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カテゴリー「Brad Mehldau」の記事

2019年6月 5日 (水)

改めてのBrad Mehldau@よみうり大手町ホール

Brad-mehldau-solo

改めてBrad Mehldauのソロ・ライブのセット・リストがアップされたので,今一度振り返ってみたい。セット・リストからもわかる通り,冒頭3曲は完全即興だったようである。そこからはBeatles,と言うよりもPaul McCartneyの曲が3曲というのが目を引く。前回のホール公演でもPaulの曲は結構やっていたから,ミュージシャンとしてのシンパシーを感じる部分があるのだろう。私は"Dear Prudence"のようなJohn Lennonレパートリーもやって欲しいところだが,贅沢は言うまい。

そして意外な選曲としては"Linus and Lucy"だろう。今までレコーディングしたこともないはずだが,Brad Mehldauがこんな曲をやるとは思わなかった(と言いつつ,曲名が思い出せていなかった私)。

いずれにしても,前半を即興及びMehldauオリジナルで固め,後半にスタンダードやポップ・チューンを交えるというのがここのところのBrad Mehldauのルーティーンなのかもしれないが,今回は冒頭の3曲が相当の集中力を感じさせるものであり,後半は美的な部分と時折そこにダイナミズムを交えるという絶妙のバランスのライブだったと言ってよいだろう。因みにアンコールは"I Fall in Love Too Easily"からだったと思うが,最後まで集中力の切れないソロ・ピアノを堪能した私である。 ということで,行ってよかった,ファンでよかったと思える満足すべき一夜であった。

<Set List>
Untitled (B. Mehldau)

Untitled (B. Mehldau)
Untitled (B. Mehldau)
Waltz for J.B. (B. Mehldau)
Blackbird (J. Lennon/P. McCartney)
And I Love Her (J. Lennon/P. McCartney)
I Fall in Love Too Easily (J. Kern)
Get Happy (H. Arlin)
Linus and Lucy (V. Guaraldi)
Mother Nature's Son (J. Lennon/P. McCartney)

Live at よみうり大手町ホール on June 3, 2019

Personnel: Brad Mehldau(p)

2019年6月 4日 (火)

Brad Mehldauのソロをよみうり大手町ホールで聞く。

Bm-solo-piano 今回のBrad Mehldauの来日がアナウンスされた時,トリオでのライブとソロでのライブが告知されていた。Brad Mehldauフリークを自認する私としては,これはどっちも行かねばってことになるわけで,先日の東京国際フォーラムでのトリオでのライブに続いて,今回,よみうり大手町ホールでのソロに行ってきた。

読売新聞社東京本社ビルにあるこのホールは,キャパが500人程度,そして今回はPAなしのピアノの生音での演奏となった。冒頭から実にクラシカルな響きのピアノを聞かせて,一瞬,これはどうなるのかと思ったのだが,驚きは2曲目にやって来た。おそらくは即興で演じられた2曲目において,私がかつて聞いたことがないようなタッチをBrad Mehldauが聞かせたと思えたからである。おそらく2曲目は20分近い演奏だったと思うが,聞いていて,まだ長大なソロをやっている頃のKeith Jarrettを彷彿とさせる演奏だっと言っては言い過ぎか。しかし,ここで聞かれたトーンはフォーク,あるいはゴスペル・タッチでのKeithの演奏に結構近いのではないかと思ってしまった。そのほかの曲においても,同じような感覚を覚える瞬間もあったというのが正直なところである。

今回演奏された曲については,インプロヴィゼーションと思しき曲以外は聞いたことがあるのだが,The Beatlesの3曲と“Get Happy”を除くと曲名が思い出せない。そのうち,セットリストがアップされるだろうから,改めてとするが,今回演じられたBeatlesの曲は"Blackbird","And I Love Her",そして"Mother Nature’s Son"だったはずだが,"Blackbird"が原曲の美しさをそのまま反映させた演奏だったのに対し,ほかの2曲にはかなり強烈なカデンツァを施すという感じで,実はそこにもKeithライクな感覚を覚えていた私である。

