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カテゴリー「新譜」の記事

2018年5月23日 (水)

Fred Hersch Trioの新作はまたもライブ盤。今度はベルギーでの演奏。

"Live in Europe" Fred Hersch Trio(Palmetto)

_20180520ここのところ,順調なペースで新作をリリースするFred Hersch。当ブログで彼の"Open Letter"を取り上げたのが昨年の9月である。その後,Anat Cohenとのデュオ作をリリースしているが,早くも届けられたトリオによるライブ盤である。

トリオによる前作もVanguardでのライブだったが,こうしたライブ盤のリリースの連発は,Keith Jarrettのトリオとかぶる部分を感じる。これがたまたまなのか,意図的なのかはわからない。しかし,前作ではオリジナルを前半に固めるという構成が取られていたが,今回もそうした構成に近い。1曲目こそThelonious Monkの"We See"で幕を開けるが,その後のオリジナル3曲は,アブストラクトな感覚を与えて,特に新曲である2曲目"Snape Maltings"と3曲目"Scuttlers"は,演奏後の拍手からすると,やや聴衆に戸惑いを与えているようにさえ聞こえる。"Whirl"で演じられた"Skipping"も出だしはアブストラクトではあるが,徐々にメロディアスに転じていき,そこからのJohn Taylor,Sonny Rollins,Tom Piazzaに捧げたオリジナル3曲で,一般的に期待されるHersch Trioの演奏になっていくという感じだろうか。そして,ピークをCotton ClubのライブでもやったWayne Shorter作の2曲,"Miyako"~"Black Nile"のメドレーに持って行った感覚が強い。

このトリオによるコンビネーションも高度化することにより,前半に演じられる曲でも,演奏の密度は高いが,ちょっとテンションが高過ぎるかなぁって気がしないでもない。そうした中で,John Taylorに捧げられた"Bristol Fog"で美的な部分が顔を出し始めると,こっちも安心してしまう。またRollinsに捧げた"Newklypso"(Rollinsのニックネームの"Newk"とカリプソをかけたものだろう)で,それっぽいスウィング感を提示しつつ,前曲とこの曲でベース,ドラムスの活躍の場面を演出するところに,Fred Herschの気配りのようなものさえ感じる。

そして,しっとりとしながら,そこはかとなくブルージーな"Big Easy"に続いて演じられる"Miyako"~"Black Nile"のメドレーは,やはり彼らはこうでなくてはならんと思わせるに十分である。これこそ私はこのアルバムの白眉だと思うし,コットンクラブで演じられた同じメドレーに思いを馳せてしまったのであった。あのライブもやはりこのメドレーは演奏の白眉であったことは記事にも書いた通り(記事はこちら)であるし,その感覚が蘇ってきた私である。

最後はHerschのソロで"Blue Monk"で締めるが,テーマをなかなか提示しないで弾くのはなかなか珍しいと思う。だがどうだろう。正直に言ってしまうと,トリオとしてのここ2作の路線は,彼らの音楽的成熟度を示してはいるが,2012年の傑作"Alive at the Village Vanguard"には及ばないのではないかと感じてしまう。よく出来たアルバムであり,凡百のアルバムとは比較にならないクォリティは確実に確保しているのは事実なのだが,ファンは強欲であり,より優れた演奏(あるいはHerschへの期待を体現する演奏)を求めてしまうのである。

これが現在進行形のFred Herschだとすれば,次はどういう路線に行くのだろうか?Keith Jarrettはソロ・ライブの前半はそれこそ現代音楽的アプローチとも言える演奏を行うことが多いが,後半ではよりメロディアスに弾いているように思うが,Herschもそうした感じを狙っているのかと思えないこともない。いずれにしても,Herschの演奏はいつも同様高く評価したいのだが,今回は前作の"For No One"のような曲がないこともあり,敢えて星★★★★としよう。

Recorded Live at Recorded Flagery Studio 4, Brussel on November 24, 2017

Personnel: Fred Hersch(p), John Hébert(b), Eric McPherson(ds)

2018年5月19日 (土)

Brad Mehldauの新譜,"Seymour Reads the Constitution!"を早速聞く。

"Seymour Reads the Constitution!" Brad Mehldau Trio (Nonesuch)

