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2010年9月17日 (金)

Brad Mehldau@ビルボード東京を聞く

Mehldau 私自身にとっては本当に久々の生Mehldauソロである。前回聞いたのは岩本町TUCでのことであったが,あれはもうかれこれ12年前である。その当時からするとMehldauはもはや若手ではないし,堂々たるビッグ・ネームになったと思うと何とも感慨深いものがある。私が彼の音楽のコレクターを目指そうと思ったのは,収集そのものはそんなに難しくないだろうという邪な部分もあったが,でも彼のピアニズムに惚れたのだというのが本音である。若いのに,何てピアノを弾くんだって感じであったのである。

それでもって,今回はTUCとは全然性格の異なるヴェニューと言えるビルボード東京である。その1stセットを聞いたのだが,私とほとんど縁のない東京ミッドタウンだもんなぁ。まわりの聴衆も行儀よきこと甚だし。Mehldauの衣装(Tシャツにジーンズ,それにジャケットを羽織り,途中でジャケットを脱ぐというもの)は別にしても,彼の所作や聴衆の反応なんてまるでクラシックのコンサートのようである。

それはさておき,演奏はどうだったか。今回はソロということもあり,非常に自由度の高い演奏だったと言うべきだろうか。更に私にとって非常に印象的だったのが,Mehldauの左手が更に進化し,極めて強力だったということだろう。左手のパワーが加わることで,演奏のダイナミズムが増していたのである。冒頭の2曲は"Highway Rider"からであったが,それ以外の曲はテーマそのものはモチーフに過ぎず("Get Happy"が典型的。),自由度高く展開されていくさまと相俟って,もうこれって巨匠の世界かなぁなんて思っていた私である。

その自由度の高さは,70年代Keith Jarrettのソロにも似た感覚を覚えさせる部分もあったと言いたくなるものであった。私は今後のMehldauの方向性にはいろいろな可能性があるとは思うが,ジャズ系ではKeithの線で行くのではないかと思わされたのも事実である。

その一方で,Mehdauのことを私が好きな理由である,「現代のロックの曲を見事なまでにアダプテーションする」というのは今回も健在で,Nirvana(!)の"Smells Like Teen Spirit"を美しく聞かせたのにも驚いたが,それよりも,もっと嬉しかったのはTom Waitsの"Martha"を甘美なバラッドとして聞かせたことである。やはりこの人,ピアニストとしても一流ではあるが,曲選びのセンスが素晴らしいではないか。"Closing Time"所収のこの曲を彼のピアノで聞けるとは思わなかったし,こんなものを聞かされては随喜の涙を流そうというものである。曲だけでも泣けるのに,それを弾いているのがMehldauなんだからねぇ。最高である。

だが,告白してしまえば,今回のライブで私が一番泣かされたのは大スタンダード,"I'm Old Fashioned"であった。あれだけの遅いテンポでこの曲を歌わせるのは至難の業だと思うのだが,そんなことをものともせず,余りの美しさで聞かせるMehldauに私は改めてまいってしまった。これは凄い。

いずれにしても,予測不可能な世界も作り出しながら,こうしたスタンダードやTom Waitsの曲でおっさんの心を揺さぶるなんて,本当に罪作りな男である。またまた好きになってしまったではないか。

但し,冷静に考えれば,前半は結構ミストーンが多かったし,集中力を発揮するには20分ぐらい掛ったようにも思える。それでも私は選曲で満足,演奏で満足,非常にレベルの高いライブであったと思う。もちろん,これを純粋ジャズ的だとは思わない。聞く人が聞けば辛気臭いと言うかもしれない音楽である。だがそれがどうした。繰り返すが,Mehldauの左手は更に進化しているのである。こんなピアノはなかなか聞けるものではない。Mehldauは一体どこまで行ってしまうのか。ますます今後の活動が楽しみである。

だが,私はビルボードよりはまたTUCで聞きたいなぁ...。ビルボードは私には敷居が高過ぎるわ。

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コメント

お久しぶりです。音楽狂さんの書き込みで来ているのを知りました。あとビルボード東京一度何かで行きたかったんですが、これは残念、、、(仕事が大変だったのでどのみち行けませんでしたが)。この手の選曲でのソロはどこかでCD化してほしいものです。今までの音源とも違うようだし、、、。しかしここでレポートが読めて良かったです。いつもなにかと助かります。

ki-maさん,こんにちは。私はビルボードに今回初めて行きましたが,まぁスタイリッシュな場所ではありますね。でもカジュアル席の方が実は見やすいのではないかって気もして,その辺りはちょっと微妙ですが...。

お役に立っているのかどうかはわかりませんが,まぁ正直な感想を書かせて頂きました。私もそろそろ選曲に凝りまくったソロ作を出してもいいのではないかと思いますね。

メルドー@ビルボードの記事、興味深く拝見しました。Smells Like・・とは選曲も面白いのですが、その料理の仕方は流石ですね。素晴らしいもの聴かせて頂いて感謝です!!ありがとうございます。
もともと彼は同世代のロック系のアーティスト(さらにはそれらのルーツ)への共感を強く示されてますが、そっち系を存分に弾きまくったソロでも聴いてみたいなあと感じた次第です。

とっつぁんさん,改めてこんにちは。

ここに貼り付けた演奏はビルボードのものではありませんが,雰囲気はまさにこんな感じでした。こういうピアノを聞かされると本当に惚れ直すって感じなんですよねぇ。

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