy Hargrove:相当力の入った企画盤と言ってよいだろう。

_20250204_0001 "With the Tenors of Our Time" Roy Hargrove(Verve)

正直なところ,私はRoy Hagroveはトランぺッターとしては評価していても,アルバム単位では決定的な作品ってあったかなぁなんて思っているクチである。確実に佳作と呼べる水準は保っているのだが,これは凄いと思わせる作品は正直記憶にない。そんなRoy Hargroveではあるが,驚異の新人ってん感じでシーンに登場し,Novusレーベルにアルバムを残してきたが,更なるメジャー化を図るべくVerveへの移籍第一作となったのが本作だ。

そうした事情もあって,タイトルに示す通り,テナー・サックス界の大物をゲストに迎えた実に豪華な作りとなっている。だってゲストがPersonnel: Roy Hargrove(tp, fl-h), という強者揃いなのだ。これだけのゲストを迎えてしまっては,レギュラーだったRon Blakeが可哀想って話もあるが,それなりに出番は準備してある。

それにしても,この時のレギュラー・クインテットってのはいいメンツが揃っていたと思わせる。ピアノはCyrus Chestnutだしねぇ。Roy Hargroveもレーベル移籍で気合が入ったと見えて,全編に渡ってナイスなソロを聞かせる。特にいいと思わせるのがワンホーンで演じる"Never Let Me Go"ってのはどうなのよ?って気もするがレコーディング当時まだ20代半ばってのが信じがたいような,味のあるバラッド・プレイぶりにはやはり驚かざるをえない。

ゲスト陣は余裕のプレイぶりってところだろうが,間違いない!って感じで吹いているところに彼らの力量を感じる。久しぶりに聞いたが,これは企画はよくあるって感じではあるものの,Roy Hargroveとしてもやはり力の入ったアルバムだったなということで,改めて評価したい。とにかく見事なフレージングでベテラン陣に対峙しているのは立派。半星オマケして星★★★★☆としよう。

Recorded on December 28, 1993,January 16 & 17,1994

Personnel: Roy Hargrove(tp, fl-h), Johnny Griffin(ts), Joe Henderson(ts), Branford Marsalis(ts), Joshua Redman(ts), Stanley Turrentine(ts), Ron Blake(ts, ss), Cyrus Chestnut(p), Rodney Whitaker(b), Gregory Hutchinson(ds)

2025年2月 4日 (火)

これがHelge Lien Trioの初作?どのように買ったのかは記憶が曖昧。

Helge-lien-trio

"What Are You Doing the Rest of Your Life" Helge Lien Trio (Curling Legs)

Helge Lienは"Natsukashii"などその筋のリスナーの琴線に触れるアルバムをリリースしているが,本作はそれに先立つこと10年ほどの2000年にレコーディングされた,Helge Lienにとっては初のピアノ・トリオによるリーダー作と思われる。

本作の特徴はHelge Lienのオリジナルは1曲だけで,よく知られたジャズ・チューンを4曲やっていることだろうが,"So What"までやっているのには久しぶりに聞いて驚いてしまったのであったる印象は少々違う。抒情性はここでも感じさせるが,アブストラクトな感覚やよりコンベンショナルな感覚もあって,個性確立に向けての助走(序奏)って感じもさせる演奏と言うべきかもしれない。

私としては冒頭の"Fall"や最後のMichel Legrand作のタイトル・トラック辺りの演奏が最もフィット感が強いと思ったが,やはりこの人の抒情性は魅力的に響くってことだろう。星★★★★。

それにしても,私はこのアルバムをいつ,どこで,なんで購入したのかに関する記憶が曖昧である。おそらくはショップのポップにでもつられたのだろうが,結構買った時の記憶は残っている方の私としては,謎として残っているアルバムであった。

Recorded in 2000

Personnel: Helge Lien(p), Frode Berg(b), Knut Aalefjær(ds)

2025年2月 3日 (月)

今はなきBradley'sにおけるKenny Barronの優れたライブ盤。

_20250202_0001 "Live at Bradley's" Kenny Barron(Verve)