_201805183月にソロ・アルバム,"After Bach"をリリースしたばかりのBrad Mehldauであるが,極めて短いインターバルで今度はトリオによる新作をリリースである。このトリオによる前作"Blues And Ballads"が出たのが約2年前,更にChris Thileとのアルバムをリリースして,ここところのBrad Mehldauの高頻度のアルバム・リリースは,ファンとしては本当に嬉しくなってしまう。

そして,今回の新作がデリバリーされるということで,仕事もさっさと終えて,帰宅してこのアルバムを聞いた。冒頭の"Spiral"は既にネット上で公開されていたが,このやや内省的でありながら,Brad Mehldauの個性を十分に表出させたこのトラックを聞いて,期待値が高まっていた私である。

このアルバムは,Brad Mehldauのオリジナルが3曲,そこにスタンダード,ジャズ・オリジナル(それも,Elmoo HopeとSam Riversってのが凄い),ポップ・チューンから成る5曲を加えた全8曲で構成されている。8曲中6曲が8分を越え,最短の"Almost Like Being in Love"でも5分41秒という比較的尺の長い曲を揃えている。本作を聞いていて,面白いと思ったのはBrad Mehldauのオリジナルとそれ以外で,響きがかなり違うということだろうか。オリジナルでは両手奏法も使いながらの内省的演奏であるが,その他の曲では,ややコンベンショナルではありながら,曲の個性を活かした演奏となっており,全く飽きさせないのは立派である。

逆に言うと,Mehdlauのオリジナルとそれ以外では,だいぶ受ける感じが違うので,その辺りに違和感を覚えるリスナーがいても不思議ではない。私はミュージカル"Brigadon"からの"Almost Like Being in Love"に強い印象を受けるだけでなく,冒頭の2曲と全然違うが,これはこれでいいねぇと感心させられたし,今回も選曲のセンスは健在だと思わせるに十分であった。オーソドックスなかたちで演じられるElmo Hopeの"De-Dah"なんて,ちょいと浮いて聞こえてしまうようにさえ感じる。それでもソロの後半になるとちゃんとMehldau的になっていくのだが(笑)。

だが,トリオの緊密度は極めて高く,特にLarry Grenadierのベースはかなり自由な感じで弾いているにもかかわらず,ちゃんとトリオとしての響きになっているのがわかって面白い。まぁ,私が近年のMehldauトリオの最高作と思っている"Where Do You Start"には及ばないとは言え,今回も質の無茶苦茶高い演奏を堪能させてもらった。星★★★★☆。それにしても,Sam Riversの"Beatrice"はいい曲である。

Personnel: Brad Mehdau(p), Larry Grenadier(b), Jeff Ballard(ds)

2018年5月11日 (金)

Nik Bärtsch's Roninの新作が出た。

"Awase" Nik Bärtsch's Ronin (ECM)

_20180510私がミニマル・ファンクと呼んでいるNik Bärtsch's Roninの音楽は,常に心地よいグルーブを聞かせてくれて,私は相当彼らの音楽にはまっていると言ってもよい。なんでこの音楽がECMから?って気はするが,彼らのアルバムもMobile名義の1枚を含めると,早くも第6作であり,総帥Manfred Eicherにも気に入られているのは間違いないところだろう。とにかく,彼らの音楽に身を委ねる快感を一度覚えてしまうと,決して抜けられないのである。

今回もいつものようにNik Bärtschのオリジナルは"Modul"に番号を付けた記号的なものであるが,そこに1曲だけ入るリード奏者,Shaのオリジナルが明らかに個性が違っていて,Change of Paceを狙ったんだろうと思わせる部分がある。しかし,基本的にはいつもやっている音楽と変わりはないのだが,それでもいつもよりもファンク度は抑制され,静謐な瞬間や,メロディアスな展開を示す部分に,これまでにない感覚を覚える。

Nik Bärtschのピアノはいつものようにパルス的な打鍵が多いが,本作で特徴的だと思うのがベース・ラインである。それがメロディアスに感じさせる部分があるのは,ピアノと対照的な気もする。リズムもゆったりした感覚があり,いつものファンクとは感じが違う。逆に言えば,本作ではこのベースが効いているということになるだろう。それでも曲によっては,ちゃんと彼ららしいファンクに帰結していくのだが...。

