Archie Shepp:まだまだ暑い日本でこの熱い音楽を聞く
"Life at the Donaueschingen Music Festival" Archie Shepp (MPS)
「ワン・フォー・ザ・トレーン」という邦題でもお馴染みのアルバムである。MPSレーベルのアルバムが廉価盤LPで出ている頃はしょっちゅう見掛けたものだが,現在このCDは廃盤のようである。まぁ,売れる音楽とは言えないから仕方がないかもしれないが,それにしてもこういう作品が入手が必ずしも容易でないというのは問題である。だが,そういう私も,Archie Sheppというミュージシャンにそれほど思い入れのなかったので,このアルバムは実はこれまで聞いたことがなかったのだ。だが今回,中古でゲットして聞いた上で,このアルバムは廃盤にしてはならんと思ってしまった。それぐらいこのアルバムはよい。
Sheppのテナーに2トロンボーン,ベース,ドラムスという変則的な編成であるが,聞こえてくるう音楽はいかにも60年代らしいフリー・ジャズである。だが,フリー・ジャズだからと言ってフリーキーな音かと言えば決してそんなことはない。十分に音楽的なフリーである。それはバックのビートが比較的い明確だからということもあろうが,それよりも何よりもフロント陣の質の高いフレージングによる部分が大きい。よってこれは決して小難しいフリー・ジャズではなく,多くの人にアピールしうる音楽であるから,フリーだからと言って恐れる必要はないと思う。
だが,私もフリー耐性が相当についたから言えるようなもので,これを私がジャズを聞き始めた高校生の頃に聞いていても全然いいとは思えなかったはずである。しかし,今の耳には「おぉっ,これっていいねぇ」と思えてしまうのだから,人間変われば変わるものである。
聞いていて微笑ましいとさえ思わされるのが「いそしぎ("The Shadow of Your Smile")」のフレージングが突如として挿入される瞬間だが,それもひとつの自然発生だったのだろうなぁと思いつつ,この熱いジャズに身を委ねていると本当に心地よいのである。特に全然暑さが和らがない今年の日本の初秋に聞くと,ますます燃えてしまうのだ。やはり暑い時期とフリー・ジャズの組合せはフィット感が強い。
Archie Sheppは後に保守化を示し,Denonレーベルの諸作では結構コンヴェンショナルな演奏を聞かせる(私がSheppのライブの放送を聞いたのもこの頃。確かHoward Johnsonがチューバで客演していた)が,この人の本質はやっぱりこっちではないのかなぁなんて聞きながら思ってしまった。いやー,それにしてもこれはいけている。人生51年を過ぎるまでこの音楽を聞かなかったことを悔やんだ私である。反省も込めて星★★★★★。67年のライブ録音にしては妙に音がいいのもMPSらしい(笑)。
Recorded Live at the Donaueschingen Music Festival on October 21, 1967
Personnel: Archie Shepp(ts), Roswell Rudd(tb), Grachan Moncur(tb), Jimmy Garrison(b), Beaver Harris(ds)
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