私の2年弱という短いNYC生活の中で,数々のジャズ・クラブを訪れる機会があったことは自分の人生においても,実に貴重な経験であったと思う。そうした中で,一番好きなクラブはどこだったかと言えば,私はBradley'sだったと言いたい。もちろん,Sweet Basilや55 Barも好きだったが,インティメイトな感覚という意味ではBradley'sに勝る店はなかった。今やこの3つの店は閉店してしまってもうない...。そのほかの店も今でも残っている店の方が少ないぐらいなのは残念だが,イースト・ヴィレッジには結構新しい店も開いているようだ。因みに現存する店で言えば,ぎゅうぎゅう,きつきつに客を詰め込むBlue Noteは嫌いだったし,その後もあまり行きたいと思わない店の筆頭と言ってもよい。それに比べれば,テーブルもゆったりしたBirdlandの方がはるかにいい店だ(きっぱり)。

私がBradley'sを訪れるのは決まって2軒目としてで,それはジャズ・クラブのはしごとしてでもいいし,友人と食事をした後でもよかったのだが,決まって私はバーに陣取っており,テーブルに座ったことは一度もないし,食事を頼んだこともない。あくまでも酒を飲みながら,くつろいで音楽を聞くのに最適な店だったから,この店ではやかましい音楽が演奏されていることはまずなく,トリオやデュオ編成が多かった。

そんなBradley'sが惜しくも閉店した1996年に吹き込まれたライブ音源が本作であるが,私はこのアルバムを聞いた瞬間,Kenny Barronへの評価が爆上がりしたのであった。本作はレコーディングから暫くした2001年にリリースされたものだが,あまりのよさに,当時いろいろな人にこのアルバムを勧めまくっていたのであった。それももう四半世紀前近くになってしまった。

ここでもBradley'sで演奏されるに相応しいタイプの演奏が並んでいる。冒頭から"Everybody Loves My Baby, But My Baby Don’t Love Nobody But Me"のような古い曲をやっていてびっくりするが,決して古臭さを感じさせるものではない。アルバム全体のトーンは基本的には落ち着いたものと言ってよいが,James Williamsが書いた"Alter Ego"のイントロなんて痺れるしかない出来だ。しかし,2曲目の"Solar"ではスリリングなところも聞かせて,アルバムとしてのバランスもよいのだ。その後,このアルバムの続編も出たのだが,そっちも悪くないとしても,本作がよ過ぎたということで,割を食ったのである。私としてはKenny Barronのリーダー作と言えば今も昔もこれにならざるをえない傑作。星★★★★★。まぁだまされたと思って聞いてみて下さい。

Recorded Live at Bradley's on April 3 and 4, 1996

Personnel: Kenny Barron(p), Ray Drummond(b), Ben Riley(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年2月 2日 (日)

人生初の声楽リサイタルを聞きに,お馴染みイタリア文化会館に出向く。

Carolina-lippo私はクラシック音楽もそこそこ聞くものの,オペラはさておき,声楽は極めて少ない例外を除いてスルーというのが実態である。そんな私であるから,声楽家によるリサイタルなんて全く縁のない話であったが,今回,毎度おなじみイタリア文化会館における無料コンサートで,Carolina Lippoなるソプラノ歌手のリサイタルが行われるということで,ネットで申し込みの上,九段下まで行ってきた。

当日は武道館でMC Tysonなるラッパーのライブがあったらしく,私とは全く異なる風体の若者たちがうようよしていたのだが,彼らを横目に私は市ヶ谷方面に向かって,九段の坂を上って行ったのであった。

当日のイタリア文化会館はいつもの無料コンサート同様,(私自身を含めた)高齢者が多数派という客層であったが,いつも思うが,大概同じ人間が来ているのではないかと感じてしまうのだ。そんな中,私にとって人生初の声楽のリサイタルであったが,このCarolina Lippoという人については詳しくは知らない。声楽とピアノを学び,舞台にデビューし,現在は教鞭も執っているようだ。知っている曲はアンコールで歌ったロッシーニの"La Danza"だけというところに私の声楽音痴ぶりが表れているようにも思うが,イタリア人,スペイン人作曲家のレパートリーはあまり知られていないものではなかったかと思えた。そんな中,Carolina Lippoは表情豊かに歌いこなしていたが,聞きながらこういうのもたまにはいいねぇなんて感じていた。

まぁこういう機会を与えてくれるイタリア文化会館には感謝だが,次はどんな企画なのか楽しみに待ちたい。久しぶりにジャズ系のミュージシャンも呼んで欲しいと思っているのはきっと私だけではあるまい。無料なんだからどうこう言えた立場ではないが...(笑)。