いずれにしても,こうした音楽に反応してしまう私の嗜好にはばっちり合致しており,今回も聞いていて気持ちよくなってしまった私である。こういう音楽ならば,永久に続けられるのではないかなんて皮肉っぽく思ってしまうものの,やはり彼らの音楽が生み出すグルーブの心地よさには抗い難い魅力があると言えよう。今回も私は満足である。星★★★★☆。

Recorded in October 2017

Personnel: Nik Bärtsch(p), Sha(b-cl, as), Thormy Jordi(b), Kaspar Rast(ds)

2018年4月29日 (日)

ロンドンから帰国して最初に聞いたのがBettye LavetteのBob Dylan集。最高である。

"Things Have Changed" Bettye Lavette(Verve)

_20180428ようやく,4月の出張地獄(笑)から解放されて帰国した。ここのところ,映画の記事ばかりアップしていて,中年映画狂日記じゃねぇかみたいになっていたので,ちゃんと音楽のネタもアップせねばということで,今日はBettye Lavetteである。

私がこの人の音楽に初めて接して,まじでしびれたのが"Interpretations:British Rock Songbook"のことであった(記事はこちら)。記事にも書いたが,ブリッティシュ・ロックとソウルる融合させるとこうなるという感じの素晴らしい音楽であった。その後も彼女のアルバムが出ると,ちゃんと買っている私だが,いいアルバムだとは思いつつ,そのアルバムを越えるところまでは行かないなぁと思っていた。しかし,今回のアルバムはBob Dylan集ということで,俄然期待値が高まっていた私である。

実を言うと,このアルバム,デリバリーされてから何度も聞いていて,ついに"Interpretations"と並ぶアルバムが出たと思っていたのだが,まじでこれが素晴らしい。これはプロデューサーを務めたSteve Jordanが「わかっている」というのが大きいが,Bettye Lavetteというシンガーはこうしたかたちの歌いっぷりが本当にはまる。世の中,Bob Dylan集というのは結構あって,このブログでも私はBryan Ferryのアルバムも予想を越える良さだと書いたことがあるが,本作はFerryのアルバムをはるかに越える出来と聞いた。

あくまでも,ここではBob Dylanの曲は素材であり,それを完全にBettye Lavette色に染めているのが何よりも素晴らしいのだ。ゲストのKeith Richardsを含めた豪華なメンツが彼女を支えたくなるのも肯けてしまうのである。あくまでもこれはソウルのアルバムであるが,ロックの魂がこもっていると言ってもよい。まじで最高である。星★★★★★。

Pewrsonnel: Bettye Lavette(vo, clap), Steve Jordan(ds, perc, g, vo), Larry Campbell(g, mandolin), Leon Pendarvis(el-p, p, org, key-b), Pino Palladino(b), Keith Richards(g), Trombone Shorty(tb), Gil Goldstein(org, key, accor, harmonium), Ivan Neville(key), Nioka Workman(cello), Charisa Dowe-Rouse(vln), Rose Bartu(vln), Ina Paris(vla)

2018年4月22日 (日)

これはたまらん。Kristijan RandaluのECMデビュー作。

"Absence" Kristijan Randalu(ECM)

_20180421初めて名前を聞く人である。Webサイトによれば,1978年にエストニアで生まれ,ドイツで育ったそうである。ドイツで師事したのがJohn Taylorってことであるが,1曲目からJohn Taylorも彷彿とさせるような美しいピアノを聞かせる。そして,ピアノ,ギター,ドラムスという変則的な編成でありながら,ECMらしい美学に満ちたアルバムである。もちろん,リーダーの弾くピアノが美しいのだが,美感を増幅させるようなBen Monderのギター,そしてMonderらしいアルペジオが効いていて何とも素晴らしいアルバムに仕立てている。これはまさにECM好きがはまること必定のような音楽と言ってよい。一聴して私が思い出したのが往年のRainer Brüninghausと言ったらおわかり頂けるだろうか。あくまでも何となくだが...(苦笑)。

