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2015年おすすめ作

2015年おすすめ作(本)

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2007年9月30日 (日)

Bill Evans:アルバム"Affinity"は異色だが,これはこれで捨て難い

Affinity_2 "Affinity" Bill Evans/Toots Thielemans(Warner Brothers)

Bill Evansと言えば,ピアノ・トリオでの演奏が圧倒的多数を占めるが,そのEvansが何とハーモニカのToots Thielemansと組むというのがまず異色である。しかし,冒頭のPaul Simon作"I Do It for Your Love"を聞けば,この共演が成功であることをほとんどのリスナーは確信できるのではないかと思う。それまでEvansがこの曲をレパートリーにしていたという記憶はないが,この後,盛んにこの曲をトリオ・セッティングでも演奏することになったのであるから,ここでの演奏が契機になったと考えることもできるのではないだろうか。

このアルバムはTootsとのコラボレーション・アルバムだからなのかもしれないが,通常のEvansのプログラムとは異なる(と思われる)曲が多く含まれているのもポイントが高い。テナー/ソプラノ/フルートのLarry Schneiderが加わる曲がなければ,もっと評価してもいいのだが,特にSchneiderのオリジナル"Tomato Kiss"がアルバムの雰囲気を台無しにしているのが最悪である。本質的に,ここはEvansとThielemansの親密度溢れるバラード・アルバムにするというのが,プロデュースの王道ではなかったかと思う。ということで,一部とは言え,Schneiderを加えたのが大きな失点となり,総合すると星★★★☆。

尚,Evansはこのアルバムで結構エレピを弾いているが,私はエレピのEvansも悪くはないと思う。エレピ嫌いのジャズ・ファンは多いが,目くじらを立てるほどのものではないと思うし,実はEvans本人もエレピのサウンドが好きだったのではないか(後期のレコーディングでは結構使っている)と想像しているのだがどうだろう。

また,ここでは最後のトリオを支えたMarc Johonsonと"You Must Believe in Spring" でEvansとの素晴らしい協調ぶりを見せたEliot Zigmundがリズムを支えているが,願わくばこの2人とのトリオ盤を残しておいて欲しかった。

Recorded on October 30 - November 2, 1978

Personnel: Bill Evans(p), Toots Thielemans(hca), Marc Johnson(b), Eliot Zigmund(ds), Larry Schneider(ts, ss, a-fl)

2007年9月29日 (土)

Fred Hersch@カザルス・ホール:至福の2時間

Hersch_songs Fred Herschのソロ・ライブをカザルス・ホールで聴いた。休憩をはさんでほぼ2時間,私は至福の時間を過ごすことができたと言ってよい素晴らしいライブであった。曲はHerschのオリジナルにスタンダード,モダン・ジャズ・オリジナルを交えるというものだったが,美しいタッチと抜群のハーモニー・センスに私は唸らされてしまった。Cole Porter作"So in Love"などはその最たる事例である。

Fred Herschは決してメジャーなプレイヤーではない。よって,箱としてはキャパシティの大きくないカザルス・ホールでさえ客席はフルには埋まっていなかった。しかし,聴衆の反応は極めてポジティブだったし,私にとっても満足のいくライブであった。これに比べれば,2時間40分も続いたMetheny~Mehldau Quartetの演奏が冗長に感じられてしまう。私にとって,このライブの2時間はあっという間に過ぎ去ったという感覚が強い。

今回のライブがあまりによかったので,ライブでの演奏曲が結構収録されている"Songs Without Words"を早速注文することにしよう。それにしても大した才能である。

2007年9月28日 (金)

なんとも不思議なメンツによるヒット曲集だが...

1231 "70's Jazz Pioneers Live at the Town Hall, NYC" (1231)

なんとも不思議な組み合わせのメンバーによって吹き込まれたライブ盤である。フロントがRandy BreckerにDave Liebman,ギターがPat Martino,ピアノはJoanne Brackeen(写真を見る限り,凄い大女である),リズムがBuster WillamsにAl Fosterってのはあまりに脈絡なく,グループ名が70's Jazz Pioneersというのもはっきり言って言い過ぎである。

更にこのメンツが演奏しているのが,"Cantaloupe Island","Sugar","500 Miles High","Softly as in a Morning Sunrise","Red Clay"に"All Blues"というのは一体どういうコンセプトなのかと言わざるをえない。

各人のソロはそれなりに聞き応え(特にBreckerがよい)があるのだが,やはり急造グループの悲しさと言うべきか,このバンド全体のグルーブの欠如は致命的である。ジャムにはジャムのバトルの楽しさもあろうが,このバンドはバトル・モードにも突入することなく,所謂有名曲を演奏し続けるだけなのである。私はこのアルバムを何度聞いても,興奮することが全くないのである。このメンツを見れば,私のように購入意欲をそそられるリスナーもいるはずだが,これでは完全に「船頭多くして船山に登る」であり,買ってもがっくり来るだけだと言っておこう。

"Softly..."のテーマ部を聞くとBreckerとLiebmanの相性はよくないし,Brackeenのピアノの音は録音のせいか線が細いし,Buster Williamsのベース音は相変らずの電気増幅振りで辟易としてくるしと文句はいくらでもつけたくなる。Pat MartinoもいつものMartinoらしさに欠け,ちょっと普通すぎやしないか。

このアルバムには期待を完全に裏切られたが,こういうのをつかんだときには「たまにはそういうこともありますわ」とさっさと諦めの境地に達した方がよい。Breckerのソロに免じて星★とするが,それにしてもこれは最悪に近い駄盤である。

Recorded Live at the Town Hall on Novmeber 20, 1998

Personnel: Randy Brecker(tp), Dave Liebman(ts, ss), Pat Martino(g), Joanne Brackeen(p), Buster Williams(b), Al Foster

2007年9月27日 (木)

Branford Marsalisの初リーダー作:私は兄貴の方が好きである

Branford "Scenes in the City" Branford Marsalis (Columbia)

Marsalis兄弟は兄のBranfordも弟のWyntonもどちらも立派なミュージシャンであることには間違いないところだが,さてジャズマンとしてどっちが好きなのよと聞かれれば,私は間違いなく兄貴のBranfordを取るだろう。

私は以前にも書いたことだが,決してWyntonも嫌いではない。"J Mood"や"Hot House Flowers"等最高である。しかし,本質的にジャズ原理主義のWyntonは真面目過ぎるのか,訳のわからん(というかあまりに伝統主義的な)アルバムを作っては,ファンの失望を買うというパターンを繰り返しているが,Branfordは弟よりもはるかに間口が広いミュージシャンである。代表的な事例がStingのバンドへの参加だったり,短期間で頓挫したがNBCの"Tonight Show"のバンマス就任だったりする。また,ブルース・アルバムを作ってみたり,変名でファンク・アルバムを作ったりと,かなり弟とのキャラの違いが大きい。

しかし,原則Branfordは相当イカした4ビートを演奏できるプレイヤーであり,彼のバック・バンドのメンバー選定からしてもそうした指向は見て取れる。ピアニストを見てもKenny Kirkland,Joey Calderazzoという素晴らしいところを押さえているところがナイスではないか。

このアルバムはそのBranfordの1984年発売の初リーダー作であるが,冒頭から私を嬉しくさせるような演奏が並んでいる。いきなりRon Carterとのデュオからピアノレス・トリオでの演奏に突入する"No Backstage Pass"からたまらない出来である。日頃私が評価しないRon Carterのベースの音でさえここではよく聞こえる。また2曲目にはナレーションを入れたりして,やはりBranfordの乗りは弟より絶対軽い(というか原理主義では絶対ない)と思わせる。

全編を通じて飛ばすところは飛ばし,美しく締めるところは締めており(最後のKirkland作"Parable"などはどうだ!),初リーダー作としては私はかなりの出来だと思う。"Waiting for Tain"のソプラノのかっこよさ等はまさしくたまらない。つくづく大したミュージシャンである。星★★★★☆。

Recorded in April and November, 1983

Personnel: Branford Marsalis(ts, ss), John Longo(tp), Robin Eubanks(tb), Mulgrew Miller(p), Kenny Kirkland(p), Ron Carter(b), Ray Drummond(b), Charnette Mofett(b), Phil Bowler(b), Marvin Smitt(ds), Jeff Watts(ds), Wendell Pierce(voice)

2007年9月26日 (水)

Joni Mitchell待望の新作

Shine"Shine" Joni Mitchell(Hear Music)