プログラムは本人の休憩10分(聴衆は着席で待機)とアンコール含めて約80分だったが,帰り道に武道館帰りの連中とは遭遇しない時間に終了というのはよかった。

イタリア文化会館のFBページに当日の写真が掲載されていたので,貼り付けておこう。

Live at イタリア文化会館 on January 30, 2025

Personnel: Carolina Lippo(vo),小埜寺美樹(p)

Carolina-lippo-at-iic

2025年2月 1日 (土)

今年最初の映画館で見た映画が「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」であった。

High-low-john-galliano_20250126105301 「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー("High & Low ‐ John Galliano")」(’24,英/米/仏)

監督:Kevin Macdonald

出演:John Galliano, David Harrison, Hamish Bowles, Jeremy Healy

少し前のことになるが,珍しや家人の誘いでミニ・シアターに観に行ったのがこの映画であった。本作は昨年公開されたものだったが,細々と公開が続けられていたようだ。

正直言ってファッションに何の関心もない人間にとってはJohn Gallianoって誰よ?ってことになるのだが,これはその姿を追ったドキュメンタリー映画。"High & Low"のタイトルは黒澤明の「天国と地獄」の英語タイトルだが,John Gallianoにとっての「天国と地獄」を描いたもの。私にとっては何の前提となる知識もない中で見たことになるが,これがなかなか面白い映画であった。

デザイナーとして大きな成功を収めていたJohn Gallianoが,奇異な行動や人種差別発言によって,転落の道を歩みながら,その後,復活を遂げる姿が描かれているから「天国と地獄」な訳だが,なかなかにドラマチックな人生だと思ってしまう映画だ。天才には天才なりの悩みがあって,それが暴発することによる自業自得に陥るというものだが,私は見ながらずっと「へぇ~」なんて思い続けていたのであった。よくできたドキュメンタリーだというのが正直な感想。私の通常見に行く映画のテリトリーには決して入ってこない作品だが,勉強になりました。星★★★★。

2025年1月31日 (金)

笠井紀美子の"TOKYO SPECIAL":昨今ならシティ・ポップって言われるのか...。

_20250128_0001 "TOKYO SPECIAL" 笠井紀美子(CBS Sony)

私が保有している笠井紀美子の2枚のうちの1枚。もう1枚はHerbie Hancockと作った"Butterfly"だが,この違いの大きさに戸惑うと言ってもよいかもしれない。

このアルバムを廉価盤で確か中古で購入したのは,冒頭の「バイブレーション」が印象に残っていたから。何かのCMに使われていたと記憶していたが,今回よくよく見たら山下達郎が書いた曲だったのねぇ。基本的にはこのアルバムの書き下ろし曲は少なくて,多くがカヴァー曲だってのも知らなかった。そこに安井かずみが詞を乗せた訳だが,元々が英語詞で書かれていた曲に日本語詞を乗せているところもあって,どうも違和感がある曲があるのも事実。特に矢野顕子が元々リンダ・キャリエールに書いた"Laid Back Mad or Mellow”に日本語詞を当てた「待ってて」が特に居心地が悪い。

それはさておき,基本的に当時のコルゲン・バンドをバックに歌う笠井紀美子の歌は,ポップでありながらジャズ的なセンスが微妙に残っていると言っても,ポップさの方が勝っていて,これが笠井紀美子にフィットしていたかと言うとそこは疑問だ。そうした中でフュージョン・ライクなノリを示すタイトル・トラックが一番の聞きものって気がする。ヒノテルのソロもカッコいいこの曲を書いた森士郎って,中村照夫のライジング・サンにいたなんてことも今更知る私であった。

本作をリリースしたのが本人の意思だったかどうかはわからないが,私は圧倒的に"Butterfly"の方を支持してしまうタイプだ。それはこのアルバムと"Butterfly"のプレイバック回数の違いを考えなくても明らか。むしろ鈴木宏昌のアレンジによるバッキングの方に耳が行ってしまうのであった。笠井紀美子が何でも歌えてしまうことは評価しつつも星★★★が精一杯。

面白かったのは「バイブレーション」のサビの歌いっぷりが矢野顕子みたいだったことだ。キャリア的には笠井紀美子の方が先輩だろうから,矢野顕子が影響されているのかとも感じたが,矢野顕子のことだから多分そんなことはあるまい。

Personnel: 笠井紀美子(vo), 鈴木宏昌(key), 松木恒秀(g),岡沢章(b),市原康(ds),山口真文(ts,ss),穴井忠臣(perc),日野皓正(tp),鈴木勲(b),村岡建(ts,ss),羽鳥幸次(tp, fl-h),数原晋(tp),新井英治(tb),福井恵子(harp),大野忠昭グループ(strings),伊集加代子(vo),尾形道子(vo),和田夏代子(vo)

