沈鬱な雰囲気に満ちた吉田修一の作品
私はデビュー以来,吉田修一の著作をだいたい読んできたつもりだが,彼にとっては「悪人」が一つの分岐点となって,その作風に大きく変化が生じたように思える。それまでが語弊があるかもしれないが,どちらかと言えば軽いタッチの作品が主流であったような吉田が,大長編「悪人」で重厚な作家へと変貌を遂げた。本作は「悪人」後の初の作品(前作「静かな爆弾」は「悪人」前の作品だったはずである。)だが,この作品はさらに重苦しく沈鬱な雰囲気に包まれている。
何が重苦しいって,筋書きやプロットがあまりにヘビーなのである。このタイトルからは想像もできない重さで,読んでいて救いようのない気持ちにさせられてしまう瞬間が多々あった。この作品が「週刊新潮」の連載小説だったというのはにわかには信じ難いが,これを毎週楽しみに読みつなぐ読者がどれほどいたかは疑問である。少なくとも私には連載小説でこれを読みたいというセンスは私にはなく,単行本でなければ読了することは不可能だっただろう。
そうした重苦しい作品ではあるのだが,200ページ弱の書籍であるから,あっという間に読めてしまう。しかし,後味としてはどうだろうか?この本を読んだら,従来の吉田修一を求める読者がかなり逃げ出すのではないかと心配になるほどの変貌ぶりである。まぁ私は前作「悪人」を高く評価しているし,吉田修一のこうした変貌も受け入れることはできる。しかし,やはりもう少し「救済感」がないと辛いのも事実である。この後,吉田がどういう作品を出してくるかはわからないが,また次も買ってしまうのだろうが,それでもやはりこれはなかなか厳しい小説であった。軽い気持ちで手を出すと火傷をするような作品と言っておこう。星★★★☆。
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