Walter Lang:ピアニシモの芸術家か~
"Eurasia" Walter Lang Trio(M&I)
私の中ではWalter Langの名前はECMゆかりの曲を吹き込んだ"The Sound of a Rainbow"によって記憶されている人であるが,本作はブログのお知り合いの工藤さんが記事にされていたこともあり,中古盤屋で未開封でまぁ許せる価格で売っていたので拾ってきたものである。
このアルバムのポイントは美しいメロディの曲を揃えたというところにあると思うが,それはそれである程度成功していて,決してカクテル・ピアノ的ではなく,美的なセンスは認めていいと感じるものである。また,帯には「ピアニシモの芸術家」なる惹句が書かれているが,確かに静謐な音楽にこの人の特性はより強く現れるものの,決してそれだけではないので,こういう書き方はむしろLangにとっては迷惑なものではないのか。例えば,どうして選曲されたかわからない「りんご追分」は徐々にドライブ感を増していく演奏だから,演奏も「ピアニシモ」にこだわっているわけではないのである。
選曲は冒頭がPat Methenyの"Last Train Home"というのは意表を突かれるが,先にも書いたとおり,基本的にはメロディ重視の選曲と言ってよいだろう。私にとっての白眉はDasko Goykovichの"Nights of Skpoje"であったが,この哀愁メロ炸裂の演奏は,曲の力というのもあるが,このアルバムの中でも最も素晴らしいものと思う。かと思えばLang のオリジナルである"Madrid After Dark"なんて,まるでChick Coreaのようで,この人の個性はどれが本質なのか,なかなか捉えどころがないという気もしてしまう。
まぁそれでも,結構気持ちよく聞けるアルバムであることは事実だが,企画としては"The Sounds of a Rainbow"ほどの明確なポリシーが感じられないのは残念である。今までジャズを聞いたことがなくて,ジャズにおしゃれさを求めて聞いてみようなんていうリスナーにはよかろうが,私にはこれだけではちょっと厳しいという感じである。悪くはないんだが,星★★★が精一杯ってところだろう。いずれにしても典型的日本制作盤って感じである。
Recorded January 28 and 29, 2009
Personnel: Walter Lang(p), Thomas Markusson(b), Sebastian Merk(ds)
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私もこのアルバム、定価ではなくて3割引で購入しました。この割引率なら買っても後悔しなさそうだな、と思いまして(笑)。
選曲はなかなか面白いと思いました。というよりこの人、いろいろな面を持っているので、かえってセルフプロデュースではやりづらいんではないか、という気もします。なので、言っちゃ悪いけど、企画盤向けのミュージシャンじゃないか、なんてことも少し思っています。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2009年7月23日 (木) 19時45分
910さん、コメント、TBありがとうございます。
企画もの向けミュージシャンって確かにそんな感じですね。思わず笑っちゃいました。
ちなみに私もほぼ3割引でしたかねぇ。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年7月24日 (金) 07時35分