本作へのリンクはこちら

2025年1月30日 (木)

Terje Rypdalの"Blue":プログレ的なるものとアンビエント的なるものの融合。

_20250126_0001 "Blue" Terje Rypdal and the Chasers(ECM)

Terje Rypdalはロック的なセンスを有するギター・プレイヤーであるが,この典型的トリオ編成でのアルバムは,ロック的な感覚は残しつつも,サウンドは主題の通り,よりプログレ的であり,アンビエント的と呼べるものと思う。ビートが明確な曲もあるが,むしろ多数派はノー・リズムで緩やかな音とが流れる。

本作と同じメンツで吹き込んだ"Chaser"というアルバムがあるので,本作ではChasersというバンド名になっているというのはちょいと安直ではないかと思いつつ,まぁバンド名何てそんなもんか...(笑)。しかし同じメンツにしては"Chaser"の,特にその冒頭の"Ambiguity"のよりロック・フレイヴァーが強いスリリングな響きや,フリーさえ吸収してしまうような音とは随分違うと感じてしまう。

こうなるとどっちが好みかって話になるだろうが,私としてはまぁどちらもTerje Rypdalだよなぁと思う。そうは言いつつ"Chaser"とていろいろな響きが混在しているから,それがTerje Rypdalの個性と考えればよいだろう。

いずれにしても,本作はややエッジは抑え気味のTerje Rypdalってところ。星★★★☆。

Recorded in November 1986

Personnel: Terje Rypdal(g, key), Bjørn Kjellemyr(b), Audun Kleive(ds, perc)

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2025年1月29日 (水)

買ってから全然聞いていなかったIan Matthewsのアルバムだが,これぞ選曲の妙であった。

_20250124_0002 "Some Days You Eat the Bear and Some Days the Bear Eats You" Ian Matthews (Electra)

このアルバム,保有していることは記憶していたが,いつどういうかたちで買ったのかは全然覚えていない。おそらくは中古盤屋で気まぐれでゲットしたものと思う。それがクロゼットにしまい込まれたまま幾星霜というかたちで,全く聞くチャンスに恵まれなかった不幸なCDだ。

Ian MatthewsはFairport Conventionのオリジナル・メンバーらしいが,ブリティッシュ・トラッドをほとんど聞いたことがない私にとっては無縁であったが,Ian Matthewsの名前を意識したのは"Shake It"がヒットした1978年のことだから,私は高校生だ。なかなかいい曲だと思っていて,後にオリジナルであるTerence Boylanのアルバムを購入するに至ったのであった。そうした意味で,私の中ではIan Matthewsは"Shake It"だけで記憶に残っていたのだが,その記憶に基づいてそれに先立つ1974年にリリースされたこのアルバムも買ったと思う。

それでもってこのアルバムを聞いてみると,いきなりTom Waitsの"Ol’ 55"で始まるではないか。そして続くのが"I Don’t Want to Talk About It"ってなんてセンスのいい選曲って思ってしまう。本人のオリジナルに加えて,前述の2曲に加えてカヴァーしているのが,Gene Clarkの"Tried So Hard",Steely Danの"Dirty Work",そしてJesse Winchesterの"Biloxi"なのだ。全然一貫性がないではないかと言われても仕方がないが,Ian Matthewsの歌いっぷりがはまっていて,こんなアルバムを寝かしていた自分を呪いたくなった。

このアルバムも全然売れなかったらしいが,傑作とは言わずとも,この選曲のセンスやオリジナルを聞けば,なかなかの佳作だったと思える一作で,改めて聴くに値するアルバムであった。星★★★★。

Ian Matthewsと言えばPlainsongのアルバムも持っていたはずだ。聞かねば...(爆)。

Personnel: Ian Matthews(vo, g), Jeff "Skunk" Baxter(g, pedal-steel), David Lindley(lap-steel), B.J. Cole(pedal-steel), David Barry(org, p, key), Andy Roberts(g), Joel Tepp(g, hca), Michael Fonfara(p, key), Lynn Dobson(as), Al Garth(as), Jay Lacy(g), Willie Leacox(ds), Danny Lane(ds), Timi Donald(ds), Danny Weis(g), Steve Gillette(g), David Dickey(b), Billy Graham(b), Bob Warford(g)