前作"Travelogue"から5年,まさに待望と言うべきJoni Mitchellの新譜が発売になった。私は実際にこのCDを手に取るまで,発売中止になるのではないかと実は内心ひやひやしていたのだが,無事発売されたのは何よりである。やはり,ここはこのアルバムについて書かないわけにはいかない。

実は私は前作が発売された直後,Amazonに次のようなレビューを書いた。

『前作"Both Sides Now"に続く豪華なオーケストラをバックにした演奏集である。今回は前作と異なり,Joniの過去の名曲群を歌っており,選曲としてはほぼ文句のないものとなっている。(中略) 本作の評価を分ける鍵はバックのオーケストレーションにある。確かに豪華な伴奏であるが,これが本質的にJoniの音楽にフィットしているかについては疑問があるし,少なくとも筆者には過剰に思える。たとえDVD作品"Painting with Words & Music"に見られたようなシンプルな伴奏であろうと,Joniの曲は十分輝きを放つはずである。Joniはこれを最後のレコーディングにすると語ったとの情報もあるが,この作品をキャリアを総括する最終作として欲しくないというのが正直なところである。』

ということで,前作はToo Muchな歌伴だというのが私の評価だったが,今回はその反動というわけではなかろうが,Joniには珍しく宅録テイストが横溢しており,Joni自身が複数の楽器を演奏したりプログラミングも行っているようである。その結果,参加ミュージシャンは必要最小限に抑えられている。そして響きは妙にサウンドが生々しいというか,敢えて装飾を排しているとしか思えないのである。約5年に渡るセミ・リタイア中にJoniに何が起こったのかと考えたくなるのも人情だが,この違いはScritti Polittiの最新作がGreenによる宅録だったことにも重なってしまう。

私がこのアルバムを評価するには,まだ聞いた回数が足りな過ぎるが,一聴して今回ほどWayne Shorterの不在を痛感させられたことはない。今回のアルバムではBob Sheppardがサックスを吹いており,いきなり1曲目はJoniのピアノとSheppardのデュオ,しかも何とインスト曲で幕を開けるのだが,そこから私は違和感をおぼえてしまったのである。SheppardはWalter Beckerのプロデュースでアルバムをリリースし,Steely Danのライブにも参加しているまぁまぁ有能なミュージシャンではあるが,残念ながらShorterほどの深みが感じられず,フレーズもサウンドもいかにも軽い。ほかの曲でもそういう感覚が強く,ここはやはりShorterを呼ぶべきだったというのが正直な感想である。

そうは言いつつも,長年のJoni Mitchellファンとしては,復帰してくれただけでも満足と言ってもよいのだが,上記のような理由もあり,まずは最初の感覚としては星★★★★ぐらいの出来としておこう。

尚,彼女のアルバム・カバーを彼女の絵以外が飾ったのは久し振りのことだが,ブックレットの中身も含めて,全てバレエの写真から構成されている。全てがJoniが絡んだ゛The Fiddle and the Drum゛からのものではない(というより一枚だけが゛The Stalker゛というバレエらしい)ようなのだが,どういう基準でブックレットの写真が選択されたのは定かではない。

Personnel: Joni Mitchell(vo. g, p and others), Greg Leisz(pedal steel), James Taylor(g), Larry Klein(b), Brian Blade(ds), Bob Sheppard(reeds), Paulinho Da Costa(perc)

2007年9月25日 (火)

Herbie Hancockファンへの耳寄りな話

River "River: The Joni Letters" Herbie Hancock(Verve)

Herbie HancockがJoni Mitchellにトリビュートしたアルバムとして話題沸騰の本作。国内盤は既に発売され,輸入盤も店頭に並ぶようになってきている。しかし,私はまだ未聴である。それには理由がある。

Amazon.com(米国のサイトである)にアクセスして,このアルバムをサーチすると何と"(with Bonus Tracks) - Amazon.com Exclusive"と書いてある。よくよく見てみると,1曲は国内盤にも収録の"Case of You"だが,もう1曲"All I Want featuring Sonya Kitchell"というのが,Amazonだけの特典で収録されているではないか。

Sonya Kitchellは17歳でデビューし,とても年齢とは思えぬボーカルを聞かせたシンガーであるが,彼女を迎えた曲というのも気になるし,(私は違うが)Herbie Hancockのコレクターは何としてもAmazon.comからこのアルバムを仕入れる必要があるだろう。ということで,私も注文して現在デリバリー待ち。よって,このアルバムは未聴ということである。早く聞きたいが,ここは我慢,我慢。

ということでコレクターのための耳寄り情報でした。

Sonny Rollinsの芸風とマッチした"Isn't She Lovely"

Easy_living "Easy Living" Sonny Rollins (Milestone)

何と言っても冒頭のStevie Wonder作"Isn't She Lovely"に思わず笑みがもれる。Sonny Rollinsは確かにジャズ界の巨人だが,彼のミュージシャンとしてのピークは50年代であって,60年代以降のアルバムには傑出したものはないと私は思う。そうした中でも,Rollins特有の非常に太いトーンで豪快にブローし続けてきたわけだが,アルバム単位で見れば超弩級の傑作は生んでいない。しかし,ジャズの楽しさのある意味で「伝道師」のような役割を果たしているのも事実であり,そうした特性と極めてマッチしているのがその"Isn't She Lovely"である。

はっきり言ってしまえば,バックの乗りはかなり軽い。George Dukeのキーボードも軽いが,ギターのCharles Icarus Johnsonからはジャズ的なトーンは全く聞くことはできない。しかし,Johnsonはもともとポップ畑の人だから仕方ないのである。ついでにBill Summersのコンガが更に軽さに輪をかけている。このアルバムではTony Williamsが全編でドラムスを叩いているのだが,"Isn't She Lovely"ではそのTonyさえも軽く聞こえる。しかし,それでもいいのである。曲自体が軽快なのだから,多少軽薄と言ってもよい伴奏でもOKである。Rollinsはそうしたバックに乗って,相変わらずのブローイングぶりである。2曲目の"Down the Line"になると,Tonyのドラムスがそれらしくなってきて,Rollinsを煽るような展開を示すのに呼応してここでもRollinsは好調である。ただ,この曲や終曲でのテナーのオーバーダビングが本当に必要なのかとややプロデュースに疑問も残る。また,2曲でソプラノ・サックスを吹いているが,Rollinsのソプラノはそれなりの味わいはあるのだが,やはりRollinsはテナー1本で行った方がいいようにも思える。

と言うように,何かと文句は結構つけているのだが,全体を見るとこのアルバムは佳作ぐらいには位置付けてよいように思える。やはり冒頭の"Isn't She Lovely"がアルバム全体のトーンを決定付けたということである。全6曲中4曲がミディアム以上のテンポであることも,このアルバムの乗りをよくしていると言えるだろう。このアルバムは決して腕組みなどしてシリアスぶって聞くようなものではなく,この楽しさ,軽快さに身を委ねればいいのだと思う。星★★★☆。

偉人Rollinsについて初めて書くのがこのアルバムというのはどうなのよという気もするが,それでもたまに聞きたくなるアルバムである。

Recorded on August 3-6, 1977

Personnel: Sonny Rollins(ts, ss), George Duke(key), Charles Icrus Johnson(g), Paul Jackson(b), Byron Miller(b), Tony Willimas(ds), Bill Summers(perc)

2007年9月24日 (月)

Billy Joel:懐かしの"The Stranger"である

Stranger "The Stranger" Billy Joel (Columbia)

やはり「懐かしの」と言うべきである。このアルバムが出たのは1977年,もう30年も前のことになってしまった。日本で局地的な人気を持つ"The Stranger"(本国ではシングル・カットされていない)をタイトルとしたアルバムであるが,この曲がなぜ日本でここまで人気があるのかというのは,イントロ部分の口笛のパートが日本人好みの響きというのが大きいように思える。このアルバムの最後に収められた"Everybody Has a Dream"のクロージングにも"The Stranger"のイントロと同じメロディが現れて,またしっとり感を増幅させている。

しかし,このアルバムもちろんそれだけで評価されるべきものではない。私にとっては何と言っても"Just the Way You Are"のPhil Woodsのアルト・サックス・ソロが郷愁を誘う。歌心に溢れたこのソロゆえにこの曲を愛する人も多いはずである。まるでRichard Teeが弾いているようなFender Rhodesのイントロ(実際はBilly Joel本人が弾いているが,サウンドはかなりTeeに近い)に導かれるこの曲は,曲自体の魅力ももちろんだが,このPhil Woodsの貢献度大である。名曲名演の名に相応しい。