トリオでのライブが,Brad Mehldauのオリジナルと,スタンダードまたはジャズ・オリジナルで占められていたのに対し,Beatlesを3曲やったのは意外なのか,それとも意図的なのかはBrad Mehldauに聞いてみないとわからない。まぁ,それでもあの"Blackbird"は昇天必至の演奏だったと確信している。

今回の演奏については,セットリストが上がってから改めて書くことにしたいが,今回,何よりも残念だったのは私の隣に座っていた女性客である。演奏が始まって,ステージに視線を向けていても飛び込んでくる彼女のスマホのバックライトは,音楽を聞くことへの集中の妨げ以外の何ものでもなかった。私は我慢がならず,彼女にスマホの使用をやめるように依頼した訳だが,なぜステージが始まっているのにLINEだかチャットでのやり取りをしなければならないのか,全く意味不明である。世の中の人間がスマホに支配されているように思える今日この頃だが,映画館でスマホを使うバカと同じぐらいの低劣な行為には業を煮やしていたと言わざるをえない。

もう一つ,運営側に文句を言うならば,サイン会をやるのはいいが,CD購入者先着50人というのはまぁいいとして,サイン会のフロアで知り合いを待つことも許さないというのはどういうことなのか?別にこっちは写真を撮ろうと思っている訳でもないし,迷惑をかけるつもりもないが,ああした運営は人を不愉快にさせるだけだ。

ミュージシャンは基本的にオープンな人が多いから,別にCDの購入者とだけ交流したいと思っている訳ではないはずだ。普通のジャズ・クラブなら気軽に話しかけて,サインにだって応じてくれる人がほとんどである。そもそも私はMehlianaでの来日時に,Brad Mehldauには何枚かのCDにサインをもらっているし,"Elegiac Cycle"の楽譜本にもサインをもらっているので,今回敢えてサイン会に参加する理由もなかったが,訳のわからない,あるいはまったく意味のない排除的な対応は正直言って拝金主義的で感じが悪いのはもちろん,会場担当者の対応も,なぜそこで待っているのがダメなのか全く論理的な説明ができないのは不愉快以外の何ものでもなかった。演奏は素晴らしいものだったと思えるだけに,以上の2点は実に残念であったが,これはBrad Mehldauの責任ではない(きっぱり)。

でも,今回,Brad Mehldauは(いい意味で)別次元に行ってしまったなぁと思っていた私である。それについては改めて書く機会を見つけよう。

Live at よみうり大手町ホール on June 3, 2019

Personnel: Brad Mehldau(p)

2019年6月 2日 (日)

実に素晴らしかったBrad Mehldau Trio@東京国際フォーラム

Brad-mehldau-trio-live

Brad Mehldauがトリオで来日するのは実に久しぶりのことのはずだ。前回は2012年だから7年ぶりってのは間が空き過ぎではないかと思ってしまうが,MehlianaやJoshua Redmanとのデュオでも来ているので,それほど久々感はない。しかし,前回のトリオ公演には正直言って不満があった私(その時の記事はこちら)なので,今回はPAに左右されない演奏が聞きたいと思って,東京国際フォーラムに乗り込んだ私である。

今回のライブについてはFBページが設けられており,全公演のセットリストがアップされているが,毎日違う曲をやっているようだ。東京国際フォーラムでのセットリストは下記の通りであるが,冒頭の"Sehnsucht"からして,非常に美しい響き,そしてコンサート・ホールらしいPAにまず安心した私である。それにしても,冒頭2曲で完全に聴衆をうっとりさせるのに成功したと思わせるに十分。実に素晴らしい演奏であった。特に私が痺れたのは"From This Moment on"だったが,この演奏を聞いて,Brad MehldauというピアニストはCole Porterの曲と実にマッチするという点である。そして,アンコール前に弾かれた”When I Fall in Love"の終盤のカデンツァの美しいことよ。

そして,アンコール3曲がこれまた素晴らしい。"Tenderly"という曲がこれほど魅力的に響いた経験はなかったと言ってもよいし,"Secret Love"なんて,非常にテンポを落とした形で演奏されつつ,曲の持つ美しさ,あるいは「秘めたる恋」を体現するような演奏には心底まいってしまった私である。