本作へのリンクはこちら

2025年1月28日 (火)

またもやってしまった無駄遣い:Santanaの"Lotus"のMobile Fidelity版LP。

Lotus"Lotus" Santana(CBS Sony→Mobile Fidelity)

紙ジャケCDを保有しているんだから別に買わなくてもいいじゃないかと言われればその通りだが,今回の場合はそうも言えない。高品質で知られるMobile Fidelityからの3LPなのだから,これは買うに値するという判断であった。それにしても高い!LP本体の価格が$119.99にDHL Expressの送料で,今の円安も影響して日本円にして軽く2万円越えになってしまった。更にそれに加えて関税が¥1,000取られた上に,DHLの関税対応手数料が¥1,980ってどういうことだ?ということで,とんでもないコストが掛かることになってしまった。こんなことならDUで買った方が安かった...。

届いたLPはさすがに22面ジャケットは再現できずではあるが,音はすこぶる良好なので,まぁいいやってことにすればいいと思うし,私が死んでも中古でそこそこの値段で売れるだろう(苦笑)。

改めて聞いてみて,このバンドにはLeon Thomasは合っていないよなぁというのは仕方のないところだが,その一方で,やたらにアドリブでいろいろな曲が引用されているのが面白かった。いずれにしてもこのアルバムが日本で製作されたことは実に素晴らしい。そして横尾忠則デザインのオリジナル22面ジャケは力入り過ぎ(笑)だが,それが再現されいていないのはやはりちょっと残念。

本作へのリンクはこちらこちら

2025年1月27日 (月)

Amazon Primeで見た「危険がいっぱい」。

Photo_20250126092701 「危険がいっぱい("Les Félins")」(’64,仏)

監督:René Clément

出演:Alain Delon, Jane Fonda, Lola Albright, André Oumansky, Carl Studer

監督がRené Clémentで,主演がAlain Delonだからと言って,「太陽がいっぱい」にあやかって,「危険がいっぱい」という何とも安直な邦題が笑えるこの映画をAmazon Primeで見た。本作も見放題の収量が近いということで慌てて見たというのが実態。

まぁ原題の"Les Félins"ってのも,「ネコ科の動物」みたいな意味らしいから,それでは何のことかわからないが,映画を見ればなるほどと思えるタイトルだ。「太陽がいっぱい」がPatricia Highsmithの"The Talented Mr. Ripley"を原作としたのと同様,本作も米国人作家Day Keeneの"Jou House"が原作というのが面白い。おそらくこの辺はRené Clémentの趣味って気がする。

明らかに設定に無理のあるサスペンス劇ではあるが,この映画は完全にAlain Delonの美貌を楽しめばいいって感じではあるものの,なかなか楽しめる映画であった。Jane FondaはAlain Delonに相手にしてもらえないMilanda役を演じているが,まぁその細いことよ。その可愛らしくて若々しい姿を見ているだけでも実は嬉しくなっていた私である。もう一人の主役と言ってよいLola Albrightはこの映画の公開当時は,軸足をTVに移していた人のようで,結構な別嬪だと思えたが,Jane Fondaの何となく初々しい感じと違いがあってこの人もなかなかよい。

それにしてもAlain Delonだ。少々情ないような部分も示しながら,最終的にはカッコいいのである。運転手の恰好でサングラスをかけるだけでさまになってしまうのだから,美形は得だ(笑)。それを引き立てるのが名手Henri Decaëによるカメラ・ワーク。風光明媚なニースの風景や冒頭のNYC等,やっぱりこの人上手いわって感じなのもよかった。

そして音楽はLalo Schifrinのジャジーな響きが,この映画へのフィット感が大きかったと思う。演奏者はクレジットされていなかったが,ベースはPierre Michelotが弾いていたらしく,冒頭からいい感じを生み出していた。そうした要素も含めて星★★★☆ぐらいだと思うが,このラストは因果応報的に結構ひねりが効いていて,原題はこれで理解できるというところ。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月26日 (日)

The Cure:ウェットでダークなブリティッシュ・ロックの典型。

The-cure"Songs of the Lost World" The Cure(Fiction)

昨年11月にリリースされたこのThe Cureのアルバムは,世間での評判もすこぶるよいので,ストリーミングで聞いて気に入ってしまったので,ボーナス・ディスク入り3枚組を海外から飛ばしたものがようやくデリバリーされた。

