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2019年5月29日 (水)

Kendrick Scott Oracleの新作:驚きはないが,よく出来たアルバム。

_20190527 "A Wall Becomes a Bridge" Kendrick Scott Oracle(Blue Note)

この記事を書こうと思って,過去の投稿を振り返ってみると,何と私はKendrick Scottのアルバムについては記事をアップしておらず,ライブについてのみ書いていたことがわかって,あれ~,そうなんだ...と独りごちてしまった。そうは言いつつ,Kendrick Scottのライブは1回しか見たことがないし,直近の来日公演も都合がつかず,行けなかった。おそらく,この新作からの曲も演奏したであろうはずのライブだったので,行きたかったのだが,まぁ仕方がない。

Kendrick Scottのアルバムは前作,"We are the Drum"と前々作,"Conviction"を保有しているが,コンテンポラリーなサウンドが展開された,いかにも今のNYC的なジャズ・サウンドが聞けて,実に嬉しかったというのが実感だ。それに続くアルバムであるが,今回はターンテーブルの導入など,今までにない取り組みもあり,コンテンポラリー度はこれまでと同様とも言えるが,ややRobert Glasper的な感覚,あるいはヒップホップ的な感覚が高まったとも言えるかもしれない。それはサウンド・エフェクトを加味していることからも感じられるが,Derrick Hodgeが今回もプロデュースしていることもあれば,やはりRobert Glasperとは一脈通じるところがあるミュージシャンなのだと思える。まぁ,彼らはBlue Note All Starsのアルバムでも共演しているし,二人ともGretchen Parlatoともつながりがあるから,同質性はあると言ってもよいのだろう。

そして,このバンド,メンツのレベルの高さが半端ではないというのが,今回も変わりなく,特にMike Morenoのフレージングは突出した魅力を持っているように聞いた。これはライブで彼らを聞いた時も同じ感覚であり,Oracleのサウンドにおいて,Mike Morenoの果たす重要性を認識できる。その一方,ライブではプッシュが効いているKendrick Scottのドラミングは,今回はちょっと控えめのようにも思えた。彼らの演奏にも驚かなくなったということもあるとは思うが,それでも十分にレベルの高い佳作ではあると思う。ってことで,星★★★★ぐらいにしておこう。

尚,このアルバムのタイトルはライナーには明示的には書いていないが,アンチ・トランプのメッセージだと思える。

いずれにしても,このバンドの最新ライブは見ておきたかったというのが正直なところだが,後悔先に立たず。

Personnel: Kendrick Scott(ds, vo), John Ellis(ts, ss, b-cl, cl), Taylor Eigsti(p, rhodes), Mike Moreno(g), Joe Sanders(b), DJ Jahi Sundance(turntable)

2019年5月27日 (月)

今回も素晴らしい音場を聞かせるBill Frisell~Thomas Morganのデュオ・ライブ。

_20190526-2 "Epistrophy" Bill Frisell & Thomas Morgan(ECM)

Bill FrisellとThomas Morganのデュオによるライブ,"Small Town"がリリースされたのが2017年のことであった。それから約2年を経て,同時期に同じくVillage Vanguardで録音された姉妹編ライブがリリースされた。前作が出た時,私はVanguardのような場所でこういう演奏が展開されたことに驚きを覚えた(記事はこちら)のだが,今回もメンツが同じなのだから,同一路線であることは当然である。しかし,こうして2枚目が出るってことは,ボツにするには惜し過ぎるとManfred Eicherが感じたからなのかもしれない。まぁ,それも納得できる演奏である。

それにしても面白いレパートリーである。「ラストダンスは私に」とか,「007は二度死ぬ」のテーマ,"You Only Live Twice"とかをやってしまうってのがそもそも普通ではない。だが,こういう曲がタイトル・トラックであるThelonious Monk作"Epistrophy"や"Pannonica"と並んでいても,何の違和感もないってのが逆に凄い。まぁ,前作でも"Goldfinger"をやっていたから,結構007好きなの?と思ってしまう(笑)。年齢からするとビルフリの趣味だろうが...。いずれにしても,"You Only Live Twice"はイントロから,原曲のメロディ・ラインを結構忠実に弾いていて,へぇ~と思ってしまった。こういうのも大いにありだなとも思う。

上述の2曲を除けば,選曲からすれば,結構ジャズ的なチョイスと言うこともできるのだが,サウンドとしては,もはやこれはジャズ的と言うよりも,私にとってはアンビエント的な感覚さえ覚えてしまう。だが,これはやはり中毒性があると感じてしまうアルバムである。甘いの承知で星★★★★☆

Recorded Live at the Village Vanguard in March 2016

Personnel: Bill Frisell(g), Thomas Morgan(b)

2019年5月26日 (日)

真夏のような暑さの中で”Blue”を聞く。

_20190526 "Blue" Joni Mitchell(Reprise)

私はJoni Mitchellのファンだとか言いながら,実はこのブログでは彼女の公式アルバムについてはあまり記事をアップしていない。これまでは"Hejira"と"Miles of Isles"ぐらいしか取り上げていないはずである。だが,そろそろちゃんと彼女のアルバムについて書いた方がいいのではないかと思ってしまったのは,ブログのお知り合いの910さんが,ジャコパス入りのJoni Mitchellのアルバムを連続投稿されていることも影響しているのは間違いない(笑)。

ってことで,外では5月下旬とは思えない暑さが続く中,ピックアップしたのが"Blue"である。これをJoni Mitchellの最高傑作に挙げる人は多いし,世の中の評価も無茶苦茶高い。米国の公共ラジオNPRは本作を”Greatest Album of All Time Made by a Woman"に挙げているぐらいである。私個人的なJoniの最高傑作は"Hejira"ではあるが,このアルバムに収められた曲のクォリティの高さは,"Hejira"とはちょっと違う世界ではあっても,レベル的には同等と言ってよい。私が"Hejira"を評価するのは音楽全体としてだが,個別の表現という意味では"Blue"の方が強烈である。

このアルバムに収められているのは,私小説的心象風景とも言われるが,このアルバムはJoni MitchellとGraham Nash,あるいはJames Taylorとの恋に破れたJoniの感情が表出しているがゆえに,シンガー・ソングライターの世界における金字塔と言っても過言ではない評価を得ているとも思える。歌詞を真面目に読むと,それこそ切なくなるような表現に満ちているが,これぞ音楽による心もようの描出と言ってよいであろう傑作。ここまで来ると純文学。改めて聞いているとグサグサ心に刺さる。星★★★★★以外あるまい。