更に,今回はJeff Ballardのドラミングにも感心させれた。このトリオにぴったりなサトルな感覚だけでなく,決してうるさくならないドラミングは彼への評価を一段高めるものだったと言ってよい。Larry Grenadierも結構長いソロ・スペースを与えられていて,実力発揮していたが,私には今回はJeff Ballardが印象に残ったと言っておこう。

私としては7年前のトリオ公演のリベンジを完全に果たしたという感じで,実に満足度の高いライブであった。当然のことながら6/3に予定されているソロ公演への期待は更に高まった私である。

尚,上の写真はおそらくサントリー・ホールでのライブの時のものと思われるが,FBページより拝借したもの。東京国際フォーラムもほぼ同じ感じだった。

<Set List>
Sehnsucht (B. Mehldau)
Gentle John (B. Mehldau)
Bee Blues (B. Mehldau)
Inchworm (F. Loesser)
Backyard (B. Mehldau)
From this Moment on (C. Porter)
When I Fall in Love (V.Young/E. Heyman)

<Encore>
Tenderly (W. Gross)
Secret Love (S. Fain/P.F. Webster)
Long Ago and Far Away (J. Kern, I. Gershwin)

Live at 東京国際フォーラム ホールC on June 1, 2019

Personnel: Brad Mehldau(p), Larry Grenadier(b), Jeff Ballard(ds)

2019年5月21日 (火)

Brad Mehldauの新譜”Finding Gabriel”は美しさとスリルを共存させたコンセプト・アルバム。実に面白い。

Finding-gabriel_1 "Finding Gabriel" Brad Mehldau(Nonesuch)

既にストリーミングでも2曲が公開されていたBrad Mehldauの新譜がリリースされた。最初に公開された"The Garden"を聞いた時から,本作がかなりの問題作であることはわかっていたが,こうして全編を聞いてみると,これは確かに問題作という評価も可能だが,むしろ聖書を題材として作り上げたコンセプト・アルバムという評価の方が適切である。

一番の話題はヴォイスが加わっていることだと思うが,聖書を題材としたことからすれば,「聖歌」をイメージしてのことと解釈することも可能だろう。ここでのヴォイスは男声と女声のミックスであるが,Gabriel Kahaneの声が,Pat Metheny GroupにおけるPedro Aznarのような感覚を覚えさせる瞬間があったのは面白い。その一方でこのアルバムを特徴づけているのがシンセサイザーの響きであり,聖歌とシンセサイザーというアンマッチな感覚さえ与える組合せから作り出されるサウンドが実に面白い。それでも全然難しいところはないし,美的な感覚を与える瞬間もあれば,例えば冒頭の"The Garden"後半に聞かれるスリリングな展開もあるという,緩急と様々な要素を交錯させた響きなのだ。

Brad Mehldauが典型的なジャズから離れた音楽をリリースするのはこれまでもあったことだし,彼の越境型の活動を考えれば,今回のアルバムのリリースも驚くほどのことではないのかもしれない。しかし,Brad MehldauのWebサイトにも,かなり深い聖書に関する記述があり,聖書が彼の創作に影響を与えたことは紛れもない事実であり,それを反映させた音楽として聞いていると,これが聖歌のように聞こえてくる瞬間もあるから不思議である。

ドラムスのMark Guilianaは結構激しく,そして手数多く叩く瞬間もあるが,全体的には彼にしては抑制された感じがする。なぜならば,これはビートを強調した音楽ではないし,Mehldauが言うように聖書を"one long nightmare or a signpost leading to potential gnosis"とするような哲学的な感覚を付与した音楽なのだから,そういう風になるのも当然か。だが,その一方で6曲目"The Prophet Is a Fool"にはDonald Trumpへの強烈な批判的なトーンも現れて,さまざまな感情が交錯する。