このブログにも何度も書いているが,私はロックに関しては完全にアメリカ指向で,ブリティッシュ・ロックはBeatlesやStones,あるいはRoxy Musicやプログレを例外としてあまり聞いていないと言ってもよい。もちろん,有名どころは聞いているつもりだとしても,フォローは全然足りていないというのが実態だ。実のところ,The Cureについてもほとんど聞いたことはないし,アルバムは一枚も保有していなかった。

ではこのThe Cureの16年ぶり(!)らしいこのアルバムがどうして私に訴求したのかと言えば,このアルバムに収められた音こそ,私がイメージするブリティッシュ・ロックらしいウェットかつダークな響きに溢れていたからだ。これが私を刺激するに十分な音楽だったと言ってよいし,歌詞もパーソナルな響きに満ちていて,(全部が全部ではないが)アメリカン・ロックが持つ「カラッとした明るさ」とは対極にあると言ってもよい。まさに深淵と呼びたくなるようなサウンドであった。

ボーナス・ディスクの2枚目はインスト・ヴァージョンなのだが,これまたこれだけでも十分楽しめてしまうという音の作りが,Robert Smithの歌のバックで構成されていたということを感じさせて,これも聞きものであった。まさにブリティッシュ・ロックの王道として評価したい。星★★★★★。昨年のリリースだが,まだ3か月も経過していないこともあり,新譜扱いとさせてもらおう。

Personnel: Robert Smith(vo, g, b, key), Simon Gallup(b), Jason Cooper(ds, perc), Roger O'Donnell(key), Reeves Gabrels(g)

本作(1枚もの)へのリンクはこちら

 

2025年1月25日 (土)

今年最初のライブはCatpack@Blue Note東京。

Catpack-at-blue-note 今年最初のライブとなったのがCatpackであった。このバンド,Moonchlidにも参加するAmber Navranの新プロジェクトである。私はMoonchildのメロウ・グルーブがかなり好きなのだが,ライブに参戦する機会を逃していたこともあって,今回の来日情報を入手して,即参戦を決意したのであった。

アルバムは出したと言っても,ミニ・アルバムのEPみたいなものであり,メンツ的にも客入りはどうなんだろうと正直なところ思っていたが,行ってみれば,ほとんどフルハウスではないか。こんな人気があったのかと思いつつ,Amber Navranがライブの途中で「日本大好き~」と日本語で叫びたくなるのも納得できるノリのよさを聴衆も示していた。

このバンドはAmber Navranの新プロジェクトと言うよりも,メンバーの三者が対等な関係性のもとに演奏をしていたように感じるライブであったが,コントロール役を担っていたのは間違いなく数々のキーボードを操ったJacob Mannだったはずである。

そこにAmber NavranとPhil Beaudreauのヴォーカルと楽器が加わるのだが,Amber Navranのウイスパー・ヴォイスはここでも期待通りながら,私が感心したのがPhil Beaudreauの歌のうまさであった。しかもこの人,声が魅力的だし,トランペットの技量も大したものであった。ギターの音はあまりよく聞こえなかったのだが,それがPAのせいなのか,私の難聴のせいなのかはわからない。しかしラッパの音はミュートでもオープンであっても魅力的な音を出していた。Amber Navranは歌う以外はフルートに徹していたと思うが,シンセ・ベースにはちょこっと触った程度のように見えた。この人のフルートも技量は十分というところで,多才な人たちだと思った次第だ。

_20250124_0001

Moonchildに比べると,メロウ度は低く,よりビートが効いていたのは,サポート・メンバーであるEfajemue Etoroma, Jr.のタイトなドラミングゆえというところもあるかもしれないが,Jacob Mannのキーボード・ワークがより強いグルーブ感を打ち出していたからだと思えた。プログラムはミニ・アルバムの内容を拡大したかたちというところで,アンコール含めて約75分の演奏は十分に楽しめた。

Catpack-and-i-mosaic 演奏後にはサイン会をやっていたものだから,ついつい気分の良さも加わって,ミニ・アルバムも購入し,サインをゲットしたが,彼らの写真撮影にも気楽に応じるところにはこの人たちのファンを大切にする姿勢が感じられて,非常に好感が持てるものであった。メンバー3人ともちらっと話したのだが,Amber Navranによれば,Moonchildの新作に取り掛かっているらしいから,そちらも楽しみにしておこう。ということで,当日の戦利品と彼らとの写真(いつも通りモザイク付き)もアップしておこう。見て頂けばわかるが,笑顔が素敵な面々であった。

Live at Blue Note東京 on January 23, 2025 2ndセット

Personnel: Amber Navran(vo, fl, synth b), Jacob Mann(key), Phil Beaudreau(tp, g, vo), Efajemue Etoroma, Jr.(ds)

2025年1月24日 (金)

これがRay Brownのラスト・レコーディング?