演奏はコア・メンバーに一部ゲストが加わるというかたちであり,かなりタイトにまとまっている。同じPhil Ramoneがプロデュースしているということもあるが,Paul Simonの"Still Crazy After All These Years"と並んで,濃厚にNYCのフィーリングを湛えた音楽だと言っておこう。Simon盤にはクォリティでは及ばないものの,これはこれで十分な佳作である。星★★★★。

Personnel: Billy Joel(vo, p, key), Doug Stegmeyer(b), Liberty DeVitto(ds), Richie Canara(reeds, org), Steve Khan(g), Hiram Bullock(g) with Phil Woods(as), Richard Tee(org), Hugh McCracken(g), Steve Burgh(g), Dominic Cortese(accordion), Ralph MacDonald(perc), Phoebe Snow(vo), Lani Groves(vo), Gwen Guthrie(vo), Patti Austin(vo)

2007年9月23日 (日)

Chick Corea:日本独自企画のピアノ・トリオ・シリーズ第1弾

Chick "Dr. Joe" Chick Corea/John Patitucci/Antonio Sanchez (Stretch)

先日発売されたAntonio Sanchezの初リーダー作での共演ぶりがよかったので,このアルバムを買うことにした。"Five Trios Series"の名のとおり,これから5種類のピアノ・トリオでのCDが順次発売されるらしいのだが,その第1弾である。

このシリーズ,しかしなかなかの曲者である。若手2名を従えた5番目のトリオは追って発売される5枚組ボックスでしか聞けないらしいし,ボックスには追加トラックも入っているらしいので,コアなファンはそちらの発売を待たなければなるまい。いずれにしても何とも商魂逞し過ぎやしないかと皮肉の一つも言いたくなるような販売方法である。ただ,私が関心があるのはChickとSanchezのコンビなので,後続アルバム群は買うかどうか微妙である。

それはさておき,肝腎の音楽の方であるが,これだけのメンツであるから一定以上のレベルにあることは当然である。ただ,私はSanchezのアルバムにChickが客演した演奏の方にはるかにスリルを感じてしまった。このアルバムには決定的にスピード感やパワーが足りないような気がするのである。

曲によってはChickはRhodesやMoogを弾いているが,私はこのバンドならピアノ一本で勝負してもよかったのではないかと思うし,Patitucciの6弦ベースもそれほど効果的だとは思えない。また,Sanchezもリーダー・アルバムほどの気合(シャープさ,スピード感含めてである)が感じられないのである。スローなテンポで演奏される曲はそれなりに美しさを醸し出しているのだが,多くのリスナーは,彼ら3人に対してよりアップ・テンポでの痺れるような疾走感(Akoustic Bandとまでは行かなくともである)を求めているのではないかと思う。ということで,期待値が大き過ぎたせいもあるが,やや肩透かしを食らってしまった感が残る。星★★★☆。

Recorded on April 13 and 14, 2007

Personnel: Chick Corea(p, key), John Patituci(b, el-b), Antonio Sanchez(ds)

2007年9月22日 (土)

紙ジャケット天国,日本

Perfect_release 日本ではメジャーからマイナーまでいろいろなCDが紙ジャケット化して発売されていて,中にはそんなものまでと驚くようなものが結構ある。今年一番驚いたのはHummingbirdの全3作であったが,あっという間に店頭から姿を消して,オークションで結構高値を払って入手した人も多いのではないだろうか。そのHummingbirdはようやく追加プレスされたようで,オークションで落札された皆さんにはお気の毒としか言いようがない。

Hummingbirdでも驚いたが,今度はAnnete Peacockの"Perfect Release"と"X-Dreams"まで紙ジャケット化されたのには,これまた驚かされてしまった。しかしこれらの2作,いくらリマスターされているとは言っても,この2枚を集成した音源は,以前にも紹介した"My Mama Never Taught Me How to Cook"を買えば聞けてしまうのである。しかも,紙ジャケット盤は2枚で税込み5,880円になってしまうが,"My Mama..."ならAmazonでその4分の1以下で買える。

普通の金銭感覚なら"My Mama..."を選ぶはずであるが,結局は購入者がリマスターやら紙ジャケットにいかなる付加価値を見出すかである。それにしてもこんなものまでとはいくら何でも行き過ぎのような気がしないでもない。音楽ダウンロードに押されて,CD不況が叫ばれて久しいが,売れ行き不振に悩むレコード会社の策略に乗せられているようで微妙である。

とか言いながら,Dan Fogelbergの"Innocent Age"の紙ジャケ盤をゲットしている私なので,偉そうなことは言えないが。それにしてもである。

2007年9月21日 (金)

Marc Bonilla:ハイスピード・ロック・インスト!

Marc_bonilla ゛EE Ticket゛ Marc Bonilla (Warner Brothers)

現在はKeith Emersonのバンドに加わって演奏しているらしいMarc Bonillaの92年発売のデビュー・アルバムである。当時からEmersonとは親交があったらしく,ここでも冒頭の1曲にEmersonがゲスト参加している。

しかし,そんなことはどうでもよいと言いたくなってしまうぐらいのこれは強烈なアルバムである。これだけのハイスピードなロック・インストは後にも先にも私は聞いたことがない。ある意味ここまでやってくれれば爽快そのものである。これをギターの弾き倒しと言わずして何と言おう。

今は私は車を手放してしまったので,自分で運転することは滅多になくなってしまったが,自ら運転している頃は,このアルバムをよく車の中でかけていたものである。そしてついついスピードが上がっていくという経験を何度もしてしまった(幸い警察のご厄介にはならなかったが,かなりの速度オーバーだったろう)。横にレディースを乗せていたら絶対かけないが,一人の場合はボリュームを上げて,眠気覚ましにもよし,欲求不満解消にもよしというドライビングの友のようなアルバムであった。

このアルバムに含まれている演奏は,テレビ番組(特にスポーツ系)のBGMで使われていることもあるので,耳にしたことがある人も多いかもしれないが,このアルバムそのものあるいはMarc Bonillaというギタリストを認識している人はそれほど多くないと思う。発売から15年経って私も年を取ったが,それでもこのアルバムの爽快感は変わらないという稀有なものなので,より多くの方に知ってもらうべく本日紹介した。「百聞は一見にしかず」という表現は正しくないかもしれないが,高速道路のクルージング中にこのアルバムをプレイバックしてみれば,私の言っていることが分かってもらえるだろう。ちなみにアルバムのライナーにも゛Play It Loud゛と書いてある。まさしくその通りと言っておく。長年の私のドライブ中の貢献度も含めて星★★★★★。

尚,これは完全にハード・ロックの世界なので念のため。思想だとか芸術だとかそうしたことは忘れて,ただこのスピード感に身を委ねよう。そう言えば,このアルバムが良過ぎたため,Bonillaの第2作゛American Matador゛にはかなりがっくり来たっけなぁ。

Personnel: Marc Bonilla(g, g-syn), Ronnie Montrose(g), Keith Emerson(p), Kevin Gilbert(key, vo), Dave Moreno(b), Troy Luccketta(ds), Don Frank (ds, perc)

2007年9月20日 (木)

加古隆のハードなジャズ・セッション

Photo "Scrawl" 加古隆(Sony)

私は主にピアノ・ソロで(アンビエントな?)音楽を奏でる現在の加古隆には全く関心はないのだが,だからと言って加古隆にジャズ・ピアニストとしての立派な側面があったことを忘れてはならない。このアルバムはジャズ・ピアニスト加古隆の傑作であるとともに,日本ジャズ界のレベルの高さを実証したアルバムである。

このアルバムの素晴らしいところは,全編を通して緊張感が持続していることであるが,それを支えたのは吉野弘志と村上"ポンタ"秀一のリズム隊であることは間違いない。村上のドラムスはかなり硬質な響きを持つと思うが,加古との相性は抜群と言ってよい。これだけの"ポンタ"のジャズ・ドラミングはあまり聞けないのではないか。更にフロント2管を加えたこの何とも素晴らしくモーダルな展開が1987年の日本で生れていたことはある意味驚かされる。全員の好演に対し,星★★★★★。

しかしながら,このアルバム,こんなに出来がよいにもかかわらず,相当ハイブラウな音楽なので,それほど売れるとは到底思えないし,案の定,現在は廃盤の憂き目にあっている。私はこうした優れたアルバムは常に入手できるようにしておくべきだと思うが,何せメジャーのソニーであるから,近い将来このアルバムを再発するような「英断」を下すことはほぼ期待薄であろう。つくづく残念なことである。