Personnel: Joni Mitchell(vo, g, p, dulcimar), Stephen Stills(b, g), James Taylor(g), Sneaky Peat Kleinow(pedal steel), Russ Kunkel(ds)

2019年5月25日 (土)

森高千里:歳を取っても可愛いねぇ。

Photo_17 出張の道すがら,Apple Musicで音楽を聞こうと思って,iPhoneを見ていた。すると,ニュー・リリースとして森高千里の『「ザ・シングルス」Day1・Day2 Live 2018 完全版』なる音源がアップされていたので,森高好きの血が騒ぎ(爆),早速聞いてみたのだが,おぉっ,シングル曲をリリース順にライブで再現しているではないか。新幹線での移動中,ほぼDay1を聞き終えたのだが,何とも懐かしく,そして森高千里の声が全然変わっていないことに驚かされてしまった。

森高は昨年,私が勤務する会社のイベントに登場して,その場を大いに盛り上げたのだが,その時にもその変らぬ魅力に,改めて元森高ファンとしての懐かしさを越えて,大したもんだと思っていた。しかし,この音源を聞いていて,これは全く凄いことはないかと思ってしまった。この声の変わらなさ,実に素晴らしい。この音源は先日リリースされたばかりのBlu-rayからのものだろうが,これは映像を見なければならんということで,即発注してしまった私であった。我ながらアホだと思いつつ,途中で歌詞が飛ぶのも可愛く,そして本当に懐かしかったのだ。Blu-rayが届くのが今から楽しみになってきた。

2019年5月22日 (水)

これも保有を失念していたEric Kloss盤。

One_two_free ”One, Two, Free" Eric Kloss(Muse)

これも紙ジャケのCDを格納した棚を漁っていて見つけた(笑)アルバム。そう言えば持っていたなぁと思いつつ,最近はちっとも聞いていなかった。

多くの人にとっては,リーダーのEric Klossと言うよりも,共演者Pat Martinoに魅かれて購入するのではないかと思われる作品だろう。まぁそうは言っても,Eric Klossにもリーダー作は多数あるし,Richie Coleの人気が急上昇した頃には,Richie Coleとの共演盤,"Battle of the Saxes"なんてのも国内盤も出たのではなかったか。それでもやはりEric Kloss自体のポピュラリティは限定的だったと言ってよいだろうが,デビュー作からPat Martinoが共演していることもあり,結構両者の縁は深いものだったと想像される。

そうした両者の参加したアルバムであるが,LP時代ならA面を占めるタイトル・トラックを冠した組曲は,フリー一歩手前の感覚を醸し出す演奏もあって,私の中でのPat Martinoの印象と結構異なる感じがする。それでも,このアルバムが録音された時代感だと言ってしまえばその通りかもしれない。更に,時代感と言えば,その後に入っているCarole Kingの"It's Too Late"がタイトル・トラックと落差が大き過ぎて,思わずずっこけそうになってしまった(笑)。こういう選曲をしてしまうのも時代の成せるわざ。

ってところで,Eric Klossのアルトってのはどういう特徴かと聞かれても答えにくいってのが,このアルバムを聞いた後の正直な感想。それこそ,ついついPat MartinoとDave Hollandに耳が行ってしまった私であった。でもこれは少なくともPat Martinoの本質とは異なるだろうってことで,星★★★☆ってところかな。

Recorded on August 28, 1972

Personnel: Eric Kloss(as), Pat Martino(g), Ron Thomas(el-p, tambourine), Dave Holland(b), Ron Krasinski(ds)

2019年5月21日 (火)

Brad Mehldauの新譜”Finding Gabriel”は美しさとスリルを共存させたコンセプト・アルバム。実に面白い。

Finding-gabriel_1 "Finding Gabriel" Brad Mehldau(Nonesuch)

既にストリーミングでも2曲が公開されていたBrad Mehldauの新譜がリリースされた。最初に公開された"The Garden"を聞いた時から,本作がかなりの問題作であることはわかっていたが,こうして全編を聞いてみると,これは確かに問題作という評価も可能だが,むしろ聖書を題材として作り上げたコンセプト・アルバムという評価の方が適切である。

一番の話題はヴォイスが加わっていることだと思うが,聖書を題材としたことからすれば,「聖歌」をイメージしてのことと解釈することも可能だろう。ここでのヴォイスは男声と女声のミックスであるが,Gabriel Kahaneの声が,Pat Metheny GroupにおけるPedro Aznarのような感覚を覚えさせる瞬間があったのは面白い。その一方でこのアルバムを特徴づけているのがシンセサイザーの響きであり,聖歌とシンセサイザーというアンマッチな感覚さえ与える組合せから作り出されるサウンドが実に面白い。それでも全然難しいところはないし,美的な感覚を与える瞬間もあれば,例えば冒頭の"The Garden"後半に聞かれるスリリングな展開もあるという,緩急と様々な要素を交錯させた響きなのだ。

Brad Mehldauが典型的なジャズから離れた音楽をリリースするのはこれまでもあったことだし,彼の越境型の活動を考えれば,今回のアルバムのリリースも驚くほどのことではないのかもしれない。しかし,Brad MehldauのWebサイトにも,かなり深い聖書に関する記述があり,聖書が彼の創作に影響を与えたことは紛れもない事実であり,それを反映させた音楽として聞いていると,これが聖歌のように聞こえてくる瞬間もあるから不思議である。

ドラムスのMark Guilianaは結構激しく,そして手数多く叩く瞬間もあるが,全体的には彼にしては抑制された感じがする。なぜならば,これはビートを強調した音楽ではないし,Mehldauが言うように聖書を"one long nightmare or a signpost leading to potential gnosis"とするような哲学的な感覚を付与した音楽なのだから,そういう風になるのも当然か。だが,その一方で6曲目"The Prophet Is a Fool"にはDonald Trumpへの強烈な批判的なトーンも現れて,さまざまな感情が交錯する。

こういうところが頭でっかち的に見えて,鼻につくってリスナーも世の中にはいるだろうが,Brad Mehldauは昔からこういう人なのである。様々な文学やクラシック音楽も吸収した上で作り上げられた彼の音楽性が強く表れたアルバムと言えるだろう。やはりこの人のやることは面白い。間もなくに近づいた東京でのトリオ,そしてソロ公演はどのようになるのか?おそらくこのアルバムとはほとんど関係ない世界の演奏をしてしまうはずだが,本当に幅広い人である。我ながらBrad Mehdauには甘いと思うが,やっぱり星★★★★★だ。だって面白んだもん。