こういうところが頭でっかち的に見えて,鼻につくってリスナーも世の中にはいるだろうが,Brad Mehldauは昔からこういう人なのである。様々な文学やクラシック音楽も吸収した上で作り上げられた彼の音楽性が強く表れたアルバムと言えるだろう。やはりこの人のやることは面白い。間もなくに近づいた東京でのトリオ,そしてソロ公演はどのようになるのか?おそらくこのアルバムとはほとんど関係ない世界の演奏をしてしまうはずだが,本当に幅広い人である。我ながらBrad Mehdauには甘いと思うが,やっぱり星★★★★★だ。だって面白んだもん。

Recorded between March 2017 and October 2018

Personnel: Brad Mehldau(p, synth, el-p, perc, vo, and others), Mark Guiliana(ds), Becca Stevens(vo), Gabriel Kahane(vo), Kurt Elling(vo), "Snorts" Malibu(vo), Ambrose Akinmusire(tp), Michael Thomas(fl, as), Charles Pillow(ss, as, b-cl), Joel Frahm(ts), Chris Cheek(ts, bs), Sara Caswell(vln), Lois Martin(vla), Noah Hoffeld(cello), Aaron Nevezie(sampler)

2019年4月11日 (木)

意表を突いたところにあったBrad Mehldauのデジタル音源。

Thank-you "Thank You." Mark Guiliana Featuring Brad Mehldau(ダウンロード)

ブログのお知り合いのkenさんからの情報でその存在を知った音源である。これはMark Guilianaの名義でBandcampで販売されているのだが,作曲はGuilianaながら,演奏はBrad Mehldauが一人で行っているようである。この曲は亡くなったMark Guilianaのお母さんの生前に,Mark Guiliana自身が演奏した最後の曲だそうである。それを演奏するのに最適なのはBrad Mehdauということで,演奏を依頼したものらしい。

これが実にしっとりした演奏である。Mark Guilianaの母への感謝が静かに表現されていて,それをBrad Mehldauが演奏するのだから,これは痺れる。誰よりもMark Guiliana自身が,この演奏を聞いて感涙にむせんだかもしれないと思うのは私だけか。いずれにしても美しい友情と親子愛が生んだ麗しい演奏。

kenさん,ご紹介ありがとうございました。

Personnel: Mark Guiliana(composer),Brad Mehldau(p, synth)

2019年4月 8日 (月)

Brad Mehldauの新作,"Finding Gabriel"は5/17リリース予定。これはまたまた問題作と言われそうだ。

Finding-gabriel NonesuchレーベルのWebサイトでも告知されているが,Brad Mehldauの新作"Finding Gabriel"が5/17にリリースされる予定である。本作はシンセサイザーとMarc Giulianaのドラムスでベース・トラックが構成されたようであるが,そこにAmbrose AkinmsireのトランペットやJoel Frahmのテナーが加わるだけでなく,今回のアルバムのキモはおそらくはヴォーカリストの参加であろう。

既にアルバムからは"The Garden"の1曲だけ,ストリーミングで聞けるし,映像もついたものがYouTubeでも公開されているが,これだけ聞いていると,プログレと言ってもよいような響きと言っては言い過ぎか。ヴォーカルはあくまでもサウンドの一部としてのものであり,歌詞はない。アルバムではBrad Mehldauの完全独演(オーバーダビングあり)による演奏も3曲あるようだ。Brad Mehldauの音楽の多様性は前々からわかっていることではあるが,これは問題作扱い確実なアルバムとなるだろう。

そしてこのジャケである。何がBrad Mehldauに起こったのかと言われても仕方ないような,いまだかつてないテイストであるが,YouTubeで公開されている"The Garden"の映像を見ても何のこっちゃって気もするので,これは確信犯だろうなぁ。いずれにしても5/17を楽しみに待つことにしよう。

2019年1月27日 (日)

コレクターはつらいよ(23):Crane Like the Birdsの新作に1曲客演。

"Kaleidoscope" Crane Like the Birds Fraturing Sabina Sciubba & Brad Mehldau(自主制作,ダウンロード)