Recorded on April 25-27, 1987

Personnel: 加古隆(p), 井上淑彦(ts, ss), 吉田哲司(tp), 吉野弘志(b), 村上゛ポンタ゛秀一(ds)

2007年9月19日 (水)

Larry CarltonとSteve Lukatherのライブ:もはやこれはロックである

Lcsl "No Substitutions: Live in Osaka" Larry Carlton & Steve Lukather(Favored Nations)

オープニングがいきなりJeff Beckが"There & Back"で弾いた"The Pump"から始まるのと,大阪のオーディエンスの異常な乗りに驚かされるアルバムである。もはやこれはフュージョンのカテゴリーではなく,間違いなくロックのアルバム(特に冒頭の2曲はそうだ)である。Lukatherは2曲目の"Don't Give It Up"にもBoz Scaggsの"Breakdown Dead Ahead"やJeff Beckの「ライブ・ワイヤー」版"Freeway Jam"を引用したりして,これまたロック色を敢えて打ち出しているようにも思える。また,ドラムスのGregg BissonetteもCarltonとの共演歴はあるとしても,基本的にはロックの人だから,ロック色が強くなるのはある意味当然なのだが...。ついでに言えば,プロデューサーにSteve Vaiの名前まであるから,これまたロックになっても仕方はあるまい。

さて,主役のLarry CarltonとSteve Lukatherが本当の師弟関係にあるかは知らないが,LukatherがCarltonの影響を受けていることは事実のようである。その割に随分とギターのトーンは違うと思わざるをえないが,それでも結構いいコンビネーションで楽しめるアルバムとなっている。

レゲエ・タッチを感じさせながら,Milesの"Tutu"のような感覚を覚えさせる長尺(14分を越えている)の"All Blues"は演奏としては明らかに冗長(ここでもLukatherは完全にハード・ロックになっている)であるが,こうしたセッション・アルバムゆえ仕方がない部分もあろう。ここは難しいことは言わず,CarltonとLukatherのバトルを楽しめばよい。最後はお決まりのように"Room 335"だし...。多分アンコールで演奏されたもののように想像されるが,こちらは逆に演奏時間が短く,やや欲求不満が残る感じ。イントロを短くしてもうワンコーラスずつソロをやってもよかったのではないだろうか。

いずれにしても,私もギタリストの端くれとしては結構楽しんだが,だからどうなのよということもできるようなアルバム。ということで全体としては星★★★☆ぐらい。

Recorded Live at Blue Note Osaka, in November 1998

Personnel: Larry Carlton(g), Steve Lukather(g), Rick Jackson(key), Chris Kent(b), Gregg Bissonette(ds)

2007年9月18日 (火)

ロフト派Hamiet Bluiettの渋~いライブ・アルバム

Hamiet "Ballads & Blues" Hamiet Bluiett (Soul Note)

Hamiet Bluiettと言えば,ロフト派と目されるミュージシャンである。ロフト派というのはよくわからない分類だが,コンベンショナルな色彩は残しつつも,かなりフリーなアプローチで迫るミュージシャンが多いという印象であり,一般的には結構取っ付きにくい印象を与える。BluiettもWorld Saxophone Quartetに参加したりして,どちらかというと一般のリスナーには遠い位置にある人だろう。

そのBluiettのようなミュージシャンが名門Village Vanguardにリーダーとして出演するというのは日本では結構想像しにくい世界なのだが,NYCにおいてはJames CarterがBluiettとJames Blood Ulmer(!)をゲストにBlue Note(!!)に出演するようなこともあるぐらいだから,それほど驚くには値しないのかもしれない。ここではBluiettもロフト派というよりも,むしろブルージーなプレイヤーとしての資質が目立つ演奏をしているが,これが渋い。

"Ballds & Blues"というタイトルに偽りのない演奏が,全編に渡って展開されているのだが,Bluiettは時としてフリーキー(あるいは高音域または広音域と言うべきか)なトーンを交えてはいるものの,これが至極真っ当な演奏である。バラードはしっとりという感じではないが,ブルースの演奏とともに相当「黒い」感覚が打ち出されていてこれがかなりよい。バックのメンバーが渋いということもあるだろうが,Bluiettのバリトン・サックスの野太いトーンを全編に渡ってこれだけ楽しめるアルバムが聞けるとは思わなかったというのが正直な感想である。これがロフト軍団に囲まれていれば,こうはならなかったはずである。そうした意味では,私が買ったときに想定したイメージとは若干異なっていたが,これは買って正解のアルバムであった。星★★★★。

Houston ところで,ここに参加しているベースのClint Houstonという人のリーダー・アルバムが日本で発売されたことがあるはずである。今にしてみれば信じられない事実と言えないだろうか(この結構こわいジャケを覚えている人が果たしているだろうか?)。もはやClint Houstonを知る人もむしろ少数であろうが,今回この記事を書くにあたって調べてみたら,2000年に亡くなったようである。53歳の早過ぎる死である。本日紹介のアルバムでも,地味ながらいい音を聞かせていただけにちょっと惜しいような気がする。

Recorded Live at the Village Vanguard on February 20, 1994

Personnel: Hamiet Bluiett(bs), Ted Dumber(g), Clint Houston(b), Ben Riley(ds)

2007年9月17日 (月)

Peter Erskineのアメリカン・トリオの新作は完全スタンダード集

Standards "Standards" Alan Pasqua/Dave Carpenter/Peter Erskine (Fuzzy Music)

既に異なったジャケット(まるでVenusレーベルのようなと言うべきか)で国内盤が発売されているPeter Erskineのアメリカン・トリオによる新作が輸入盤でもCDショップに入ってきた。発売元のFuzzy MusicはErskineのレーベルであるし,リーダーはErskineということだろうが,基本的には3人が同格のトリオと考えてよいだろう。本盤は,国内盤がジャケを変えた理由も納得できるような「何だかなー」なデザイン(そう言えば,このトリオによる2枚組ライブ,"Live at Rocco"のジャケも同じく「何だかなー」であったが...)であるが,音楽の質は高いので安心してよい。

私はErskineがECMレーベルでJohn Taylor,Palle Danielssonと組んだヨーロピアン・トリオも相当好きなのだが,このアメリカン・トリオも勝るとも劣らない魅力を持つバンドである。ヨーロピアン・トリオは時として,フリーなアプローチで迫ることもあるが,アメリカン・トリオはPasquaの美しいピアノを活かして,あくまでも美的な質感を打ち出したバンドである。

基本的にオリジナル指向であるはずのそうした彼らが超有名曲(からそうでもない曲まで)を演奏することにまず注目するわけだが,確かにテーマはスタンダードでも,あとはいつもの彼らの演奏と言ってもよい。決して熱くなることはないが,クールで美しい質感に溢れたトリオである。Dizzy Gillespie作"Con Alma"なんて,全然"Con Alma"ぽくないし,最後の"I Could Have Danced All Night"はバラードにしてしまうしと,何とも一筋縄ではいかない。それでもピアノ・トリオ演奏として結構気楽に(聞き流しもOKである)楽しめてしまうのがこの人たちのいいところである。まぁ,どういうシチュエーションで聞くのが最適なのか迷うところもあるが,非常に美しい演奏の数々である。ただ,"Speak Low"という曲が好きな私にとっては,ここでのテーマ演奏はちょいとひねり過ぎて,今イチというところなのが残念。トータルでは星★★★★。

尚,本作は新しいテクノロジーを利用したマイクを使って録音されたらしく,妙に音がいいように感じるが,トリオのサウンドをバランスよく収録していて非常に好感度が高い。

Recorded on January 18 and 19, 2007

Personnel: Ala Pasqua(p), Dave Carpenter(b), Peter Erskine(ds)

2007年9月16日 (日)

Neil Larsen:哀愁系フュージョンと言うべきか

Jungle_fever "Jungle Fever" Neil Larsen (A&M/Horizon)

何とも懐かしいアルバム(と言っても正式に入手したのは最近で,昔はダビングで聞いていた...)である。1978年と言えばクロスオーバー全盛期と言ってもよいが,そうした時代を色濃く映し出したアルバムである。

私は勝手にNeil Larsenを哀愁系フュージョンと呼んでいるが,この人の書くオリジナルは何となくマイナー・キーが印象的で,メロディ・ラインが親しみやすいのである。これがおそらく日本人の心の琴線をくすぐるように思えてならない。"Wind Song"などはGeorge Bensonのアルバムにも収められているが,Bensonがマイナー・キーの曲をやっても哀愁をあまり感じさせないのとえらい違いである。そうした哀愁系はもろにサンバをやっている"Sudden Samba"ですら表れているから,これは相当濃厚な「哀愁」だと言ってもよいだろう。Larsenのオルガンがまた哀愁度を高めている。