Recorded between March 2017 and October 2018

Personnel: Brad Mehldau(p, synth, el-p, perc, vo, and others), Mark Guiliana(ds), Becca Stevens(vo), Gabriel Kahane(vo), Kurt Elling(vo), "Snorts" Malibu(vo), Ambrose Akinmusire(tp), Michael Thomas(fl, as), Charles Pillow(ss, as, b-cl), Joel Frahm(ts), Chris Cheek(ts, bs), Sara Caswell(vln), Lois Martin(vla), Noah Hoffeld(cello), Aaron Nevezie(sampler)

2019年5月20日 (月)

出張中に見た映画:「ハンターキラー 潜航せよ」

Hunter-killer 「ハンターキラー 潜航せよ("Hunter Killer")」('18,米/英/中)

監督:Donovan Marsh

出演:Gerald Butler,Gary Oldman,Common, Michael Nyqvist,Linda Cardellini

先日,短期で韓国に出張したのだが,搭乗したのは成田~釜山便。沖縄に行くより搭乗時間は短いので,映画を見るには中途半端。基本的に往復で1本を見られればいいって感じである。そこで選んだのがこの映画である。

潜水艦ものってのは映画のネタとして,結構な数がある。私の中では「眼下の敵」が最高と思っているが,「レッド・オクトーバーを追え!」も面白かったねぇ。潜水艦ものってまぁそれなりに楽しめる作品もあると思いつつ,実は機内エンタテインメントで見るには結構厳しいという実感が私にはある。以前出張時に「真夏のオリオン」という日本の潜水艦映画を見たことがあるのだが,当然のことながら,海中/海底シーンが多いと画面が暗い。機内エンタテインメントのモニター画面は以前に比べれば改善しているが,そこはエコノミー・クラスの画面に多くを求めてはいかん。だから,この映画を選ぶ時にも「真夏のオリオン」同様に見づらいところがあるだろうなぁと思っていた。結局はそれは今回も同じだったが...。

この映画,それでもって潜水艦映画によくある「男の友情」みたいなものが描かれてしまうところは極めて予定調和的。一方でロシアでクーデターが起こって,現職大統領が拉致されるというある意味無茶苦茶な展開もあるが,海側からだけでは不足と感じたか,陸上側の対応もかなりの時間を割いて描かれている。

ではあるのだが,このストーリー展開の遅さは一体何なのかと思ってしまった。往路で見ていて,どれぐらい時間が経過したかと確認してみるとまだ30分しか経っていない。トータル2時間越えの映画の中で,この緩い展開にはさすがに何とかしてくれと思っていた。まぁ,それでも現在の潜水艦技術,あるいは対魚雷対策ってこんな感じなのねぇと妙なところで感心する部分もあった。それにしてもこれはやはりストーリーに無理があるし,ご都合主義的展開も感じられる凡作。星★★☆。

それにしても,このポスターを見ると,Gary Oldmanが主役級の扱いになっているが,基本的には特別出演的な感じで,別にGary Oldmanじゃなくたっていいじゃんというレベル。

2019年5月17日 (金)

やっぱりNik Bärtschは面白く,心地よい。

_20190516"Aer" Nik Bärtsch’s Mobile (Tonus Music)

私が初めてNik Bärtschの音楽を聞いたのはECMにおけるデビュー作”Stoa"だったが,それ以来彼らの「ミニマル・ファンク」とでも呼びたく音楽にはまってきた。あまりに好きなので,彼らがECMに移籍する前のアルバムもせっせと購入しているが,本作はNik Bärtsch Mobile名義の2003年の録音である。

前にも書いたことだが,彼らの音楽性は時が経過してもちっとも変わらない。それをよしとするかどうかはリスナーの好みってことになるだろうが,私にとっては全然問題ない。とにかく彼らの音楽は私の嗜好にばっちり合ってしまっているのである。

それでもって,本作はMobile名義なので,基本アコースティック路線であり,裏ジャケにはご丁寧に"No Overdubs, No Loops, All Sounds Are Purely Acoustic"と書いてある。しかもここでもECMのMobile名義の"Continuum"同様ベースレス。

こういう音楽に興味のないリスナーにとっては,全く何がいいのかわからない感じかもしれないが,このミニマルとアコースティックでありながら,ファンクを感じさせる音楽には私は本当にはまってしまうのだ。いつ聞いても,カッコいいと思ってしまうのは惚れた弱みかもしれないが,好きなものは仕方がないのだ。たまりまへん。アコースティックでも全然変わらぬ良さに,甘いの承知で星★★★★★としてしまおう。

でもこれってジャズなのかって聞かれると微妙だな(爆)。

Recorded in August, 2003

Personnel: Nik Bärtsch(p), Sha(b-cl, as), Mats Eser(marimba, perc), Kasper Rast(ds)

2019年5月14日 (火)

TOKによる正調フリー・ジャズ。

_20190504-3 "Paradox" TOK(JAPO)

ラックを漁っていたら,これが出てきた(笑)。私が保有しているのは紙ジャケ仕様のCDだが,紙ジャケのCD群は私が別の棚に収納しているので,実はプレイバック頻度がそれほど高まらないって話もある。まぁ,それでもたまにラックを見ていると,こんなのも持っていたねぇってのも実は結構ある(だから家人にバカにされる)。

それはさておき,これは加古隆がまだフリー・ジャズを演奏していた頃に,レギュラー・トリオとして活動していたTOKによるアルバム。TOKという名称はメンバーのファースト・ネームの頭文字の組合せというベタなものだが,やっている音楽は全然ベタではない(笑)。

本作はもともとはECMの傍系レーベルであるJAPOから出ているものだが,このジャケ写真を見てもらえばわかる通り,日本盤には右肩にECMのロゴが入っている。ECMとする方が売れたというのが本作が出た79年とか80年当時の実情かもしれないが,プロデュースもSteve Lakeなので,ECMにおけるフリー寄りの音楽と同質性が高いと言っても問題はないだろう。だが,オリジナル盤のジャケットには当然のことながらECMのロゴは入っていない(因みに私が保有しているのは紙ジャケCD)。

主題には正調フリー・ジャズと書いたものの,「破壊的」なフリー・ジャズではない。動的なものと静的なものを組み合わせつつ,それこそ「自由度」の高い音楽をやっているということである。それが実にスリリングな響きをもたらす。3曲目の"Dodec"冒頭に聞かれるKent Carterのベース・ソロなんてまさにぞくぞくする響きなのだ。久々に聞いたのだが,これほど刺激を受けるとは思わなかった。はっとするような美しさを示す瞬間もある加古隆のピアノだけでなく,Kent Carter,Oliver Johnsonの両者の演奏ぶりも非常に優れていると思わせる。実にレベルの高い正調フリー・ジャズである。

