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カテゴリー「ECM」の記事

2012年5月18日 (金)

出来のいいピアノ・トリオだが,ECM色は希薄なSteve Kuhnの新譜。でもこれはよい。

Wisteria "Wisteria" Steve Kuhn(ECM)

ECMレーベルのSteve Kuhnのアルバムにはいいものが多く,Joe Lovanoとやった"Mostly Coltrane"も最高な作品だったと思う。そんなKuhnのECMからの新譜だから期待するのが人情。しかもSwallow~Baronとのトリオならおかしなことになるわけがない(きっぱり)。今回のアルバムは3者の名前が並列して書いてあるから,Kuhnのリーダー作であるが,この3者のコラボレーションというところへのこだわりがあるのかもしれないが,やはりこれはいいと思う。

主題にも書いた通り,ECMレーベル色はそれ程濃厚ではない。むしろ希薄と言っていいぐらいに適度にスインギーさも持ち合わせたピアノ・トリオ作となっている。冒頭のイントロこそECMっぽく幕を開けるが,そうしたトーンは継続しない。Swallowがいつも通りエレクトリック・ベースを引いていることがその要因ではなく,アルバム全体としてそういう感じなのだ。だが,ECMというレーベル・カラーにこだわりをもたなければ,これは美しくも楽しいアルバムである。

また,選曲の妙にも触れておく必要がある。Kuhn,Swallowの優れたオリジナルに加え,"Romance"はDori Caimi,"Permanent Wave"はCarla Bley,そしてタイトル・トラックはArt Farmerの作品である。"Romance"や"Wisteria"に特に強く感じられる彼らの美学にはやはりまいってしまう。これらの曲を選ぶにはそれなりの理由があるのだと強く感じさせる出来なのだ。

もちろん,Swallowのエレクトリック・ベースに違和感をおぼえるリスナーもいるかもしれないが,KuhnとSwallowの長年の共演を聞いてきている私としてはこれでいいのだ(バカボンのパパかっ!)。そうでなければ,このアルバムをこれほどリピートして聞きたいと思わないだろうし,聞くたびに別のタイミングで「おぉっ,いいじゃん」と唸ってしまうこともなかろう。いずれにしてもとても3人併せて200歳を越える人たちが作ったとは思えない創造力と美しさだと言っておこう。しびれるような緊張感はないが,これは多くの人が楽しめるアルバムであることは間違いない。星★★★★☆。本当に大した(老)人たちである。

Recorded in September 2011

Personnel: Steve Kuhn(p), Steve Swallow(b), Joey Baron(ds)

2012年2月15日 (水)

Tim Berne:正調フリー・ジャズか,はたまた現代音楽か?

Snakeoil "Snakeoil" Tim Berne(ECM)

これはなかなかに難しいアルバムである。私はフリー・ジャズは決して嫌いな方ではないと思うのだが,どちらかというとドシャメシャな山下洋輔的フリー・ジャズのような音楽に爽快感を求める傾向が強い。よって,頭で考えるタイプの理屈っぽいフリー・ジャズはあまり真っ当に聞いていない。このアルバムも冒頭から現代音楽的な響きで,何となく理屈っぽい感じを与えて,決して爽快な音楽とは言えないところからハードルが高い。Tim Berneってこういう演奏をする人だったんだっけ?という疑問がまず頭をよぎるのである。

しかし,2曲目の"Scanners"なると,正調フリー・ジャズ的な響きが聞こえてきて安心するのだが,それでも疾走感を感じさせるところまではいかない。全編を通じて聞いてみても,これが本当にいいのか悪いのかよくわからないのである。私は音楽の評価を直感的に行う傾向が強いが,このアルバム,何回か通して聞いてみても,正直なところ魅力が理解できていない。「お前の耳は節穴か」というお叱りの声も飛んできそうだが,これがECMレーベルから出てなければ買ってなかったなぁっていう気持ちには変わりはない。その程度の評価しかできないのである。だって,最後の曲のタイトルは"Spectacle"となっているが,これが「壮観」だなんて,まさにご冗談でしょうみたいな曲調なのである。どういう感覚で曲のタイトルをつけているのやら。別の意味があるのかもしれんが,これには苦笑してしまった私である。