_20250123_0001 "Ray Brown Monty Alexander Russell Malone" (Telarc)

Ray Brownが亡くなったのが2002年7月のことであった。当日,ライブを控えていながら,ゴルフをプレイしてしまうという体力には驚くが,ゴルフ後の昼寝中に亡くなったとのことだ。そして本作の録音が2002年3月のことだから,これが本当のラスト・レコーディングかはわからないが,それに近しいものであることは間違いない。この時,Ray Brownは75歳。90代になっても現役を続けるミュージシャンもいる中では,まだまだ若かったという気もする。

そもそも亡くなった日にゴルフをやっているぐらいだから,本人に肉体的な衰えなどの自覚はなかったものと思われるが,ここでも矍鑠たるプレイぶりだ。Monty Alexander,Russell Maloneという実力者を揃えての演奏はコンベンショナルな中に,悠揚たるスイング感を生み出しているという感じか。

Monty Alexanderと言えば,1969年のMilt Jacksonのアルバム"That’s the Way It Is"からの長年の共演ということになるが,Milt JacksonとRay Brownの関係性を考えれば,やはり相性のよいミュージシャンっていうのはあるんだろうなと思う。だからこそその後も共演歴があり,本作に至るってところだ。

Russell Maloneは昨年のRon Carterとの来日中に急死してショックを与えた訳だが,その最後の来日もこのアルバムと同じ編成ということで,どんな編成にも対応できる実力派であった。

そんな3人から生み出される音楽には刺激や驚きはない。あまりにコンベンショナルなサウンドだと言われても仕方ないが,時としてジャズに求められるリラクゼーションを生み出し,格の違いを感じさせる演奏で,そこいらのミュージシャンが集まってやっても決してかなわない音楽だと思える。

私が保有しているアルバムにはボーナス・ディスクが付いていて,これがTelarcに吹き込んだアルバムからのProducer's Choiceというベスト盤と言ってよい趣で,正直言ってしまうとこっちの方が楽しめるのではないかというところもあるようなお得感。ボーナス・ディスク込みで星★★★★。

Recorded on March 5-7, 2002

Personnel: Ray Brown(b), Monty Alexander(p), Russell Malone(g)

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2025年1月23日 (木)

これも久しぶりに聞いたAmericaのベスト盤。

_20250121_0001 "The Complete Greatest Hits" America(Warner Brothers/Rhino)

久しぶりにこのアルバムを聞いた。私はAmericaというバンドに思い入れはないのでベスト盤で十分なのだが,私が彼らの音楽に惹かれた契機は"Ventura Highway"だったように思う。あるいは"Sister Golden Hair"だったか。いや,やっぱり"Ventura Highway"だ。子供心にこの曲のメロディ・ラインが魅力的だったのだ。このベスト盤を買ったのも"Ventura Highway"が聞きたかったからと言っても過言ではない。

それでもって改めて聞いてみると,端からわかっていることではあるが,曲にしてもコーラス・ワークにしても,明らかにCSN&Y的であった。ただ,Americaの場合はより西海岸的な軽快さと言うか,爽やかさが強い感じがあって,そちらのサウンド指向がより明確であるから,おそらくはこの調子では飽きられるのも早かったのではないかと思える。デビュー・シングルとアルバムが売れて,2枚目もそこそこ売れたものの,3枚目が大して売れずってのも納得なのだ。

4枚目のアルバムでGeorge Martinをプロデューサーに迎えて起死回生を図り,5枚目の"Hearts"所収の”Sister Golden Hair"で盛り返したものの,その辺りまでがAmericaというバンドの人気が維持されていたことになるだろう。それが82年になって,いきなり"You Can Do Magic"がヒットしてカムバックみたいな感じになるのだが,この頃になると完全にAOR化したって感じだろう。これは長年のファンに響いたってより,新たなファン層を開拓したってことになるだろうが,その後はアルバム・ジャケも完全AORじゃんって感じになっていくのも面白い。

まぁ本作はベスト・アルバムだから,それなりの曲が揃っているとは言え,クォリティにはばらつきがあると感じさせるのが否定できない。それでも一時代を築いたバンドの軌跡を手軽に知るには丁度いいって感じだろう。星★★★☆。