まぁこれを単なるスムーズ・ジャズだと言ってしまうこともできるだろうが,曲のよさに加えてLarsenのキーボードを支える盟友Buzzy Fatonの鋭いカッティング,鉄壁のWeeks~Newmarkというリズム・セクションや,もちろんMichael Breckerのソロなど聞きどころは結構多いため,凡百のスムーズ・ジャズよりははるかによいと言っておこう。Buzzy Fatonは全面参加であるから,Larsen Faton Bandと何が違うんじゃという話もあるが,まさしく歌のないLarsen Faton Bandだと思えばよい。尚,Breckerのソロについては"Last Tango in Paris"がいいという人もいるが,私は"Emerald City"でのソロの方がBreckerぽくて好きである。Breckerのソロは決して悪くはないが,全体の雰囲気からすると,"Paris"はアレンジを含めてもっと下世話にやらないと駄目である。何てたって,あの「お下劣」Gato Barbieriの曲なのだから。まだまだこれでは品が良すぎる。

本作をトータルで評価するなら星★★★☆ぐらいのものだろうが,実は私にとっては結構好みのアルバムではある。Tommy LiPumaプロデュースだけあって,期待は裏切らない。

Personnel: Neil Larsen(key), Buzzy Faton(g), Willie Weeks(b),Andy Newmark(ds), Ralph McDonald(perc), Michael Brecker(ts), Larry Williams(as, a-fl), Jerry Hey(tp, flh)

2007年9月15日 (土)

低予算でも面白い映画はできる

Body_snatchers 「ボディスナッチャー/恐怖の街(Invasion of the Body Snatchers)」(米,'56,Republic)

監督:Don Siegel.

出演:Kevin McCarthy, Dana Wynter, Larry Gates, Carolyn Jones

1979年,1997年の2度に渡ってリメイクされたサスペンス・ホラーの佳作であるが,これぞB級低予算映画の王道である。このDVDは長きに渡って国内では廃盤のため,私は米国盤をゲットしたが,A面がワイドスクリーン版,B面がTVフォーマット版という親切な作りに加え,主演のKevin McCarthyのインタビューまで付いている。日本語字幕はないが,英語字幕でもフォローできる。あとはリージョン・フリーのDVDプレイヤーがあればOKである。しかし,こういう小品が廃盤となって,くだらないリメイク作ばかりが発売される日本のマーケットはどうなっているのかと文句も言いたくなるような佳品である。

いずれにしても,時代や予算を反映して,特撮ゼロと言ってよい手作り感満点の映画である。しかし,何がなんだかわからないまま街が乗っ取られていく様子を描いたサスペンス感や,いい加減なハッピーエンドにしないところがにくい。映像のギミックに頼らずに怖さを盛り上げる手腕は実に大したものである。そういう意味ではサメが登場する前の「ジョーズ」にも近い感覚をおぼえてしまう。

シナリオとしてはDana Wynterがいつどうやってスナッチされるのよとか,主役のMcCarthyがこれまたB級だとか突っ込みどころは多々あるのだが,それには目をつぶってこの何とも言えないB級感を楽しみたい。なんてたって撮影期間1ヶ月未満らしいが,それでもこのサスペンスが生めるということは,やはり監督Don Siegelの手腕ということか。金はなくともいいものはできるということを実証した作品として星★★★★。

2007年9月14日 (金)

Gaucho:録音技術の粋

Gaucho "Gaucho" Steely Dan (MCA)

私の知人のサックス・プレイヤーが「Gauchoを演奏する会」というイベントでこのアルバムの全曲を演奏したそうである。あいにく私はその場には立ち会うことはできなかったが,どんな演奏をしたのだろうか。後期Steely Dan(復活前である)と言えば,レコーディング技術の粋をつくしたアルバム制作を行っていたので,ライブでこうした精緻な演奏を再現することは彼らにとってももはや不可能な世界のはずである。それに敢えて挑むミュージシャン魂は,私の知人とは言え見上げたものである(彼だけではないが...)。

実は私はこのアルバムを単体で聞いているわけではなく,4枚組のSteely Danのキャリア総括ボックス"Citizen Steely Dan"のディスク4の一部として聞いているので,一曲毎のパーソネルはわからない(コレクティブではわかっている)のだが,前作"Aja"とほぼ同様のプロダクション体制のようであり,おそらく"Aja"同様の適材適所のミュージシャン配置が行われているはずである。中ではMark KnopflerとRick Derringerの名前が意外である。

一聴して,このアルバムは"Aja"のレコーディング技術を更に進化させていると言えるほど音の粒立ちがクリアである。このアルバムの初出は1980年。とても今から四半世紀以上前の録音とは思えない。

私としてはこのアルバムのゆるいグルーブも捨て難いのだが,音楽全体としては"Aja"や"The Royal Scam"の方に軍配を上げる。それを決めている要因は「曲のクォリティ」ということになる。やはり曲がちょっと地味なように思えるのが一番の理由である。あとはメリハリがやや希薄なことだろうか。まぁこれは究極のアダルト・オリエンティッド・ロックだと言ってしまえばそれまでだが。曲の魅力は今イチでも,演奏と録音のクォリティは恐ろしく高い。星★★★★。

ところで,タイトル・トラック"Gaucho"はFagen/BeckerがKeith Jarrettに捧げることを意図したものらしいのだが,曲をKeithの"Long As You Know You're Living Yours"から借用したのにKeithが怒って訴訟沙汰になり,結局は作曲者としてKeithもクレジットされるようになったそうだ。最初はSteely DanとKeith Jarrettの共作かと思って驚いたが,そういう事情らしい。ちょっとしたトリビアだが,ファンの間では常識?

Personnel: Donald Fagen(vo, key), Walter Becker(b, g), Don Grolnick(el-p), Joe Sample(el-p), Patrick Rabillot(el-p), Rob Mounsey(p, synth), Steve Khan(g), Hirum Bullock(g), Hugh McCracken(g), Larry Carlton(g), Mark Knopfler(g), Rick Derringer(g), Anthony Jackson(b), Chuck Rainey(b), Steve Gadd(ds, perc), Rick Marotta(ds), Jeff Porcaro(ds), Bernard Purdie(ds), Crusher Bennett(perc), Victor Feldman(perc), Ralph McDonald(perc), Randy Brecker(tp, flh), Michael Brecker(ts), Tom Scott(ts, as, cl, lyricon), George Marge(b-cl), Walter Kane(b-cl), David Sanborn(as), Ronnie Cuber(bs), Wayne Andre(tb), Nicholas Marrero(timbales), Patti Austin(vo), Lani Groves(vo), Michael McDonald(vo), Leslie Miller(vo), Tonie Wine(vo) Diva Gray(vo), Gordon Grady(vo), Frank Floyd(vo), Zack Sanders(vo), Valerie Simpson(vo)

2007年9月13日 (木)

Joe Zawinulまでも...:またも追悼記事とは...

Heavy_weather "Heavy Weather" Weather Report(Sony)

新聞を見ていたらJoe Zawinulの死亡記事が。一瞬目を疑ったが,9月11日にウィーン市内の病院でガンで亡くなったそうである。享年75歳。今年に入って始めたこのブログで,最初に取り上げたのがZawinulのNDRビッグバンドとの共演作だっただけに因縁を感じてしまう。それにしても,このブログで追悼記事がこれで4件目(Brecker,Max Roach,富樫雅彦,そしてZawinul)となってしまったというのは何とも辛い。

上記のアルバムでもエネルギッシュな演奏をしていただけに,突然の死は信じられないが,体調不良が伝えられていたのも事実である。また,いつの間にか75歳という高齢になっていたわけで,(自分も年を重ねているのだということを含めて)これも受けとめなければならない事実である。

Zawinulを追悼して,ここはしんみりと"In a Silent Way"でもよいのだが,自分のクラブに"Birdland"と名付けたZawinulである。ここはやはり"Birdland"で賑やかに送るのがいいだろう。

はっきり言って私はWeather ReportではWayne Shorter派であり,過去にはZawinulはどうでもいいわと思っていたのも事実である。しかし,"Live Under the Sky"でライブに接したり,Weather解散後のZawinul Syndicateの演奏を聞くにつけ,このオヤジは凄いと思い始めたのだから,私も修行が足りなかった。いずれにしても,本当の意味でワールド・ミュージックを体現しうる数少ないジャズ・ミュージシャンであった。彼の業績とここで紹介したアルバムを含めて星★★★★★を捧げて哀悼の意を表したい。