Tim Berneが山下洋輔の"Ways of Time"に客演した時は感じが違ったんだけどなぁという違和感が聞いている私の中をぐるぐるしていたというのが正直なところ。もう少しスピード感があってもよかった。ECM作品ではDavid TornやMichael Formanekの作品に参加しているBerneだが,本作に対するような違和感をそちらには感じなかった。これは私と作品との相性の悪さだろう。でもこれはやっぱりあまり評価できないなぁ。だって面白くないんだもん(苦笑)。星★★☆。

Recorded in January 2011

Personnel: David Berne(as), Oscar Noriega(cl, b-cl), Matt Mitchell(p), Ches Smith(ds, perc)

2012年2月11日 (土)

Tord Gustavsenの新譜はECMファンがはまること必定。

The_well "The Well" Tord Gustavsen Quartet(ECM)

私はTord Gustavsenというとトリオ編成での3枚のアルバムがどれも素晴らしく,本当に期待の星の一人として認識していたのだが,前作"Restored Returned"にはピンとこなくて,今イチ感たっぷりなレビューをこのブログにもアップした(記事はこちら)。

前作はTord Gustavsen Ensemble名義だったが,そこからヴォーカリストが抜けた以外は同じメンツである。しかし,それだけで私にとっての印象は全く違うものとなったのはどうしてなのかと言いたくなるような作品の出来だと思えるのである。冒頭の"Prelude"におけるTore Brunborgのテナーはまるで通奏低音のようであり,静謐な立ち上がりであるが,Keithの欧州クァルテットを彷彿とさせるようなタッチの"Playing"のような曲が続き,ECMファンにとっては相当に嬉しくなる出来のアルバムと最初から確信してしまった私である。

そうした印象は全編を通じて変わることはなく,これはやはりECMファンの心の琴線をくすぐる音楽である。基本的には静謐なトーンが中心であることは間違いのない事実であるが,Gustavsenの美学がそこかしこに横溢していて,アルバムとしては非常にバランスが取れていることが嬉しいのである。

そんな彼らが昨年来日していたことを今頃になって思い出し,聞きそびれたことを反省した私である。生でこんな演奏をされていたら,多分私は感動してしまったであろう。もちろん,こういう音楽である。どういう姿勢で聞けばいいのかって話はあるが,身じろぎもせず,首を垂れた姿勢で聞いちゃうんだろうなぁ(笑)。しかも,公衆の面前であろうがなかろうが,膝を抱えたい(爆)。

いずれにしても,前作で若干の不安を感じさせたGustavsenだったが,やはりこの人には期待できると思わされた作品である。星★★★★☆。私は今回は全面的に支持したいと思うが,こういう音楽に魅かれてしまう私はやっぱりネクラなのか?はい,ネクラです(きっぱり)。

Recorded in February, 2011

Personnel: Tord Gustavsen(p), Tore Brunborg(ts), Mats Eilertsen(b), Jarle Vespestad(ds)

2011年12月29日 (木)

2011年を回顧する(その5):音楽(ジャズ)編

2011年を振り返ってみれば,ジャズ界はかなりの豊作だったと言っていいように思う。特に今年前半から中盤にかけての,良作ラッシュは記憶にないほどのものだった。私のブログには2011年おすすめ作なるフィールドが右側にあって,ここを見ていれば,今年,私が気に入ったアルバム(星★★★★☆以上の新譜)はすぐにわかるわけだが,2010年よりもはるかに掲示している作品数が多いことがお分かり頂けるだろう。そういう意味では,ジャズに限らず,作品的には充実した一年だったと言えるように思う。