それにしても,5曲目には「石庭」というタイトルがついているが,私のような凡人が「石庭」に抱くイメージは「静寂」であるが,それと真逆な激しい演奏が展開されるのが実に面白かった。

Recorded in June, 1979

Personnel: 加古隆(p),Kent Carter(b),Oliver Johnson(ds)

2019年5月13日 (月)

全くノーマークだったMarc Coplandの新作。

Gary "Gary" Marc Copland (Illusionsmusic/澤野商会)

Marc Coplandのソロ・ピアノによる前作"Nightfall"も全くノーマークだったのだが,今回の作品も出たことすら全然認識しておらず,"Nightfall"同様,ブログのお知り合い910さんの記事で認識したものである。全く最近はショップ通いも限定的なな中,情報の鮮度が保てないってのは問題だと思いつつ,早速発注したものである。

本作はフランスのPhillipe Ghielmettiがプロデュースしたものを澤野商会が配給しているもの。アルバムのタイトルは昨今,Marc Coplandが共演しているGary Peacockのオリジナル7曲に,Peacockの元妻,Annett Peacockによる"Gary"をアルバム・タイトルとした8曲から構成されている。

私がMarc Coplandの音楽に惹かれるのは,その美的な響きによるところが大きい。私はCoplandのアルバムを原則ソロ,弦楽器とのデュオ,そしてトリオでしか聞かないという偏った聞き方をしている人間であるが,それもこれもCoplandの美学はそういう編成でこそ発露されると思っているからにほかならない。今回もピアノ・ソロであるから,無条件購入なのである。

今回のアルバム,上述の通り,Gary Peacockゆかりの曲を演奏しているという「企画」が最大の特徴なのだが,冒頭からややアブストラクトな響きが聞こえてくる。ただアブストラクトなだけでなく,そこに美的感覚を投入するのはMarc Coplandらしいところであるが,甘美さはやや控えめというところだろうか。既にCoplandのアルバムやPeacockのアルバムで演奏された曲も,違った印象を与えているような気がする。そこはかとない仄暗さと言えばいいだろうか。

こうした音楽については,かなり嗜好がわかれるというのはいつも通りのことであるが,全部が全部というわけではないのだが,このアルバムから感覚,私にとっては現代音楽のピアノを聞いている時におぼえるいい意味での「冷たい感覚」に近いものを感じたのも事実である。エンジニアはECMでも最近仕事が増えているGerald de Haroである。サウンド的に私が惹かれるのはそれも影響しているかもしれない。

いずれにしても万人受けする音楽ではないが,この手の音楽が好きなリスナーにとっては訴求力の高い音楽。こういう音楽にはついつい評価も甘くなり,星★★★★☆。尚,本作は世界1,200枚限定だそうである。ご関心のある方はお早めに。

Recorded on April 12&13,2018

Personnel: Marc Copland(p)

2019年5月12日 (日)

Warren Zevon: 商業的成功とはあまり縁のない人だったが...。

_20190504 "The Envoy" Warren Zevon(Asylum)

Warren Zevonという人は,批評家やミュージシャンからは高く評価されながら,全然売れなかった訳ではないとしても,大きな商業的な成功とは縁がない人だったと言っていいだろう。確かに普通のアメリカン・ロックやSSWの感覚で言えば,多少癖のある人だとは思う。しかし,音楽の質は十分高いことは間違いないと思っている。それまでのプロデュースだって,Jackson BrowneやWaddy Wachtel等が行っていることだけでもポイントが高い。本作もWarren Zevon本人とWaddy Wachtel,そしてDon Henleyのソロ・アルバムにも関わったGreg Ladanyiがプロデュースなのだから,それだけで好きものはよしと判断してしまうようなものだ。

そして,私がリアルタイムでこの人のアルバムを購入したのは,本作"The Envoy"が初めてだったはずである。本国では全然売れず,その結果Asylumとの契約を切られたって話だが,私はこのアルバムを売らずにいまだに手許に置いている。リリースは82年なので,私は大学生になっているが,帰省中に京都か神戸の輸入盤屋で買ったような気がする。

一聴して,冒頭のタイトル・トラックなんかは,アメリカン・ロックの典型からは随分と離れた感じがする。ほかの収録曲と比べても,特にこの曲の異色さが際立っているように思う。そのほかの曲もロック・テイストあり,ハワイアン・テイストあり,SSWっぽい曲ありと,実に多様な感覚がある訳だが,その辺りに戸惑いを感じるリスナーがいても不思議はない。しかし,バックにコーラスで参加している面々を見れば,この人の音楽界における立ち位置のようなものもわかるような気がする。それでも売れないものは売れないのだから仕方がないが,少なくとも誰かに媚びるような音楽ではない。

この人の持つ骨太さゆえにセールスに結びつかなかったような部分も多々あるとは思うが,質が高いだけにもったいないと思う。まぁ評価としては星★★★★ぐらいが妥当とは思うが,もっと知られてよいアルバムだと思う。今度はVirginレーベル時代のアルバムでも久々に聞いてみることにしよう。

Persoonel: Warren Zevon(vo, g, p, synth), Waddy Wachtel(g, vo), David Landau(g, vo), Steve Lukather(g), Danny "Kootch" Korchmar(g), LeRoy Marinell(g), Kenny Edwards(g), Leland Sklar(b), Bob Glaub(b), Jeff Porcaro(ds), Rick Marotta(ds), Russell Kunkell(ds), Jim Horn(recorder), Don Henley(vo), Lindsay Buckingham(vo), Jordan Zevon(vo), Jorge Calderon(vo), J.D. Souther(vo), Graham Nash(vo)

2019年5月11日 (土)

ご依頼を頂き,台湾のプレイヤーのアルバムを聞く。

_20190510"110 West" Jay Hung(自主制作盤)

ブログのお知り合いの910さんからのご依頼により,この台湾出身のキーボード・プレイヤーのアルバムを聞いている。Jay Hungという人は初聞きだが,彼のWebサイトによれば,1971年生まれと言うことだから,結構な年齢である。これまでは他のミュージシャンのバックを務めることが多かったようで,このアルバムが初リーダー作のようである。因みに彼のWebサイトの”About"の項は繁体中国語,英語,そして日本語でもコンテンツが作られている(まぁ翻訳しただけだが)のには驚いた。