これでWeather Report復活は完全な夢となったわけである。

Personnel: Joe Zawinul(key, vo), Wayne Shorter(ts, ss), Jaco Pastorius(b, ds, vo), Alex Acuna(ds), Manolo Badrena(perc)

2007年9月12日 (水)

Ralph Petersonは時代の徒花だったのか

Ralph_peterson "V" Ralph Peterson Quintet(Somethin' Else)

Blue NoteレーベルでのOTBでシーンに登場してからの一時期のRalph Petersonの勢いは確かに凄いものがあった。このアルバムも新世代のハード・バップとも言うべき,ハード・ドライビングな演奏を聞かせており,今聞いても興奮する出来である。このような作品を世に出したPetersonは,今でも現役で活動しているものの,もはや往時の勢いはなく,明らかに失速してしまったと思わせるのは残念なことである。私はPetersonのアルバムをずっと追っていたわけではないのでその理由についてははっきり言えないが,イケイケのハードドライビング路線一辺倒でマンネリズムに陥ったか,Petersonの狙った(Fo'tetのような)路線がリスナーにアピールできなかったかのどちらかではないかと思う。

しかしながら,上述のとおりメンバーが一体化した非常に熱い演奏は今でもそのカッコよさ(特に前半3曲)は不変である。だからと言って頻繁にプレイバックしたくなるようなものでもないのだが,たまに聞くとこれはやはりいけている。Petersonのドラミングは極めてシャープだし,メンバー個々の能力も高い。しかし,ここで特筆したいのはPetersonの作曲能力である。全6曲中1曲を除いて,全てがPetersonのオリジナルであり,こうしたバンドをドライブさせる曲を書かせれば大した才能である。

Petersonは今でもリーダーを張れるドラマーではあるが,やはり80年代後半から90年代初頭というある意味「日本のバブル期」にも重なる時期が,日本における人気も絶頂だった。今にして思えば,時代がこういうイケイケの音楽を求めたということではないかと思えてくる。このタイミングの不思議な符号が暗示的でもあるように私には思えてならない。Petersonが米国でメジャーな人気を獲得したことはないと思われることももう一つの要素である。バブルの終焉とともにPetersonの才能が枯渇するはずはないのだが,これはやはり時代(あるいは日本のオーディエンスのメンタリティ)と歩調が合わなくなったということだろう。

そうした意味ではRalph Petersonというミュージシャンは,少なくとも日本の市場においては時代の徒花であったと言ってしまってもいいかもしれないが,それでもこのアルバムの持つ魅力は下がるものではないと思う。星★★★★。

Recorded on April 19 & 20, 1988

Personnel: Ralph Peterson(ds), Terence Blanchard(tp), Steve Wilson(as, ss), Geri Allen(p), Phil Bowler(b)

2007年9月11日 (火)

Mavis Staplesの大傑作:Ry Cooderファンも必聴

Mavis_staples "We'll Never Turn Back" Mavis Staples (Anti‐)

日頃からまめにCDショップめぐりはしているつもりだが,この作品が「ミュージック・マガジン」に取り上げられるまで,全くこの作品を認知していなかったのが情けなるぐらいの傑作である。私の中ではNeil YoungのMassey Hallでのライブ盤と並ぶ本年のベスト盤の一つとなった。

何がよいか。Mavis Staplesがメッセージ性の高い曲をソウルフルに歌い上げるのも素晴らしいのだが,私は本作をプロデュースしたRy Cooderの手腕を評価するとともに,全編に渡って聞かれる彼のギター・プレイに痺れてしまった。ここまでギターを弾きまくってくれたのは本当に久し振りのことではないだろうか。これはソウル・ミュージックではあるが,バック・バンドの演奏はアメリカン・ロック的な響き(Jim Keltnerのドラムスがこれまたよい)に溢れていて私のようなアメリカン・ロック好きにはたまらない出来である。

確かにRy Cooder色が強過ぎるという指摘もあろうが,本作はMavisの素晴らしい歌唱とバック・バンドのいかした演奏のトータルな音楽として捉えればいいのであって,そうした指摘は意味を成さない。繰り返すが,私はこのアルバムが発売されてからほぼ5ヶ月の間,このアルバムを知り得なかった自分の不明を恥じざるをえない。それほど素晴らしいアルバムである。星★★★★★。

Personnel: Mavis Staples(vo), Ry Cooder(g, mandlin), Mike Elizondo(p, b), Jim Keltner(ds)), Joachim Cooder(perc), Ladysmith Black Mambazo(vo), Rutha Harris(vo), Charles Neblett(vo), Bettie-Mae Fikes(vo)

2007年9月10日 (月)

豪華ゲストを迎えたManhattan Transferのカバー・アルバムは楽しく聞けるのだが...

Tonin_2"Tonin'" The Manhattan Transfer (Atlantic)

最近はメンバーによるソロ活動が活発化しているManhattan Transfer(以下は親しみを込めてマントラと呼ぶ)であるが,私が彼らに対する興味を失ったのはいつ頃だろうか。最近はアルバムが出ても全く買わなくなってしまった。グループとしての実力は誰しも認めるところだろうが,やはりこういうグループゆえにマンネリズムに陥りやすいのも事実である。"Vocalese"のような冒険たっぷりな取組みばかりも続けられないだろうし,彼らとしても苦しいところである。

そんなマントラがArif Mardinプロデュースのもと,豪華ゲストを招いて制作した「起死回生の」ためのカバー・アルバムである。ゲスト陣がゲスト陣だけに相当の制作費をかけて吹き込まれたものであることは容易に想像できるし,なかなかに楽しい出来となっている。

しかし,このアルバム,楽しいことは楽しいのだが,マントラ色が希薄過ぎはしないだろうか。ゲストとリード・ボーカル・パートを分け合い,あとはマントラがバック・コーラスをつとめているだけのように聞こえると言ってしまうとそれこそ身も蓋もないが,そう感じさせるのも事実である。これはゲストが豪華過ぎるために,彼らに花を持たせなければならないという事情こそあれ,ややそれが行き過ぎたように思えるのは残念である。

そうした点を除けば,よく出来たポップ・ボーカル・アルバムであり,音としては相当楽しめる。それにしても,一音でそれとわかるギターのトーンで,曲を締めるB.B.Kingが入った"Thrill Is Gone"が素晴らしい。ついでに歌えばよかったのにと言ってはボーカルを務めたRuth Brownに失礼か。星★★★☆。

Personnel: The Manhattan Transfer; Cheryl Bentyne(vo), Tim Hauser(vo), Alan Paul(vo) and Janis Siegel(vo), with Frankie Valli(vo), Ferix Cavaliere(vo), Bette Midler(vo), Smokey Robinson(vo), Laura Nyro(vo), Phil Collins(vo), Ruth Brown(vo), B.B. King(g), Chaka Khan(vo), James Taylor(vo), Ben E. King(vo)

2007年9月 9日 (日)

宮部みゆきの新作は相変わらず読ませるが...

Photo 「楽園」 宮部みゆき(文藝春秋)

宮部みゆきが「模倣犯」の主人公,前畑滋子を再登場させて描いた新作である。さすがに宮部,今回も読ませる筆力は健在だが,本作はいかんせん話に無理がある。

サイコメトラーの少年についても説明不足,下巻での急展開もある意味,ここまでいくとありえない世界である。フィクションだからよいという話ではない。「模倣犯」はもっとまともにプロットが書かれていたはずだが,この作品には帳尻合わせ的なストーリー展開が多過ぎるように感じられる。

これは前畑滋子という「模倣犯」でのキャラクターを使った作品であるが,残念ながら,「模倣犯」のような痺れるような緊張感はないし,意図的に説明を省いているように思える部分も感じられるストーリーテリングにも難があるということで,「模倣犯」と到底同格には扱うことができない凡作である。

どうも最近の宮部みゆきの作品は何ともゆるい「名もなき毒」といい,本作といい,我々の期待を裏切り続けていると言わざるをえない。我々の期待が高過ぎるのか,それとも宮部の才能が枯渇したのか。まだまだ枯渇するような才能ではないはずである。一気に読ませてもらったエンターテインメント性は評価するが,どうにも納得のいかない作品なので,星★★☆。

2007年9月 8日 (土)

Gateway:やはり強力なトリオである

Gateway"Gateway" John Abercrombie/Dave Holland/Jack DeJohnette(ECM)