Live_in_marciac そうした中で,改めて振り返ってみれば,今年の私にとってのジャズでの最高作はBrad Mehldauの"Live in Marciac"ということになってしまうように思う。録音は5年前に遡るが,その時点で極めて高いレベルの演奏を展開していたBrad Mehldauにはまさに驚かされたというか,ソロでこのような演奏をしてしまえば,聴衆が熱狂するのも当たり前だと思ってしまう。私がBrad Mehldauのコンプリートを目指すということを差し引いても,この作品は極めて高く評価されて然るべき作品だと思う。Mehdauと言えば,もう1枚,Kevin Haysとの美しいデュオを聞かせた"Modern Music"も忘れ難い。ついでに年末に出た「トリオの芸術」ボックスの未発表ライブ音源も嬉しいものであり,まさにMehldauファンにとっても忘れられない1年だったと言ってもよいかもしれない。更に,MehldauのメンターであるFred Herschのヴァンガードにおけるソロ・ライブもよかったことも追記しておこう。

Prysm 一方,インパクトという観点ではPrysmの"Five"にとどめを刺す。彼らにとっては久々のアルバムとなった本作が,多くのブロガーの皆さんの支持を集めるのは,この強烈なインパクト,スピード感に対して感じる快感ゆえではないかと思う。このアルバムに関する記事を書いたとき,私は「火傷に注意」と記したが,それぐらいの高揚感をおぼえるある意味ハード・ロック的なアルバムである。

Michel_polga また,同じくインパクトが強い作品としては,Fabizio Bossoがモーダルにラッパを吹きまくったMichele Polgaとの"Live at the Panic"は私のBossoに対するイメージを覆した作品であった。正直言って,お気楽ハードバップでもいいのだが,こうしたよりハードボイルドな路線は本当に歓迎したいと思ってしまう私である。やりゃできんだからさって感じであるが,期待以上の音が聞こえてきて嬉しくないリスナーはいないのである。とにかくこれはよかった。また,サウンドというよりも,音楽としての面白さという点では,Nguyên Lêの"Songs of Freedom"が魅力的だった。

Faithful 静謐系ではMarcin Wasilewskiの"Faithful"がECMレーベルらしい美しさ炸裂ということで,やはり今回も期待に応えてくれたと思う。とにかく,最近の彼らの音源にははずれはなく,透徹な美学というのは彼らの音楽のためにあるとさえ言いたくなってしまうような素晴らしさである。ポーランドってのは冬は物凄く寒いところだが,あの寒さに耐えながら,音楽を生みだすというところは,北欧にも通じる部分があるのかもなぁなんて思ってしまう。それにしても,本当にこの人たちがアルバムを出すたびに,まいった,まいったと連呼する私である。

Gravity また,Wasilewskiとはちょっとスタイルは違うがJulian & Roman Wasserfuhrの"Gravity"がロマンティシズム溢れる演奏で,思わずおぉっ!となってしまった。ドイツのミュージシャンから,このようなロマンティックなサウンドが聞けるとは思っていなかったので,これは純粋に驚いたと言ってもいいだろう。"Five"や"Live at the Panic"と同列で,こうした作品をベスト作に挙げる私はやはり精神分裂症なのか...(苦笑)。しかし,Mehldauを除けば,これらの作品をリリースしているのがみんな欧州のレーベルだということに気がつく私。アメリカ・メジャーにはあまり期待できないのかもしれないなぁなんて思ってしまう。

そうは言いながらも米国系のレーベルにもPar Martinoの新作,James Farm,Gary Burtonの新バンド等,光る作品がないわけではない。だが,欧州系レーベルの「わかってるね」感が一歩も二歩も上回っているように感じている私である。米国メジャーに期待するのであれば,MilesのBootleg Seriesのような発掘が中心になっていくかもしれない。

Gretchen_parlato 尚,私が日頃あまり手を出さないジャズ・ヴォーカルだが,今年聞いた中ではGretchen Parlatoの"The Lost And Found"が非常によかった。私はこのアルバムを取り上げた時,「サウンドがずっとコンテンポラリーなので,私にはカテゴリーなど関係ない女性ヴォーカルとして聞けてしまった」と書いたわけだが,結局,ジャズ・ヴォーカルを前面に押し出していない感覚が私が気に入る理由なのだろうと思う。こうしたところに私の嗜好が如実に表れているなぁなんて感じてしまったが,いいものはいいのである。