そして,このアルバムはと言えば,典型的なフュージョン・アルバムである。ピアノの響きはBob James的に響くこともあれば,Joe Sample的にもRichard Tee的,あるいはJeff Lorber的に響くこともある。その辺りが彼の出自ってところになるってことだろう。本作ではアコースティック・ピアノ(一部MIDIにもつないでいるだろう)をプレイしているが,バックのサウンドがスムーズ系もあれば,ファンク系もある中で,ほぼピアノに徹しながら,音が埋没することがないのはある意味立派である。

ローカルなミュージシャンの音楽に接する機会がなかなかない中で,たまに名前も聞いたことがない地元のミュージシャンのライブを聞いたりすると,なかなかうまいねぇと思わされることは多々ある訳だが,この人もキャリアはだてではないと思わせる。バックを支えるミュージシャンもゲストで1曲目でソロを取るRandy Breckerと,5曲目に参加するAllen Hinds以外は全然知らない人たちだが,全く破たんのない展開で結構楽しめる。特にギターのMike McLaughlinのソロはなかなかいけている。

本作の制作にはかなりの時間が掛かっているようだが,リリースに対する強い意思があってこそのアルバムということだと思う。最後の曲の唐突なエンディングには若干戸惑うが,台湾のミュージシャンのレベルをうかがい知るに十分な作品である。星★★★☆。それにしても,凝ったパッケージで,結構コストが掛かったんではないかと思ってしまう。余計なお世話だが。

Personnel: Jay Hung(p, key), Mike McLaughlin(g), Christopher(g), Allen Hinds(g), Martinell De Castro(g), Andy Pearson(b), Brian Chiu(b), Sakura Yamamoto(ds), John Thomas(ds), Chris Trzcinski(ds), Leonard Antonio Susi(perc), Randy Brecker(tp), Brenda Vaughn(vo), Zorina London(vo)

2019年5月10日 (金)

ターンテーブルも入れたWallace Roneyのコンテンポラリー寄りのサウンドなんだけどねぇ...。

_20190502-2 "Jazz" Wallace Roney(High Note)

アルバム・タイトルが"Jazz"とはよく言ったもんだ。でもWallace Roneyには言われたくない(きっぱり)。現在も現役でアルバムをリリースしているWallace Roneyだが,私の中ではパッとしない人である。彼がTony Williamsのクインテットにいる頃は結構よかったと思う。また,モントルーのMiles DavisとGil Evansの共演の再現ライブで,Milesのフレーズの補佐を行ったのはまだよしとしよう。しかし,Herbie HancockはじめとするV.S.O.P.に,Freddie Hubbardの代わりに入って吹いた"A Tribute to Miles",更にはそのバンドで来た時の"Live under the Sky"での生演奏には正直言ってがっくりさせられたという印象がよろしくない。

このアルバムが出た時には,Geri Allenや,Milesバンド出身のRobert Irving IIIも参加していることもあり,もう少し弾けるのかと思ったが,結局この人のやることが中途半端なのが気に入らない。全然振り切れていないので,参加しているミュージシャンを有効に使えていると思えないのだ。そして,決定的な難点が,曲のつまらなさ。これは曲を提供しているのがWallace Roneyだけではないので,ちょっと言い過ぎってきもするが,いずれにしてもこのアルバムの曲が全然面白くないのである。そこにいかにもMilesのカーボン・コピー的な音で吹かれてもねぇ。となると私は冷める一方。そして,最後がなんで"Un Poco Loco"なのやら。さっぱり訳がわからん。

ってことで,これをまだ保有していたこと自体がおかしいだろうと思いたくなるような駄盤。次の機会には間違いなく「売り」だが,二束三文で買い叩かれること必定だな。星★☆。なんで買っちゃったんだろうねぇ...。

Recorded on March 12 & 13, 2007

Personnel: Wallace Roney(tp), Antoine Roney(ts, ss, b-cl), Geri Allen(p, key), Robert Irving III(key, rhodes), Rashaan Carter(b), Eric Allen(ds, perc), DJ Axum(turntables), Val Jeanty(turntables)

2019年5月 9日 (木)

Hall & Oates:懐かしい~!

_20190504-2 "Private Eyes" Daryl Hall & John Oates(RCA)

私が学生時代の70年代後半から80年代前半に次々とシングル・ヒットを放ったのがHall & Oatesであった。正直言ってしまえば,私にとってはベスト盤を聞いていればOKって感じの人たちな訳だが,廉価盤シリーズ”Original Album Classics"で出た彼らの全盛期に当たるRCA在籍中の5枚組は保有している。だからと言って,しょっちゅう聞くわけでもないのだが,今回も完全に気まぐれ。やっぱりアルバムとしての印象は私の中では薄いので,保有はしていてもちゃんと聞いていない感じだな(苦笑)。

Hall & Oatesの特徴と言えば,ロックとソウルをうまく混ぜ合わせたような感じってことになるだろうが,このアルバムでもそういう彼らの特性がよく表れている。このアルバムからは"Private Eyes"と”I Can't Go for That (No Can Do)の2曲の全米No.1ヒットを生んだが,それだけに限らず,なかなかアルバムとしてもよくできていたと改めて感心した私である。

何よりも曲のクォリティが私が思っていたより高いってことがあったが,やはり当時の勢いそのままってところなんだろうと思える充実度を示している。バンドとしてはどうしてもリード・ヴォーカルを取る頻度が高いDaryl Hallの方に注目が集まってしまうのは仕方ないところだが,John Oatesがリードを取る曲も結構いけているのだ。

そんな彼らに失速感が出てきたのは,シングル・ヒットが出なくなってからだと思うが,この人たちはシングル・ヒットをトリガーにした活動をする人たちだったということに改めて思い至る私である。今となっては保有せずともストリーミングで十分かなぁって気もするが,意外な発見にも満ちたアルバムであった。Peter Gabrielと共演にしていたLarry FastやJerry Marottaの参加も,Hall & Oatesの音楽性を考えると実に意外だと思う。星★★★★。

それにしても,本作ももはや40年近く前のアルバムってところにこれまた時の流れを感じるねぇ。歳をとる訳だ(爆)。

Personnel: Daryl Hall(vo, mandlin, g, key, synth, vib, perc), John Oates(g, vo, key), Larry Fast(prog), G.E. Smith(g), Ray Gomez(g), Jeff Southworth(g), John Siegler(b), Mickey Curry(ds), Jerry Marotta(ds), Chuck Burgi(ds), Jimmy Maelen(perc), Charles DeChant(sax), John Jarett(vo)

2019年5月 8日 (水)

マントラのブラジル音楽集。若干のオーバー・プロデュース感もありながら,なかなか楽しい。

_20190502 "Brazil" Manhattan Transfer(Atlantic)