ここでのピアノ・タッチから生み出される美感こそ,このアルバムの魅力であるが,控えめなドラムスも美的感覚を盛り立てるに十分である。アルペジオ的なフレージングが本当にいいよねぇと思わせ,Ben Monderは音響系のバッキングも織り交ぜながら,ここでの音楽の魅力を増幅させる。いやぁ,全然知らない人のアルバムだったが,Ben Monderの名前に惹かれて購入したのは正解であった。こういうのって好きなのである。星★★★★☆。生でこういう音を浴びてみたい。

Recorded in July 2017

Personnel: Kristijan Randalu(p),Ben Monder(g), Markku Ounaskari(ds)

2018年3月23日 (金)

Norma Winstone:これぞ選曲の妙。素晴らしい映画音楽集。

"Descansado: Songs for Films" Norma Winstone (ECM)

_20180319_3Norma Winstoneによる映画音楽集である。ここはまず,その選曲のセンスが絶妙。よくぞこれだけばらけた映画の曲を集めながら,一貫性を保ったことが凄い。ここで選ばれている映画は次のような作品群である。

  • 「華麗なる賭け」(1968)
  • 「ロミオとジュリエット」(1968)
  • 「昨日・今日・明日」(1963)
  • 「女と男のいる舗道」(1962)
  • 「リスボン物語」(1994)
  • 「マレーナ」(2000)
  • 「イル・ポスティーノ」(1994)
  • 「アマルコルド」(1973)
  • 「プライドと偏見」(2005)
  • 「ヘンリー五世」(1944)
  • 「タクシー・ドライバー」(1976)

このように比較的よく知られたものもあれば,そうでもないものも交えつつ,制作された年代も,国も違う映画の音楽を揃えながら,終わってみれば,完全にNorma Winstoneの世界に染め上げているのは,まさに驚異的である。極めて限定的なバックのサウンドの上に静謐に展開されているが,オリジナルの映画音楽の持つ美しさとNorma Winstoneの表現を見事なまでに融合し,表現したアルバムに私は文句をつける余地がない。

映画音楽のインタープリテーションとして,これほど優れたアルバムに出会うことはほとんどありえないと断言してしまおう。とにかく,この選曲,見事というしかない。興奮とは無縁な世界ではあるが,じっくりこの音楽に耳を傾けるべき最高の作品である。映画好きも唸ること必定の傑作。喜んで星★★★★★としよう。それにしても,1曲目に「華麗なる賭け」を置き,「タクシー・ドライバー」をほぼエンディングに持ってきて,欧州映画を間に挟むとは...。凄いセンスとしか言いようがない。

Recorded in March 2017

Personnel: Norma Winstone(vo), Glauco Venier(p), Klaus Gesing(ss, b-cl), Helge Andreas Norbakken(perc), Mario Brunello(cello)

2018年3月21日 (水)

多作家,Neil Youngの最新作が結構いいねぇ。

"The Visitor" Neil Young & Promise of hte Real (Reprise)

 _20180319最近の兄貴ことNeil Youngの多作ぶりは際立っていて,新作のほかにアーカイブ音源も出てくるものだから,一体どれぐらいリリースされているのかも追い切れていないような状態である。ここのところの新譜は,私にはどうも訴求してくる部分が少なく,このブログでも直近で取り上げたのはアーカイブ音源,"Hitchhiker"ぐらいで,新作については買ってはいても,とんと取り上げていない。

このアルバムもショップで仕入れたのは1カ月ぐらい前だが,ようやくの記事のアップである。だが,こうして兄貴の新作を取り上げるのには意味がある。とにかく,久々に一聴した感じがいいのである。ロック的な部分とフォーク的な要素をうまく組み合わせており,ここ何年かの新譜の中では,一番出来がいいように感じさせてくれた。

こうしたNeil Youngの多作ぶりは,彼の創造力が全く衰えていないことはもちろんであるが,いろんなことへの「怒り」を発露する手段としてアルバムを出しているという要素もあろう。だって,このアルバムの冒頭の”Already Great"では,"I am Canadian, by the way. And I love the USA. I love this way of life. The Freedom to act the freedom to say."なんて皮肉たっぷりな歌詞で始まっているのだ。そしてそのエンディングは”No wall. No hate. No facsist USA. Whose street? Our street."ときたもんだ。超リベラルな私が嬉しくなってしまうような歌詞ではないか。ロックってのはこういうもんだぜ。