メンツを見れば膝を乗り出したくなるバンド,Gatewayである。Dave Holland,Jack DeJohnetteのコンビと言えば,Miles DavisのLost Quintetのリズム隊であるが,ここではLost Quintetほどの凶暴性は発露せず,結構落ち着いた演奏を聞かせるが,それでもナイスなコンビネーションであることは間違いない。そこに絡むのがAbercrombieであるが,時に激しく,時に思索的にリズム隊と対峙している。

このバンドの特性は,相当にフリーなアプローチでありながら,完全フリー・ジャズにならないそのぎりぎりの線にあるのではないかと思う。そうした意味で,もっとアンサンブルを利かせた音楽を好む向きにはやや厳しい音楽かもしれない。

本作に収められた全6曲中4曲がHolland作であり,そうした意味ではHolland色が強く出ている(そう言えばベースのミキシングも分厚く聞こえる)とも言えるが,彼の書いた曲がどちらかと言えばおとなしめであるのに対し,AbercrombieとDeJohnetteのデュオで演奏される"Unshielded Desire"やDeJohnette作の"Sorcerer 1"等はかなり激しい。特に"Unshielded Desire"はバトルである。この2曲以外ではAbercrombieは比較的ナチュラルなトーンで演奏をしているが,この2曲だけが違う。LP時代なら,思索的A面と激しいB面と言われたに違いないだろう。

いずれにしても,これだけのメンツであるから,クォリティもそれなりに高いアルバムであることは間違いないのだが,リズムがリズムだけにもう少し暴れてもらってもよかったように思える。ということで星★★★☆。

Recorded in March 1975

Personnel: John Abercrombie(g), Dave Holland(b), Jack DeJohnette(ds)

2007年9月 7日 (金)

Antonio Sanchez:何とも素晴らしい初リーダー作

Antonio_sanchez_2"Migration" Antonio Sanchez(CAM)

Pat Metheny Group(PMG)のドラマーであるAntonio Sanchezによる初リーダー作が発売された。イタリアのCAMレーベルからというのが意表を突くが,これが実に素晴らしい出来である。

私が初めてAntonio Sanchezを見たのはPMGのライブの場であったが,Patのソロ・チューンに続いて演奏されたPatとSanchezのデュオに目が点になる思いになったのも記憶に新しい。非常にコンテンポラリーな響きを持ち,タイトで正確,かつダイナミックな凄いドラマーが出てきたものだとそのときも思ったが,そうした印象はこの初リーダー作でも何ら変わりがない。冒頭のChick Coreaが書き下ろした"One for Antonio"からして胸のすくような快演である。

しかしそれだけではないのである。このアルバムの中心を成すのが,2テナーをフロントに据えたピアノレス・クァルテットというのが渋い。しかもテナーはChris PotterにDavid Sanchezというのだから,これまたただごとではない。1曲目のピアノ・トリオから転じて,2曲目に聞かれるクァルテットによるスリリングな展開を聞けば,このアルバムの出来のよさを確信できるはずである。

そうした中で,Pat Methenyが2曲で客演するが,これが最も「地味」に聞こえるのである。最後はデュオの"Solar"で締めるが,これとて冒頭からのインパクトを凌駕するほどの出来ではない。それほど私は冒頭の2曲で参ってしまったと言ってよい。

全9曲のうち,4曲をSanchezが書いているが,作曲家としてもなかなかのものである。私は,このアルバムはコンテンポラリーなSanchezのドラミングを楽しむとともに,優れたコンボ演奏を収めた,Sanchezのトータルな才能を感じさせる佳作と評価する。ドラムスだけ聞けば,サウンド的にはBilly Cobhamほどの重量級ではないとしても,ミドル級王者ぐらいのポジションにはあると思わせる大した演奏である。星★★★★☆。

Recorded on January 10, 11 & 21, 2007

Personnel: Antonio Sanchez(ds), Chris Potter(ts, ss), David Sanchez(ts), Scott Colley(b), Chick Corea(p), Pat Metheny(g)

2007年9月 6日 (木)

"Thelonious Himself":この訥弁の魅力

Himself"Thelonious Himself" Thelonious Monk(Riverside)

ジャズを聞き始めた頃,Thelonious Monkというミュージシャンは私にとっては結構敷居の高い人であった。背伸びをしてジャズを聞いている高校生にとっては,とにかくよくわからん人であった。そうした中で,最初に買ったMonkのレコードが"Monk's Music"だったのはまだ幸いで,これが"Brilliant Corners"だったら,敷居はもっと高くなっていただろう。

それはさておき,Bill EvansにRiverside4部作があるように,私は勝手に前述の2作とこの"Himself"を合わせて,"Riverside Trilogy"と呼んでいる。世の中でもMonkを代表する傑作群として挙げられるこれらのアルバムであるが,今その中でどのアルバムを選ぶかと言えば,私はこの"Himself"を挙げる。

Monkのピアノ・タッチはそれこそスタイリストと言うべきであって,その特性を理解するにはコンボよりもソロの方がいいという説もある。私にとっては,そうした難しいことを言う以前に,この「訥弁」とも言うべきピアノが感覚的に非常にしっくりくるのである。これは好みあるいは趣味の問題と言ってもよいが,とにかくこれが私にはフィットしている。よって,このアルバムをプレイバックする回数はほかの2枚に比べて圧倒的に多くなっている。もちろん,このアルバムを白昼に聴きたいとは思わない。あくまでも酒と一緒でなければならない。

ところで,私はかつてのMonkのピアノを聞いたとき,エリック・サティの書く曲のようだと思ったことがある。サティも癖のある曲を書く人だと思うが,Monkとの同質性を見出したのは,私がもっと純粋だった頃である。そのときの感想がそうだったのだから仕方がない。もちろんMonkがサティの影響を受けているとは思わないので,これはあくまでも感覚的なものに過ぎないが,どう感じようがリスナーの勝手である。若い頃はそう聞こえたのである。意見が違ってもその場合は"Leave Me Alone!"である。

閑話休題。Monkのピアノの訥弁の魅力に加え,このアルバムの魅力を更に大きくしたのが,最後に収められた"Monk's Mood"におけるJohn Coltraneとの共演であろう。この相性,確かに素晴らしい。Monkにここまで寄り添えるのはColtraneしかいない。この曲がエピローグのように,何とも言えない余韻を残すのである。ということで,私はLP時代はこのアルバムはほとんどB面しか聞いたことがないと今にして思う。

いずれにしても,どこから聞いてもMonkの個性に溢れたこのアルバムは傑作であり,100% Theloniousな作品である。星★★★★★。

Recorded on April 5 and 16, 1957

Personnel: Thelonious Monk(p) with John Coltrane(ts) and Wilbur Ware(b) on "Monk's Mood" only

2007年9月 5日 (水)

Marc Coplandの初リーダー作(のはず)

Marc_cohen_jc1 "My Foolish Heart" Marc Cohen (Jazz City)

私がひそかに(それほど大袈裟なことでもないが...)「新耽美派」と呼んでいるMarc Coplandであるが,その昔はMarc Cohenと名乗っていたことは結構よく知られている事実である。このアルバムは,旧名のCohen名義で日本のJazz Cityレーベルに吹き込まれた作品であるが,Jazz Cityというのはミュージシャンのセレクションからしても,結構ファンの多いレーベルである。本作はCoplandにとっての初リーダー作のはずだが,Coplandにそうしたチャンスを与えたことは,このレーベルの手柄として認識すべき事実である。

このレーベルの作品のよいところは,結構日本人好みのする制作姿勢が貫かれているところだが,この作品もBill Evans的なリリシズムに溢れているところが,我々の心の琴線をくすぐる。しかし,所謂Evans派に留まらない世界を聞かせているのが立派である。冒頭の"Snow Fall"から極めてリリカルな演奏で嬉しくなるが,それを助長させているのがJohn Abercrombieのギターである。Abercrombieは本作では4曲に客演しているが,Pat Metheny的な音色(Ornette Coleman作"When Will the Blues Leave"ではフレージング含め,顕著化する)を聞かせがら,リリカルに攻めている。

全体を通して,Coplandの資質は既にこの段階で開花していることがよくわかるアルバムである一方,スインギーに飛ばす"Walkin"や前述のColemanの曲なども弾けるところをちゃんとアピールしている。しかし,やはり私にとっては美しいタッチを聞かせる曲の方が楽しめることは事実である。やや甘さに流れ過ぎのようにも感じさせる部分もあるし,"Haunted Heart & Other Ballads"のようなストイックな響きには欠けるが,初リーダー作としては十分よくできた作品である。リズム隊も好演。星★★★★。