私がリアルタイムでマントラの音楽を聞いていたのは"Vocalese"までだと思うので,本作は後追いで聞いたもの。現代ブラジル音楽の大御所たちの曲をマントラが歌うのだから悪いはずはないので,リアルタイムで聞いていても不思議はないのだが,このアルバムが出た頃は会社に入って,結構忙しくしている頃だったのかもしれない。

レパートリーとしてはDjavanが5曲と圧倒的多数だが,そのほかにIvan Linsが2曲,Gilberto Gilが1曲,Milton Nacscimentoが1曲という構成で,押さえるべきところは押さえている。もともとの曲の魅力が十分なのだから,シンプルな伴奏でもよさそうだが,やや伴奏のやり過ぎ,主題に従えばオーバー・プロデュース感がやや感じられる曲があるのがやや惜しい。特に2曲目の"The Zoo Blues"はシンセ・サウンドが過剰装飾である感覚が強く,Jeff Lorberもさすがにこれはやり過ぎだろうと思わせる。まぁ,この頃のマントラはポップ的な人気もあった頃だから,まぁこういうプロデュースもありだとは思うが,それでもブラジル音楽らしさを必ずしも活かしていないように思える。それはLarry Williamsが担当した”Hear the Voices"のイントロとかにも感じられる訳で,その辺りが評価の分かれ目になるだろう。私はもう少し土着的な響きがあってもよかったのではないかと思っている。

まぁ,それでも"Capim"におけるStan Getzのソロなんて貫禄十分だし,相応に楽しめることは間違いない。それでもブラジル音楽も結構好きな人間からすれば,星は★★★☆ぐらいってところだろうな。

Personnel: The Manhattan Transfer(Cheryl Bentyne, Tim Hauser, Alan Paul, Janis Siegel: vo),Jeff Lorber(synth), Larry Williams(synth), Yaron Gershovsky(p), Wayne Johnson(g), Dan Huff(g), Toninho Horta(g), Oscar Castro Neves(g), Abraham Laboriel(b), Nathan East(b), Buddy Williams(ds), John Robinson(ds), Djalma Correa(perc), Paulinho da Costa(perc), Djavan(vo), David Sanborn(as), Stan Getz(ts), Uakti(Marco Antonio Guimaraes,Paulo Sergio dos Santos, Artur Andres Riberio, Decio de Souza Ramos: various instruments)

2019年5月 7日 (火)

Jakob Broのライブ盤:NYCの聴衆の反応はどうだったんだろうか...。

_20190501 "Bay of Rainbows" Jakob Bro(ECM)

昨年リリースされていたアルバムだが,買い逃していたものを遅ればせながら入手したもの。Jakob Broが同じメンツでCotton Clubに来た時の感想として「ある意味アンビエント的,環境音楽的な響き」なんて書いている私(記事はこちら)だが,このアルバムを聞いても全然印象は変わらない。

Jakob Broの音楽を聞いていると,ビートも明確に刻むことはほとんどないし,ほぼ静謐な中で演奏が展開されるので,まぁ上述のような感じ方になることは仕方がないことだとは思う。その一方で,こういう音楽ってライブではどういう風に受け入れられるのか実に興味深い。それもこのアルバムが収録されたのはNYCのJazz Standardにおいてである。私もこのクラブには何度か行ったことがあるが,実に真っ当なジャズ・クラブであり,そのプログラムは様々なミュージシャンに目配りがされたものである。先日はRalph Townerもソロで出ていたし,そこにJakob Broのトリオのような人たちが出ても不思議はない。

更に言ってしまえば,NYCの聴衆はいろいろな音楽を聞くチャンスが多いから,こういう音楽に対する嗜好の強い人たちがいても不思議はない。アルバムに収録された拍手を聞けば,相応には受けているようにも思える。やっている音楽は相変わらずなのだが,唯一4曲目"Dug"だけはビートが強化され,ギターのエフェクトを聞かせた音を聞かせるような新機軸のように思える。それでも本質的にはやはり「アンビエント的,環境音楽的」であることに変わりはない。それは前回Cotton Clubで見た時の印象とも重なっている。

しかし,こういう音ってのは実は麻薬的なものであり,はまってしまうと足抜けが大変なところもあるのである。だから,間もなくに迫った彼らの再来日公演も実は気になっている私である。でもねぇ,実のところ,心地よい睡魔に襲われそうな気もしている。結局こういう音が好きなのだが,一般的にはどうなのかなぁって気もしている。通常の感覚で言えば,このアルバムに対する評価は星★★★★が適切って感じだろうが,やっぱり麻薬的なのだ。

それにしても,間もなくに迫ったCotton Clubのライブの金曜1stのボックス席が完売って,にわかには信じがたい。彼らの音楽の本質を理解したリスナーならいいのだが,全然目的の異なるオーディエンスだと彼らも困っちゃうよねぇ(苦笑)。

Recorded Live at Jazz Standard in July, 2017

Personnel: Jakob Bro(g), Thomas Morgan(b), Joey Baron(ds)

2019年5月 6日 (月)

連休中後半に見に行った「アベンジャーズ/エンドゲーム」。なるほどねぇって感じの展開。

Avengers-end-game 「アベンジャーズ/エンドゲーム("Avengers: Endgame")」(’19,米,Marvel Studios)

監督:Anthony Russo, Joe Russo

出演:Robert Downey, Jr., Chris Evans, Mark Ruffaro, Chris Hemsworth, Scarlet Johansson,Jeremy Renner, Paul Rudd, Brie Larson, Josh Brolin, Gwyneth Paltrow

2008年の「アイアンマン」から始まったMarvel Cinematic Universe(MCU)の一旦の最終作は「スパイダーマン」シリーズの次作となるはずだが,その前の大団円とでも言うべき作品である。そのため,とにかく登場人物の多さに驚かされてしまうような映画であるが,これまでのシリーズの逸話をうまくストーリーに絡めた感じの脚本であり,このシリーズのファンは結構楽しめるだろう。ただ,これまでのシリーズ作品を見ていない人々(例えば我が家人)にとっては,何が何だかわからないストーリーであろう。だから,ある程度予備知識を持ってこの映画を見るか,そうでないかによって,全然受けとめ方は異なってくるはずである。

シリーズ前作「キャプテン・マーベル」でも想定されていたが,この映画でもBrie Lason演じるキャプテン・マーベルは重要なキャラクターとなっており,「困った時のキャプテン・マーベル」みたいな登場の仕方をするのはある程度想定されていたし,ストーリー展開もだいたい予想がつくものだったと言ってよい。しかし,シナリオはなるほど,こう来るかって感じのものであり,MCUの締めくくり的な位置づけでの製作方針が方針が明確だったと言えよう。