CranelikethebirdartLAを拠点とするシンガー,ドラマーであるKyle CraneのプロジェクトらしいCrane Like the Birdsというグループ(プロジェクト?)の同名のアルバムがリリースされ,そこに1曲,Brad Mehldauの名前があることをFBで知った。フィジカルな媒体としては出ていないようなので,早速Brad Mehldauの名前のある"Kaleidoscope"をダウンロードした私である。

Kyle CraneもCrane Like the Birdsも私には初耳の名前だと思うが,Daniel Lanois人脈の人らしく,Brad Mehldauの参加もその縁と思っていた私である。また,本作にはKurt Rosenwinkelも参加しているとの情報もあるのだが,ダウンロード音源ゆえに詳細,真偽のほどは不明。だが,FBにBrad Mehldauが,本作への参加はRosenwinkelの紹介が縁とも書いているので,おそらくはRosenwinkelも参加していると思われる。更に,Wikipediaの情報によれば,映画「セッション」の一部のドラムス演奏シーンはKyle Craneによるものらしい(但し,クレジットはされていないようだ)。こうして情報を集めるとへぇ~って感じである。

それでもって,この"Kaleidoscope"だが,9分を越える曲の後半に,いかにもBrad Mehldauらしいピアノを聞かせていて,実に嬉しくなってしまった私である。越境型ミュージシャン,Brad Mehldauの真骨頂ってところだろう。こういうのを追っかけるのも大変な訳だが,こんなピアノを聞かせてくれるなら大歓迎である。

因みに,Brad Mehldauだが,2月後半から欧州において,英国人テノール歌手,Ian Bostridgeとのデュオで歌曲の夕べをやるらしい。シューマンとBrad Mehldauがカーネギー・ホールほかからの委嘱により書き下ろした"The Folly of Desire"をやるとのことだが,越境具合が半端じゃないねぇ。

2018年12月30日 (日)

2018年の回顧:音楽編(その2:ジャズ)

2018_albums_4

今年を回顧するのも今回が最後。最後はジャズのアルバムに関する回顧で締めよう。今年もジャズに関してはそこそこ新譜も購入したし,相応の枚数を記事にした。もちろん,聞いても記事にしていないものもあるが,それは優先順位を下げてもまぁいいだろうというものである。

そんな中で,ブログの右側に掲載している今年の推薦盤が,かなり高い比率でECMレーベルによって占められていることは明らかで,私のCD購入の中心がECMになってしまっていることの裏返しと言っても過言ではない。そんなECMにおいて,私が今年最も感銘を受けたのがMarcin Wasileuski Trioの"Live"であった。彼らの音楽の美的な部分と,ライブにおけるダイナミズムが結びついて,これが実に素晴らしい作品となった。彼らのアルバムのレベルは総じて高いが,ますますこのトリオが進化していることを如実に示したものとして,今年の最高作はこれを置いてほかにないと思えた。今回,改めて本作を聞いたが,来年1月の来日が実に楽しみになってきた私である。

ECMにおいては,Bobo Stensonの"Contra la Indecisión"も素晴らしかったし,Norma Winstoneの映画音楽集もよかった。Barre Phillipsのベース・ソロ作にはECMレーベルの愛を感じたし,Ben Monderが効いていたKristijan Randaluの"Absence"も印象深い。そのほかにも優れたアルバムが目白押しだった。そうしたECMにおける次点のアルバムを挙げると,暮れに聞いたAndrew Cyrilleの"Lebroba"ではないかと思っている。記事にも書いたが,このアルバムの私にとっての聞きどころはWadada Leo Smithのトランペットであったわけだが,この切込み具合が実にいいと思えた。

中年音楽狂と言えば,Brad Mehldauなのだが(爆),今年も彼自身のアルバムや客演アルバムがリリースされて,非常に嬉しかった。リーダー作が2枚,Charlie Hadenとの発掘音源,ECMでのWolfgang Muthspiel作,奥方Fleurineのアルバムで4曲,そしてLouis Coleのアルバムで1曲ってのが,今年発売された音源ということになるはずだが,その中ではチャレンジングな"After Bach"を推すべきと思っている。ジャズ原理主義者からすれば,こんなものはジャズとは言えないってことになるだろうが,ジャンルを越境するのがBrad Mehldauなのだということを"After Bach"は強く感じさせてくれた。