Personnel: America<Gerry Buckley(vo, key, g, b, hca), Dewey Bunnel(vo, g), Dan Peek(vo, g, b, key, hca)>

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2025年1月22日 (水)

またもブート(まがい)の話:今度はBernsteinのマーラー5番。

_20250120_0001"Mahler: Symphony No.5 in C Sharp Major" Leonard Bernstein / Wiener Philharmoniker

最近,全然新譜を聞いていないので,やたらにブートレッグを取り上げているこのブログだが,Brad Mehldauの連続投稿に続くのはこのBernstein/VPOのマーラー5番である。こういうチョイスをしているから変態と言われても仕方がない。

これって結構知られた音源で,CD-Rの真正ブートレッグ(笑)もあって,実は私はそれも保有しているが,今日アップした写真はプレスCDのブートまがいって奴だ。これは2枚組で4番,5番のカップリングで前者は84年,後者は87年の録音。今回取り上げる5番の方はBBCのPromsでの演奏なので,当然のことながら放送音源がソースなので音には問題ない。この録音が興味深いのはドイツ・グラモフォンからリリースされている5番はこの数日前の録音ということだ。世の中のマーラー好きはどっちがいいと言っているようだが,どうも軍配はこちらに上がるようだ。何てたってProms史上最も有名な演奏とも言われているぐらいだ。

この演奏が評価されるのはその熱量だろう。Royal Albert Hallという全然クラシック向きとは思えないヴェニュー(日本で言えば武道館みたいな感じ)で,燃えに燃えるBernsteinって感じだ。この強烈極まりない終楽章には当然聴衆も燃えるわ。ドイツ・グラモフォンの正規録音よりこっちの評価が高いのにもうなずけるなぁ。Royal Albert Hallという場がそうさせたって感じだ。それもBernsteinらしいと言えばそうなんだろうなぁ。

Recorded Live at Royal Albert Hall on September10, 1987

Personnel: Leonard Bernstein(cond), Wiener Philharmoniker

2025年1月21日 (火)

"Thrak":リリースからもう30年か...。

Thrak "Thrak" King Crimson(Virgin)

主題の通り,早いもので本作がリリースされてからもう30年だ。その30年の間にこのアルバムを何度プレイバックしたかは疑問で,結構体力的に充実していないと聞く気が起こらない。このアルバムと前段となった"Vroom"も同じようなものだ(苦笑)。本作では「ヌーヴォー・メタル」と言われたりもするヘヴィなサウンドが続くので,いくらロックが好きだと言っても,決して聞き易い音源だとは思わないが,この路線がこの後のKing Crimsonの音楽の端緒となったと思えば,相応の価値を認めないといけないアルバムではある。いずれにしても,これだけのヘヴィな音を生むためには,ツイン・トリオという6人編成が必要だったと思える。

振り返ってみれば,私は相応にKing Crimsonのアルバムをフォローしてきたつもりではいても,結局プレイバックという観点では"Larks' Tongues in Aspic"~"Red"期のアルバムに集中してしまうというのが実態だ。John Wettonの声が好きだったということもあるが,聞いていて一番私にはフィットする。もちろんライブも観に行った"Decipline"期のバンドだって悪くないし,このアルバム以降でもクォリティは高いと思ってはいても,正直あまり手が伸びない。それでも「最後の日本公演」には行ったし,相応のファンであるのだが,それなりに好き嫌いが出てきてしまうのは当然だ。

そんなKing Crimsonの音源は今でも次から次へと発掘,リリースされ続けているが,それらをすべて追うほどの熱烈さは私にはないとしても,Robert Frippが重ねてきた音楽的な変遷の一幕として本作は捉えたい。シンパシーを感じるところまではいかないが,アルバムとしての評価は星★★★★ぐらいでいいだろう。この後,クァルテット編成やProjeKt活動でいろいろな編成も試しつつ,最終的には3ドラムス編成としたRobert Frippが求める音楽の響きはこの辺りからだったのかもしれない。

Recorded between October and December 1994

Personnel: Robert Fripp(g, soundscape, melotron), Adrian Brew(g, vo), Tony Levin(b, vo), Trey Gunn(stick ,vo), Bill Bruford(ds, perc), Pat Mastelotto(ds,, perc)

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«Martha Argerichが弾くリスト。強烈としか言いようがない。

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