そうは言いつつ,これだけキャラが登場してくると,お腹いっぱいって感じで,戦闘シーン等も含めて,私にはやり過ぎ感があったのも事実。まぁある意味,こうしたキャラクターの逸話をまとめようとすると3時間超の上映時間は仕方がないのかもしれないが,私としてはやはり過剰な気がした。Marvelのコミックのキャラを総登場させるようなかたちとは言え,今後,どうするのよと気にもしたくなる。

もの凄い物量で撮られている映画なので,相応に楽しめることは楽しめるとしても,私のような年齢層の観客にはそれほどの感慨をもたらさないだろう。今後もストーリーとして続いていく仕掛けは施してあるが,私もMCUの作品を観に行くのはこれを以て打ち止めにするのか,また観に行ってしまうのかは微妙なところである。尚,タイム・パラドックス含め,本作にはシナリオには決定的な穴があると思うのは私だけではないはずだ。まぁ,この手の映画にそう固いことは言わなくてもいいんだが。星★★★☆。

2019年5月 5日 (日)

実にくだらなかった「エアポート’77:バミューダからの脱出」。

Airport-77 「エアポート ’77:バミューダからの脱出("Airport '77")」(’77,米,Universal)

監督:Jerry Jameson

出演:Jack Lemon, Lee Grant, Joseph Cotten, Olivia de Havilland, James Stewart

休み中にAmazon Primeでこの映画を見た。私は「大空港」は最初はテレビで見て,実に面白いと思い,「エアポート ’75」は劇場に見に行った。そしてがっくり来たので,この作品は劇場に見に行く気は起こらず,見たのは今回が初めてである。

多くのシリーズものの作品は,数を重ねるごとにつまらないものになっていくというのはよくある話である。オリジナル「猿の惑星」然り,「エイリアン」然り。もちろん,例外もある。私の中では「ジェイソン・ボーン」のシリーズと,Christopher Nolanが撮った「バットマン」のシリーズは許せる部類である。しかし,この「エアポート」シリーズは,今回3作目の本作を見て,あかんやろうという気分にしかなれなかった。

所謂「グランド・ホテル」形式の登場人物の多さは相変わらずなのだが,人物の造形が曖昧に過ぎるという問題もあれば,そもそもサスペンスがちっとも盛り上がらないという映画としての決定的な弱点は最後まで何も変わらずであった。今回初めて見てみて,映画館に足を運ばなくてよかったと思った私である。結構いい役者を揃えながら,それを活かせない脚本と演出であった。

ほとんど美点を見出せない凡作中の凡作であり,こんな映画は星★で十分だ。まぁ,Amazon Primeでただで見られるからいいようなものだが,実にしょうもない映画であった。暇つぶしにしかならん。暇だからいいんだが(爆)。

2019年5月 4日 (土)

休み中に見た「邪魔者は殺せ」。

Photo_16「邪魔者は殺せ("Odd Man Out")」(’47,英)

監督:Carol Reed

出演:James Mason,Kathleen Ryan,Cyril Cusack,Robert Newton

連休の間に見ていなかったDVDでも見るかってことで見たのがこの映画である。私が購入したのは¥500の廉価DVDであるが,古い映画を見る分には全然問題ない。

この映画,「邪魔者は殺せ」と書いて「じゃまものはけせ」と読むところに時代を感じる。この映画を撮ったCarol Reedと言えば,何と言っても「第三の男」なわけだが,それに先立つ作品として本作と「落ちた偶像」がある。「落ちた偶像」もDVDを購入したまま全然見ていないので,そのうち見ようと思うが,まずはこれを見てみた。

ポスターには"The Most Exciting Motion Picture Ever Made!"なんてあるが,決してそんな派手派手しい映画ではない。基本はサスペンスなのだが,出てくる登場人物を見ていると,人情もののようにも思える一方,喜劇的な要素,そして悲劇的な要素も含めた映画で,実に不思議なストーリーと言ってもよい。とにかく,登場人物が一筋縄でいかない。ある意味「邪魔者は殺せ」というタイトルが誤解を招くと言ってもよいぐらいだ。そんな映画ではあるが,私にとってこの映画の魅力は,白黒映画における陰影を活かした撮影にあると思えた。とにかく登場人物の「影」が効果的に使われているのだ。よくよく調べてみれば,撮影は「第三の男」も撮ったRobert Kraskerと知れば,なるほどと思わざるをえない。

映画としては「第三の男」には及ばないというのが私の評価だが,それでもこういう時代を感じさせる映画をたまに見ると,逆に新鮮で部分がある。ストーリーがイマイチだなぁと感じるというのが正直なところだが,温故知新ということでちょっと甘めの星★★★★にしておこう。

時間がないとなかなか見られないのがDVDなのだが,今回の連休はそういう時間を与えてくれたということでも意味があったな。さて,次に見るのは「落ちた偶像」か,それとも別の映画か?(笑)。

2019年5月 3日 (金)

改めてYves Montandのライブ盤を聞き,DVDを観て感動を新たにする。

_20190430-2”Olympia 81" Yves Montand(Philips)

私がこのブログを始めた年にこのアルバムについては書いている。それから12年を経過して,このアルバムについて改めて書くことにしよう。12年前にも書いた(その時の記事はこちら)が,私はラッキーにも82年にYves Montandが来日した時のライブを体験することができた。確か年齢上限がついた若年層向けのライブをYves Montandがやってくれた時のことであったが,これぞ至芸と思ったのを,それから40年近く経った今でも,鮮烈に記憶している。私にとって,人生でも指折りのライブ体験だったことは間違いない事実である。まさに舞台芸術とはこういうものだと思ったが,今でもその時の経験は私にとって貴重なものだったと言いたい。

_20190430CDやLPで音だけ聞いていても楽しめるのだが,Yves Montandの芸を改めて感じるためには映像もあった方がよい。今でもその時の模様は,Yves Montandのワールド・ツアーを記録したDVD等で見ることができるが,フランス製なので,PAL方式での再生ゆえ,基本的にはPCでの鑑賞ってことになる。しかし,PCの画面を通じてでもYves Montandの素晴らしい歌唱,語り,踊りを楽しむことができて,当時の記憶を蘇らせるに十分である。シルエットすら芸術と思わせるこのライブこそ粋の極致である。この当時,Yves Montandは還暦をちょっと過ぎたぐらいだが,まさに脂の乗り切ったタイミングでのツアーには,まさにYves Montandの芸の数々が詰め込まれているのだ。