ジャズという音楽に興奮度を求めるならば,これも年末に届いたAntonio Sanchezの新作"Lines in the Sand"が凄かった。SanchezはWDR Big Bandとの共演作"Channels of Energy"もリリースしたが,興奮度としては,"Lines in the Sand"の方が圧倒的であり,これぞAntonio Sanchezって感じさせるものであった。このエネルギーを生み出したのはトランプ政権への怒りだが,メッセージ性がどうこうというレベルをはるかに越えた興奮度を生み出したことは大いに評価したい。

もう一枚の興奮作はJohn McLaughlinとJimmy Herringの合体バンドによるMahavishnu Orchestraの再現ライブ,"Live in San Francisco"であった。McLaughlinももはや後期高齢者であるのだが,何なんだこのテンションは?と言いたくなるのは,以前4th DimensionのライブをBlue Note東京で見た時と同様である。いずれにしても,ロック的な興奮という点では,このアルバムを越えるものはないだろう。

そのほかに忘れてはならないアルバムとしてあと3枚。1枚は本田珠也の"Ictus"である。これは2018年の新年早々ぐらいにリリースされたものであり,記憶が風化しても仕方がないのだが,このアルバムを聞いた時の印象は実に鮮烈であった。こうした素晴らしいアルバムが日本から生まれたことを素直に喜びたい。実に強いインパクトを与えてくれた傑作であった。

そしてCharles LloydとLucinda Williamsの共演作,"Vanished Gardens"を挙げたい。アメリカーナ路線を進むCharles LloydがLucinda Williamsという最良と言ってよい共演者を得て,かつ80歳を越えたと思えぬ創造力を維持しながらリリースした本作は,前作"I Long to See You"には及ばないかもしれないが,今年出たアルバムにおいて,決して無視することができない存在感を示している。ここにWayne Shorterのアルバムを入れていないのは,あのパッケージ販売が気に入らないからであって,音楽だけならもっと高く評価していたと思えるが,Shorterの分までCharles Lloydを評価したい。

最後に今年の最も美的なアルバムとして,Lars DanielssonとPaolo Fresuという好き者が聞けば涎が出てしまうような組合せによるデュオ・アルバム,"Summerwind"を挙げておこう。聞き手が想像し,期待する世界を体現するこの二人による超美的なサウンドにはまじで痺れてしまった。世の中がこのように穏やかなものとなることを祈念しつつ,今年の回顧を締めくくりたい。

2018年11月18日 (日)

出張から帰ったら届いていたCharlie Haden~Brad Mehldauデュオの現物。

"Long Ago and Far Away" Charlie Haden & Brad Mehldau(Impulse!)

Long_ago_and_far_away既にストリーミングでは聞けていたこのアルバムの現物が,出張から帰ったら届いていた。昨日はバテバテでさっさと寝てしまったので,今日になって開封して聞いているが,まぁ,想定通りと言えば,これほど想定通りの音もないって感じである。

そもそもCharlie HadenとBrad Mehldauの縁は結構古い。Lee Konitzを加えたトリオでのライブを吹き込んだのが97年の暮れ,そこにPaul Motianを加えたクァルテットでECMにライブ・レコーディングしたのが2009年,Charlie Hadenとのバラッド・アルバム"American Dreams"をレコーディングしたのが2002年,更にはHadenの奥方,Ruth Cameronのアルバムや,娘のPetra Hadenのアルバムへの客演時にもCharlie Hadenとは共演しているから,彼らがデュオで演奏する機会を持ったとしても,それはまぁ不思議ではないということである。しかし,2014年にCharlie Hadenが亡くなって,デュオによる演奏を聞くことができないのかと思っていたところへの,このアルバムのリリース告知は非常に嬉しいものであった。