Recorded in June 1988

Personnel: Marc Cohen(p), Gary Peacock(b), Jeff Hirshfield(ds), John Abercrombie(g)

2007年9月 4日 (火)

山中千尋の新作はやや欲張ったつくり

Photo_2"Abyss" 山中千尋(Verve)

私は熱心な山中千尋のリスナーではない。これまで澤野商会から出たアルバムも買っていないし,Verveからのアルバムも買ったことはない。しかし,この新作についてはCDショップでかかっていたエレピを使った曲がよかったので購入したものである。プロデューサーを本人がつとめた意欲作という表現は陳腐だが,よくよく聞いてみると私にはちょっと欲張りすぎたような気もする作品である。それは選曲もそうであるし,演奏にもそうした雰囲気が感じられる。

この曲毎に変化する趣を,ある人は「多彩」と言うだろうし,また別の人は「一貫性がない」と言うかもしれない。それがこのアルバムへの評価の分かれ目である。私はどちらかというと典型的な4ビートよりも,エレピを使った演奏にこそこの人の資質を感じるので,そうしたトーンで統一すればよかったのではないかと思っている。よって,評価は後者ということになる。

例えば,3曲目は明らかにChicagoの"Saturday in the Park"のようなイントロで始まり,私のような中年を「おぉっ!」と言わせる強力なエレクトリック・チューンだが,その後の曲が典型的な4ビートで演奏されたりすると,普通のリスナーは泡を食ってしまうのではないかと心配になる。アルバムを通して聞いていて,私は彼女がどちらの方向に行きたいのかがよく分からないのである。演奏の質は高いし,オルガンやエレピを弾いた曲ではかなりスリリングな展開が聞けるので,このアルバム,かなり楽しめることは事実であるが,全く違うピアニストが同一アルバムで聞かれるコンピレーションのような雰囲気を与えてしまうようにも感じられる。

ストレート・ジャズはアコースティック・ピアノで,それ以外にはエレクトリックを使うというのはあまりに正直過ぎるアプローチにも思える。また,"Giant Steps"はやや奇をてらいすぎである。このあたりを見直してくれれば,この人はかなり期待できると思う。セルフ・プロデュースもよいが,一度有能なプロデューサーのもとで制作してみてはどうだろうか。ということで将来への期待も込めて半星オマケして星★★★☆。

Recorded on May 22-24 2007

Personnel: 山中千尋(p, key), Vicente Archer(b), Kendrick Scott(ds)

2007年9月 3日 (月)

青い山脈:凛とした原節子とおしゃまな若山セツ子が素晴らしい

Photo 「青い山脈」 (1949年,東宝)

監督:今井正

出演:原節子,龍崎一郎,池辺良,杉葉子,伊豆肇,若山セツ子,木暮実千代

私は映画に関して言えば,間違いなく洋画指向,特にアメリカ映画指向であり,これまで日本映画に関しては黒澤を除けば,まともにクラシックな映画に接してきた経験がない。小津も知らなければ,溝口も知らないし,成瀬もまったく未経験である。よって,私が日本映画について語る資格があるかと言えばそれは否である。しかし,そうした私の目を開かせてくれたのが新潮新書から出ている長部日出雄の著作「邦画の昭和史:スターで選ぶDVD100本」であった。暇つぶしのつもりで買ったこの本に啓発され,まず私が手を出したのがこの「青い山脈」である(財布には結構痛かった)。

「青い山脈」は何度か映画化されているが,1949年のこの作品が最初である。1949年と言えば,まだ戦後の混乱から日本が脱していないころと想像するが,そうした時代背景の中で,このような映画が生れたことがたいへん素晴らしい。私がこの映画を見て感銘を受けたのは,非常にリベラルな雰囲気を醸し出していることである。戦時中の鬱屈した状態から脱して,こうした感情を発露できる喜びのようなものを画面から感じることができて,私本人が相当にリベラルな性格ゆえ,それだけで嬉しくなってしまった。

また,この映画で私をとらえたのが原節子の凛とした姿である。美しさというよりも,私はこの原節子の「凛々しさ」にある意味感銘を受けてしまった。また,眼鏡をかけた若山セツ子の可愛さがたまらない。明らかに小柄で,おしゃまな若山セツ子は,この映画のもう一人の主役である長身でスマートな杉葉子との明確な対比形としての役割を担っているが,私には現代でも通用する可愛らしさと思う。

この映画を見ていると,確かに話は他愛無いが,クラシックな名作というのはどこの国の作品でも楽しめるのだなぁと痛感し,今までの自らの不明を恥じた。そう言う意味では,私の目を開かせた長部日出雄には感謝をしなければならない。

ということで,長部日出雄への感謝を含めて星★★★★★を謹呈する。尚,本作とその後リメイクされた作品でのキャスティングを比較してみると,結構笑えることが多いので,お暇な方はご調査あれ。

私は,次は岸恵子が最高らしい「雪国」でも買ってみることとしよう。

2007年9月 2日 (日)

話芸について思う

先日,会社のイベントに安田大サーカス,眞鍋かをり,ツートン青木の3組がやってきた。主催者としてはいろいろ考えたのだろうが,私は残念ながら安田大サーカスのすべりぶり(しらけた観衆の雰囲気)あるいは,眞鍋のトークのくだらなさには呆れて物も言えなくなってしまった。逆に誰も期待していないツートン青木が一番受けていたということを,安田大サーカスや眞鍋はどう思うのだろうか(そのときにはもういないから知る由もなかろうが)。

彼らの本質的な問題は,いろいろな意味でのビジュアル面を除けば何の芸もないところにあるということなのだが,本人たちがそのことに気づくより前に聴衆がそれを強く感じてしまったことを彼らはどう思うだろうか。眞鍋に関して言えば,「美人は三日で...」何とやらを10分,15分で証明したようなものである。ブログの世界とトークの世界の落差を私は強く感じたが,いずれにしても私は彼女のトークに一切魅力を感じた瞬間もなかったし,私の同僚の感想も眞鍋に関しては「すごく足が細い」以外になかったのである。

先日,私はこのブログで"That's Entertainment"という映画について述べたが,「芸」に満ちたその映画の世界とこのイベントに見られる日本の芸能社会はあまりに落差が大きく,本当にがっくり来たと言わざるをえない。昨年,同じ会社のイベントで,コージー冨田とインリンさまが大受けしたのともギャップが大きかったが,それは彼らとて大した芸人でないとしても,どんなしょうもない芸でもちゃんと一芸(例:インリンさまのM字開脚や冨田のタモリの真似)を持っていることが大事なことを実証していると感じざるをえない。

結局,今回のイベントはビジュアルだけに頼った芸なきものはすぐに滅びるということを実証しただけだが,それって最近のCG偏重の映画にも当てはまるような気がする。空前絶後の下らなさを誇る"Transformers"なんてのはその最たる事例。あーあ,あほくさ。

2007年9月 1日 (土)

Jacob Young:ECM期待のギタリストの来日を祝う

Jacob_young "Evening Falls" Jacob Young (ECM)

2007年11月にECMからのセカンド・アルバムのリリースが予定されているJacob Youngが来日することになった。先日のEgberto Gismontiの来日といい,ECMファンにとってはたまらない事態である。ドラムスでは本作にも参加のJon Christensenが同行するそうだからこちらも期待が高まる。

本作がリリースされたのは2004年のことだが,一聴して,ECM的なフレイバーに溢れたアルバムで嬉しくなってしまった記憶がある。フロントがトランペットとバスクラというのはユニークだが,決してノイジーにならず,バランスのいいサウンドなのが素晴らしい。Youngのギターは個性を確立しているとは言えないが,落ち着いたトーンを聞かせている。私としては,本作はギター・アルバムというよりも,トータルなサウンドやYoungのオリジナル曲を楽しんだ方がいいように思えるが,ライブの場だと違う印象を受けるかもしれない。

ちなみに,新作も全く同一メンバーで吹きこまれているようだし,来日メンバーも全く同じらしいので,バンドとしての成熟度はおそらくこのアルバムのときより更に上がっていることは間違いない。ここで聞かれるサウンドやそうした期待を含めて,ECMファンにとっては必聴の来日公演になるだろう。一体ライブの会場にはどのような好き者が集うのか...。変な意味ではなくそちらも期待してしまう。

Recorded in December 2002

Personnel: Jacob Young(g), Mathias Eick(tp), Vidar Johansen(b-cl), Mats Eilersen(b), Jon Christensen(ds)

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