ということで,ほかにもまだまだいいアルバムはあったと思うが,記憶に残った作品ということでは上述のような感じだろう。そしてJazz Man of the YearはBrad Mehldauということにしよう。また贔屓目強過ぎと言われそうだが,今年の作品はLee KonitzたちとのBirdlandでのライブも含めて,どれも優れていたのだから,文句は出ないだろう。

最後に,自分だけのレーダーだけではいくつかの作品には出会っていないはずであり,こうした作品をご紹介頂き,新しい音楽に触れる機会を与えて頂いたブログのお知り合いの皆さんに感謝したいと思う。

2011年12月 2日 (金)

懐かしいよねぇ。John Abercrombieの"Characters"

Characters "Characters" John Abercrombie(ECM)

正確に言うとこの記事の主題は正しくない。私はECMレーベルの音楽がかなり好きで,相応の枚数のアルバムを保有はしているが,だからこそ持っていることで満足してしまって,ちゃんと聞いていないアルバムも実は結構あるのだ。しかし,それではいかんということで,昨今,せっせとリッピングしているところである。その一環で,iPodに突っ込んだアルバムのうちの1枚が本作である。録音は1977年であるからもう随分と昔のアルバムとなってしまったが,いずれにしてもちゃんと聞いたのはかなり久しぶりのような気がする。久しぶりに聞いた=懐かしいではないので,やはり主題としては不正確かなぁ...(だったら,変えればいいじゃん!と自ずからつっこみを入れる私)。

それはさておき,冒頭からインド音楽(シタールの響きと言えばいいだろうか)のような感覚を覚えさせられて,まずちょっと驚いたのだが,それは冒頭だけで,その後はECMらしい浮遊感のある音楽が続いている。本作はAbercrombieのギターの多重録音によるものであり,前はこういう取り組みがECMには結構あったなぁなんて思うのだが,それも懐かしさを増幅させる要因かもしれない。

リズム隊がいないこともあり,ある意味特異なアルバムなので,本作を1枚聞き通すのはECMファンでないときついかもしれないが,これは特に好き者にとっては鑑賞に耐えうる音楽であることはもちろんだが,アンビエント・ミュージックとしても使えそうな感覚が強い。それがECMレーベルらしい個性とも言えるが,あの頃のECMって感じの音楽である。

アルバムを通して聞いてもいいが,私は曲想の変化や演奏の質から,冒頭の"Parable"が白眉。Abercrombieを聞くならこれからってことはないが,これはこれで楽しめる。星★★★☆。

Recorded in November, 1977

Personnel: John Abercrombie(g, mandolin)

2011年11月15日 (火)

明らかに変化が生じたKeith Jarrett

Rio "Rio" Keith Jarrett (ECM)

私にとって,昨今のKeith Jarrettの活動は少し荷の重いものになってきていたのは間違いない事実である。ソロは非常に緊張感が強くて,聞いていて疲れるものになっていたし,トリオにはマンネリズムすら感じていた。そういうこともあって,今年の彼のソロ・ライブも行くのを見送った私である。だからと言って,彼の新譜が出れば必ず買ってしまうことには何の変わりもないわけで,今のところ,結構アンビバレントな感覚をKeithには抱いていると言っても過言ではない。

そのKeithによる最新作がブラジル,リオデジャネイロにおけるライブ盤なのだが,このソロ・アルバム,近年私がKeithに感じていたものとかなり違う。冒頭は最近のパターンのように現代音楽的な響きを感じさせる演奏だが,それに続くここでの演奏は近年では珍しいくらいメロディが明確な響きを持っているのである。メロディアスなのはアンコールで弾くスタンダードだけのように感じさせたKeithを何がこうさせたのかはわからない。しかし,4月にレコーディングされたものをこの時期にリリースするというのは,これまたKeithには珍しいことであり,相当この時の演奏が気に入っていることを示しているようにも思える。