本作がレコーディングされたのは2007年なので,もはや10年以上前であるが,その頃はBrad MehldauはMetheny Mehldauをやっている頃のはずである。そこへPat MethenyともデュオでやったCharlie Hadenとのデュオがその頃に吹き込まれているというのは何となく因果を感じる。

そして,ヘッドフォンを通じてストリーミングで聞いた時よりも,我が家の甚だシャビーではあるが,スピーカーを通して聞いた時の印象は結構違っていた。それは音楽を聞く環境が通勤途上の「ながら聞き」と,音楽だけに集中している時の違いと言ってもいいかもしれないが,この時の対話の深みみたいなものをついつい感じてしまったのである。例えば,Irving Berlinが書いた"What'll I Do"のような古い曲でさえが,現代的な美しさを持って再生されていて,実に驚いてしまった。これは通勤途上で聞いた時に感じることがなかった感覚なのだ。

まぁ,デュオ名人のCharlie Hadenと,私が追っかけをするBrad Mehldauが合体すれば,真っ当な演奏にならないはずはないのだが,やはりこの共演は素晴らしい成果を生んだと言ってよい。Ruth Cameronが書いたライナーによれば,Charlie Hadenが初めてBrad Mehldauを聞いたのは,MehldauがJoshua Redmanのバンドでピアノを弾いていた時,それも1993年9月19日のことだったそうである。その瞬間からCharlie HadenはBrad Mehldauの才能を認識していたとのことであるが,若くしてHadenにそう思わせたBrad Mehldauも大したものである。Hadenに"This pianist is brilliant. He is special, so unique."とまで言わしめたのであるから,これはMehldauのファンを自認する私としても嬉しい。

このアルバムはRuth CameronとBrad Mehldauの共同プロデュースの元にリリースされたものであるが,このお二方の心のこもったライナーを読むだけでも価値のある作品と言ってよいと思う。もちろん,これって最高だっ!て言いきれるものではないと感じる部分もあるにはあるのだが,リリースしてくれたことだけでも星★★★★★としてしまおう。ダウンロード音源としてだけ公開された"No Moon at All"なしでも十分楽しめることは間違いない。

Recorded Live on November 5, 2007

Personnel: Charlie Haden(b), Brad Mehldau(p)

2018年11月 5日 (月)

Charlie HadenとBrad Mehldauのデュオ・ライブ。現物はまだ来ていないが,ダウンロード・オンリー音源の話。

"Long Ago and Far Away" Charlie Haden & Brad Mehldau(Impulse)

Long_ago_and_far_away故Charlie Hadenは数々のデュオ・アルバムを残しており,まさにデュオ名人と言ってもよいぐらいだと思うが,彼が生前,Brad Mehldauとのデュオによるライブ音源を残していたと知った時は大いに喜んだ私である。当然のことながら,即発注となった訳だが,現物はまだ届いていないので,ストリーミングでその音楽を聞いていた。

そして,本作を出張の道すがら,ストリーミングで聞いていて,演奏時間が妙に長いと思ってしまったのである。その時,私は東北に向けて移動中で,新幹線の中で,うつらうつらしていたのだが,目的地に近づいても,まだプレイバックが続いているのだ。演奏時間はCDの限界を越える時間のはずだと思ってよくよく見たら,ストリーミング音源には最後に12分を越える"No Moon at All"がダウンロード・オンリーで入っている。とあっては,この音源も入手せねばならん(きっぱり)。ということで,ダウンロードしようと思うと,曲単位のダウンロードはできず,アルバム全体を購入する羽目となった。まぁ,そんな高くないからいいんだけど...。

本編はそれだけで70分を越えているので,この"No Moon at All"が媒体のボーナス・トラックとして出ることは考えにくい。だから,まぁこれはダウンロードしてもいいやという判断もあるものの,無駄と言えば無駄だよなぁ。でも,こういうのもちゃんと聞いてこそ,真のBrad Mehldauファンである(きっぱり)。単なるアホ,あるいはオタクだと言われれば,返す言葉はない。

本作については,正式には現物が来てからレビューしたいと思うが,これも「コレクターはつらいよ」シリーズとしてアップしたいぐらいである。なかなか大変だよねぇ。

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