もちろん,これをNeil Youngの最高傑作なんて言う気もないが,兄貴がもう70歳をとうに過ぎていることを考えれば,衰えない創作意欲と問題意識には感服せざるをえない。だって,4月にはもう次の新作が出るって,一体どうなっているのやら...。星★★★★☆。

Personnel: Neil Young(vo, g, p, hca, whistle), Lulas Nelson(g, vo), Micah Nelson(g, vo), Corey McCormick(b, vo), Anthony LoGerfo(ds), Tato Melgar(perc) and others

2018年3月20日 (火)

Jerry Bergonzi入りのHal Galperの新譜を聞く。

"Cubist" Hal Galper (Origin)

_20180318_2私がちょくちょくお邪魔しているテナーの聖地ことBar D2のマスターは,テナー・サックスに関する造詣の深さにおいて,圧倒的な方である。Steve Grossman,Dave Liebman,そして本作にも参加しているJerry Bergonziの参加アルバムの保有枚数には,いつもいい意味で「開いた口がふさがらない」。そのマスターが「本作はBergonziファン必聴の一枚」とおっしゃるからには,聞かないわけにはいかない。

ということで,届いたこのアルバム,拍手などの音は聞こえないが,ライブ・レコーディングされたもののようである。少なくとも彼らがツアーに出ている期間に録られたものであることは間違いなかろう。

そして,こういうセッティングで聞かれる演奏は,Hal Galperがライナーに書いている通り,まさにRubato,即ち,本来の意味ならば,自由にテンポを変化させながらの演奏だが,ここでは自由度の高いスポンタニティを重視した演奏と言い換えることができると思う。だからと言ってフリーにやるってことではないのだが,それをHal Galperをキュービズムの画家のスタイルに例えて,本作のタイトルとしている訳だ。

ここには全8曲が収録されているが,そのうちの4曲をベースのJeff Johnsonのオリジナルが占めているのが特徴的である。ライブのレパートリーを考えるに当たって,ネタ探しをしていていたら,これらの曲がヒットしたっていうことらしいが,Jeff Johnsonとしてもこれだけフィーチャーされれば曲を提供しても本望ってところだと思う。

このアルバムに関しては,日本ではまだまだ知る人ぞ知るってレベルだとは思うが,海外での評価は総じて高く,Hal Galperのキャリアにおいても屈指の作品と評価する論調が多い。確かにこのアルバムはよく出来ているが,その中で私の耳はついついJerry Bergonziに行ってしまう。やはりBergonziはワンホーン・クァルテット編成(もしくはピアノレスのトリオ)が私にとっては最もピンとくるなぁって感を強くする。そして,Jerry Bergonziのテナーのフレージングのカッコいいことよ。近年のBergonziのアルバムではCarl Wintherとやったクァルテットによる"Sonic Shapes"や"Tetragonz"に匹敵するという感覚である。

Jerry Bergonziについてばかり書いているが,Hal Galperをはじめとするトリオがあってこそのこの演奏ということは忘れてはならない。Bar D2のマスターの言葉通り,これは「本作はBergonziファン必聴の一枚」であるとともに,Hal Galperの楽歴においても,大いに評価すべきアルバムと言ってよいと思う。星★★★★☆。今度はちゃんと彼らによるEnjaのアルバムも聞き直すこととしよう。

Live at Tommy LiPuma Center for Creative Arts, Cleveland on October 14, 2016

Personnel: Hal Galper(p), Jerry Bergonzi(ts), Jeff Johnson(b), John Bishop(ds)

2018年3月19日 (月)

Tracey Thornの新作は驚きのシンセ・ポップ。

"Record" Tracey Thorn(Unmade Road)

_20180318Tracey Thornの新作がリリースされた。オリジナルとしては"Love and Its Opposite"以来8年ぶりということだが,その間にホリデイ・アルバム"Tinsel And Lights"やEP"Songs from the Falling"もあったので,それほどの久しぶり感はない。しかし,ここで展開されている音楽には驚かされた。まさにこれこそTracey Thornの声でシンセ・ポップって感じなのである。

Tracey Thornの声は,加齢ゆえなのかもしれないが,これまで以上に低くなっているように感じる。その魅力は不変ではあるが,これまでの彼女,あるいはEverthing but the Girlでの音楽を知る人間にとっては,ここでの音楽については違和感をおぼえても仕方がないものかもしれない。だが,純粋に音楽として聴いてみると,これが非常に優れたアルバムなのである。