これがリオという土地柄を反映したものなのか,Keithの心象を反映したものなのか,あるいは聴衆により生み出されたものなのかはわからない。Charlie Hadenとの"Jasmine"がもたらした効果かもしれない。ただ,あれは2007年の作品だから直接的な影響があるとは思えないとしても,私にとってはこうした転換は歓迎したいのである。

Keith Jarrettはフリーに近い厳しい音楽も,リリカルで美しい音楽も奏でられるプレイヤーであるが,そのバランスを自身でうまく保ってきた人だと思う。トリオで演奏する時も,スタンダードだけでなく,完全即興に取り組むこともあるのはそうしたことで多少のガス抜きをしているのだろうと想像していた。そうした中で,ソロはアンコール以外はある意味,以前の大曲指向から,複数の曲による構成へと変化したものの,曲想そのものも一定の方向性(現代音楽的アプローチ)を指向し過ぎていたようにも思える。もちろん,私が前回見たKeithのソロ・ライブではストレートなブルーズも演奏して驚かされたのも事実ではあるものの,それでもやはり敷居が高く感じていたのは私だけではないはずだ。それが,今回のアルバムでは明らかに変化が生じているのは意外でもあったが,私としては嬉しいものであった。

これが一過性のものであるかどうかはわからないが,ソロ活動においてもこうした変化を見せてくれることを今後も期待したいと思う。星★★★★☆。いずれにしても,近年のKeithのソロでは最も好きなアルバムとなった。

Recorded Live in Rio de Janeiro on April 9, 2011

Personnel: Keith Jarrett(p)

2011年11月 3日 (木)

ようやく到着:Chick Corea~Stefano Bollaniデュオ

Corea_bollani "Orvieto" Chick Corea & Stefano Bollanin (ECM)

リリースされてから時間が経ったにもかかわらず,某サイトからちっともデリバリーされずにやきもきさせられたアルバムがようやく到着である。Chick Coreaと言えば,NYCのBlue Noteほぼ1カ月出ずっぱりという凄い11月を迎えたわけだが,70歳にして老いてますます盛んというか,本当に元気な人である。Blue Noteでは懐かしやHerbie Hancockとのデュオもあれば,Marcus Robertsとのデュオ,更にはオリジナル・エレクトリック・バンドやらGary Burtonデュオ+ストリング・クァルテットやら,ファイヴ・ピース・バンド,RTFアンプラグド,Bobby McFerrinとのデュオ等,物凄いラインアップである。また"Rendevouz in New York"のようなアルバムを出すつもりなのかと勘繰りたくもなるが,それにしてもよくやるわ。

そんなChick Coreaが息子ぐらいの年代と言ってもよいBollani(現在38歳)と共演するというのだから,一体どういうことになるのか。今年,ピアノ・デュオと言えば,Brad MehldauとKevin Haysのそれは美しい"Modern Music"という傑作があった(記事はこちら)が,あちらがクラシック的,現代音楽的な響きが強いのに対し,本作はずっとジャズ的なのが特徴である。冒頭のインプロヴィゼーションはこれまた現代音楽的なところがあり,同系統かと思わせるのだが,どんどんジャズ的な楽しさが増してくるのが面白い。こういうのがECMレーベルから出るというのは相当珍しいと思うが,それでもChickは以前からECMに吹き込んでいるし,最近はBollaniもECMでアルバムをリリースしているから,不思議でもないのかなぁ。しかし,ここに収められた音楽はECMのレーベル・カラーからはやや乖離していることは間違いない。だって楽しいんだもんなぁ(だからと言ってECMファンの私としては,ECMをけなすつもりは一切ない)。

