強烈な緊張感を伴うAstor Piazzollaの大傑作
"Tango: Zero Hour" Astor Piazzolla(Amrican Clave/Nonesuch)
私はタンゴに関してはGidon KremerがPiazzollaへのオマージュとして発表した作品ぐらいしか聞いたことがなく,恥ずかしながら,本家Piazzollaもちゃんと聞くのは今回が初めてであった。但し,このアルバム,Kip Hanrahanがプロデュースということもあって,以前から気になっていたものなのだが,この度,めでたく中古でゲットしたものである。
私にとってはタンゴのイメージと言えば,哀愁溢れるメロディ・ラインと特異な楽器編成ということになる(やっぱりタンゴと言えば,「ラ・クンパルシータ」なのである)が,もちろんこのアルバムにもそうした特質は備わっている。しかし,おそらく凡百のタンゴ・アルバムと異なるのは,このアルバムに満ちている緊張感ではないかと思うのである。おそらく多くの人にとっても,ここに収められた音楽はタンゴのイメージを覆すものなのではないか。正直こんなにしびれるとは思わなかった。例えば,"Milonga Loca"で聞かれる弦のピチカートの響きなど,もはや現代音楽を凌駕してしまっていると言っても過言ではないし,全編,こんな演奏をされてしまっては金縛りのようになってしまう。とにかく最初から最後まですきも緩みも一切ないハイ・テンションな作品である。
当然のことながら,これはダンス音楽ではない。あくまでもこれは襟を正して聞くべき鑑賞音楽だと声を大にして言いたい。これはAstor Piazzollaが65歳の頃のレコーディングであるが,まさに巨匠の技と言うべき響きに満ちている。こんな音楽を今まで聞かずに生きてきた自分の人生を悔いたくなるほどの傑作。これはまじで素晴らしい。星★★★★★。こんなアルバムを制作してくれたプロデューサーのKip Hanrahanにも感謝したい。もっと早く聞いておけばよかった。タンゴだからと言って,このアルバムを素通りすると絶対に損をする。
それにしてもジャケに書いてあるTango + Tragedy + Comedy + Kilombo(売春宿)=New Tangoというのは謎に満ちているとともに,何とも含蓄に富むような感じだなぁ。
Recorded in May 1986
Personnel: Astor Piazzolla(bandneon), Pablo Ziegler(p), Fernando Suarez Paz(vln), Horacio Malvicino Sr.(g), Hector Console(b)
« Burton / Metheny:安心して聞ける心地よさ | トップページ | Ketil Bjornstad:心地よい眠りへの誘い »
「ワールド・ミュージック」カテゴリの記事
- CODONA3部作からまずは1枚目。(2018.04.03)
- 更にRy Cooder参加のアルバムは続く(笑):今日はAli Farka Toure。(2018.01.25)
- Ry Cooder参加のセッション・アルバム,次はGabby Pahinuiだ。(2018.01.24)
- こんなのもあったねぇ。Ry Cooder Meets Indiaみたいな”A Meeting by the River"(2018.01.23)
- 2017年の回顧:音楽編(その1)-ジャズ以外(2017.12.29)
コメント
« Burton / Metheny:安心して聞ける心地よさ | トップページ | Ketil Bjornstad:心地よい眠りへの誘い »
わたしも、このアルバム好きです。
わたしが、、時々、行くジャズのライブハウスのマスターもピアソラ大好き。(笑)
他にお客様がいなくて、、2人で、ピアソラききまくった事があります。(爆)
わたしは、彼のオリジナルも大好き☆
どうして、こんな切ないメロディが思いつくんだろう。。
投稿: スズック | 2009年6月 5日 (金) 17時22分
すずっくさん,おはようございます。二日酔いの私です。
ライブハウスで「ピアソラききまくった」って,ほかにお客さんがその場に来たらびびるでしょうねぇ。このアルバムがあまりにもよかったので,また注文してしまいました。
Piazzollaの切ないメロディは根暗の私にぴったりです~(笑)。
投稿: 中年音楽狂 | 2009年6月 6日 (土) 08時56分
中年音楽狂さん、私は老人のピアソラ狂です。74年コリセオ劇場で念願のピアソラコンサートを聴いたときはもう、これで何時死んでも良いと思いましたが、又懲りず82年のコロン劇場(ボゴタ)でキンテートを聞く事に成功。日本へ行く前ですよ、ピアソラがね。68年ごろのヌエボ・オクテートは素晴らしい、特にロ・ケ・ベンドラは初めて耳にしたときは背筋に電流を流された様にショックを受け、あれからピアソラフアンです。
投稿: El Bohemio | 2010年4月30日 (金) 07時22分
El Bohemioさん,はじめまして。ようこそお越し下さいました。また,コメントありがとうございます。貴ブログを拝見させて頂きましたが,コロンビアにお住まいなのでしょうか。私は南米にはまだ縁がありませんが,行ってみたいですね。また,私のブログと違って,何とも格調が高く,こちらとしては赤面してしまいました。
私は記事にも書きました通り,タンゴにもPiazzollaにもほとんど無縁の生活をしてきましたが,このアルバムは本当に素晴らしかったと心底思っております。
ライブでEl Bohemioさんと同じような経験をしたことがあるとすれば,Yves Montandでしょう。多分,私もあの時は電撃を受けたように思えましたから...。
いずれにしましても,引き続きよろしくお願い申し上げます。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年4月30日 (金) 09時13分
tosiyaさん、小生ブログにも訪問くださりありがとう。タンゴ・ゼロ・アワーは何回聞いてもあきません。天使のミロンガが素晴らしい。コンチェルト・パラ・キンテートも好きです。コロンビアはタンゴ歌手ガルデルが飛行機事故に遭遇した所で何か運命の糸に操られた様な気がします。そこでがんばつてガルデルに関する書物をあさり読んでいます。では今後もよろしく。
投稿: El Bohemio | 2010年5月 1日 (土) 06時00分
El Bohemioさん,こちらこそよろしくお願いします。
コロンビア,チリ,コスタリカの3C諸国は美人の産地とうかがっております。エキゾチズム溢れる感じですよねぇ(爆)。失礼しました。
投稿: 中年音楽狂 | 2010年5月 1日 (土) 10時01分