そもそもここでプロデュースをしているEwan Pearsonという人は,ダンス・ミュージック系の音楽で知られている人だそうである。よくよく見れば,Tracey Thornの2007年のアルバム,"Out of Woods"のプロデューサーでもあるが,それに関しては私は「打ち込みを基調とした最小限の伴奏に,Traceyのボーカルが乗る」と書いている(記事はこちら)から,その頃からこのアルバムへの道筋はあったのかもしれない。

演奏はシンセ・ポップのようではあるが,ここで強調したいのは曲のよさである。EBTGのように響く"Babies"のような曲もあれば,Corrine Bailey Raeを迎えた"Sister"はマイナー・キーのメロディ・ラインが印象的な曲もあり,非常にクォリティが高い。こういう感覚は私にとってはYazooに感じたものと同質である。これは驚いたとともに,今後のTracey Thornの活動にも更なる期待を寄せたくなる一枚である。甘いの承知で星★★★★★としてしまおう。それにしても"Record"ってタイトルは凄いねぇ(笑)。

Personnel: Tracey Thorn(vo, g, p, synth), Ewan Pearson(synth, prog), John Opstad(synth), Shura(g), Juno Ma(g, synth), Jenny Lee Lindberg(b), Stella Mozgawa(ds), Martin Ditcham(perc), Clare Wheeler(vln), Juno-60(vo), Corrine Bailey Rae(vo)

2018年3月17日 (土)

ついに到着。Brad Mehldauの"After Bach"

"After Bach" Brad Mehldau(Nonesuch)

_201803163/9に発売されながら,我が家に到着するまでリリース後1週間近く経過し,大いに苛つかされたが,ようやく到着である。このアルバムはバッハの「平均律」とMehldauのオリジナルを混在させるという,極めてチャレンジングな作品と言ってもよいが,もとは2015年にカーネギー・ホール等からの委嘱によって作曲された"Three Pieces after Bach"に基づくものである。しかし,ここに収録されたのは「平均律」からが5曲,Mehldauのオリジナルが7曲であるから,オリジナルのコンポジションからは拡大されたと考える必要があるかもしれない。

正直言って,私はこのアルバムの企画を知った時,かなり不安だった。私がいくらBrad Mehldauの追っかけだからと言って,別に彼の弾く「平均律」にそれほど関心を抱くことはできないのだ。それこそ「平均律」を聞くならSchiffでもRichterでもよいと思っていた。だが,このアルバムを聞いて,そうした不安は簡単に消え去ってしまった。

Brad Mehldauのオリジナルは,バッハにインスパイアされたものだという前提だが,私にはバッハが今の時代に生きていたらという仮定で,Brad Mehldauは作曲したのではないかと思える。だから敢えて,「平均律」とオリジナルを対比的に置くことによって,その曲の個性の違いを浮き立たせることに意義があったのではないか。すなわち,明確な意図があって,こういう並びにしていると考えざるを得ないのである。Mehldauのオリジナルも確かにバッハ的に響く瞬間もあるのだが,やはりBrad Mehldauのオリジナルは彼らしいオリジナルだと言ってよい。どの程度が記譜され,どの程度がインプロヴィゼーションなのかわかりかねる部分もあるが,ここで聞かれるピアノ曲はやはりBrad Mehldauにしか弾くことはできないであろうと思わせるに十分である。

そして,最後に据えられた"Prayer for Healing"。この曲にだけバッハの名前がついていない。これは11曲目までの組曲的な演奏を終え,そのテンションから解放されたBrad Mehldauの精神が反映されていると言っては大げさか?アルバムのエンディングを静かに飾る曲として,これほどふさわしい曲はないだろう。

ということで,これは正直言って相当の問題作と言ってもよいが,Brad Mehldauは軽々と越境を成し遂げたというところだろう。やはりこの人,凄い人である。そのチャレンジ精神にも敬意を示すために,星★★★★★としてしまおう。

甚だ余談であるが,このアルバム・カヴァーを見ていると,Hitchcockの「めまい」を思い出してしまった私であった。

Recorded on April 18-20, 2017

Personnel: Brad Mehldau(p)

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