Chickのピアノ・デュオ作はHancock,上原ひろみ,Friedrich Gulda等があるが,その中でも私はこの作品が一番楽しめたように思う(Gulda盤なんかははるか記憶の彼方だが...)。ほかの3人との相性が悪いとは言わないが,この2人の相性が圧倒的にいいように思えるのだ。楽しさもあれば,美しさも共存しているところがこのアルバムのいいところである。前述の"Modern Music"がよりストイックな美しさを追求したものだとすれば,このアルバムはもう少しリラックスして楽しめるところがよいと思う。同じピアノ・デュオ・アルバムでも作り手によってこれほど違いがあるってことを強く感じさせてくれるところに,ジャズ・ミュージシャンとしてのこの二人の個性がよく表れていると思う。"Modern Music"同様これも十分に楽しめるアルバムとして星★★★★☆。"Modern Music"との半星の違いは完全に好みの問題(爆)と演奏にちょっと感じられる粗さゆえ。

それにしても,ミュージシャン同士の交感というものは凄いものだと痛感させられる両者のヴィヴィッドな反応は本当に大したものである。

Recorded Live at Umbria Jazz Winter on December 30, 2010

Personnel: Chick Corea(p), Stefano Bollani(p)

2011年8月25日 (木)

ECM関連書籍:Nik Bärtschのバンド・スコア

Ronin 私はNik Bärtschによって演奏されるクールでミニマルなファンク・ミュージックとでも言えそうな音楽に相当しびれているクチだが,先日,ECMのサイトを見ていたら彼らのECM第3作"Llyria"のスコアがリリースされたということなので,さっさと買ってしまった私である。このアルバムに関してはこのブログでも記事にしたが(記事はこちら),これも非常に魅力的な作品だっただけにスコアはどうなっているのか興味深いものがあった。ちょいと値段は高かった(€38+送料)が,ECMファンはやっぱり買いだろう。だからって,これを自分で演奏するってわけではないのだが,保有していることに意義がある?

相変わらずのアホな私である。これからゆっくり時間を掛けてスコアを眺めることとしたい。

2011年5月30日 (月)

ファンも驚愕のECMとテクノのコラボ。

Re_ecm "Re: ECM" Ricardo Villalobos / Max Loderbauer(ECM)

この作品にはびっくりするECMファンも多数いるはずである。ミニマル・テクノのRicardo Villalobos(そう言えば,彼のアルバムもこのブログで取り上げたことがあったなぁ。記事はこちら)とアンビエント・テクノのMax LoderbauerというコンビがECM作品をリミックスするという驚きの企画である。

しかし,よくよく考えてみると,ミニマル・テクノが「リズム,ベースを主に,少数のフレーズを加えたものを反復させる」という音楽である点,アンビエント・テクノも環境系のゆったりした音楽だと解釈すれば,ECMの"The Most Beautiful Sound Next to Silence"という特性と全く合致しないわけではない。

それでもこうしたテクノ・ミュージックとECMが合体してしまうことに驚きをおぼえる人がいても不思議ではないが,そもそもRicardo Villalobosは以前からECMの音楽を素材としたDJも行っていたということであるから,彼らとしては素材にECMを選ぶことには何の抵抗もなかったということであろう。

こうした音楽をどのように解釈すればいいのかというのは,あまり意味がない行為のようにも思える。そもそもミニマルとかテクノとかいう音楽は一種のアンビエント・ミュージックと考えることもできるから,何らかのイベント(美術館でもいいし,クラブでも,バーでも,それこそ空港でもOKである)のバックで掛かっていることを意識させないタイプの音だと思えばいいのだと思う。
私は家で仕事をしているバックでこのアルバムを流していたのだが,一切邪魔にならないというのが,このアルバムの特性を物 語っている。決してこれは鑑賞音楽だと思ってはならないのである。環境と同化する音として捉えればいいのであって,その素材にECMレーベルに吹き込まれ たアルバムが見事に合致していたということになるだろう。いずれにしても,私にとっては,こうしたアルバムを「音楽」という尺度で評価することは無意味の ように思える。