とにかく,私の人生における感動的な体験の一つを,改めて振り返ると,やはり素晴らしいライブであったと感動を新たにした私である。ここでのYves Montandに対しては星はいくつあっても足りないぐらいである。本当にいい経験をさせてもらった。これこそ人生における宝と言っても過言ではないな。

2019年5月 2日 (木)

Dire Straitsのデビュー・アルバム:これが70年代後半にイギリスから現れたことの驚き。

_20190429-3 "Dire Straits" Dire Straits (Vertigo)

このブログにおいて,Dire Straitsについて記事を書いたことがなかったのはなんでなんだろうなぁと思いつつ,久々にこのアルバムを聞いた。主題の通りであるが,このアルバムが1978年に英国から登場したことにはまさに驚きを感じざるをえない。もうそれも既に40年以上前というところに,私も加齢を実感する訳だが,誰が聞いても,これを最初に聞いて,彼らがイギリスのバンドだと思う人間はほとんどいなかったのではないか。

かく言う私が初めて彼らのサウンドを聞いたのは,ほぼリアルタイムで,米国のチャートを上がってきた頃だったと思うが,一聴してなんだかBob Dylanみたいだなぁと思った記憶がある。後々になって,J.J. Caleの音楽に触れてしまえば,Dylanと言うよりJ.J. Cale色の方が濃いってことはわかる訳だが,私もまだまだ高校生であるから,J.J. Caleには直接は到達していない。当時はEric Claptonの"After Midnight"や"Cocaine"を通じてその名前を知っていたぐらいのものだから,まぁそれも仕方がない。だが,ClaptonがJ.J. Caleに感じたであろうシンパシーを,Dire Straits,特にMark Knopflerが感じていたとしても,不思議はない。英国には英国の音楽があるとしても,米国音楽に強い憧れを隠さないミュージシャンも存在することはEric Claptonに限った話ではないのだ。

それにしてもである。パンク全盛,あるいはテクノが出てきている頃の音楽シーンにおいて,Dire Straitsのような音楽が現れたことは,まさに突然変異的と言ってもよかったようにも思える。もちろん,それと並行して,J.J. Caleは相変わらずど渋い音楽をやっていたのだから,そっちにはそっちの世界があったとしても,この音楽がチャートの上位に上がってきたこと自体が驚きだったとしか言いようがない。

その後,Dire StraitsはMTV全盛期に"Money for Nothing"を大ヒットさせ,更にメジャー化するが,彼らのやっている音楽がメジャーなものになることには若干の違和感がない訳ではない。どちらかと言えば,趣味の世界を拡張させたような音楽であったものが,ビジネス化の道をたどるというのは今にしてみれば実に興味深い事象だったと思う。

いずれにしても,私自身はその後J.J. Caleの世界にはまっていくし,このアルバムそのものを通しで聞いたのは随分後年になってからことだとしても,ここでの音楽は今でも結構魅力的に響く。でもやっぱりこれは本来ニッチなオーディエンスに受ける音楽ではなかったのかなぁと言っては言い過ぎか。それでも,この手の音楽に縁のないリスナーにも接点をもたらしたということでは,このバンドの果たした意義は大きいと思う。「歴史的な意義」と言ってはここでの音楽にしてみれば大げさかもしれないが,相応の価値を認めて星★★★★☆にしよう。

Personnel: Mark Knopfler(vo, g), David Knopfler(g), John Illsley(b), Pick Withers(ds)

2019年5月 1日 (水)

一生聞き続けたいヘンデルの「鍵盤組曲」ボックス。最高である。

Handel-keyboard-suite_1 "Handel: Keyboard Suites" Andrei Gavrirov / Sviatoslav Richter (EMI/Angel)

私がクラシックの世界では,実は結構なヘンデル好きだということはこのブログにも書いたことがある。以前にも書いたことだが,恥ずかしながら私の結婚披露宴の新郎新婦の入場のための音楽はなんとヘンデル作曲「王宮の花火の音楽」だったのである(爆)。これまでの人生において,私にとってヘンデルの音楽にはあまり難しさを感じさせない音楽であった。それはオラトリオでもそういう感じと言っては不謹慎に過ぎるかもしれないが,それでも長年ヘンデルの音楽を聞いていると親しみやすさを感じ,そして妙に落ち着いてしまう自分がいたのは事実である。

そんな私にとってヘンデルの音楽が決定的な存在になった要因としては,Pinnock / Prestonによる「オルガン協奏曲」が挙げられるが,もう一方で私のヘンデル好きの端緒となったのがこのボックス・セットである。このアルバムは今やCDでも簡単に手に入るので,手軽に鑑賞するために私はCDも保有しているが,この音楽はどちらかと言うとやはりLPで楽しみたいと思わせる音楽である。今回も久々にLPで聞いているのだが,やっぱりこれはLP向きだと思ってしまう。

何がいいか。ヘンデルの音楽そのものに加え,録音されたのがフランスのシャトーということもあり,何とも言えない残響感が最高に心地よいのである。ある意味,ECMレーベルに聞かれる残響と同様な感覚と言ってもよいのかもしれないが,私にはここで聞かれるピアノの音はまさに「天上からの響き」のようにさえ思える,実に美しい響きなのだ。

ここではリヒテルとガヴリーロフが16曲の半々を弾き分けるが,録音された時にはリヒテルが64歳,ガヴリーロフが23歳という大きな年齢差があり,ピアノのタッチや響きに違いがあるのは当然なのだが,ボックスの中でそうした違いを感じるという楽しみ方もあるだろう。しかし,私のように「適当」あるいは「いい加減」なリスナーは,むしろここでの一連の演奏を小音量で流すことによって,生活の潤いを増すために使うことがほとんどだと言っても過言ではない。もちろん,音量を上げて聞いてもいいのだが,このアルバムに似つかわしいのは適切,もしくはそれ以下の音量なのであり,私にとっては小音量こそが相応しいのである。浮世の憂さを晴らすのは大音量でフリー・ジャズやらハード・ロックでもいいのだが,こういう音楽をプレイバックして,心の安らぎを得ることも重要なのだ。

ということで,私にとってはこの音楽に対しては一切の否定的なコメントを述べることがないというボックスである。クラシック音楽で私の棺桶に入れてもらうならこういう音楽を選ぶかもしれないなぁとさえ言いたくなる(笑)。私の人生観やライフ・スタイルに影響を及ぼしたという点においても星★★★★★しかない。実に素晴らしい。最高である。

Recorded Live at the Tour Festival, Chateau de Marcilly-sur-Maulne on June 30, July 1, 7 & 8, 1979

Personnel: Andrei Gavrirov(p), Sviatoslav Richter(p) 

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