いずれにしても,ECMのオーナーであるManfred Eicherがこのアルバムのリリースを許可したこと自体に,私は彼の進取の気性を感じ取ってしまって,Eicherってやっぱり凄いと思ってしまうのだが,皆さんはどうだろうか。

一般的にはこれは賛否両論確実なアルバムであることは間違いないだろうが,今までECMなんて関心も示さなかったであろうテクノ好きの人々にECMを認知させるという点では十分意味があるだろうし,私はこれは絶対「あり」だということで,「賛」の立場を取りたいと思う。コアなECMファンがこのアルバムにどう反応するのか本当に興味深い。

この手の音楽を取り上げると,どうも私はいつも同じようなことを書いているように感じてしまうが,それでも私はこれでは絶対踊れません(笑)というのは確実である。逆にこれで踊れる人ってどういう人たちなのだろうかと思ってしまう私...。

いやいやそれにしても驚いた。

2011年5月16日 (月)

"Live at Birdland":今年最も注目すべきアルバムの一つ(少なくとも私にとってはそうだ)

Live_at_birdland "Live at Birdland" Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden, Paul Motian (ECM)

私はこのメンツがNYCはBirdlandに出演するというのを認識していて,日本で臍をかむ思いをしていたのだが,ライブ盤として発売されるという告知を見た時,はっきり言って小躍りしてしまった。それが某ネット・サイトでは「マスター不良により,発売延期」なんてことになって,そんなアホなと思っていたら,別のショップからは入荷情報が届き,一体どうなってんねん!と思いつつ,めでたく近所のショップでゲットである。某ネット・サイトはECMの入荷が遅くていつもイライラさせられるが,今回もこの失態はインパクト大きいよなぁなんて思ってしまった。某サイトは米盤を前提に考えているため,こういう問題が生じたようにも思えるが,それでもECMのようなレーベルがマスター不良なんてのは考えにくいのだが...。まぁすぐにゲットできたからいいが,どうもねぇ。

いずれにしてもである。このメンツであるから,私は本作のリリースを本当に心待ちにしていた。Motianを除く3人はBlue Noteレーベルに"Alone Together"と"Another Shades of Blue"という渋いながらも素晴らしいアルバムをリリースしていて,それらにも本当に痺れていた私であるから,そこにMotianが加わるというまた渋い組合せに期待するなと言う方が無理ってもんである。

そして,ここで聞かれる音楽はというと,3人が既に古希に達しているとは思えぬ自発性の高さというか,この自由度には驚かされる。やっているのはスタンダードなのだが,それはあくまでもモチーフに過ぎないのである。そこからいかに自由に展開するかというところに,この音楽の本質があるように思える。特にKonitzのぶっ飛び具合が凄い。Konitzに比べれば,Mehldauは比較的オリジナルの持つメロディ・ラインを尊重しているようにさえ思えるほどである。そんなMehldauとて,ストレートにメロディを紡ぐということはのではないのである。

確かにこの音楽は,事前の打合せなしで演奏されたと聞けば,なるほどと思わせるようなものばかりだ。そんな音楽であるから,スタンダードとしての演奏を期待すれば,何じゃこりゃと思うリスナーがいても,それは全く不思議ではない。これはかなりハイブラウな出来と言ってもいいから,おそらく好き嫌いはわかれるだろう。しかし,繰り返すが,Konitzは80歳を越え,Hadenは70代前半,Motianも80歳になろうという時期でのレコーディングだと言われても,ほんまかいなと言いたくなるほど,ここでの創造性はとても信じられないのだ。

真に創造的なミュージシャンは,年齢を重ねてもその創造性に衰えを示さないことを雄弁に実証したアルバム,演奏と言えるだろう。いや,それにしても凄い爺さんたちである。そんな老人を相手に一歩も引かないMehldauも立派なものである。そうした点も評価して星★★★★☆。この日,Birdlandでこの演奏を目撃できた人たちが羨ましい。

Recorded Live at Birdland, NYC on December 9 & 10, 2009

Personnel: Lee Konitz(as), Brad Mehldau(p), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds)

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